マネー、著作権、愛

創作、学習、書評など

グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(3)

前回はディズニーについて著作権の観点から解説した。

 

今回はグーグルについて書こう。

 

世界を作り変えそうな勢いの巨大で多面的なIT企業。

 今世紀を代表する天才的頭脳をもつ2人の創業者。

その全てを理解できると思えるほど、私もうぬぼれてはない。

 

しかし「著作権・左派思想と右派思想」という一つの視点を持てば、

彼らのこれまでの歩みを理解し、

今考えていることを想像することは出来る。

 

天真爛漫

先週も書いたが、ディズニー社の方は少し複雑な生い立ちを抱えている。

その創業期のころに大切なキャラクターのオズワルドを奪われ、

著作権に関する強烈なトラウマを心に刻んだ。

だから、著作権にも心を配りキャラクターを大事に育てるようになった。

真面目にがんばっているだけだったのに、

「あいつはやたらと著作権にうるさい奴だ」

と後ろ指をさされるようになった。

いつのまにか、周囲から浮いた存在になってしまった。

それでもディズニーはその風評を打ち消すことはしなかった。

 

(先日、任天堂ポケモン)が子供たちにキャラクターを無償で提供し、

 著作権の面でも優しい企業だと思われたのとはエライ違いだ)

ポケモンイラストラボ 教育・保育目的の素材提供サービス

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ディズニーは意固地になったのか、

「周りがそういう目で見るんなら、

 本当に著作権の世界でのし上がってやる!」

と徹底的にコンテンツの著作権を買収していくことにした。

多くの作品をのみこんでいき、

誰もが恐れる巨大なコンテンツ・モンスターに成長した。

 

ディズニーは、こんな複雑な成長過程を背負っている。

「過去に色々あったムズカシイ奴」なのだ。

 

 

一方のグーグルは、全くの正反対だ。

ラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏という

2人の明るい天才青年によって立ち上げられたIT企業は、

最初は資金面で苦労したものの、

その超高速の検索技術の実力が認められるや、一気に大成功をつかんだ。

世界中から賞賛を浴びた。

莫大な富も手に入れた。

トラウマなんかに出会う時間もなかった。

 

努力し、報われ、褒められる。こんな風に成長してきた。

「まっすぐに育った天真爛漫な奴」なのだ。

 

彼らはひたすら前向きだ。

人間の知性と善意をためらうことなく信じている。

「どんな問題でも、知恵とテクノロジーを使って乗り越えられる」

という強い信念がある。

 

それが良くわかるのが、彼らの株式公開だ。

証券業界の理不尽な因習を打ち破り、

オンラインのオークション方式、異様に安い手数料、

『プレイボーイ』誌での情報公開など、型破りな方法を使った。

ウォール街で長年旨い汁を吸ってきた人々は度肝を抜かれた。

革命児の2人は最後まで主導権を握り続け、

市場の参加者全員にとって公平な上場を実現してしまった。

古くて無意味な制度は、知恵とテクノロジーを使って乗り越えられるのだ。

 

 

 

左派思想

グーグルが著作権・左派思想であることは、即座にわかる。

彼らが掲げる変わることのない経営理念はこうだ。

 

「世界中の情報を整理し、

 世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」

 

以前に解説したとおり、

「著作物」とは突き詰めると「データ(情報)」だ。

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グーグルの理念は以下の内容を含むということになる。

 

「世界中の著作物をインターネットにアップして検索しやすいようにし、

 世界中の人々が楽しめるようにし、利用できるようにすること」

 

これは、左派思想以外の何物でもない。

 

検索技術で頭角をあらわしたグーグルは、

生まれながらの左派思想だったのだ。

 

誰がみても分かるように、

グーグルの経営理念は、著作権の制度との相性が非常にわるい。

著作権は、情報(著作物)をネットにあげたり

利用したりすることを禁止する権利なのだ。

グーグルにとっては著作権は、自分の信念と真っ向から対立する邪魔者だ。

彼らの目には、ウォール街の因習と同じように、

著作権とは、なんと古臭くて無意味な制度なんだろう!」

と見えたことだろう。

 

気にしなかった理由

しかし、彼らはあまり気にしなかった。

当初から、権利のことは心配せずにネット上の情報をダウンロードし、

検索しやすいにように分析していった。

 

ダウンロードすることが著作権に触れるかも?

著作物を違法にアップする悪人を手助けすることになってしまうかも?

そんな心配もしなかった。

著作権のことは大した問題にはならない」と思った。

 

なぜそう思ったのだろう?

 

彼らが生来の前向きな性格だったから?

もちろん、それもあるだろう。

彼らは何でも乗り越えられると信じている。

 

アメリカは著作権が厳しくないから?

これもある面では正解だ。

アメリカには「フェアユース」という日本にはない考え方がある。

形式的には著作権侵害をしていても、

実質的な部分をみて「セーフ」になる場合がある。

彼らがそれを知っていたのかもしれない。

 

しかし、それだけが理由では無いと私は思う。

 

なぜ、グーグルが著作権のことをあまり気にしなかったのか?

一番の理由は、創業者の2人が純粋な「科学者」だったということだ。

 

順を追って説明しよう。

 

 著作物のカラフルさ

著作権は「著作物」に発生する権利だ。

では「著作物」とは何か?

 

これについては、以前も説明した通りちゃんとした定義がある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【「著作物」の定義】

思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

どんな作品でもこの定義に当てはまれば、基本的に同じ扱いになる。

作った人に権利が発生し、

勝手にコピーしたりネットにアップしたりできない。

作者の死後も70年間は、権利が消滅することはない。

多少の例外はあるが、「著作物」は法的に同じ扱いになる。

これが原則だ。

 

しかし実際には、「著作物」の内容は様々だ。

小説、詩、論文、音楽、絵画、写真、映画、ゲーム・・・・

色んなものを含んでいる。

 

その使われ方もそれぞれ違う。

小説は静かな場所で一人でじっくり読むものだが、

映画は大きな劇場でみんなで大音量で観るものだ。

音楽は仲間と一緒に歌って盛り上がるためのツールにもなるし、

ドライブするときや家事をするときのBGMにもなる。

 

生み出される過程もバラバラだ。

絵は一人の画家が何時間もかけて描くものだが、

写真は女子中学生が放課後に何百枚も簡単に撮影している。

ゲームは数百人がひたすらコードを書いてやっと出来上がる。

 

法律上は「著作物」という単一色で塗りつぶされてしまったものでも、

現実世界の「著作物」はバラエティに富んだカラフルなものなのだ。

 

小説と学術論文

「小説」と「学術論文」。

これらは、どちらも文章で表現されたものだ。

「言語の著作物」ということになり、

著作権的には100%同じルールが適用される。

 

しかし、小説と学術論文は、性質が全く違う。

 

小説は、ファンが楽しむために読むものだ。

作家は読者を感動させるために

技巧を駆使して面白いストーリーを練り上げる。

それを出版し、海賊版が出回らないように著作権で流通をコントロールし、

収益を確保する。

 

一方の学術論文は、研究成果をみんなで共有するためのものだ。

研究者は誰が読んでも理解されるように平易な文章で書く。

「ここで読者の涙を誘おう」なんて誰も考えない。

論文を発表し、多くの人に評価され、他の論文にも引用されることで、

学者としての名声を得る。

「この論文でしっかり稼いで、夢の印税生活だ!」とは誰も思わない。

 

つまり、

小説は「勝手に読むな!読みたいなら金を払え!」という性質のもので、

著作権制度にマッチするが、

学術論文は「みんな読んでください!どんどん使ってください!」というもので、

制度とは合っていないのだ。

 

(小説だって「タダでいいから読んでほしい」と思って書く人は多いと思う。

 しかし著作権は『レ・ミゼラブル』の作家ヴィクトル・ユーゴーのような

 稼いでいるプロの小説家たちが協力して完成させた制度だ。

 「お金をもらうことが前提の制度」になるのは仕方ない)

 

小説と学術論文。

著作権法は2つを全く同じものとして扱っているが、

実際には全く違うものなのだ。

 

2人の頭の中

ここで改めて、グーグルの創業者の話に戻ろう。

 

ラリー・ペイジ氏の父親はコンピューター・サイエンスの教授で、

母親はプログラミングの先生だった。

サーゲイ・ブリン氏の父親は数学の教授で、母親も優秀な科学者だった。

ラリー、サーゲイの2人は大学の計算機科学の博士課程で出会った。

数学とコンピューターの話題を通じて、親友となった。

彼らの周囲には、いつも最新の科学について書かれた論文があり、

それを語り合える人々もいた。

 

つまり、2人は根っからの「理系の学者タイプ」として育ったのだ。

 

(「理系と文系を分ける考え方は時代遅れだ」という人も多いが、

 物事をシンプルに理解して真実を見つけられる有効な視点なら、

 躊躇せず使うべきだ。

 それに、彼らが若者だった時代は、

 まだまだ理系と文系が分かれていた時代だ)

 

彼らは理系のスタイルで世界を理解していた。

 

理系の科学者は、先人たちの学術論文をたくさん読む。

科学の世界では、過去の研究の積み重ねの上にたって研究しないと、

何も成し遂げることはできない。

そして自分の論文を書く時は、参考にした論文を引用する。

重要な論文であればあるほど、多くの論文で引用されることになる。

 

これと同じ発想で、

彼らはウェブサイトを評価するアルゴリズムを組みたてた。

重要な論文ほど多くの論文で引用されるように、

重要なサイトほど、沢山のリンクを張られているはずだ!

このアイディアをもとに、世界最高のサーチエンジンを発明した。

 

理系の科学者がまず想定する「文章」とは何だろう?

恋愛小説や冒険小説ではない。

彼らがいつも読んでいる学術論文に違いない。

 

論文には素晴らしい情報がつまっている。

みんながいつでも自由に読める方が良いに決まっている。

そこから新たな研究が生まれ、科学は進歩する。

もちろん論文に著作権があるのは知っている。

でも論文が使われることは、書いた人の名誉になるんだ。

誰の論文かちゃんと分かるようになっていれば、

書いた人も悪い気はしないだろう。

そんなに気にすることじゃない。

これが科学の世界の常識だ!

 

こんな理系の科学者の発想で、

グーグルは貪欲にネット上の著作物のデータを取り込み、

世界中の人がアクセスしやすいようにしていったのだ。

 

どんな天才であっても、日常的に親しんでいる著作物が

その発想の原点となる。

ボブ・ディランビートルズの大ファンだったスティーブ・ジョブズ氏は、

音楽に目を付けた。

iTunesiPodを作って音楽業界に革命を起こした。

読書家として知られるジェフ・ベゾス氏は、本に目を付けた。

アマゾンを立ち上げ書籍を販売することからスタートし、

ネット通販の大帝国を築いた。

そして学術論文に囲まれて育ったラリー、サーゲイの両氏は、

学術論文から発想をスタートさせた。

「文章はみんなに読まれたいに違いない」という前提のもとで、

ネット上の全て情報を整理し提供する検索エンジンを作った。

 

もし彼らに「文系の視点」があったらどうだったろう?

