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金魚を電話ボックスに入れてもOK!/JASRACの潜入調査を擁護する

以前書いていた記事に関連する出来事が

立て続けに起きた。

話題は2つある。

 

・金魚電話ボックス事件の裁判の内容が判明した。

 そして、がっかりした。 

JASRACジャスラック)が

 音楽教室に❝潜入調査❞していたことがニュースに。

 それって話題にするほどのことか?

 

1つずつ見ていこう。

 

金魚電話ボックス事件

「金魚電話ボックス事件」については、以前とりあげたことがある。

 

www.money-copyright-love.com

 

現代アートの作家・山本伸樹氏が

金魚を電話ボックスに入れた「インスタ映え」するオブジェについて

「自分のアートをパクられた!」と奈良県の商店街を訴えた事件だ。

 

この記事の中で、私は以下のようなことを書いていた。

 

著作権の根本思想として

 「アイディアはみんなのもの。具体的な表現だけは著作権で守る」

 というものがある。

現代アートはアイディア勝負。

 著作権との相性が悪い。

・「金魚を電話ボックスに入れる」というのは

 単なるアイディアにすぎないので、山本氏は裁判で圧倒的に不利。

・最近の裁判所には何でもかんでも「著作物だ」と

 認めたがる傾向があるので、部分的には山本氏の主張が認められるかも。

・どうせ裁判には勝てないんだから、

 山本氏は誰にも思いつかないような奇想天外な主張をすべき。

 それこそが現代アート作家としての生き様では。

 

私は、山本氏に期待していた。

 

そして先日、奈良地裁で判決が出た。

結論は、予想通りだった。

 

●ならまちプレス 金魚電話ボックス問題と「メッセージ」

http://narapress.jp/message/

 

判決の内容は以下のようなものだ。

 

・山本氏の作品が著作物であることは認める。

・でも、具体的な表現部分(色とか形とか)は似ていないので、

 著作権侵害ではない。

 

(最近の裁判所は何でもかんでも「著作物だ」と認めたがる。

 山本氏の作品も「著作物である」ということになった。

 個人的には、これは著作物ではないと思うが・・)

 

というわけで、山本氏は負けてしまった。

 

彼はどんな主張をしていたのだろう?

訴状によると、以下のような主張だった。

 

・表現を工夫して作家の個性が発揮されているので著作物だ。

・電話ボックスの外観や受話器の使い方など、

 (アイディアではなく)表現の部分が似ているので、

 著作権侵害だ。

 

私の感想はこうだ。

 

なんという、フツーーーーーな主張だろう!!

斬新なアイディアで世間をアッと言わせ、

世界に新しい視点を届けることが使命である

現代アートの作家の言葉とは思えない。

まるで、一度も冒険をしたことがない平凡なサラリーマンのような

主張ではないか。

 

というわけで期待していたのに、ガッカリの内容となってしまった。

やれやれ。

 

多くのクリエイターは、法律や契約のことになると

「そんな難しいことは分からないよ」となりがちだ。

弁護士さんに任せっきりになってしまうことも多い。

おそらく山本氏もそうだったのだろう。

 

しかし、表現者としての生き方を選んだ以上は、

そこがキャンバスだろうが、街中の電話ボックスだろうが、

契約書だろうが、裁判の訴状だろうが、どこであっても

自分の魂を表現してほしいと思うのだ。

 

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山本氏は諦めずに控訴するつもりだという。


年配の男性がカッとなって「著作権侵害だ!」と騒いだ結果、

負けてしまう事件は多い。

今回の事件も、そんなありふれた事例の一つとなってしまいそうだ。

 

今後もフツーの主張を繰り返すぐらいなら、

事件のことは綺麗さっぱり忘れて、

また新たな創作活動に励んだ方がいい。

著作権に執着しない方が健全だ。

そして、金魚ボックスを超える素晴らしい作品を

生み出してほしいと願う。

 

 

 JASRACの潜入調査

日本音楽著作権協会JASRACジャスラック)のニュースが話題だ。

 

JASRACヤマハ音楽教室等に著作権使用料を要求したが、

教室側は支払いを拒否。

裁判を通じてシロクロつけようという流れになっている。

 

そんな中で、JASRACの職員がヤマハ音楽教室に対して

❝潜入調査❞をおこなっていたことが判明したのだ。

身分をかくし「普通の主婦」のフリをして受講していたという。

 

JASRAC音楽教室に「潜入」2年 主婦を名乗り

https://www.asahi.com/articles/ASM756DFSM75UTIL041.html

 

世間には❝JASRACぎらい❞の人が多い。

「格好のネタ」に大喜びで飛びついた。

 

「なんて卑怯な奴らだ!ゲシュタポのスパイようだ!」

「子供たちが音楽に触れる純粋な場を汚した!」

「金のことしか考えていないのか!」

 

しかしJASRACの立場から考えると、

当たり前のことをやっているにすぎない。

 

 JASRACについては、以前の記事で簡単に解説したことがある。

www.money-copyright-love.com

 

 JASRACとは、音楽を生み出す作詞・作曲家のために日々働いている

巨大集金組織だ。

1939年の設立以来80年の長きにわたり、

一貫して作詞・作曲家のために活動している。

 

