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歌手たちの大胆な戦略変更(1)

エンタメ業界やクリエイティブ業界が、何やら騒がしい。

 

吉本興業・お笑いタレント・反社会的勢力

人気お笑いタレントが反社会的勢力のパーティーに参加して

ギャラをもらっていたという事件。

それがきっかけになって、

吉本興業と所属タレントのあいだで起こったゴタゴタ騒ぎ。

 

当事者にとっては大変な事態だと思うが、

基本的には「内輪モメ」なので、

外部からどうこう言う話ではないだろう。

 

これを機に反社との組織的な関わりがクリアになり、

事務所とタレントとの契約関係がクリアになることを願う。

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ジャニーズ事務所公正取引委員会

ジャニーズ事務所が元SMAPのテレビ出演に圧力をかけた「疑惑」に対し、

公正取引委員会公取)が注意をした。

 

もし本当に圧力があったのなら、公取の言うことは正論だ。

タレントから活躍できるチャンスを奪ってはいけない。

 

一方で、「人間そのもの」を商品として扱うタレント事務所の経営は、

正論だけでは成り立たないところがあったのも事実だ。

「事務所をやめても❝村八分❞にならない」と分かれば、

売れたタレントから順に次々と独立していってしまう。

こうなると、伝統的なタレント事務所の経営は難しくなる。

売れっ子だけを好待遇で迎え入れるマネジメント会社、

つまり美味しい所だけをかっさらっていく会社が

業界を席捲するようになるだろう。

 

将来売れるかどうかも分からない新人を

手取り足取り教えて育てるなんて

そんな効率の悪いことをする事務所は消えていくかもしれない。

 

新人タレントにとっては、

自力で這い上がる努力が求められる時代になりそうだ。

 

 

参議院選挙・山田太郎

参議院選挙が行われた。

自民党山田太郎氏が

54万票という非常に大きな数字の得票で当選した。

(いくつかの地域では、彼の票が「れいわ新選組」の「山本太郎」氏に

 間違われてカウントされるという、トホホな事件も起きた)

 

以前の記事で

著作権には「左派思想」と「右派思想」があると紹介したことがある。

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山田氏は「表現の自由を守る」を旗印にしながら、

マンガやアニメの表現規制に反対し、

オタク文化を守るために活動してきた政治家だ。

「今の著作権は強すぎる」と考える左派思想の持ち主でもある。

(本人が認めるかどうかはともかく。)

 

山田太郎オフィシャルサイト

https://taroyamada.jp/

 

今後の彼のアクションに注目したい。

 

 

歌手たちの戦略変更 

今回は、事務所と所属タレントのゴタゴタよりも、

もっとスケールの大きな「ゴタゴタ」を解説したい。

 

音楽業界全体で、

歌手たちが大きな戦略を描いて動き始めているという話だ。

業界に関係する人や音楽に興味がある人なら、

知っておいて損はない。

 

以前の記事に書いた通り、

音楽の権利の世界には3種類の登場人物がいる。

 

1.作詞・作曲家

   ・・・例:小室哲哉

2.歌手(楽器を演奏する人も含む)

   ・・・例:安室奈美恵

3.レコーディングする人

   ・・・例:エイベックス

 

彼らが協力することで、良い音楽が生み出されている。

 

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以下、イメージしやすいように、

作詞・作曲家のことを「大室さん」、

歌手のことを「ナムロちゃん」、

レコーディングする人のことを「ベイエックス」

と呼ぶことにしよう。

(特定の作家や歌手等ではなく、

 作家、歌手、レコード会社の全体像を表したものだと思ってほしい)

 

権利者たちの間の区別

大室さんとナムロちゃんとベイエックス。

彼らのあいだには、差別・・・というか、区別がある。

大室さんだけが、他の2人よりも偉い。ということになっている。

 

大室さんだけが、より多くの権利を与えられているのだ。

 

例えば「プレイ(演奏)禁止権」。

お店でCDを流すとき、大室さんは権利主張をしてお金をもらえる。

(これを実際の現場でやっているのがJASRAC

でも、ナムロちゃんとベイエックスには権利がないので何もできない。

 

例えば「放送禁止権」。

テレビ局やラジオ局がCDの曲を流したいときに、

大室さんが「ダメだ!」と言えば、放送を禁止することができる。

つまり、強い立場で交渉して、より多くのお金をもらえる。

(これを実際の現場でやっているのがJASRAC

でも、ナムロちゃんとベイエックスは禁止する権利を持っていない。

その代わりに禁止権よりも一段低い権利が与えられている。

それが「お金の請求権」だ。

「ダメだ!」とは言えないが、

「使うならお金ください」とだけは言うことができる。

禁止権と比べると弱い立場でしか交渉できないので、

大室さんほどにはお金がもらえない。

(これを実際にやっているのが芸団協CPRAやレコード協会という団体)

(実際にはJASRACが「ダメだ!」ということは、

 現実的にも法律的にもありえないのだが、

 やはり禁止権とお金の請求権の差は大きく、

 JASRACが受け取る金額と芸団協CPRAやレコード協会が受け取る金額には、

 非常に大きな差がある)

 

ちなみに、「放送」ではなく「インターネット配信」であれば、

大室さん、ナムロちゃん、ベイエックスの3人は平等に扱われている。

3人全てがそれぞれに「ダメだ!」と言える禁止権を持っている。

 

 以上をまとめると、こうだ。

 

【プレイ(演奏)】

大室さん・・・・・禁止権

ナムロちゃん・・・権利なし

ベイエックス・・・権利なし

 