「ネット上に上がっちゃってる小説を誰でも見つけて読めるようにしたら、

 さすがに作者が怒るだろうな・・」

「文系の学問の場合、

 論文といっても読み物として面白く書かれている本もある。

 タダで読ませるサイトはマズイかも・・」

こんな思いが先に立ち、開発にブレーキがかかったかもしれない。

グーグルは誕生せず、

我々はいまだにイケてない検索システムを使っているかもしれない。

 

グーグルの存在しない世界を想像してみよう。 

好きなタレントの出演予定、旅行先で空いているホテル、

子供の体調が悪い時に頼れる病院・・・

今すぐ知りたいのに、検索しても結果表示が遅い!

やっと表示されたとしても、ロクでもない情報にしかたどり着けない!

イライラしながらネット上を延々とさまよっているかもしれない・・!

 

幸福な(?)ズレ

「娯楽作品を提供してお金を稼ぐ」著作権制度の観点からいうと、

学術論文は、あまり重点分野ではない。

理系の科学者にとって大事なポイントと、著作権の重点はズレている。

そのズレた理系の視点だったからこそ、

学術分野の常識をネット上の世界全体の常識だと思い込み、

気にせずに突き進むことができた。

おかげで、グーグルが誕生した。

世界中の誰もが欲しい情報をすぐに手に入れられるようになった。

グーグルの天才2人が理系タイプだったことは、

多くのネットユーザーにとって「幸福なズレ」だったと言えるだろう。

 

逆にネット上の著作権侵害に悩む人にとっては、「不幸なズレ」となった。

違法にアップされている作品に、ネット上で即座にたどり着けるからこそ、

被害は拡大するからだ。

 

ネットの世界を劇的に便利にするのと同時に、

著作権の被害も巻き起こしながら、

グーグルは急速に成長していったのだ。

 

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グーグルを著作権目線で紹介するだけで、

けっこう長い文章になってしまった。

 

今週はここまでにして、

次回こそグーグルが著作権の世界に挑戦状を叩きつけた大事件について

見ていこう。

 

 

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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(2)

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を見てきた。

 

❝俺たちの❞ゴジラが世界を舞台に大暴れする姿には、胸が震えてしまう。

宿敵のキングギドラと激突するシーンでは、ぞわぞわと鳥肌が立つ。

 

怪獣が魅力的すぎるせいで、

人間のシーンが「余分なもの」に見えてしまう残念な点も、

日本製のゴジラ映画を受け継いでいるが・・

 

童心に帰ってワクワクできる快作だった。

 

godzilla-movie.jp

 

 

 

左派思想と右派思想

先週は、著作権の世界における左派思想と右派思想を解説した。

 

左派思想とは以下のような考え方のことだ。

・文化的な作品は、みんなで共有した方がいい。

・誰もが自由に作品を楽しむことができる社会が良い。

・作品の自由な流通を邪魔する著作権を弱くしよう!

 

一方で右派思想は以下の考えを持つ。

・作品は、それを生み出した作者のものだ。

・作者のものを他人が勝手に使うことは許されない。

・作品を守るために著作権を強くしよう!

 

話を分かりやすく整理するために、

やや大雑把に左派と右派をまとめてしまっている点はご容赦いただきたい。

 

左派と右派。

どちらの主張もそれなりに正しい。

しかし、法改正の流れを見る限りでは、右派が左派を圧倒してきた。

これが著作権の思想闘争の歴史だ。

 

右派の戦士として、その長い闘争を戦い抜いてきたのが、

みんなが大好きなディズニーだ。

 

創業からミッキーマウス誕生へ

 ディズニー社は、ウォルト・ディズニー氏を中心に創業された

アニメ制作会社だ。

創業の数年後にはオズワルドという可愛いウサギのキャラクターを生み出し、

アニメ映画をヒットさせた。

オズワルドは人気キャラクターとなった。

ウォルト氏自身にとっても、愛着のある大切なキャラだった。

 

しかし、オズワルドの著作権は契約上はユニバーサル社のものとなった。

ディズニーはオズワルドの映画を制作できなくなってしまった。

 

オズワルドは自分が生み出したものだったのに!!

我が子のように大切なキャラクターを著作権の力で奪われた!!

 

これは、ディズニーにとってはトラウマとなった。

 

悲しみを抱えながらも、ディズニーはもう一度キャラクターを開発した。

もう二度と会えないオズワルドを思い浮かべながら・・

こうして産み落とされたのが、ミッキーマウスだ。

ミッキーは「お兄さん」と離れ離れに生きていくしかない宿命を背負っていた。

 

もう二度と失敗は繰り返さない!

ミッキーを誰かに奪われるなんて、まっぴらごめんだ!

ディズニーはミッキーを著作権でガチガチに保護することに決めた。

 

その生い立ちに悲しみを秘めたミッキーは、

一気にスターダムにのし上がることになる・・。

 

半ば伝説のようになっているミッキーの誕生秘話だが、

ディズニー社が著作権の保護に熱心な理由をうまく説明していて、面白い。

 

(実際のところは、そんなセンチメンタルな理由ではなく、

 その方が儲かるから。という単純な動機かもしれない)

 

ミッキーマウス延命法

ディズニーに限らずアメリカの映画産業は、

昔から著作権の保護と強化のための活動(つまり右派闘争)には

非常に力を入れている。

著作権こそが飯のタネ」なんだから、当然だろう。

 

アメリカの国内・国外で強力なロビイング活動をおこなっている。

そのかいあって、映画の著作物だけを特別扱いする法律や条約がたくさんある。

(・監督、プロデューサー、カメラマン等、多くの人が参加して映画を作るが、

  出来上がった映画の権利は映画会社のもの。

 ・上映用の映画フィルムの流通を権利者がコントロールできる)

 

中でも悪名高いのが通称「ミッキーマウス延命法」だ。

アメリカではミッキーマウス著作権が切れそうになるたびに

著作物の保護期間を延長するための法改正が繰り返されている。

そのためにディズニー社が批判を浴びているのだ。

「ディズニーがミッキーの延命措置をはかるため、

 つまり自社の利益のために、著作権の秩序を乱している。

 そろそろミッキーを❝みんなのもの❞にする時期では?」

という批判だ。

 

アメリカの映画業界全体でロビイング活動をした結果なので、

ディズニーだけのせいとは言えないが、

「オズワルドのトラウマ」という伝説を背負ったミッキーが

象徴的に使われ、利用されている。という面もあるのだろう。

ディズニー以外のメジャーな映画会社は、

ミッキーのおかげで批判の矢面に立たされずに済んでいる。

 

ディズニーのイメージ戦略

ディズニーが著作権を重視していたことは間違いのない事実だが、

世間一般で受け止められているイメージは、それ以上だ。

「ディズニーは著作権にめちゃくちゃ厳しい!」と言われている。

 

私には、実態以上にイメージが先行していたように感じられる。

右派勢力に祭り上げられているうちに

イメージだけが世の中に浸透していったという面もあるのではないだろうか。

 

気が付けばディズニーは「右派思想の最強戦士」ということになっていた。

 

最強の戦士には、嘘か本当かわからない「武勇伝」や「伝説」が付きものだ。

ディズニーにもそんな都市伝説がある。

一番有名なのは

「小学生が卒業記念としてプールにミッキーの絵を描いたら、

 ディズニーから電話がかかってきて「著作権の侵害だから消せ!」と言われた」

というものだろう。

(ネット上の記事を見る限りでは、

 この伝説の元となった事件は実際にあったらしい)

 

最強戦士のまわりには「取り巻き」も多いようだ。

ネット上でミッキーの絵を使うと「それは著作権の侵害ですよ!」と

誰に頼まれたわけでもないのに警告してくる

「ディズニー自警団」という人たちだっているらしい。

「あなたはディズニーの代理人ですか?」と言いたくなる。

 

 

数々の伝説や取り巻きをもつディズニー。

でも、子供たちに愛される無邪気なキャラクターを持つ企業にとって、

著作権に厳しい」というイメージは、マイナスなんじゃないだろうか?

 

しかし当のディズニーは、

そのイメージを否定しようという素振りは見せていない。

「ファンが一定の範囲で使ってくれるのなら、大歓迎ですよ!」

のような優しいメッセージを広報しても良さそうなものなのに、

私の知る限り、そんなことは一切していない。

同じく著作権戦略を重視している任天堂は、ファンにガイドラインを提示し

「ルールを守ってくれるなら、自由にネットに動画を上げてもいいですよ」

と発信して、イメージアップに成功したとういうのに。

 

●ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

https://www.nintendo.co.jp/networkservice_guideline/ja/index.html

 

「厳しい!」と言われているディズニーは、

むしろ「周りが勝手に騒いでいるのなら、それはそれで結構」

と開き直っているように見える。

 

なぜだろう?

 

これは、「戦士」らしく考えれば分かる気がする。

 

「クマを倒したことがある」と言われている伝説の武闘家が、

弟子から「クマを倒したって本当ですか?」と聞かれ、

否定も肯定もせず、黙って笑みを浮かべているとどうなるか。

弟子たちは「師匠はやっぱり凄い!」と勝手に大騒ぎする。

彼に挑戦しようとするライバルは恐れをなし、

入門希望者は増える。

 

著作権に厳しい」というイメージが独り歩きすれば、

多くの人がディズニーの作品を勝手に使うのに尻込みするようになる。

結果として著作権侵害の被害が減る。

ディズニーにとっては、余計な訴訟費用をかけずに済むことになる。

また、質の悪いニセモノ商品が出回ることでイメージが悪くなる事態を

避けることができる。

 

ディズニーから正式なライセンスを得てキャンペーンをしたいと考える企業も

「あの厳しいディズニーだから」ということで、

キャラクターに❝特別感❞を感じる。

最初から高額なライセンス料を覚悟した上で交渉をスタートするだろう。

ディズニーは他の企業より高値でライセンスを売ることができる。

 

一見マイナスなイメージに思えることでも、

企業体として考えると、悪いことばかりではないのだ。

 

こうしてディズニーは、周りから勝手に与えられたイメージを逆手にとり

巧みに経営に生かしているのではないだろうか。

 

真の最強戦士へ

イメージ先行型だった右派戦士のディズニー。

しかし21世紀に入ってからは、

本当の意味で著作権の覇道を突き進んでいる。

 

内部で何があったのか知らないが、明確な戦略が確立されたようだ。

強力なコンテンツの権利を持つ企業を次々と買収していっている。

 

トイ・ストーリー』や『ファインディング・ニモ』のピクサー

スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』のルーカスフィルム

『アイアンマン』や『アアベンジャーズ』のマーベル・スタジオ。

書いているだけで目まいがしそうなほど豪華なコンテンツのそろい踏みだ。

最近では、

アバター』『X-MEN』などの20世紀FOXまで手中に収めてしまった。

 

著作権こそ重要だ」という右派思想に目覚め、

著作権の獲得に狙いを定め、わき目もふらずに突き進んでいる。

 

2006年には、

離れ離れになっていたオズワルドの権利まで買い戻している。

ものすごい執念だ。

 

ディズニー本体だって

ミッキーやプーさん、『アナと雪の女王』をはじめとする

キャラクターの人気は健在だ。

 

世界中の稼ぐコンテンツの著作権は、

全てディズニーに吸い上げられようとしている。

著作権の歴史上、いや、人類の歴史上、

これだけのコンテンツ一極集中が起きるのは初めてのことだ。

(ここまで行ってしまうと、

 アメリカの独占禁止法(反トラスト法)にひっかるのでは?