想像してみてほしい。

昭和の初期、まだ日本人のほとんどが著作権なんて知らない時代。

 JASRACの職員は、音楽を演奏しているバーを見つけたら

乗り込んでいかなくてはいけない。

そして、胡散臭そうに自分を見ている店長に対して

「音楽には著作権というものがあります。

 使用料を支払ってください」

とお願いしなくてはいけない。

当然、すぐに払ってもらえるわけがない。

だから何度も説明し、何度もお願いする。

「わかった、わかった。

 よその店がぜーーーんぶ払ったら、最後にうちが払うから、

 それまで来るな!」

と追い払われることも多かった。

お金の代わりにゲンコツをもらって帰ってくる職員もいたという。

それでも彼らは諦めない。

それが彼らの使命だから。

作詞・作曲家が生み出した素晴らしい音楽。

その権利を正当に行使し、しかるべき対価を受け取る。

これこそJASRACの存在理由なのだ。

全国で音楽を使っているお店を一軒一軒まわって説得を続けるという

気の遠くなるような作業を地道に続けてきた。

悪質なお店に対しては「最終手段」として法的措置をとることもあった。

 

そんな彼らにとって「お店で音楽をどう使っているか」を

お客さんのフリをして調査するなんて、当たり前のことだ。

音楽は一度演奏がおわったら、形になって残らない。

正当な根拠にもとづいて支払いを要求するためには、

「たしかにお店で音楽が使われていた」という証拠がいるのだ。

 

もし私が作詞・作曲家だったとしたら、

JASRACは本当に頼もしい組織だ。

自分の代わりに「嫌われ役」を一手に引き受けてくれる。

手間のかかる業務を全国で真面目にコツコツとやってくれる。

世間から嫌われてもブレずに信念を貫く。

悪質な相手には敢然と立ち向かってくれる。

ときには相手の内部に入り込んででも。

 

昔から❝潜入調査❞は行われてきた。

今さら大騒ぎするような話ではない。

いたってフツーのことなのだ。

職員が身分をかくしたからといって

法的に問題になるような話でもないだろう。

 

JASRACの「潜入調査」は合法か?

https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20190708-00133309/

 

JASRAC「潜入調査」の歴史について

https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20190709-00133477/

 

というわけで、今回の❝潜入調査❞への批判はほとんど的外れなのだが、

JASRACぎらいの人は苦し紛れにこんな反論(のようなもの)を

することも多い。

 

「子供への教育目的なんだからお金をとるべきではない」

JASRAC内部でのお金の配分が不透明だ」

ブロックチェーンの技術があればJASRACなんか不要だ」

 

これらにも、軽く「再反論」をしておこう。

 

教育目的の場合に著作権が働くかどうかは、ルールの問題だ。

JASRACはルールに従って真面目にプレーしているに過ぎない。

サッカー選手に「オフサイドのルールがおかしい!」と文句を言っても

的外れなのと同じだ。

 

(一応ルールの方の話もしておくと、

 学校での授業で音楽が演奏されても、著作権料は発生しない。

 法律でそう決まっている。

 一方で、商業目的の事業で使われるなら著作権が働くケースが多い。

 そういうルールなのだ。

 今回の裁判は、そのルールに当てはまるかどうかを

 はっきりさせるために行われるものだ。

 (裁判を起こしたのは音楽教室側)

 最終的には裁判でJASRACが勝つ可能性の方が高い。

 過去の似たような事例でもJASRACが勝っている)

 

ルールがおかしいと思うのなら、

責めやすい相手を寄ってたかって叩いても仕方ない。

正々堂々と法改正を主張すべき問題なのだ。

 

JASRAC内部でのお金の配分が不透明だ!」という人も多いが、

外野が口をはさむような話ではない。

それはあくまでもJASRACという組織と作詞・作曲家のあいだの問題だ。

よその家庭内の家計やお小遣い制度について、

他人がとやかく言っても仕方ない。

口出しはやめよう。

 

ブロックチェーンの技術があればJASRACなんか不要だ!」

という声もたまに聞く。

これも、ほぼ的外れだ。

ブロックチェーンは非中央集権的なデータの記録方法なので、

❝集権的な❞JASRACのデータベースを置き換えれば

色んなことが解決するというイメージが湧くのは理解できる。

JASRACを信用しない一部の作詞・作曲家にとっては、

 自分の音楽の使用履歴や支払い計算の信頼性が高まるというメリットは

 あるのかもしれない)

でも、ブロックチェーンはSF小説のロボットではない。

人間の代わりに地方のバーに行って頑固な店長と

粘り強く交渉してくれたりはしない。

人間の代わりにゲンコツをもらってくれたりもしない。

ブロックチェーンを導入したとしても、

JASRACの職員の地道な活動は相変わらず必要なのだ。

 

新しいテクノロジーに対して

楽しく夢物語を空想するのは悪いことではないが、

勝手に膨らんだ妄想を他人への攻撃材料に使うのはやめよう。

 

 

というわけで、私自身はJASRACの敵でも味方でもないが、

的外れな批判に対して普通に反論してみた結果、

JASRACを擁護することになった。

 

今後も何かにつけて

JASRAC関連のニュースや批判を耳にする機会があるだろう。

発言者が感情的に「嫌い!」と言っているだけなのか?

それとも、冷静に正しく主張をしているのか?

慎重に判断してほしい。

 


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