【放送】

大室さん・・・・・禁止権

ナムロちゃん・・・お金の請求権

ベイエックス・・・お金の請求権

 

【ネット配信】

大室さん・・・・・禁止権

ナムロちゃん・・・禁止権

ベイエックス・・・禁止権

 
こんな風に、大室さんとナムロちゃん・ベイエックスとの間には

扱いの差がある。

しかし、ナムロちゃんとベイエックスの扱いには違いがないことに

注目しておいてほしい。

 

(繰り返しますが、「大室さん」「ナムロちゃん」「ベイエックス」は、

 作詞・作曲家、歌手たち、レコーディングする人それぞれの業界を

 イメージしやすいように個人名や特定の企業名であるかのように

 表現したものです。

 特定の人や企業とは直接関係ありません)

 

歌手とレコーディングする人の連携

著作権の世界では、大室さんは「一級市民」、

ナムロちゃんとベイエックスは「二級市民」のように扱われている。

 

虐げられ(?)ている者同士が仲良くなるのは通常の流れだ。

ナムロちゃんとベイエックスは、

権利の話になると、ほとんどの場合協力してきた。

テレビ局に「お金の請求権」を使って金額の交渉をするときは、

足並みをそろえてほぼ同じ金額を要求し受け取っている。

法改正の話が出るときには、

共同戦線をはってだいたい同じ内容の主張をすることが多かった。

 

同じ権利を与えられたナムロちゃんとベイエックスは、

運命共同体のように手に手を取り合って活動してきたのだ。

 

歌手の独自路線

しかし、最近になって新しい動きが見え始めている。

ナムロちゃんがベイエックスとは違うことを主張し始めたのだ。

 

ここ数年、NHKが放送と同じ内容を

インターネットでも同時に配信しようとしていることはご存知だろうか?

NHKが最も力を入れて取り組んでいることの一つだ。

 

NHKがネット配信する上で最大の障害になるのが、

音楽の権利のクリアだ。

BGMなどで毎日大量に使われている音楽の権利を全て処理しないと

ネット配信はできない。

上記のとおり、放送とネット配信とでは権利の働き方が違う。

放送の場合は、ナムロちゃんやベイエックスにはお金の請求権しかない。

NHKは音楽を自由に使って、後でお金だけ支払えばよかった。

しかしネット配信の場合はそうはいかない。

ナムロちゃんとベイエックスは禁止権をもっている。

勝手につかうと権利侵害になってしまう。

 

どうすれば良いのか?

政府の検討会にナムロちゃん(芸団協CPRA)や

ベイエックス(レコード協会)等の権利者が集められ、

話し合いが始まった。

 

内閣府 規制改革推進会議 第12回投資等ワーキング・グループ

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/suishin/meeting/wg/toushi/20190327/agenda.html

 

一部の人からは

「ナムロちゃんとベイエックスが、ネット配信の禁止権をもってるから

 ややこしいんだ!

 放送と同じように、お金の請求権だけにすればいいじゃないか!」

という意見が出ていた。

 

 これまでのナムロちゃんとベイエックスなら、

「なぜNHKの配信のために

 我々がもっている権利を格下げされなくちゃいけないの!?

 我々がネット配信を邪魔してるみたいな言われ方をするのは心外だ!

 禁止権のままでも、スムーズにネット配信できる体制は作れる!」

と声を合わせるシーンだ。

 

しかし今回は違った。

ベイエックスが上記の主張をしたのに対し、

ナムロちゃんが全然違うことを言い出したのだ。

 

「わかりました。

 ネット配信については、禁止権を放棄します。

 放送と同じようにお金の請求権だけでいいです。

 その代わり、プレイ(演奏)についてもお金の請求権をください!

 その方が国際標準にも合っているんです!」

 

ナムロちゃんの主張は以下のようになる。

 

【プレイ(演奏)】

ナムロちゃん・・・権利なし → お金の請求権へ!

 

【放送】

ナムロちゃん・・・お金の請求権 → お金の請求権のまま

 

【ネット配信】

ナムロちゃん・・・禁止権 → お金の請求権へ!

 

 

つまり、「お金の請求権に全部そろえちゃっていいよ!」と

言い出しているのだ。

 

疑問

これまでは手に手を取り合って共闘してきたナムロちゃんとベイエックス。

ここにきて、ナムロちゃん(芸団協CPRA)が独自路線を歩み始めた。

 

なぜなんだろう?

 

当初、私は

「歌手たちは、そこまでしてプレイ(演奏)の権利が欲しいんだな」

と思っていた。

 

しかし、そうだとしても違和感は残る。

なぜベイエックス(レコード協会)と足並みがそろわなかったんだろう・・?

 

私の中で何となく疑問に思っていたのだが、深く追究して考えていなかった。

しかし、最近の吉本興業とお笑い芸人のゴタゴタを見ていて、

やっと腑に落ちた。

 

お笑い芸人の中では、

ギャラの配分についてずっと不満が溜まっていた。

音楽業界の構図もこれと同じだ。

ナムロちゃんの真の狙いは、

プレイ(演奏)の権利でも国際標準に合わせることでもなかった。

ずっと抱いていたお金の面でのベイエックスへの不満を、

法改正をテコにして解消することが狙いだったのだ。

つまり、歌手たちとレコーディングする人が

政府の検討会を舞台にしてスケールの大きなゴタゴタ騒ぎをしているのだ。

 

なぜそう言えるのか?

次回に理由を説明したい。

 


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