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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(2)

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を見てきた。

 

❝俺たちの❞ゴジラが世界を舞台に大暴れする姿には、胸が震えてしまう。

宿敵のキングギドラと激突するシーンでは、ぞわぞわと鳥肌が立つ。

 

怪獣が魅力的すぎるせいで、

人間のシーンが「余分なもの」に見えてしまう残念な点も、

日本製のゴジラ映画を受け継いでいるが・・

 

童心に帰ってワクワクできる快作だった。

 

godzilla-movie.jp

 

 

 

左派思想と右派思想

先週は、著作権の世界における左派思想と右派思想を解説した。

 

左派思想とは以下のような考え方のことだ。

・文化的な作品は、みんなで共有した方がいい。

・誰もが自由に作品を楽しむことができる社会が良い。

・作品の自由な流通を邪魔する著作権を弱くしよう!

 

一方で右派思想は以下の考えを持つ。

・作品は、それを生み出した作者のものだ。

・作者のものを他人が勝手に使うことは許されない。

・作品を守るために著作権を強くしよう!

 

話を分かりやすく整理するために、

やや大雑把に左派と右派をまとめてしまっている点はご容赦いただきたい。

 

左派と右派。

どちらの主張もそれなりに正しい。

しかし、法改正の流れを見る限りでは、右派が左派を圧倒してきた。

これが著作権の思想闘争の歴史だ。

 

右派の戦士として、その長い闘争を戦い抜いてきたのが、

みんなが大好きなディズニーだ。

 

創業からミッキーマウス誕生へ

 ディズニー社は、ウォルト・ディズニー氏を中心に創業された

アニメ制作会社だ。

創業の数年後にはオズワルドという可愛いウサギのキャラクターを生み出し、

アニメ映画をヒットさせた。

オズワルドは人気キャラクターとなった。

ウォルト氏自身にとっても、愛着のある大切なキャラだった。

 

しかし、オズワルドの著作権は契約上はユニバーサル社のものとなった。

ディズニーはオズワルドの映画を制作できなくなってしまった。

 

オズワルドは自分が生み出したものだったのに!!

我が子のように大切なキャラクターを著作権の力で奪われた!!

 

これは、ディズニーにとってはトラウマとなった。

 

悲しみを抱えながらも、ディズニーはもう一度キャラクターを開発した。

もう二度と会えないオズワルドを思い浮かべながら・・

こうして産み落とされたのが、ミッキーマウスだ。

ミッキーは「お兄さん」と離れ離れに生きていくしかない宿命を背負っていた。

 

もう二度と失敗は繰り返さない!

ミッキーを誰かに奪われるなんて、まっぴらごめんだ!

ディズニーはミッキーを著作権でガチガチに保護することに決めた。

 

その生い立ちに悲しみを秘めたミッキーは、

一気にスターダムにのし上がることになる・・。

 

半ば伝説のようになっているミッキーの誕生秘話だが、

ディズニー社が著作権の保護に熱心な理由をうまく説明していて、面白い。

 

(実際のところは、そんなセンチメンタルな理由ではなく、

 その方が儲かるから。という単純な動機かもしれない)

 

ミッキーマウス延命法

ディズニーに限らずアメリカの映画産業は、

昔から著作権の保護と強化のための活動(つまり右派闘争)には

非常に力を入れている。

著作権こそが飯のタネ」なんだから、当然だろう。

 

アメリカの国内・国外で強力なロビイング活動をおこなっている。

そのかいあって、映画の著作物だけを特別扱いする法律や条約がたくさんある。

(・監督、プロデューサー、カメラマン等、多くの人が参加して映画を作るが、

  出来上がった映画の権利は映画会社のもの。

 ・上映用の映画フィルムの流通を権利者がコントロールできる)

 

中でも悪名高いのが通称「ミッキーマウス延命法」だ。

アメリカではミッキーマウス著作権が切れそうになるたびに

著作物の保護期間を延長するための法改正が繰り返されている。

そのためにディズニー社が批判を浴びているのだ。

「ディズニーがミッキーの延命措置をはかるため、

 つまり自社の利益のために、著作権の秩序を乱している。

 そろそろミッキーを❝みんなのもの❞にする時期では?」

という批判だ。

 

アメリカの映画業界全体でロビイング活動をした結果なので、

ディズニーだけのせいとは言えないが、

「オズワルドのトラウマ」という伝説を背負ったミッキーが

象徴的に使われ、利用されている。という面もあるのだろう。

ディズニー以外のメジャーな映画会社は、

ミッキーのおかげで批判の矢面に立たされずに済んでいる。

 

ディズニーのイメージ戦略

ディズニーが著作権を重視していたことは間違いのない事実だが、

世間一般で受け止められているイメージは、それ以上だ。

「ディズニーは著作権にめちゃくちゃ厳しい!」と言われている。

 

私には、実態以上にイメージが先行していたように感じられる。

右派勢力に祭り上げられているうちに

イメージだけが世の中に浸透していったという面もあるのではないだろうか。

 

気が付けばディズニーは「右派思想の最強戦士」ということになっていた。

 

最強の戦士には、嘘か本当かわからない「武勇伝」や「伝説」が付きものだ。

ディズニーにもそんな都市伝説がある。

一番有名なのは

「小学生が卒業記念としてプールにミッキーの絵を描いたら、

 ディズニーから電話がかかってきて「著作権の侵害だから消せ!」と言われた」

というものだろう。

(ネット上の記事を見る限りでは、

 この伝説の元となった事件は実際にあったらしい)

 

最強戦士のまわりには「取り巻き」も多いようだ。

ネット上でミッキーの絵を使うと「それは著作権の侵害ですよ!」と

誰に頼まれたわけでもないのに警告してくる

「ディズニー自警団」という人たちだっているらしい。

「あなたはディズニーの代理人ですか?」と言いたくなる。

 

 

数々の伝説や取り巻きをもつディズニー。

でも、子供たちに愛される無邪気なキャラクターを持つ企業にとって、

著作権に厳しい」というイメージは、マイナスなんじゃないだろうか?

