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GLAYは「かっこいいアニキ」なのか問題を解決する(1)

GLAYの印象が変わった

人気ロックバンドのGLAYが、

「自分達の曲を結婚式に使用する場合は、料金をとらない」

と発表した。

 

これを受け、ネット上では

GLAYかっこいい!」

「アーティストの鑑(かがみ)!」

といった賞賛の声が多数あがった。

 

しかし、このニュースを見たときの筆者の第一印象は、

GLAYの皆さん、セコイことやってるな~~」

だった。

 

今回の記事では、なぜ筆者がそう考えたのか説明しよう。

この連載を読めば、「複雑で分かりにくい」と言われている音楽業界の権利関係を、

ざっくり理解することが出来る。

そして、あなたのGLAYに対する印象が、2度、変わることになるだろう。

 

GLAYの発表

そのころ、世間ではJASRAC日本音楽著作権協会ジャスラック)に対する反感が高まっていた。

JASRACが、ヤマハ音楽教室などの音楽教室に対して著作権の使用料を要求しているというニュースが継続的に流れていたからだ。

多くの人がJASRACに対して

「子どもたちが音楽に触れる場所からも、お金をむしり取る欲深い団体」

という、悪いイメージを持っていた。

ネット上ではJASRACのことを

さげすんで呼ぶ「カスラック」という言葉も踊っていた。

 

そんな雰囲気の中、国民的な人気アーティストのGLAY

「料金をとらない」と宣言したのだ。

インパクトは大きかった。

 

大切な部分なので、2017年12月10日の彼らの発表内容を全文引用する。

 

GLAY及び有限会社ラバーソウルは、

 GLAY名義で発表しているGLAY楽曲をブライダルで使用する場合に限り、

 著作隣接権について使用者からの料金を徴収しないことを報告させて頂きます。

 GLAYの楽曲を結婚式で使用したいという多くのお客様からのお問い合わせを受け、

 メンバー自身も

 「結婚式という人生の素晴らしい舞台で自分達の曲を使用してもらえる事は

  大変喜ばしいことであり、それであれば自分達は無償提供したい」

 という思いから、今回、ブライダルで使用する場合に限り、

 著作隣接権についての無償提供をさせて頂く運びとなりました。

 つきましては、使用法により演奏権と複製権の使用料を各管理団体

 (「JASRAC」or「NexTone」)にお支払いいただくこととなります。

 ブライダルでGLAY楽曲を使用する場合は、

 有限会社ラバーソウルへ申請していただく必要はありません。

 使用希望の楽曲につきまして、SONG LISTより著作権管理団体の区分をご確認の上、

 下記をご参照いただき、お手続きくださいますようお願いいたします。

 (注記は筆者の方で省略)」

http://www.glay.co.jp/news/detail.php?id=2633

 

この発表を知った人々は、ネット上に以下のような書き込みをした。

GLAY素晴らしいですね!!」

「良い人たち!」

GLAYは大人の対応!JASRACは何のために存在するの?」

「余計にカスラックのクソさが際立つ」

 

俺たちのアニキたちが、JASRACに反抗して、声をあげてくれた!

さすがはGLAY、かっこいいぜ!

・・・と言いたげな反応だ。

 

しかし、彼らは勘違いしている。

音楽業界の権利関係を理解すれば、何が勘違いなのか分かる。

 

音楽業界の3人の登場人物

 まずは、音楽業界の権利関係を、大まかに説明する。

 

あなたが音楽を好きなら、ストリーミング等で配信されてくる歌や、CDに収録されている歌などを聴いているだろう。

この歌は、3人の(3種類の)人たちが協力して作っている。

 

まず1人目は、歌を書いた人。

つまり、「作詞・作曲家」だ。

安室奈美恵氏に楽曲提供していた小室哲哉氏をイメージすれば良い。

まずは彼が曲を書かないと、何も生れない。

 

2人目は、もちろん、歌手だ。

安室奈美恵氏がこれにあたる。

ここでは、安室氏のバックで演奏するバンドマンも合わせて「歌手」と言っておこう。

歌手の熱唱・熱演があるから、感動が生まれる。

 

もしあなたが幸運にもチケットを手にしてライブ会場にいるのなら、

上記の2人さえいれば、歌を楽しむことができる。

 

しかし、ライブ会場ではなく、自宅で日常的に配信やCDで歌を聴きたいのなら、

もう1人必要だ。

それが3人目の登場人物、「レコーディングする人」だ。

安室奈美恵氏の歌の例でいえば、❝エイベックスの人❞のようなイメージで良い。

レコーディングスタジオや技術スタッフを手配し、費用を支払う人がいないと、

世界中の沢山の人に歌を届けることは難しくなる。

 

これで、3人の登場人物が出そろった。

1.作詞・作曲家

2.歌手

3.レコーディングする人

 

権利の世界で、彼ら3人が平等に扱われているだろうか?