 という懸念もあったが、うまく回避したようだ)

 

私には、全方面のファンに訴えるコンテンツを多数もっているディズニー社が、

複数の頭と尻尾をもつ最強の怪獣・キングギドラに見え始めている。

著作権の獲得を追求し続けたディズニーは、

とんでもないコンテンツ・モンスターになってしまった!

 

●ディズニーが世界のエンターテイメント市場を寡占化しはじめた

https://news.yahoo.co.jp/byline/sakaiosamu/20190516-00126166/

 

 

最初のうちは、

単なるイメージ戦略という面もあった「著作権重視」という姿勢。

しかし長年「著作権は大事」という右派思想の渦中にいるうちに、

心から右派思想を信奉するようになったようだ。

地に足のついた著作権買収の戦略をブレることなく着実に推し進め、

コンテンツ業界の覇権を握るに至っている。

 

こんなディズニーが、左派と右派の闘争の中でどんな主張をしていくのか?

決まっている。

著作権をもっと強く!」ということだ。

絶対に間違いない。

資本の論理から考えても、それ以外にあり得ない。

著作権に厳しすぎる」というマイナスイメージや批判にも、

ひるむ必要がないことも学んでいる。

 

 名実ともに右派思想・最強戦士として成長したディズニーは、

いずれは左派思想の大物と衝突することになるだろう。

キングギドラゴジラの激突が避けられないように・・!!

 

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次回はグーグルと著作権の関わりについて見ていこう。

グーグルは「生まれながらの左派思想」であり、

「左派思想の権化」とも言える存在だ。

 

クールなIT巨大企業が、

著作権史上最大のクーデター事件を起こす様子を解説したい。

 


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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(1)

私はグーグルとディズニーの間で争いが起きると予想している。

 

その抗争は、

経済的・ビジネス的な戦いである以上に、

思想的・宗教的な戦いとなるだろう。

 

そう考える理由と戦いの行方について、

これから数回かけて説明していこう。

 

 著作権における左派と右派

 著作権の世界には、「左の思想」と「右の思想」がある。

といっても、

憲法9条を改正すべきだ!」とか、

同性婚を認めるべきだ!」とか、

そういう話じゃない。

 

著作権を強めるべきか?弱めるべきか?」という話だ。

 

あなたが小説を書くケースで考えてみよう。

 

あなたは自分が面白いと思う物語を創作する。

自分以外の誰にも書けないと思える素晴らしい作品ができあがる。

さあ、この作品をどうしよう?

まずは身近な友人に読んでもらう。

すると「面白い!」「一気に読んじゃった!」と言ってもらえた。

嬉しい。

もっと沢山の人に読んでほしい。

自分でコピーを作って、周りの人に配る。

ネット上にも公開する。

すると全国から声が届きはじめる。

「感動した!」「生きる勇気をもらえた!」

嬉しい。嬉しい。

書いて良かった。

もっと読んでほしい!

 

そのうち、作品のファンクラブができる。

ファンの中には、あなたの小説をマンガにしたり、

パロディにしたりして、同人誌を販売する人も出始めた。

これがなかなか良く出来ていて面白い。

小説ではなく、マンガを読んではじめてあなたを知る人もいるようだ。

「そうか。私の作品を元にして、また新たな作品が生まれて、

 新たなファンが増えていく。

 これって素晴らしいことだわ!」

一方で、少しひっかるものも感じる。

「私がこだわって書いた主人公のセリフ。

 本当は変えてほしくなかったな・・。

 まあ、作品が好きでやってくれてるんだし、いいか」

 

あなたが「何でもOK」という姿勢をみせているので、

これをビジネスにしようという人も現れる。

あなたに無断で「あの小説の豪華装丁本!限定版です!」と宣伝して

出版した業者が多額の売り上げをあげてしまう。

調子にのったファンが、

あなたの小説をエッチなバージョンに書き変えて売り出し、

大人気の小説家になってしまう。

セクシーな女優を起用したドラマ化の話もあるらしい。

 

ここまで来ると、あなたも黙ってはいられない。

「この作品は、わ・た・し、のものなんです!

 私の許可なくお金儲けに利用したり、

 勝手に内容を変えられるなんて、我慢できません!

 こんなことが許されるなら、誰も作品をつくって発表しなくなります!」

こうして、あなたは著作権を主張するようになる。

 

著作権・左派思想

上記のお話のうち、

前半にあなたが感じていた気持ちから「著作権・左派思想」が生まれた。

 

「もっと沢山の人に読んでほしい」

「どう利用されてもOK」

「私の作品を元にして、新たな作品・価値を生み出してほしい」

こんな思いをベースにし、次のような主張がされるようになる。

 

「作品が自由に流通するのは良いことだ。

 お金持ちであっても、貧しい人であっても、

 みんが平等に作品楽しめることができる世界は素晴らしい。

 作品は社会全体の財産だ。

 過去の作品を自由に使えるからこそ、新たな作品も生まれる。

 作品の自由な流通・利用をジャマする著作権なんてものは、

 弱めた方がいい!」

 

これを私は「著作権・左派思想」と呼んでいる。

このコトバは私の勝手なネーミングだが、

これに近い考え方で「copyleftコピーレフト)」という考え方が実際にある。

主にソフトウェアの業界の思想で、

強すぎる「copyright(コピーライト)」への反動から生まれた。

プログラミングを好きな人たちが

ネット上で様々なソフトウェアを自由に利用し合い改良を重ねたからこそ、

革新的なソフトが生まれるんだ!

厳しい規制は良くない!

という考えに基づいた思想運動だ。

 

「小説、マンガ、音楽などを自由に使えることが「善」だ」という考えは、

コピーレフトにも通じる哲学なので、

このブログでは「著作権・左派思想」と呼びたい。

 

左派思想の中には

著作権を全て廃止したい!」という「極左」の人もいれば、

「今の著作権制度はそのままに、みんなが利用しやすい工夫をしよう」という

「穏健派」もいて、幅が広い。

クリエイティブ・コモンズ」という運動は、「穏健派」に分類されるだろう。

 

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは

https://creativecommons.jp/licenses/

 

著作権・右派思想

著作権・右派思想」は、

上記のお話のうち、後半にあなたが感じた気持ちを出発点にしている。

 

「私の魂から生み出した作品は私のもの」

「勝手に使われたら、私の気持ちが踏みにじられる」

「経済的にもアンフェアだ」

こんな思いから、次のような主張が生まれる。

 

「作品には作家の人格が込められている。

 作品は作家個人のものなのだ。

 これを守ることは人権上とても大切なことだ。

 作品が守られるからこそ、

 「次もがんばって良いものを書こう」と思えるのだ。 

 作品が勝手に他人に使われないために著作権を強くしよう!」 

 

これが「著作権・右派思想」だ。

 

「人権」「作家のやる気」などをキーワードにして、 

 「小説、マンガ、音楽などをちゃんと守ることが「善」だ」

という考え方になっている。

 

左派と右派の一致点

左派思想と右派思想、ぜんぜん違う考え方のようだが、そうではない。

どちらも著作権の存在そのものは否定していない。

(ただし極左思想だけは別。)

著作権の必要性は認めながらも、

「今の著作権は強すぎる」というのが左派で、

「今の著作権は弱すぎる」というのが右派なのだ。

 

上記で紹介した「copyleftコピーレフト)」のルールの一つに

こんなものがある。

「あなたにこのソフトウェアを自由に改良することを許可します。

 その代わり、条件があります。

 あなたが改良したソフトウェアも

 みんなに自由に使わせないといけません」

こうして自由に使えるものを世の中に増やしていこうという作戦なのだが、

もとのソフトウェアに著作権があることを前提にしないと、

この作戦は機能しない。

ハナから著作権が存在しないのなら、

このルールに従う必要がなくなってしまうからだ。

 

著作権・左派思想も、

著作権があること自体は認めている。

 

また、左派と右派の究極的な目標も同じだ。

どちらも「良い作品がたくさん生まれる豊かな文化・社会」を目指している。

ただ、その目標にたどり着くための方法が違うのだ。

 

左派思想の強み

左派思想の強みは、人間の自然な感覚に訴えかけやすい点だ。

 

「自分が頑張って作ったものを、みんなに知ってほしい」という思いは、

人間のナチュラルな感情だ。

源氏物語』を書いた紫式部もそうだった。

当時の日本の貴族社会で、みんなが彼女の書いた物語を読みたがった。

勝手に手書きのコピーをとられ回し読みされていた。

彼女はそれが嬉しくて仕方なかった。

だから頑張って、「世界最古の長編小説」と言われる作品を

書きあげることが出来た。

彼女は作品の著作権を主張しようなんて、これっぽっちも思わなかった。

そもそも、そんな発想がなかった。

 

紫式部

「あなたはなぜ、

 自分の作品が勝手にコピーされているのを黙ってみているんですか?」

と質問しても、目が点になるだけだろう。

 

そして、当時の人々も当然のように他人が作った作品を自由に利用していた。

それが「普通のこと」だった。

 

人類の歴史上、著作権なんてものが生まれたのは

つい最近の話だ。

我々は、まだ著作権という新しい考え方に十分に馴染んでいない。

これは、「酢豚に入ったパイナップル」のようなものかもしれない。

「これが入っている方がお肉が柔らかくなる

 (著作権がある方が豊かな文化が生まれる)」と頭ではわかっていても、

どうしても違和感を感じてしまう。

「お肉料理に、なんで果物が入っているの?」となってしまう。

そんな状態で「パイナップルをもっと増やそう」と言われたら、

拒否反応が出て当然だ。

「ちょっと、これ以上は勘弁してよ!」

著作権を強くすることには反対!規制はもっと少ない方がいい!」

と主張することになる。

これは日常的に著作権に違和感を感じている人々の共感を呼びやすい。

音楽教室著作権利用料を請求したJASRACが世間の非難をあびたのも、

「子供たちが音楽にふれる場に、なんで著作権が??」という、

素朴な違和感があったからだ。

 

 

左派思想のもう一つの強みは、「表現の自由」と相性がいいことだ。

 

あなたが人々に何かを伝えたい!表現したい!と思っていても、

著作権にひっかることは出来ない。

著作権は「表現の自由」を奪う権利であることは間違いない。

 

そして「表現の自由」は日本国憲法にも書いてあるくらい、

「由緒正しき権利」だ。

(一方で「著作権」は憲法のどこにも書いていない!)

