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NHKが大河ドラマで大失態!~ラジオの謎(フィクションです)

声優人気のおかげもあって、ラジオドラマの需要は根強い。

 

●ラジオドラマが続々復活 高まる需要の背景は?

https://www.oricon.co.jp/news/2059729/full/

 

ラジオの仕事をしている人は、

おそらく9割以上が間違えるクイズを出題したい。

架空の内容だが、現実にありえる設定だ。

 

設定

NHKは、2025年にラジオ放送100周年を迎える。

そこで、大型番組が企画された。

大河ドラマのラジオ版を制作するのだ。

織田信長が主人公の全50話の物語。

大河にふさわしいビッグネームのキャストと、

「ラジオならやってみたい」と凄いスタッフが集結する。

 

脚本:三谷幸喜(オリジナル脚本)

出演:渡辺謙木村拓哉沢尻エリカ(復帰第1作)

ゲスト出演:レオナルド・ディカプリオ(宣教師役)

音楽:すぎやまこういち

監督:新海誠

製作:NHK

 

さすがはNHK。

すばらしいドラマが出来上がった。

目を閉じて聞いているだけで、

戦国時代にタイムスリップしたかのようだ。

 

大好評だったので放送後に「らじるらじる」や「Radiko」で

インターネット配信することになった。

しかし、年配のNHKファンからは

「ネットは使えないからCDで発売してほしい」

という要望が多かった。

そこでCDでも売り出すことになった。

 

(ちなみに、NHKのラジオドラマのCDは実際にある)

●CD NHK日曜名作座宮本武蔵

https://www.nhk-ep.com/products/detail/h15143B1

 

しかし、思わぬことが起きる。

エフエム東京

「あの大河ドラマを全50話一挙にラジオ放送します!」

と特別編成を発表したのだ。

市販のCDを買ってきて、そのまま流すつもりらしい。

 

NHKはビックリしてしまう。

「そんなこと許可してないぞ!!

 あのドラマは、莫大な製作費をかけて作ったNHKのドラマだ。

 うちの許可なくそんなことが出来るはずがない!」

 

クイズ

ここでクイズになる。

 

エムエム東京は、NHKの許可なくこのドラマを放送できるか?

 

答えは、Yesだ。

 

NHKに無断で放送できる。

NHKだけでなく、渡辺謙氏やディカプリオ氏の許可も不要だ。

エムエム東京は何の問題もなく

適法にドラマを放送できる可能性が極めて高い。

ラジオ業界の多くの人が驚く結論だが、本当だ。

 

まずは振り返り

ラジオではなくテレビの大河ドラマなら、

こんなことは起こらない。

どこかのテレビ局が大河のDVDを買ってきて放送すれば、

即座に著作権侵害だ。

テレビドラマは「映画の著作物」であり、

その著作権はNHKが持っている。

NHKの許可なく放送できるはずがない。

 

しかしラジオの世界では、これが当てはまらないのだ。

 

少し大雑把な説明になるが、ラジオドラマの場合、

テレビや映画ではなく、音楽業界のルールが適用される。

以前説明した通り、

音楽の権利の世界には3種類の登場人物がいる。

 

1.作詞・作曲家

   ・・・例:小室哲哉

2.歌手(楽器を演奏する人も含む)

   ・・・例:安室奈美恵

3.レコーディングする人

   ・・・例:エイベックス

 

www.money-copyright-love.com

 

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「作詞・作曲家」と

「歌手」「レコーディングする人」の持つ権利には、差がある。

 

作詞・作曲家は「放送禁止権」を持っている。

テレビ局やラジオ局は、音楽を放送したければ、

小室哲哉氏から許可を得ないといけない。

そうしないと放送できない。

(実際には、JASRACやNexTone等の

 管理団体から許可をもらっている)

 

しかし、歌手とレコーディングする人には「放送禁止権」がない。

放送局は彼らに無断で放送することができる。

安室奈美恵さんやエイベックスが「ダメだ!」ということは出来ない。

(その代わり、後で管理団体を通じて使用料の配分を受けることは出来る)