「そりゃ~、アーティストなんだし、Love & Peaceなんだから、

 みんな平等に決まってるじゃん!」

と思うかもしれないが、そうではない。

 

 そこには、明確な「差別」というか、「区別」が存在する。

「作詞・作曲家」だけが偉くて、

「歌手」と「レコーディングする人」は、一段低く扱われている。

 

古代社会で、元からいた市民は「一級市民」とされ、

後から参加した市民は「二級市民」として扱われたのに似ている。

著作権の歴史では、最初に作詞・作曲家の権利が認められた。

その後で、歌手、レコーディングする人の権利が認められたので、

与えられる権利に差が付けられたのだ。

(作詞・作曲家だけが「無」から「有」を生み出しているので偉いのだ!

 と説明する人もいる)

 

権利の差

では具体的に、どのような「区別」があるのか?

 

例えば、「プレイ(演奏)禁止権」という権利がある。

人がその音楽をプレイ(演奏)するのを禁止できるという強力な権利だ。

 

作詞・作曲家は、この権利を持ってる。

彼らの許可なく、コンサートで彼らの歌を演奏したり歌ったりすることはできない。

彼らの許可なく、お店でCDをプレイして歌を流すこともできない。

 

一方で、歌手、レコーディングする人は、

この「プレイ(演奏)禁止権」が与えられていない。

だから、彼らの許可がなくても、

彼らが熱唱し、彼らがレコーディングした歌のCDを、

お店で流すことができる。

 

これが、作詞・作曲家と、歌手、レコーディングする人の「区別」の一例だ。

 

ちなみに、「コピー禁止権」という権利もあり、

この権利は、3者全てに与えられている。

CDに収録されている歌をコピーするときは、

3人の全てに許可を得ないといけないのが原則だ。

 

巨大集金組織

法律上の扱いの他にも、大きな差がある。

 

作詞・作曲家には、彼らのために日々働いてくれる巨大組織がある。

それが、JASRACだ。

全国津々浦々にある小さな商業施設の1件1件と契約し、

使用料を徴収するという地道で手間のかかる作業を、

作詞・作曲家に代わって行っている。

 

歌手やレコーディングする人には、そういう団体は無い。

(業界団体はあるが、JASRACとは規模が違う)

上記の例でいうと、

JASRAC小室哲哉氏のために全国から集金することはあっても、

安室奈美恵氏やエイベックスのために働くことは一切ないということだ。

 

歌手やレコーディングする人が全国の小規模な業者から使用料を集めようと思うなら、

細かい事務作業を全て自分でこなさないといけない。

日本レコード協会という団体が、一部そのような業務を引き受けているが、

 JASRACのように積極的な集金作業をやっているわけではない)

 

音楽の権利関係のまとめ

まとめると、こういうことだ。

 

音楽の世界には3人の権利者がいる。

1.作詞・作曲家

2.歌手

3.レコーディングする人

 

作詞・作曲家は優遇されていて、

歌手やレコーディングする人が持っていない権利をもっている。

例えば、「プレイ(演奏)禁止権」。

 

作詞・作曲家には、彼らのために働く巨大集金組織(JASRAC)があるが、

歌手やレコーディングする人には無い。

 

ちなみに、作詞・作曲家の権利を「音楽著作権」と言い、

歌手とレコーディングする人の権利を

著作隣接権(ちょさくりんせつけん)」と言ったり、

「原盤権(げんばんけん)」と言ったりする。

覚えておこう。

 

GLAYは、上記3種類の登場人物のうち、誰にあたるか?

作詞・作曲はGLAYのメンバーが自分でやっているので、「作詞・作曲家」だ。

もちろん、自分で歌い演奏しているので、「歌手」でもある。

そして、「レコーディングする人」の権利を

メンバーの個人会社で買い取っているので、「レコーディングする人」でもあるのだ。

音楽の世界の3種類の登場人物の全てを兼ねていることになる。

 

彼らの発表の意味

ここでやっと、冒頭の話に戻る。

 

GLAYはこう発表した。

「結婚式で私たちの曲を使いたいという声が多い」

「結婚式という素晴らしい場で使ってもらえるのは、私たちも嬉しい」

著作隣接権を無償でOKにします」

「音楽著作権の方はJASRACに使用料を払ってね」

 

つまり、

「歌手」と「レコーディングする人」の権利はタダにします!