 

著作権をこれ以上強くしたら、

 憲法で保証されている表現の自由がなくなってしまう」

という主張には、すごく説得力がある。

 

著作権・左派思想には、

「人間の自然な感覚」と「表現の自由」という後ろ盾があるのだ。

 

右派思想の優勢

 ここまで書くと、左派の方が優勢なんじゃないか?と思える。

しかし、現実の世界では逆のことが起こっている。

 

著作権の誕生以来、一貫して右派の方が勝利をおさめてきた。

 

最初は「本を勝手に追加製造させない権利」としてスタートした権利だが、

少しずつその勢力範囲を広げていった。

「勝手に演奏・上演させない権利」

「勝手に放送させない権利」

「勝手にインターネットで使わせない権利」

など、次々と新しい権利を獲得していった。

 

また、最初のころは「作者の死後10年」くらいで

著作権は切れることになっていた。

死後10年待てば誰でも自由に作品を使えた。

しかし、この保護期間もどんどん長くなっていった。

10年から20年へ、20年から30年へ、30年から50年へ・・・

最近では、また日本の著作権法が改正され「死後70年」まで延びてしまった。

大きな反対運動があったにもかかわらず。

またも右派思想が勝利をおさめたのだ。

 

著作権を侵害したときの罰則もどんどん厳しくなっている。

 次々と基準が引き上げられた結果、刑事罰は個人に対して

「マックスで懲役10年 & 罰金1000万円」になった。

会社に対しては「マックス罰金3億円」だ。

これは窃盗罪の「マックスで懲役10年 or 罰金50万円」より厳しい。

リアルなモノを盗むより、形のないモノを盗む方が罪が重いのだ。

 

右派の勝利に次ぐ勝利。

左派の敗北に次ぐ敗北。

これが著作権の歴史なのだ。

 

なぜこのようなことが起きるのか?

 

一番の理由としては、ここ数百年の人類の❝流行りの思想❞である

「人権尊重」というブームに見事にのることが出来たからだろう。

以前の記事で書いたとおり、昔は神様が全てを支配していた時代だった。

しかし、ルネッサンスで「人間こそが尊いのだ」という思想がうまれ、

フランス革命のころには、人権尊重という大ブームがヨーロッパを駆け巡り、

それが世界中に広まった。

 

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右派思想は賢かった。

著作権も大切な人権の一つである!」 と主張し、

人々にそれを納得させた。

 

左派思想の人がいくら「人間の自然な感覚」と「表現の自由」を訴えても、

「あなたは人権を軽視するのか!」と言われてしまうと、反論しづらい。

何しろ人権尊重の時代だ。

時代にのった主張の方が通りやすいのだ。

 

右派と左派の不思議な分布

右派と左派の数百年にわたる戦い。

ここまでは、右派が左派をボコボコに叩きのめしてきた。

細かい部分、つまり局地戦で左派が勝つこともたまにはあったが、

右派のワンサイドゲームであったことは間違いない。

 

しかしこうなると、

さすがに著作権の制度全体のバランスが右に傾きすぎてるんじゃない?

と感じる人が増えてきている。

著作権を専門とし、法改正の歴史に詳しくなればなるほど、

そう感じるようだ。

私の知る限り、著作権に詳しい専門家はみな「左派思想」になっている。

(本人が認めるかどうかはともかく。)

左派思想の人の特徴として、

やたらと「バランス」という言葉を使うので、見分けがつきやすい。

かく言う私も左派寄りだ。

バランスが大事だと考えている。

 

逆に著作権についてなんとなくの知識しかもっていない人は、

著作権で稼いでいる業界団体(つまり右派)の影響を受けやすい。

著作権は人権です。人権侵害の被害が深刻な状態になっています。

 知的財産を守ることは競争政策の上でも重要です」

といった説明にコロリとやられ、知らないうちに「右派思想」になる。

「知的財産は大切です。しっかり守らないといけません」と言った方が、

かしこく見えるし。

法律をつくる国会議員も、ほとんどがそうだ。

こうして著作権制度は右に傾き続けてきた。

 

そういう観点では、

以前の記事で紹介した「ダウンロード違法化」にストップがかけられたのは、

画期的なことだったと言える。

文化庁の審議会で「GO」が出たものを、

政治家が止めるなんて、これまでなら考えられなかったことだ。

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著作権に詳しい人ほど「著作権を弱めよう」と言い、

著作権を知らない人ほど「著作権を強めよう」という考えに賛成する。

そんな、逆転現象のような不思議なことが起きているのだ。

 

1つの目線として

もちろん、世の中にある色んな考え方を「右か左か?」で

スッパリと切り分けてしまうことが、いつでも可能なわけじゃない。

でも、どこから理解したらいいか分からないものを勉強するときに、

自分の中で一つの基準をもつことは大切だ。

 

政治に全然興味がない人は、政治家の長い演説をきいても退屈するだけだ。

言ってることは「未来のために」とか「力を合わせて」とか、

当たり前の聞き飽きた言葉ばかりだし、

肝心のポイントについては玉虫色のことしか言わない。

でも、自分の中で一つの目線をもつと違って聞こえてくる。

「この人は憲法改正に賛成なのか?反対なのか?」

「この人は大阪都構想に賛成なのか?反対なのか?」

など、何か一つのテーマをもって注意深く演説をきけば、

自然とその人の狙いが読み解けるようになってくる。

 

著作権の世界を理解する上では、

「左派思想か?右派思想か?」という目線は、きわめて有効なのだ。

今後、ニュースなどで著作権の話題が出たときには、

「これは左派か?右派か?」と意識しながら聞いてみてほしい。

 

 

次回は「左派思想の権化」であるグーグルと、

「右派思想の最強戦士」であるディズニーについて見ていこう。

 

オリンピックの・・

以前の記事で

東京オリンピック利用規約ジャイアンより乱暴だ」

という趣旨の内容を書いた。

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大手メディアも、やっと気付き出したようだ。

朝日新聞の記事になっている。

 

●五輪会場、自撮り動画ダメなの? SNS投稿禁止に波紋:朝日新聞デジタル

https://www.asahi.com/articles/ASM5Q7J9YM5QUTIL082.html

 

今後どういう流れになるのか?

大炎上するのか・・??

注目だ。

 

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契約書はアートだ!(5) 作品を使わせてもらう場合

バーバリーイソジン、リッツ、オレオ

バーバリー」と言えば、イギリスの高級コートだ。

 

イソジン」と言えば、日本中で親しまれている「うがい薬」だ。

 

「リッツ」「オレオ」と言えば、みんなが大好きなお菓子だ。

 

これらに共通する「あること」を知っているだろうか?

 

これらのブランドは、全て欧米の企業のものだ。

長年のあいだ、日本の企業はブランドの使用ライセンスを与えてもらい、

国内で商品を販売してきた。

 

三陽商会はイギリスのバーバリー社からライセンスを受け、

コートを中心とする洋服を製造し、販売していた。

 

明治はアメリカのムンディファーマ社からライセンスを受け、

イソジンうがい薬」を製造し、販売していた。

 

ヤマザキナビスコ(現在はヤマザキビスケット)は、

アメリカのモンデリーズ社からライセンスを受け、

リッツやオレオなどのお菓子を製造し、販売していた。

 

商品はよく売れた。

日本企業は儲かった。

その分たくさんのライセンス料が入ってくるので、欧米の企業も儲かった。

お互いにハッピーだった。

 

しかし、風向きが変わった。

欧米の企業が突然こう言い出したのだ。

「そんなに売れてるんなら、自分で直接商売した方が儲かる。

 あなたにライセンスするのはやめる」

 

日本側にとっては大変な事態だ。

自社の看板商品を今後一切売れなくなってしまう!

経営に大打撃だ!

何とかしないと!!

 

おそらく、日本企業は最大限の抵抗をしただろう。

「我々は、このブランドをとても大切に育ててきました。

 製品の品質にはこだわって国内の製造工場で作ってきました。

 日本人の好みに合うような宣伝展開をしっかり予算をかけて行ってきました。

 ブランドに最大限の愛情を注ぎこみ、

 血のにじむような思いで日本の市場を開拓してきたのは、我々なんです! 

 最初はあなた方からお預かりしたブランドでしたが、

 今となっては我が子のようなものなんです!

 それを今になって、取り上げようって言うんですか!!

 「この子」が成長してお金を稼ぐようになったからといって、

 今になって「親権」を主張するなんて!

 あんまりじゃないですか!」

 

交渉の場でどんなやりとりがあったかは分からないが、

日本の担当者の心の中は、悔しい思いで一杯だっただろう。

 

しかし、何ともしようがない。

欧米企業からの要求は「契約書」に従った正当なものだ。

必死の抵抗も空しい。

日本の企業になす術はなかった。

ライセンス契約は終了し、大きな売り上げを失ってしまった・・。

 

こんな大事件が、2014~16年くらいのうちに立て続けに起こったのだ。

 

大事件のその後

契約を無事に終わらせた欧米の3社は

自社(の日本法人等)で日本の商売を開始し、

バーバリー」「イソジン」「リッツ」「オレオ」を売り出した。

これまでの日本企業の努力のおかげで、

ブランドは日本中で認知されている。

あとは、この認知度を利用して手堅く商売をしていくだけだ。

プロモーション戦略を少し修正したり、

日本の工場から東南アジア等の工場に製造工程を移して

コストをコントロールしたりしている。

 

 

ブランドを失った日本企業の対応は2種類に分かれた。

 

バーバリーを売れなくなってしまった三陽商会は、

新たな海外ブランドを求めた。

スコットランド出身のレインコートメーカーである

マッキントッシュ」に目を付けた。

日本で権利をもっていた業者からライセンスを得て、

日本で製造・販売を始めた。

 マッキントッシュは一部のユーザーからの評価は高かったが、

全国的な知名度はゼロに近いブランドだ。

三陽商会は、また一からブランドを育て上げる努力をしないといけなくなった。

ここ数年の同社の業績は振るわない。

新たな「子育て」は、なかなか難しいようだ。

 

 

 一方で明治やヤマザキビスケットは、三陽商会とは別の道を選んだ。

外部からブランドを招き入れるのではなく、

自社でゼロからブランドを生み出すことにしたのだ。

 

明治は「明治うがい薬」というシンプルなネーミングの新商品を売り出し、

ムンディファーマ社の「イソジン」に対して真っ向勝負を挑んでいる。

ちなみに、イソジンのCMで有名だったキャラクター「カバくん」は

明治独自のものなので、

ムンディファーマ社が使うことはできない。

 

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明治のカバくん

 

ムンディファーマは仕方なく「カバくんに似ているけど違う」という

微妙なキャラクターを開発した。

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ムンディファーマのカバらしきキャラ

 

しかし、明治はこれに怒った。

裁判所に使用差し止めを求めた。

「たしかに「イソジン」という名前はお返ししましたが、

 私が生み育てた「カバくん」だけは私のものです!