 

しかし当のディズニーは、

そのイメージを否定しようという素振りは見せていない。

「ファンが一定の範囲で使ってくれるのなら、大歓迎ですよ!」

のような優しいメッセージを広報しても良さそうなものなのに、

私の知る限り、そんなことは一切していない。

同じく著作権戦略を重視している任天堂は、ファンにガイドラインを提示し

「ルールを守ってくれるなら、自由にネットに動画を上げてもいいですよ」

と発信して、イメージアップに成功したとういうのに。

 

●ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

https://www.nintendo.co.jp/networkservice_guideline/ja/index.html

 

「厳しい!」と言われているディズニーは、

むしろ「周りが勝手に騒いでいるのなら、それはそれで結構」

と開き直っているように見える。

 

なぜだろう?

 

これは、「戦士」らしく考えれば分かる気がする。

 

「クマを倒したことがある」と言われている伝説の武闘家が、

弟子から「クマを倒したって本当ですか?」と聞かれ、

否定も肯定もせず、黙って笑みを浮かべているとどうなるか。

弟子たちは「師匠はやっぱり凄い!」と勝手に大騒ぎする。

彼に挑戦しようとするライバルは恐れをなし、

入門希望者は増える。

 

著作権に厳しい」というイメージが独り歩きすれば、

多くの人がディズニーの作品を勝手に使うのに尻込みするようになる。

結果として著作権侵害の被害が減る。

ディズニーにとっては、余計な訴訟費用をかけずに済むことになる。

また、質の悪いニセモノ商品が出回ることでイメージが悪くなる事態を

避けることができる。

 

ディズニーから正式なライセンスを得てキャンペーンをしたいと考える企業も

「あの厳しいディズニーだから」ということで、

キャラクターに❝特別感❞を感じる。

最初から高額なライセンス料を覚悟した上で交渉をスタートするだろう。

ディズニーは他の企業より高値でライセンスを売ることができる。

 

一見マイナスなイメージに思えることでも、

企業体として考えると、悪いことばかりではないのだ。

 

こうしてディズニーは、周りから勝手に与えられたイメージを逆手にとり

巧みに経営に生かしているのではないだろうか。

 

真の最強戦士へ

イメージ先行型だった右派戦士のディズニー。

しかし21世紀に入ってからは、

本当の意味で著作権の覇道を突き進んでいる。

 

内部で何があったのか知らないが、明確な戦略が確立されたようだ。

強力なコンテンツの権利を持つ企業を次々と買収していっている。

 

トイ・ストーリー』や『ファインディング・ニモ』のピクサー

スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』のルーカスフィルム

『アイアンマン』や『アアベンジャーズ』のマーベル・スタジオ。

書いているだけで目まいがしそうなほど豪華なコンテンツのそろい踏みだ。

最近では、

アバター』『X-MEN』などの20世紀FOXまで手中に収めてしまった。

 

著作権こそ重要だ」という右派思想に目覚め、

著作権の獲得に狙いを定め、わき目もふらずに突き進んでいる。

 

2006年には、

離れ離れになっていたオズワルドの権利まで買い戻している。

ものすごい執念だ。

 

ディズニー本体だって

ミッキーやプーさん、『アナと雪の女王』をはじめとする

キャラクターの人気は健在だ。

 

世界中の稼ぐコンテンツの著作権は、

全てディズニーに吸い上げられようとしている。

著作権の歴史上、いや、人類の歴史上、

これだけのコンテンツ一極集中が起きるのは初めてのことだ。

(ここまで行ってしまうと、

 アメリカの独占禁止法(反トラスト法)にひっかるのでは?

 という懸念もあったが、うまく回避したようだ)

 

私には、全方面のファンに訴えるコンテンツを多数もっているディズニー社が、

複数の頭と尻尾をもつ最強の怪獣・キングギドラに見え始めている。

著作権の獲得を追求し続けたディズニーは、

とんでもないコンテンツ・モンスターになってしまった!

 

●ディズニーが世界のエンターテイメント市場を寡占化しはじめた

https://news.yahoo.co.jp/byline/sakaiosamu/20190516-00126166/

 

 

最初のうちは、

単なるイメージ戦略という面もあった「著作権重視」という姿勢。

しかし長年「著作権は大事」という右派思想の渦中にいるうちに、

心から右派思想を信奉するようになったようだ。

地に足のついた著作権買収の戦略をブレることなく着実に推し進め、

コンテンツ業界の覇権を握るに至っている。

 

こんなディズニーが、左派と右派の闘争の中でどんな主張をしていくのか?

決まっている。

著作権をもっと強く!」ということだ。

絶対に間違いない。

資本の論理から考えても、それ以外にあり得ない。

著作権に厳しすぎる」というマイナスイメージや批判にも、

ひるむ必要がないことも学んでいる。

 

 名実ともに右派思想・最強戦士として成長したディズニーは、

いずれは左派思想の大物と衝突することになるだろう。

キングギドラゴジラの激突が避けられないように・・!!

 

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次回はグーグルと著作権の関わりについて見ていこう。

グーグルは「生まれながらの左派思想」であり、

「左派思想の権化」とも言える存在だ。

 

クールなIT巨大企業が、

著作権史上最大のクーデター事件を起こす様子を解説したい。

 


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