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風雲急を告げる著作権法

著作権法改正の機運が急速に高まっている。

 

テレビ局がテレビ番組をネット配信しやすくするための法改正だ。

 

以前の記事で私は以下のようなことを書いていた。

 

・テレビ局が番組を制作するにあたっては、

 色んなものの許可を取らないといけない。

 「放送」だけではなく「ネット配信」の許可を取るのは、

 かなりの負担になる。

 

・テレビ局は著作権法を改正して

 「同時配信等」を放送と同じように扱うことを求めていた。

 テレビ局は深く考えずに取り合えず要望を出している状況。

 

・それに対して文化庁は乗り気ではなかった。

 どうせしょぼい結果に終わるのは目に見えていたから。

 

・大きな改正にはつながらないだろう。

 

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しかし、状況が大きく変わってきた。

私の予想が外れそうな気配だ。

 

河野大臣の登場!

なぜ状況が動いたのか?

その理由は、ご存じ河野太郎行政改革担当大臣の登場だ。

 

大臣が文化庁に対して「やる気がないなら担当部署を変える」と

言い放ち、何が何でも進めるぞ!という決意を示したのだ。

 

●ネット同時配信の著作権手続き緩和 文化庁が一転容認方針 3年の議論決着へ

https://mainichi.jp/articles/20201006/k00/00m/010/327000c

 

(河野大臣には文化庁が悪者に見えていたようだが、

 文化庁が悪いわけじゃない。

 本来は要望を出していたテレビ局が知恵をしぼって改正案を示し、

 汗をかいて関係者を説得すべきだった。

 でも、その役割が文化庁に回ってきてしまっている)

 

大臣に叱られてしまった文化庁は、

かなり思い切った改正案を示した。

それが「推定規定」だ。

 

推定

推定規定とはどんなものか?

「放送の許可をした人は同時配信の許可もしたのだろうと推定する」

ということだ。

 

例えばテレビ局のADが写真家から写真を借りるとき。

「この写真を放送に使わせてください」

「いいですよ。放送使用料は1万円です」

「わかりました!」

という会話があったとする。

 

この場合、写真家はネットで配信(同時配信)することも含めて

許可を出したのだろうな・・・と推定される。

会話の中で一度も「配信」という言葉が出てきていないのに!

 

もし写真家が「配信は嫌だ」とか、

「配信するなら追加で2000円」とか考えているなら、

自分の方からはっきりとそう言わないといけない。

 

今までは逆だった。

配信したいのならテレビ局の方からはっきりと

「配信もします。いいですか?」と聞いてOKを得ないといけなかった。

そうしない限り、配信OKということにはならなかった。

写真家の方も聞かれるからこそ、

配信はどうしようかな?追加料金とろうかな?と考えることができた。

 

この関係が逆転するのだ。

これは大きな変化になる。

 

零細権利者の不遇

文化庁の提案通りに物事がすんなりと進むかどうかは、

まだ分からないが、

もし「推定規定」が成立した時のことについて、

考えられることを2点指摘しておこう。

 

ひとつ目は、零細な権利者が不利益を受けるということだ。

 

例えばJASRACのような巨大権利者集団。

例えば大手芸能事務所に所属するようなアーティスト。

彼らは法改正があっても迅速に対応できる。

 

「テレビ局から「放送してもいいですか?」と聞かれたら、

 「配信については別ですよ」と返事するようにしましょう。

 そうすれば自分の利益を守れます」

と組織内で教育されることになる。

今まで通り、放送と配信それぞれ別の料金を請求する。

実務上、大きな変化は起きない。

 

一方で法改正の情報について接する機会の少ない零細な権利者は、

何も知らないままに、配信の権利を持っていかれてしまう。

放送しか許可してないのに、勝手に配信までされてしまう。

 

大手チェーンのマクドナルドでは、店員の教育を徹底し

ハンバーガーとシェイクは別商品です。

 それぞれ別に料金を払ってください」

と言わせることで利益を確保できる。

しかし、小さな個人経営のハンバーガー屋ではそんな対応をとれない。

ハンバーガーを買った客が無断でシェイクを持っていっても、

文句が言えなくなるのだ。

 

生番組の危機

ふたつ目の点は実務上の影響がさらに大きい。

生放送の番組がテレビ局の許可なく勝手に使われやすくなるのだ。

 

この点を細かく書くと長くて専門的な話になるので、

ごく簡単にまとめる。

 

以前の記事に書いた通り、テレビ局が番組を作って放送するとき、

3層構造で権利が働く。

 

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しかし生放送の番組、例えばスポーツ中継番組の場合、

第1階層と第2階層の権利がないことが多い。

(色んな議論があるが一般的にはそう言われている)

そうなると頼りになるのは第3階層の権利だ。

これが「放送事業者の著作隣接権」と言われるものだ。

 

サッカーの生放送をどこかの商売人が超巨大ビジョンに映し出し、

「みんなでビールを飲みながら観戦しよう」

と言って入場料をとったらどうなるか?

放送局は「放送事業者の著作隣接権」を使って、

「やめてください」と言うことができた。

だからこそ、

サッカーの主催団体も安心してテレビ局に中継を許可することができた。

 

しかしネット配信については、そのような権利はない。

ネットからとった映像を超巨大ビジョンに映し出されても、

テレビ局は文句が言えない。

 

もし当初のテレビ局の要望通りに

「放送と配信を同じ扱いにする」という案が通っていたなら、

同時配信についても「放送事業者の著作隣接権」が働き、

大きな問題は起きなかっただろう。

 

しかし今回導入される「推定規定」では、

そのような権利はおそらくテレビ局に与えられない。

テレビ局が流す配信について、人に勝手に利用されても文句が言えなくなる。

 

そうなると、

スポーツの競技団体は安心してテレビ局に中継を許可できなくなる。

アーティスト等は安心して生番組に出演しづらくなる。

 

そんな事情で、

生番組が継続しにくくなるかもしれない。

 

今後「ミュージックステーション」に

魅力的なアーティストが出演しなくなったとしたら、

今回の法改正が原因かもしれないのだ。

 

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風雲急を告げる著作権法だが、まだまだ先は読めない。

今後の動きに注目だ。

 

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https://twitter.com/Kei_Yoshizawa_t

 

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