 絶対に渡しません!」

というわけだ。

 

ノバルティスファーマも「逆ギレ」して争う姿勢を見せたが、

最終的にはカバを使うのを諦め、

代わりに犬のキャラクターを使っている。

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イソジン犬キャラ

明治としては、「イソジン」を取り上げた憎き相手に対して、

一矢報いたということになる。

 

しかし明治の方も困っている。

昔のCMソングをそのまま使えないからだ。

「♪ただいま~のあとは~、ガラガラジンジン、ガラガライソジンジン」

という商品名が耳に残りやすい印象的な歌詞を変えざる得なくなってしまった。

「♪ただいま~のあとは~、ガラガラして、明治うがい薬」

こんな、ぜんぜんインパクトのない歌詞になってしまった。

(ちなみに、歌の著作権自体はJASRACの管理。

 CMに使うには著作権だけではなく著作者人格権のOKも必要)

 

「商品名(キャンペーン名)」「キャラクター」「CMソング」は、

その全てがうまく噛みあうと、最強の組み合わせになる。

(例:「ペコちゃん」♪ミルキーはママの味(不二家

   「カールおじさん」♪それにつけてもおやつはカール(明治)

   「ヤン坊マー坊」♪ぼくの名前はヤン坊ヤンマーディーゼル

   「バザール・デ・ゴザール」♪バザールでござーるNEC))

 

キャラと歌と商品名がガッチリと脳の中ので結びつくと、

一生離れることはない。

「商品展開3種の神器」と言えるだろう。

明治とノバルティスファーマの戦いは、

3種の神器の奪い合いだったということになる。

まるで日本の支配権をかけて3種の神器を取り合った

源氏と平家の戦争のようだ。

 

また別の見方をすれば、

イソジンという商品名、つまり「商標権」と、

キャラクターや歌という作品、つまり「著作権」の戦いとも言える。

「商標権」vs「著作権」という、

知財マニアにとってはたまらない対戦カードだ。

 

明治とノバルティスファーマの勝負。

最終的な勝敗は、薬局で商品を選ぶ消費者が決めることになる。

その行方を見守りたい。

 

「リッツ」と「オレオ」を奪われた ヤマザキビスケットも、

明治と同じく自社ブランドを開発した。

「リッツ」に代わって「ルヴァンプライム」、

「オレオ」に代わって「ノアール」という新ブランドを打ち出し、

モンデリーズ社に戦いを挑んでいる。

海外に生産拠点をうつした「リッツ」「オレオ」と、

国内生産にこだわる「ルヴァンプライム」と「ノアール」。

どちらのお菓子がおいしいかは、皆さんに判断してほしい。

 

教訓

 一連の事件から得られる教訓は何だろう?

 

「欧米の企業は日本人の「義理人情」を理解しない。

 ひどい奴らだから要注意!」

ということだろうか?

そうではない。

利益を追い求めるのは企業にとって当たり前のことだ。

大金がからめば、どの国の企業だって、どんな人間だって同じことをする。

 

学ぶべきことは

「許諾をもらう立場は、あなたが思っている以上に弱い」

ということだ。

 

上記でとりあげたのは、「商品名」「ブランド」という、

主に製造業にかかわる商標権の分野の話だが、

自分には関係のない話だと思わない方がいい。

コンテンツ産業にかかわる著作権の世界でも

同じことがいつ起きてもおかしくない。

 

 「稼いでいたコンテンツが急に使えなくなる!」

こんな事態を防ぐためには、どうすれば良いだろう?

2つの事例で考えてみよう。

 

事例1.契約期間の工夫

あなたはコンテンツ系の有力企業・アベン社の社員だ。

才能のある有望なクリエイターを見つけ出し、

作品をたくみな戦略で売り出す「敏腕プロデューサー」として

知られている。

 

ある日、あなたの元に電話がかかってくる。

「場張(ばばり)くん」という名の当社一番の売れっ子クリエイターからだ。

彼は急にこう言い出す。

「御社とは私の作品の利用を許諾する契約をむすんでいますが、

 もうすぐ契約が切れますよね?

 契約の更新はしません。

 これからは、自分の作品をつかって自力で商売していきます」

 

それは困る!

場張くんの作品は、集英社でいう「ワンピース」のようなものだ。

看板作品が無くなってしまうと、アベン社は立ちゆかなくなってしまう!

 

契約書には「契約期間は5年だが、5年たったら自動延長する」と

書いていたはずだ・・。

 

慌てて契約書を見直してみると、そこにはこう書いてあった。

 

・場張くんはアベン社に作品の利用を許諾する。

・契約期間は5年間。

・契約期間が終了しても、契約は1年ずつ自動更新される。

・更新したくない場合は、

 契約期間終了の1か月前までに相手に通知すれば良い。

 

そう。

場張くんの行動は正当だ。

契約書の手続きにしたがって、

1か月前に連絡してきただけなのだ。

契約書に書いてある以上は仕方ない。

アベン社は場張くんの作品を手放すことになる・・。

 

おそらく、上記の「バーバリー」や「イソジン」の事例も、

これと同じパターンで契約終了になってしまったのだと思う。

 

許諾をもらう立場は、あなたが思っている以上に弱い。

 

こんな事態を避けるために、どんな契約にしておけば良かったのだろう・・?

 

理想的なのは、

権利を「許諾」してもらうのではなく「譲渡」してもらうことだ。

権利が完全に自社のものになっていれば、

契約期間が終了しても問題なく利用し続けることができる。

でも、権利の譲渡に抵抗感のある人は多い。

交渉が簡単に進まないことも多いだろう。

 

次に良いのは、

契約期間を「5年」などと区切ることなく「無期限」で許諾をもらうことだ。

しかしそれでも抵抗されることは少なくないだろう。

また、相手をずっと縛り付ける契約は裁判になったときに

裁判官から嫌われやすい。

「奴隷契約」っぽい匂いがするからだろう。

バランスの悪い契約とみなされ、無効にされてしまうかもしれない。

 

おそらく一番現実的なのは、こんな契約ではないだろうか?


・場張くんはアベン社に作品の利用を許諾する。

・契約期間は5年間。

・契約期間が終了しても、契約は1年ずつ自動更新される。

・更新したくない場合は、

 契約期間終了の1か月前までに相手に通知すれば良い。

 ・ただし、アベン社から場張くんに支払った直近1年間の印税の総額が

 〇〇万円を超えている場合は、場張くんの方からは更新を拒否できない。

 

こうしておけば、

場張くんの作品がブレイクしてメチャクチャ稼いでいるときに、

突然逃げられてしまうのを防ぐことができる。

場張くんに対してしっかり印税を支払っているということは、

アベン社自身も企業努力をして作品をプロモートしているに違いない。

アベン社もしっかり義務を果たしているということになる。

「クリエイターを縛り付けているだけの酷い契約だ」と非難されづらい。

よほどムチャな条件にしない限り、

バランスのとれた妥当な契約内容と判断されると思う。

 

この考え方をもとに、

それぞれの事情に合わせて条件を調整していけば良いだろう。

 

事例2.やっぱり譲渡

敏腕プロデューサーのあなたの元に、また電話がかかってくる。

今度は、場張くんからではなかった。

なんと、アベン社のライバル「サノス社」の社長の野太い声だ。

「サノス社の社長をしております、佐野と申します。

 このたび、場張さんから作品の著作権の全てを譲ってもらいました。

 つまり、サノス社が権利者です。

 つきましては・・・アベン社に許諾は出しません。

 今後、あなた方は我々の作品を一切つかえなくなります」

 

 

どうやら場張くんには借金があって、

まとまったお金が必要だったらしい。

その弱みに上手くつけこんだのがサノス社だ。

場張くんとサノス社とのあいだでは、

正式な「著作権譲渡契約」が交わされてしまっている。

作品の著作権はサノス社のものだ。


社内に再び衝撃が走る。

今度こそ看板作品を失い、アベン社は倒産してしまうかもしれない・・。

 

でも、こんなことはおかしい!

場張くんとの契約書には

「契約上の地位や権利を第三者に渡すことはできない」と

書いてあったはずだ。

何とかならないのか?

弁護士に相談したが、

「契約書は場張くんを縛っているだけで、サノス社を縛れるものではない。

 場張くんに対してなら「契約違反だ!」と言って

 損害賠償を求めることはできるが、

 そもそも場張くんはお金を持っていないので、無駄だろう。

 著作権が譲渡されてしまっている以上は、

 サノス社に「許諾しない」と言われてしまうとお手上げだ。

 もう場張くんの作品を使うことはできない」

こう言われただけで、有効な対策をとれない。

 

こうしてアベン社は一番稼いでいるコンテンツを失うことになった。

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のように、

アベン社はサノス社に完全な敗北を喫した・・。

 

 

現実のケースでは、もっと「あの手この手」を使って

作品を利用できるようになるかもしれない。

しかし、

「許諾を得ただけの立場では、譲渡を得た相手に勝てない」

というのは事実だ。

実際にそんな事件も起きている。(「子連れ狼」事件)

 

許諾をもらう立場は、あなたが思っている以上に弱い。

 

突然に許諾を失う側にしてみれば理不尽な話だが、どうしようもない。

著作権制度の欠陥だ」と言う人もいる。

 専門家からも長年のあいだ問題視されてきた。

 

この問題については、最近になって政府の方で動きが出てきた。

「許諾を得た立場の人を守るべきではないか?

 誰かに著作権が譲渡されちゃっても、使い続けられるルールに変えよう」

という流れになってきている。

 

文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第3回)

http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/license_working_team/h30_03/index.html

 

この動きには期待したいが、

スピーディに動くコンテンツ産業の現場で働く我々が

ルール変更をのんびり待っているわけにはいかない。

我々はどうすべきなのだろうか?

 

結論を言えば「やっぱり許諾より譲渡がいい」ということだ。

 

権利者からは嫌がられるかもしれないが、

ちゃんと腹を割って話をするしかない。

「サノス社」のようなリスクがあることをしっかりと説明し、

理解してもらおう。

契約書上は

「5年間という期限で著作権を譲渡し、5年たったら必ずお返しします」

という内容にしても良い。

 

相手に納得してもらい譲渡してもらえたのなら、

その事実を文化庁に「登録」しておくのが安心だ。

(少し費用がかかる)

登録さえしておけば、サノス社のような相手から

「我が社の方が先に権利を譲渡してもらっていた!

 本当の権利者は我々だ!」

と言われても怖くない。

 

著作権登録制度

http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/toroku_seido/

 

著作権を譲渡してもらうこと。

・譲渡を文化庁に登録すること。

この2つのことが、

コンテンツ業界で働く人にとって心理的ハードルが高いことは、

私も分かっているつもりだ。

それでも、あなたやあなたの会社にとって本当に大切な作品なのであれば、

一度は考えてみても良いと思う。

 

まとめ

以上、「作品を使わせてもらう場合」の注意点を説明した。

 

・許諾をもらう立場は、けっこう弱いことを理解する。

・契約期間が切れる場合の条件について工夫する。

・できるだけ譲渡してもらった方が良い。

 登録すれば、もっと安心。

 

次にあなたが権利を使う立場になって契約を結ぶときは、

思い出してほしい。

 

最後に

今回の連載では、5回にわたって契約書との向き合い方について解説した。

大まかに言えば、以下のような内容だ。

 

・「契約書は自分の魂を表現するアートだ!」と捉えて、

 前向きにこだわる。

・できるだけ具体的に長期的に考えて、条件に落とし込んでいく。

・思いがけないことを想定する。

・冷静になって相手の立場を想像する。

・ライセンスしてもらっただけで安心しない。

 

契約書に関するテクニックは、

法律の改正や新たなビジネススキームの登場に応じて進化する。

今後も必要に応じて情報を発信したい。

 

利用規約

今回の連載では触れなかったが、

「契約書」と似たようなものに「利用規約」がある。

 

もしあなたがユーザーから文章や写真、映像などを投稿してもらう

アプリやウェブサービスを開発したいと考えているのなら、

利用規約」にはしっかりとコミットするべきだろう。

 

利用規約を突き詰めて考えることは、

自分の提供するサービスの本質を理解することにつながる。

人気を集めビジネスを成功させることができる。

 

利用規約」を勉強するには、この本がおススメだ。

『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』。

表面的な法律の解説に終わらせず、しっかりと踏み込んだ内容が書かれている。

そのうえ、読みやすい。

 

 

読んでみてほしい。

 

 

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契約書はアートだ!(4) あなたの作品を使わせてください!と言われた場合

前回は「新規で発注を受けた場合」の契約書について解説した。

今回は「すでにある作品を使わせる場合」について考えてみよう。

 

「あなたのキャラクターをゲームアプリに使わせてください!」とか、

「あなたのブログを出版させてください!」のようなケースだ。

 

あなたの作品を使わせてください!