「作詞・作曲家」の権利は、これまで通り!

ということだ。

 

GLAYJASRACを否定していない。

「作詞・作曲家」の権利は、これまで通りJASRACを通じて集金しているので、

むしろ、JASRACを活用していると言える。

 

そして、ここまで読み進んできたあなたは、重要なことに気付いているかもしれない。

 

結婚式の会場で、GLAYのCDを流すときに働く権利は、「プレイ(演奏)禁止権」だ。

この権利を持っているのは誰だったか?

そう。「作詞・作曲家」だけだ。

「歌手」と「レコーディングする人」は、この権利を持っていない。

 

GLAYは「著作隣接権を無償でOKにします」と言っている。

つまりGLAYは、

そもそも存在しない権利を「無料でOKですよ!」と言っていることになる。

 

先にも書いたとおり、「歌手」と「レコーディングする人」も、

「コピー禁止権」は持っている。

だから、会場で流すBGM集を自分で事前にコピーして作るときや、

新郎新婦を紹介する映像のBGMとして事前に映像にコピーするときは、

この権利が働くことになる。

 

しかしそれは理屈上の話だ。

「歌手」と「レコーディングする人」は、

JASRACのような巨大集金組織を持っていない。

GLAYの事務所の人は、

全国の結婚式会場の1件1件をまわり、契約し、集金するような手間のかかることは、

そもそもやっていなかったはずだ。

 

GLAYの発表を知ったときの筆者の第一印象が、

GLAYの皆さん、セコイことやってるな~~」

だったというのは、こういうことだ。

そもそも存在しない商品を「タダにします!」とアピールしておいて、

存在する商品(音楽著作権)の方で、しっかり稼ぐという姿勢が見えたのだ。

 

もしも「スマイル0円」で有名なマクドナルドが、こう発表したら、

あなたはどう思うだろう。

 

「お客様から大人気なので、

 当社の商品、「スマイル」を無料にすることを決定しました!

 ただし、ビッグマックやマックシェイクなどの商品には、

 これまで通りお金をお支払いください」

 

「いやいや!

 スマイルって、もともとダタですやん!」

と即座にツッコミを入れるのではないだろうか?

 

GLAYの場合、「著作隣接権」のような難しい用語を使っているので、

ほとんどの人にとって、この❝ツッコミどころ❞が分からない。

その分、タチが悪い。

 

ファンたちは、GLAYのアニキの❝太っ腹❞に感激し、

結婚式でGLAYの曲を使いまくる。

GLAYJASRACを通じて集金し、しっかり儲けることになる。

上手い❝プロモーション❞を考えたものだ。

 

ファンの反論

GLAYのファンはこう言うかもしれない。

「メンバーはアーティストなんだから、

 そんな著作権の難しいことを分かっていなかったはずだ!」

「マネージャーか誰かの悪だくみに騙されているだけだ!」

 

しかし、私はそうは思わない。

先にも書いた通り、彼らは「レコーディングする人」の権利を、

自らの会社で買い取っている。

これは、音楽業界でそれほど一般的なことではない。

どんな事情があったのかは知らないが、彼ら自身の意思で、

「自分の音楽の権利は、自分で管理したい!」という決断をしている。

権利の買い取りのために、相当な苦労もしただろう。

音楽の権利関係についても、かなり勉強したはずだ。

 

仮に、「プレイ(演奏)禁止権」を

歌手とレコーディングする人が持っていないことに気付いていなかったとしても、

マネージメント・サイドから、

著作隣接権を無料にしましょう」と提案されたときに、

「今までは、それでいくら儲かってたの?」

と質問することは出来たはずだ。

「実は・・・今まではゼロ円なんです」

と答えを聞かされたとしたら、

GLAYのメンバーは、どう考え、何を判断したのか・・?

 

というわけで、筆者のGLAYに対する印象は、かなり悪くなってしまった。

「カラオケで「HOWEVER」と「口唇」を

 喉が枯れるまで熱唱した若かりし日々を返してくれ!」

という気分だった。

 

しかし、である。

もう少しだけ、「現場で何が起こっていたのか?」を丁寧に推理してみたところ、

GLAYの印象が、もう一度変わることになった。

それも、一味違う方向に印象がガラリと覆ったのだ。

 

次回はこれについて説明しよう。

 

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