 

ここまでが、以前の記事の復習だ。

この理屈を今回のNHKの事例に1つずつ当てはめてみよう。

 

脚本に当てはめ

「作詞・作曲家」にあたるのが、脚本家の三谷幸喜氏だ。

彼の書いた脚本を出発点としてドラマが制作される。

脚本には著作権があり、三谷氏は「放送禁止権」を持っている。

エフエム東京は三谷氏の許可なく放送することはできない。

 

しかし三谷氏は「日本脚本家連盟」という脚本家の組合に

権利をあずけている。

エフエム東京は連盟から許可をもらえば良い。

連盟は申し込みを受けたら許可を出す義務がある。

法律でそう決まっている。

よほどの理由(いかがわしい目的で使われるとか)がない限り、

拒否することは出来ない。

だから、脚本の「放送禁止権」はクリアできる可能性が高い。

エフエム東京は規定の使用料さえ支払えば良い。

 

出演者に当てはめ

音楽の世界の歌手にあたるのが、出演者の渡辺謙氏らだ。

作詞家の書いた歌詞を情熱的に歌うのと同じように、

脚本家の書いたセリフを感情をこめて演じるという点では同じだからだ。

歌手に放送禁止権が無いのと同様に、

渡辺謙氏らにも禁止権が無い。

そしてそれは、外国人であっても変わらない。

ハリウッドスターのレオ様であっても、

エフエム東京の放送に「ダメだ!」ということは出来ないのだ。

 

音楽に当てはめ

ドラマのBGM(劇伴)を作曲したすぎやまこういち氏は、

作曲者なので音楽の著作権(放送禁止権)を持っている。

しかしこれも脚本と同じで、管理団体が権利をあずかっている。

実際にはJASRAC等とエフエム東京

すでに結んでいる契約の範囲内で済んでしまうだろう。

 

(音楽を演奏した演奏家は上記の出演者と同じ扱い)

(音楽のレコーディングした人は以下に書くNHKと同じ扱い)

 

監督に当てはめ

今回の新海監督だが、三谷氏の脚本にはタッチしていない。

脚本に基づいてドラマを演出した立場だが、

著作権的には特段の権利がそもそも無い。

だから、新海氏の許可は全く要らない。

 

(細かい話をすると、新海氏が俳優の演技指導をしているので、

 俳優と同じ権利(実演家の権利)を持つ可能性はある。

 いずれにしても、許可が不要という結論は変わらない)

 

NHKに当てはめ

そしてNHK。

NHKは、番組を企画し、製作費を負担し、キャストやスタッフを集め、

ドラマをレコーディングしている。

これは、音楽の世界でいう「レコーディングする人」に当たる。

エイベックスが音楽を作るときにやっていることと、

同じことをしているからだ。

 

「レコーディングする人」には、放送禁止権が無い。

だから、エフエム東京の放送をNHKが止めることは出来ない。

NHKがどんなに嫌がったとしても。

これが結論だ。

 

ラジオドラマの正体

エフエム東京は、NHKが発売したCDを買ってきて、

問題なく放送することが出来る。

 

エフエム東京が音源をサーバーに取り込んだり、

Radikoでネット放送しようとすれば、

NHKにも色々と対抗手段はあるが、

CDをそのまま放送するだけならば、禁止する手立てはない。

 

CDを発売する前なら、

脚本や音楽の権利の管理についての契約や

CDパッケージの表示を工夫することで、

何とか出来る可能性もあるが、

発売後であればどうしようもない。

NHKは手をこまねいて見る(聞く)しかないのだ。

 

ラジオドラマはテレビドラマと違い、著作物ではない。

音楽業界の「レコード」と同じものなのだ。

著作権で守ることはできない。

だから、NHKが莫大な製作費をかけたドラマを、

他局が許可なく使えるという衝撃的な結論になる。

 

ラジオ業界の人でも、この基本的な事実を知らない人は多い。

もしラジオ関係の仕事をする場合、意識しておこう。

 


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