フリーのクリエイターとして作品を発表しているあなたの元に、

有名企業のアベン社から電話がかかってくる。

 

「あなたの作品を拝見しました。

 本当に素晴らしい作品ですね。感銘を受けました。

 ぜひ我が社の商品に使わせていただきたいと存じます。

 いかがでしょうか?」

 

自分の作品が認めてもらえた!!

クリエイターにとって、すごく嬉しい瞬間だと思う。

(ベテランのクリエイエーターの中には、

 ムッツリした表情で対応する人も多いが、

 心の中では「まんざらでもない」とニンマリしている。

 間違いない)

 

もしこれが初めての経験なら

「自分の才能を発見してもらえた喜び」は、ひとしおだ。

この喜びをじっくりと噛みしめ、味わおう。

 

そして「歓喜の一瞬」の後は、

いったん冷静になることをおススメする。

 

「は、は、はい!ぜひ!よろこんで!」

と喉まで出かかった言葉を飲み込んで、

「・・ありがとうございます。

 ぜひ前向きに検討したいと思います。

 企画書か何かあれば、送っていただけないでしょうか?」

と返事しよう。

 

観察すべきこと

 前回の「新規で発注を受けた場合」に比べると、

「すでにある作品を使わせる場合」のあなたの立場は強い。

なにしろ、すでに作品は出来上がっていて、

相手はその価値を認め、「ほしい」と言っているのだ。

あなたがまだ駆け出しのクリエイターだとしても、

「相手とは対等だ」ぐらいの気持ちで自信をもって交渉してほしい。

 

以下のポイントもしっかりと観察しよう。

・あなたの作品が無いと成立しない企画か?

・相手の社内で、どのていど企画が進んでいるのか?

 

あなたに断られても、他の作品で簡単に替えがきくような企画内容なら、

あなたの交渉上の立場は弱い。

逆に、企画内容の根っこの部分があなたの作品無しには成り立たないのなら、

かなり強めの要求をしても良いかもしれない。

 

また、あなたに連絡してきた人は社内の企画会議で「GO」をもらっていて、

今さら引き返せない状態になっているかもしれない。

その場合は、あなたの言うことをよく聞いてくれるだろう。

 

企画書や相手の話の内容をよく観察しよう。

そして、交渉で勝ち取れるギリギリのラインを見極めよう。

 

もちろん「ギリギリのライン」が分かったからと言って、

その線まで攻め込むべきではない。

良い契約条件を勝ち取れたとしても、

「この人ややこしいな・・」と思われてしまう。

もう二度と取引してもらえないかもしれない。

 

大切なのは、

「自分にとって大切なこと・譲れないこと」を把握し、

「相手にとってのギリギリのライン」の見当をつけ、

その中間にある「お互いにとって心地よいポイント」を見つけることだ。

 

自分を売り込む

お互いが納得し無事に契約が成立したとしても、

 それが「単発」で終わってしまってはもったいない。

 

あなたの作品の良さはすでに認められている。

今度は、あなた自身の良さを理解してもらえるよう努力しよう。

 

担当者を接待しても良い。

「他にも、こんな企画を温めてるんですけど・・」と沢山の案を出そう。

「あ、この人は引出しを一杯もってる。次の可能性もある人だ」

と思ってもらえると、勝ちだ。

もしも1つ目の作品がコケてしまっても、

2回目のチャンスが回ってくるかもしれない。

 

 「接待」の大切さや方法を解説しているのが、

みうらじゅん氏のこの本だ。

『「ない仕事」の作り方』

 

 

ゆるキャラ」「仏像ブーム」などの仕掛人が、

自分の手の内をさらけ出してくれている。

企画・営業・接待を全て自分でやる「一人電通」という手法も紹介されている。

非常に参考になる本だ。

読んでみてほしい。

 

契約の内容

上記のポイントさえ押さえておけば、

契約書の内容に関しては「新規で発注を受けた場合」に追加して

覚えておくべきことは少ない。

 

 一般的な傾向としては「著作権の譲渡」ではなく、

「許諾」になるケースが多いだろう。

(ただし、アメリカの大手は「著作権譲渡」で

 権利を根こそぎ持っていくのがデフォルトだ。

 それが嫌なら、かなりタフな交渉が必要になる)

 

支払いは「払いきり」よりも「印税方式」になるケースが多い。

(「成功報酬」として、一定の販売数を超えたらプラスアルファの印税を

 もらえないか?)

 

契約書はちゃんと作られることが多い。

 

これまでの記事に書いてきたことを意識して契約書に取り組めば良い。

 

注意点

ただし、一つだけ注意しないといけないことがある。

 

あなたの作品が企業の担当者に「発見」されたということは、

あなたはすでに何らかの方法で作品を発表しているということだ。

 

その発表したメディアは何だろう?

メディアの発行者・運営者とあなたの間で、

どんな内容の契約がされているだろうか?

 

契約で

「独占的な許諾である」

「他の人に対してライセンスしてはいけない」

著作権は譲渡する」

などと決まっている場合、うっかり誰かに使わせると

「契約違反」や「著作権侵害」になってしまう可能性がある。

念のため確認しておいた方がいい。

 

ちなみにこの「はてなブログ」の利用規約(2019年5月12日現在)では、

こうなっている。

(関係する部分だけ抜き出し)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第8条

3.ユーザーは、・・(省略)・・自己が作成した記事について、・・(省略)・・著作権を有するものとします。

4.・・(省略)・・当社はユーザーが著作権保有する本サービスへ送信された情報を無償かつ非独占的に・・(省略)・・掲載、配布することができ、ユーザーはこれを許諾するものとします。

5.ユーザーが・・(省略)・・著作権を第三者に譲渡する場合、第三者に本条の内容につき承諾させるものとし、第三者が承諾しない場合には、同著作権を譲渡できないものとします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

はてな利用規約

https://www.hatena.ne.jp/rule/rule

 

この規約はこう言っている。

・ブログの著作権はあなたのものです。

・ただし、当社に必要な範囲での許諾はください。

 独占的な許諾じゃなくていいです。

・もしあなたが誰かに著作権を譲渡するなら、

 その相手からも同じ内容の許諾が当社に与えられるようにしてください。

 

他のブログサービスの規約と比べても厳しいものではないし、

妥当な内容だと思う。

はてなブログ」でブログを書いているあなたの元に

「あなたのブログを出版させてください」と申し込みがあった場合でも、

安心して許諾を出して良い。

(「譲渡」の場合は、上記の通りの条件を付けないといけない)

 

ただし、利用規約は知らないうちに変更されることがある。(第10条)

許諾を出すときには、あらためて確認した方が良いだろう。

 

オリンピックの・・

話はそれるが、

ついにチケットの予約受付が開始された東京オリンピックの「規約」は、

もう確認しただろうか?

なかなか衝撃的な内容になっている。

 

●東京2020チケット購入・利用規約

https://ticket.tokyo2020.org/Home/TicketTerm

 

規約の33条には、こんなことが書いてあるのだ。

 

・あなたが会場で撮影した写真や動画などの著作権

 (27条と28条の権利を含む)は、

 IOC国際オリンピック委員会)のものです。

 (→ つまり「お前のものは俺のもの」)

・あなたは著作者人格権を行使できません。

 (→ つまり「お前の作品を改変するのは俺の勝手だ」)

・個人的な利用で、商売や宣伝目的の利用でないのなら、

 あなたが写真や動画を使うことを許諾します。

 ただし、動画や音声をネットやSNSにアップするのは禁止。

 (動画ではなく写真であっても、

  SNSにアップする行為が「個人的な利用」と言えるか不明。

  禁止されている可能性もある)

  (→ つまり「ごく限られた場合だけは俺のお情けで特別に使わせてやる」)

 

今どきこんなこと、ジャイアンでも言わない。

 

オリンピック会場で友だちと楽しく撮影した動画をSNSにアップすると、

IOCから著作権侵害で訴えられるかもしれないのだ!!

選手が映っているかどうかは関係ない。

「会場に来ました!イェーイ!」のような、

自分たちしか映っていない映像であっても同じだ。

 

平和の祭典・オリンピックは、

恐ろしい「地雷」の埋まった危険地帯になってしまった・・。

 

観戦に行かれる皆さま、覚悟して行ってください。

生還を祈ります。

 

まとめ

今回の内容をまとめると、こうなる。

 

・「あなたの作品を使わせてください」と言われたら、

 まずは素直に喜ぼう。

・契約条件を交渉できる強い立場にいる可能性を自覚しよう。

・相手との長期的な関係も視野にいれよう。

・ほかの契約に縛られていないか?念のためチェックしよう。

 

自分の作品を認めてもらえるというのは、気分の良いものだ。

そんなときでも、契約書に意識を向けて前向きに取り組むことが重要だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次回は目線を変えて、作品を使わせてもらう方の立場から、

契約について考えてみる予定だ。

 

 

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契約書はアートだ!(3) 依頼を受けて作る場合

新時代を迎えました。

 

令和の世では、

これまで以上に素晴らしく多様な文化作品が生まれることを願っています。

 

読者の皆様、今後ともよろしくお願いいたします。

 

場合分け

前回に引き続き、契約書との向き合い方について考えてみよう。

ここからは先は、場合分けをしながら検討したい。

 

クリエイターが企業と契約を交わす場合、大きく分けて2つの場合がある。

「新規で発注を受けた場合」と

「すでにある作品を使わせる場合」だ。

 

今回は「新規で発注を受けた場合」のポイントを解説する。

 

意識するべきなのは「思いがけないことは、起きる」ということだ。

 

新規発注

ある日、あなたの評判を聞きつけた企業(仮にアベン社としておこう)から

作品制作の依頼がくる。

「わが社のイメージキャラクターを作ってほしい」

「商品キャンペーンのテーマソングを作詞・作曲してほしい」

「ホームページのデザインをしてほしい」

 

あなたはしっかりした人なので、事前に条件を確認する。

作るべき作品の内容・分量は?

発注金額は?

納期は?

 

作品の著作権は「許諾」ではなく「譲渡」だという。

まあ、これはアベン社のために作るオーダーメイドの作品なので、

著作権が「譲渡」になることには納得できる。

 

それ以外の条件は良い内容だったの引き受けることにした。

 

それから数日後、作品の制作に取り掛かったあなたに

契約書が送られてくる。

 

あなたはしっかりした人なので、

契約書を読む前に自分の心のうちに聞いてみる。

「今回の作品について、大切なことや譲れないことは何だろう?」

 

自分なりに答えが見つかったところで、契約書を読み込む。

分からない部分は、アベン社の担当者に質問してみたり、

知り合いの弁護士に相談したりして理解を進める。

大事な部分は具体的な書き方に修正したりもする。

 

ようやく内容について合意できたところで、

契約書にサインする。

 

作品も無事完成する。

我ながら良い出来だ。

納期にも間に合った。

ちゃんとお金も支払ってもらえた。

アベン社の評価も高い。

良かった。良かった。

 

ところが、思いがけないことが起きる。

アベン社の商品のターゲットは50代以上のおじさんだ。

それなのに、女子高生があなたの作品にふれて

「おもしろい!」「かわいい!」

と騒ぎ出したのだ。

SNSで一気に拡散し、ちょっとしたブームになってしまう。

 

こうなるとアベン社もチャンスを逃さず素早く動く。

あなたの作品を使った女子高生向けのグッズを発売し大ヒットさせる。

作品を少し変えた別バージョンを次々と発表し、

長期的なシリーズに育てていく。

ハリウッド映画からもお声がかかっているらしい。

あなたの作品はアベン社の利益を生み出すドル箱となった・・。

 

夢のある想定だが、もしこんな大ヒットに恵まれた場合、

あなたが成功者になるかどうかを分けるのは、

あなたがサインした契約書の内容かもしれない。

 

 思いがけないこと

新規で発注をうけて作品をつくる場合、

使われる目的がはっきりしていることが多い。

「〇月〇日に発売する商品のパッケージです」

「〇〇のキャンペーンで2週間流す映像です」など。

当然、その目的に焦点をあてて契約することになる。

別の言い方をすると、

将来的に発生する想定外の可能性に対して意識が向きづらい。

「視野の狭い」契約書になりやすいということだ。

 

しかし「思いがけないこと」は、起きる。

 

上記のように、素晴らしい大ヒットに恵まれるかもしれない。

企業の担当者が異動になって、

話し合っていた計画とは全然違う展開に作品を使われることも有り得る。

軽い気持ちで制作したつもりだったのに、自分でも気づかないうちに

作品への深い愛着が生まれることだってあるだろう。

 

思いがけないことが起きたときは、

必ずといっていいほど揉め事が生まれる。

 

ひこにゃん事件

典型的な事例が「ひこにゃん事件」だ。

 かなり話題になった事件なのでご存じの方も多いと思う。

彦根城の400年祭の実行員会から

マスコットキャラクター制作の依頼(公募)を受けた

デザイナーのもへろん氏が、3パターンのイラストを描いた。

こうして生まれたのが「ひこにゃん」だ。

見た目の「ゆるさ」が人気を呼び、日本全国にファンが生まれた。

ゆるキャラブーム」の火付け役となった。

 

f:id:keiyoshizawa:20190506131138g:plain

(C)彦根市


地方イベントのキャラクターが、こんな人気者になるなんて!

実行員会にとってもデザイナーにとっても「思いがけないこと」となった。

 

ファンや企業から沢山の要望があつまった。

ひこにゃんグッズがほしい!」

ひこにゃんグッズを作りたい!」

 

これに応え、実行員会や彦根市

別バージョンのデザインやぬいぐるみ等の関連グッズの制作を許可した。

手元には上記3パターンのイラストしかなかったので、

後ろから見たひこにゃんの姿を想像し、シッポがあることにした。

グッズは400年祭以外の場でもよく売れた。

地元の近江牛の宣伝のために「お肉が好物」という設定にした。

 

しかし、デザイナーは怒った。

「400年祭以外のためにひこにゃんを使うなんて!」

「俺のひこにゃんに勝手にシッポを付けやがって!」

「俺のひこにゃんに勝手に「お肉が好物」なんて性格付けしやがって!」

 

こうして裁判になってしまったのだ。 

 

この事件、著作権的に見ても色々な論点があるのだが、

一番の問題は「思いがけないこと」を想定できていなかったことだ。

 

契約書は結ばれていた。

著作権は譲渡」とちゃんと書かれていた。

それでも揉めてしまった。

思いがけず、大ヒットしてしまったからだ。

 

大ヒットすると、契約時点では思いもしなかったような作品展開が発生する。

たくさんのグッズが作られ、売れる。

 

デザイナーの心中は複雑だ。

契約書を交わしたときには「著作権譲渡でいいや」と思っていたとしても、

後になって、惜しいことをしたような気持ちになる。

思いがけず、作品への愛着が大きくなる。

裁判に訴えてでも「ひこにゃんは俺のものだ!」と叫びたくなる。

 

 

この事件、紆余曲折があった末に和解が成立し、

ひこにゃんが引退に追い込まれる事態は避けることができた。

しかし、そもそもこんな不毛な裁判をする必要はなかった。

はじめから「もしも、ひこにゃんが大ヒットしたら?」ということを想定して

契約書を結んでいれば良かったのだ。

 

教訓

思いがけないことは、起きる。

妄想をふくらませよう。

できるだけ、色んな可能性を考えよう。

 

もちろん、全てのことをあらかじめ予想することは不可能だ。

しかし、典型的な「思いがけないこと」を想定して契約書に書いておき、

備えることはできる。

(そもそも契約書を作る目的は、色んな事態に備えること。)

 

典型的なものとしては、上記でふれたようなことが挙げられる。

・思いがけないヒット

・思いがけない使われ方

・思いがけない愛着

もしこんなことが起きたら、それでも自分は納得できるのか?

自分の心に聞いてみよう。

 

条件案 

企業から新規で発注を受ける場合、

一般的には「著作権譲渡」になることが多いだろう。

(業界や作品のジャンルによって傾向が違い、

 一概には言えないが、あくまで一般論)

 

著作権を譲渡したとしても、

作品について一切口出しできなくなるわけではない。

色んな条件を付け加えることは出来る。

 

 以下、検討に値する条件の例を挙げておこう。

 

・成功報酬

 もし作品がヒットして商品が5000個を超えて製造された場合、

 「成功報酬」として5001個目の商品から追加で印税が発生する。

 1個あたり〇円の印税をアベン社からあなたに支払う。

 

・優先権

 アベン社があなたの作品の別バージョン・別パターン・続編・関連作品を

 欲しくなった場合、まずはあなたに優先的に発注をしないといけない。

 アベン社の取引先にも同じ条件を適用させないといけない。

 (「優先的に」という言葉は、かなりアバウトな言葉なので、

  本当はもっと細かく条件を設定した方が良いが、

  とりあえず「優先的に」と書いておくだけでも、あなたの扱いは変わる)

 

・クリエイターの宣伝目的利用

 あなたのキャリアを紹介するための作品集(ポートフォリオ。印刷物やウェブ媒体など)に掲載したり、

 あなたのブログで紹介したりするなど、

 あなたが自分を宣伝するためなら、作品を自由に利用することができる。

 

 

上記以外でも、前回の記事に書いたように

「〇〇の権利だけは、あなたが持つ」

「もしリリースされなければ、権利が戻ってくる」

「勝手に改変できるのは、〇〇の場合だけ」

などの条件を求めてみるのも良いだろう。

 

もちろん、これ以外にも色んな可能性が考えられる。

自分にとって一番大切なことを基準にしながら、

あの手この手で工夫してみよう。

 

契約書が無いとき

ここまでは契約書の中身について書いてきたが、

基本的なことにも触れておこう。

 

そもそも契約書が無かったら?

 

「すでにある作品を使わせる場合」なら、

ちゃんと契約書を交わすケースが多いだろう。

でも「新規で発注を受けた場合」であれば、

作品のデータを相手に納入し支払いを受ければ、

それで「おしまい」になりがちだ。

契約書が交わされないことも非常に多い。

 

こんな場合でも、思いがけないことは起きる。

契約書が無いせいで「言った言わない」の話になり、

揉めることになってしまう。

 

本当に裁判に発展したときには、

契約書が無いことはクリエイターにとって有利に働く。

「契約書がないのなら、著作権はクリエイターのものです」と

裁判所は判断しがちだからだ。

 

しかし現実には本当に裁判にまで行くことは少ない。

当事者同士の話し合いで解決されることの方が多い。

話し合いになれば、力関係がものを言う。

立場の弱い方が相手に譲ることになってしまうだろう。

 

もしあなたが弱い立場にいるのなら、揉める前に条件を決めておいた方がいい。

契約書が無いのなら「契約書を作りませんか?」と言おう。

 

契約書を作ることを嫌がられそうな場合にはこう言ってみよう。

「契約書となると大げさなので、覚書にしておきませんか?」

タイトルが「契約書」でも「覚書」でも実質的には何も変わらないのだが、

案外この言い方でコロリとOKになることもある。

 

契約書を作る流れにならなかったとしても、

こちらの希望する条件を記録に残る形で示しておこう。

例えば見積書を提出するときの「備考欄」などに

著作権の扱いについて書いておこう。

相手から発注書をもらったら、

著作権についてどう書かれているかチェックしよう。

こちらの希望と違っていたら、メールなどで要望を伝えよう。

これらの記録が残っているだけで、

「思いがけないこと」が起きたときの交渉がずいぶん楽になるはずだ。

 

まとめ

 今回は「新規で発注を受けた場合」に

クリエイターが契約書を交わす場合のポイントについて解説した。

まとめると以下のようになる。

 

・目的が明確なぶん、視野が狭くなりやすいことを意識する。

・思いがけないことを沢山思い浮かべる。

・思いがけないことが起きたときに、

 どういう条件なら自分が納得できるか?

 を考え、契約条件に反映させる。

・契約書を作れなかったとしても、条件を記録して残しておく。

 

次にあなたの元に制作依頼が来たら、

このことを思い出して契約に取り組んでほしい。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次回は「すでにある作品を使わせる場合」などについて説明したい。

 

 

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契約書はアートだ!(2) 基礎編

アベンジャーズ

アベンジャーズ/エンドゲーム』を観てきた。

いやー、恐れ入りました。

とにかく作りが丁寧。

これだけ大量のキャラクターが入り乱れて戦っているのに、

それぞれの個性を生かした見せ場がしっかりとある。

ヒーローのコラボ作品にありがちな、

各キャラの強さのバランスに矛盾を感じるシーンがない。

そして、一人ずつの人間ドラマを手抜きなくしっかり描く。

制作スタッフが映画に込めた愛と誇りをビンビン感じられる。

 

10年におよぶシリーズの大団円にふさわしい大娯楽作だ。

ぜひ観に行こう!

 

marvel.disney.co.jp

 

 

以前の記事で

アメコミヒーローと日本の漫画ヒーローの差を分析したことがある。

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日本発のヒーローたちが、

アベンジャーズに負けないレベルで大活躍する日は来るのだろうか・・

 

今後も微力ながら応援していきたい。

 

契約書の心構え

前回の記事では、

クリエイターが契約書を交わすときに大切になる心構えについて書いた。

要点をまとめる。

 

・契約書を読む前に、まずは自分の魂と対話する。

・自分にとって何が大切なのか?を突き詰めて考える。

・怖がらず自信をもって交渉する。

・契約をまとめるプロセスはけっこう楽しい。

 

心構えができたところで、次は契約書の具体的な中身の話をしようと思う。

 

契約書について全ての論点を書こうとしたら、

それだけで分厚い本になってしまう。

できるだけ大切なポイントに絞って説明していこう。

専門家が言うことの少ない「コツ」についても織り交ぜらなら書きたい。

 

今回は基礎的な話をいくつかしよう。

キーワードは「具体的に」だ。

 

譲渡か?許諾か?

あなたの作品を他人に使わせる場合、大きく言って2つの選択肢がある。

 

作品の著作権を「譲渡」するのか?

それとも「許諾」するのか?

 

「譲渡」を選んだ場合、

あなたの作品の著作権を相手にあげてしまうことになる。

「許諾」なら、著作権をあなた自身が持ちながら、

相手が使うことを許してあげるという形になる。

 

不動産に例えるなら、あなたが家を持っているとして、

その家を売ってしまうのが譲渡だ。

家は自分で所有しながら人に貸すのが許諾になる。

 

「譲渡か?許諾か?」は、契約書全体の根っこを決める部分なので、

最初に確認すべきだ。

クリエイターのあなたにとっては、著作権を奪われてしまう「譲渡」よりも、

自分で著作権をもてる「許諾」の方が良い条件ということになる。

 

ただし、ものごとはそう単純ではない。

 

契約書に「許諾」と書いてあったとしても、それで安心できるわけではない。

例えば以下のような契約書だったらどうだろう?

(相手企業の名前を「アベン社」としておこう)

 

・あなたは作品の利用をアベン社に許諾する。

・アベン社は作品をこの先ずっと全世界で無制限に利用できる。

・許諾は独占的なものとする。

 (つまり、他の人には一切ライセンスできない)

 

これだと、実質的には「譲渡」したのと同じことだ。

 

逆に契約書に「譲渡」と書いてあったとしても、それが悪いこととは限らない。

こんな契約書ならどうだろう?

 

・あなたは作品の著作権をアベン社に譲渡する。

・ただし譲渡するのは作品の本をつくって販売する権利だけ。

 (それ以外の権利、例えばネットにのせたりアニメ化したりする権利は、

  あなたのもの)

・3年後には、譲渡された著作権をアベン社からあなたに返す。

 

これならほとんど「許諾」と同じだ。

 

「譲渡か?許諾か?」に注目するのは大切だ。

でもそれより重要なのは、

あなたの作品がどう使われるのか?を具体的にイメージすることだ。

できるだけ長期的な目線で考えて、どこまでならOKか?を考えよう。

 

27条と28条

著作権を譲渡することになった場合、

ほとんどの契約書にはこう書かれている。

 

「作品の著作権著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む)を譲渡する」

 

この「著作権法第27条および第28条に規定する権利」って何だ!?

と戸惑う人もいると思う。

 

この権利は、大まかにいうと以下の権利のことだ。

 

・小説やマンガをドラマ化、映画化、アニメ化するための映像化権。

・マンガキャラクターをフィギュア、ゲームなどにする商品化権。

・文章を外国語に翻訳する権利。

・音楽をアレンジする権利。

・その他、作品の形式をいろいろと変える権利。

・できあがった映画、ゲーム、翻訳版などの作品を利用する権利。

 

この契約書にサインすれば、

「作品をそのままで使うのではなく、形式を変えて使う権利もあげます」

という意味になる。

そのことをちゃんと納得した上でサインしよう。

 

ちなみに、もし契約書に「作品の著作権を譲渡する」とだけ書かれていて

「第27条・第28条」のことが書かれていなければ、

これらの権利はあなたの手元に残る。

法律でそう決まっている。

 

だからこそ企業の契約書のフォーマットには

著作権法第27条および第28条に規定する権利を含む」と

決まり事のように書いてあるのだ。

 

もし全ての権利を渡してしまうことに抵抗があるのなら、

相手と交渉してみよう。

できるだけ具体的に。

「映像化とゲームの権利はOKだけど、

 キャラクターグッズにする権利だけは持っておきたい!」

など、自分のこだわりを言葉にすれば、

相手にも伝わる。

案外すんなりと話が進むこともある。

 

権利と義務

権利と義務は違う。

当たり前のことだが、これも極めて重要だ。

わかってない人がかなり多い。

 

あなたの契約相手のアベン社は、著作権の譲渡や許諾によって

あなたの作品を使う「権利」をゲットしたことになる。

でも使う「義務」を負ったわけではない。

 

契約をした後でマーケットの風向きが変わり、

アベン社の気が変わるかもしれない。

「この作品、あの時はヒットすると思って契約したけど、

 最近のトレンドとはズレちゃってるんだよね。

 まあ、権利料は払ったけど大した額じゃなかったし、

 今から大金をかけてプロモーションしても大ハズレするかもしれないし、

 この作品をリリースするのは中止しよう」

 

こうしてあなたの作品は

「塩漬け」「お蔵入り」になる。

契約条件が「独占的で長期間」だったら最悪だ。

丹精込めて作った作品は、誰の目にも触れずに終わることになる。

 

アベン社に文句を言うことはできない。

アベン社が買ったのは「権利」であって「義務」ではないからだ。

権利と義務は違う。

このことを肝に銘じよう。

 

「お蔵入り」を避けたければ、

そうならないで済むような条件を探るべきだ。

例えば「3年以内にリリースされなければ、権利が一部もどってくる」

のような契約にできないだろうか?

相談してみよう。

 

人格権不行使

 多くの契約書には「あなたは著作者人格権を行使しない」と書かれている。

これはどういう意味だろう?

 

著作者人格権」とは大まかに以下の権利のことを言う。

 

・作品の内容やタイトルを勝手に改変させない権利

 (改変とは、小説やマンガのキャラクターを変える。ストーリーを変える。

  デザインの色や形を変える。など)

・クリエイターの名前を表示するかどうか決める権利

 表示するなら、どんな名前で出すか(本名?ペンネーム?)決める権利

・クリエイターの評判を落とすような使い方をさせない権利

 (例えば、いかがわしいお店の広告に使わせないとか)

 

(※上記3つ目の権利は、多くの解説書には書いていないが、

  著作者人格権の内容に入る可能性が高い。

  逆に、作品を公開・公表する権利のことを書いている本は多いが、

  実質的な意味はあまりない)

 

つまり、「著作者人格権を行使しない」という契約書にサインする以上は、

あなたはこう言っていることになる。

「内容を変えられてもいいです」

「私の名前を出さなくてもいいです。他人の名前で出されてもいいです」

「私の評判が落ちるような使い方をしてもいいです」

 

あなたは本当にそれでOKなのだろうか?

 

契約書に「人格権を行使しない」と書かれてあったとしても、

実際に相手の企業がムチャなことをするケースは少ないだろう。

あまりにも酷すぎることをしていたら、

契約書にサインがあっても裁判で勝てる可能性はけっこうある。

 

それでも、契約書は契約書だ。

本当に裁判になれば、厳しい戦いが待っている。

自分がいったんは「OK」とサインしているのに、

「そんなつもりでOKと言ったんじゃないんです!」と

苦しい主張をしないといけなくなる。

 

「人格権を行使しない」の契約書にサインするなら、

覚悟をもった上ですべきだ。

 

「どうしてもイヤだ!」と思ったら、相手と交渉しよう。

ここでも大切になるのは、具体的な話をすることだ。

 

 

「契約書を拝見しました。

 ここに「人格権を行使しない」と書いてありますけど、

 あんまり意味が分からなくて・・・。

 教えていただけないでしょうか?

 具体的にはどういうことなんでしょう?」

 

「いや~~、具体的に何かを想定しているわけじゃないんですけどね。

 フォーマットには全てこう書かれているんです。

 あまり心配しなくて良いですよ」

 

「そうなんですね。

 でも、一応プロとしてサインするんで、内容は分かっておきたいんです」

 

「そうですか。じゃあ、説明しますね。

 著作者人格権というのは・・・・(教科書的な説明)」

 

「ありがとうございます。よく分かりました。

 ということは、内容を変えられたり、私の名前が出されなかったり、

 変な場所で使われたりしてしまうってことでしょうか・・?」

 

「いやいや、実際にはそんなことありませんよ!ご安心ください!」

 

「そうですか・・

 もちろん、〇〇さんのことは信頼しています。

 でも、契約書にサインするとなると、

 慣れていないので心配になってしまって・・

 契約書に書いてあるってことは、

 ごく稀にそういうことも有り得るってことですよね?

 具体的には、どういうケースで内容を変えられたり、

 名前が出されなかったりする可能性があるんでしょう?」

 

「まあ、具体的にはこんな場合です。

 漢字の表記の仕方を時代に合わせて変えるとか、

 ユーザーから間違いを指摘されたときに内容を一部カットするとか。

 広告のスペースが足りないときには、名前を出さないこともあります」

 

「なるほど。それなら納得です。

 じゃあ「人格権を行使しない」という書き方ではなく、

 今言ったような具体的なことを一つずつ書く方式にしませんか?

 その方がお互い誤解がなくて良いと思うんです!」

 

こうやって自分の作品を守ることも、ときには大事になってくる。

覚えておこう。

 

法律用語・業界用語

見慣れない言葉や法律用語・業界用語が出てきたら、

ためらわずに相手に意味を聞くべきだ。

全然恥ずかしいことではない。

そして、その言葉をより具体的な意味の分かる言葉に変えていこう。

契約書を変えるのが無理だと言われてしまった場合でも、

相手の説明のメモを作ってとっておこう。

あとで何かあったときの証拠になるかもしれない。

相手からメールで説明してもらい、それを保存しておくのも良い方法だ。

後になってモメてしまったときに

「あのときこう説明してたじゃないですか!」と主張する材料になる。

 

「0か100か?」ではない。

契約書の条件は「0か?100か?」ではない。

その中間で折り合える地点は必ずある。

 

著作権の譲渡か?許諾か?」

「27条・28条の権利を含む全ての権利か?」

「人格権の行使を認めるか?認めないか?」

こんな大まかで抽象的な論点で

「YESでないならNOだ!」みたいな話をしても不毛だ。

 

相手が欲しいものは何か?

自分が譲れないものは何か?

具体的な話をしよう。

 

著作権の全てではなく、

「日本国内で2年間だけのインターネット独占権」だけが欲しいのかもしれない。

 

パズドラゲームにだけは改変も含めて自由に使えるようにしたい。

 そこだけはクリエイターからも口出しされたくない」

というのが本音かもしれない。

 

クリエイターとしても

「今回の作品については、とにかく早めに支払ってくれれば、

 どんな条件でも飲みます」

ということだってあり得る。

 

具体的に、正直に、話をしよう。

 

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次回は、

「新規で発注を受けたとき」や「すでにある作品を使わせるとき」など、

場合わけをして考えてみたい。

 

 

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