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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(3)

前回はディズニーについて著作権の観点から解説した。

 

今回はグーグルについて書こう。

 

世界を作り変えそうな勢いの巨大で多面的なIT企業。

 今世紀を代表する天才的頭脳をもつ2人の創業者。

その全てを理解できると思えるほど、私もうぬぼれてはない。

 

しかし「著作権・左派思想と右派思想」という一つの視点を持てば、

彼らのこれまでの歩みを理解し、

今考えていることを想像することは出来る。

 

天真爛漫

先週も書いたが、ディズニー社の方は少し複雑な生い立ちを抱えている。

その創業期のころに大切なキャラクターのオズワルドを奪われ、

著作権に関する強烈なトラウマを心に刻んだ。

だから、著作権にも心を配りキャラクターを大事に育てるようになった。

真面目にがんばっているだけだったのに、

「あいつはやたらと著作権にうるさい奴だ」

と後ろ指をさされるようになった。

いつのまにか、周囲から浮いた存在になってしまった。

それでもディズニーはその風評を打ち消すことはしなかった。

 

(先日、任天堂ポケモン)が子供たちにキャラクターを無償で提供し、

 著作権の面でも優しい企業だと思われたのとはエライ違いだ)

ポケモンイラストラボ 教育・保育目的の素材提供サービス

https://www.pokemon.jp/special/illust-lab/

 

ディズニーは意固地になったのか、

「周りがそういう目で見るんなら、

 本当に著作権の世界でのし上がってやる!」

と徹底的にコンテンツの著作権を買収していくことにした。

多くの作品をのみこんでいき、

誰もが恐れる巨大なコンテンツ・モンスターに成長した。

 

ディズニーは、こんな複雑な成長過程を背負っている。

「過去に色々あったムズカシイ奴」なのだ。

 

 

一方のグーグルは、全くの正反対だ。

ラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏という

2人の明るい天才青年によって立ち上げられたIT企業は、

最初は資金面で苦労したものの、

その超高速の検索技術の実力が認められるや、一気に大成功をつかんだ。

世界中から賞賛を浴びた。

莫大な富も手に入れた。

トラウマなんかに出会う時間もなかった。

 

努力し、報われ、褒められる。こんな風に成長してきた。

「まっすぐに育った天真爛漫な奴」なのだ。

 

彼らはひたすら前向きだ。

人間の知性と善意をためらうことなく信じている。

「どんな問題でも、知恵とテクノロジーを使って乗り越えられる」

という強い信念がある。

 

それが良くわかるのが、彼らの株式公開だ。

証券業界の理不尽な因習を打ち破り、

オンラインのオークション方式、異様に安い手数料、

『プレイボーイ』誌での情報公開など、型破りな方法を使った。

ウォール街で長年旨い汁を吸ってきた人々は度肝を抜かれた。

革命児の2人は最後まで主導権を握り続け、

市場の参加者全員にとって公平な上場を実現してしまった。

古くて無意味な制度は、知恵とテクノロジーを使って乗り越えられるのだ。

 

 

 

左派思想

グーグルが著作権・左派思想であることは、即座にわかる。

彼らが掲げる変わることのない経営理念はこうだ。

 

「世界中の情報を整理し、

 世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」

 

以前に解説したとおり、

「著作物」とは突き詰めると「データ(情報)」だ。

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グーグルの理念は以下の内容を含むということになる。

 

「世界中の著作物をインターネットにアップして検索しやすいようにし、

 世界中の人々が楽しめるようにし、利用できるようにすること」

 

これは、左派思想以外の何物でもない。

 

検索技術で頭角をあらわしたグーグルは、

生まれながらの左派思想だったのだ。

 

誰がみても分かるように、

グーグルの経営理念は、著作権の制度との相性が非常にわるい。

著作権は、情報(著作物)をネットにあげたり

利用したりすることを禁止する権利なのだ。

グーグルにとっては著作権は、自分の信念と真っ向から対立する邪魔者だ。

彼らの目には、ウォール街の因習と同じように、

著作権とは、なんと古臭くて無意味な制度なんだろう!」

と見えたことだろう。

 

気にしなかった理由

しかし、彼らはあまり気にしなかった。

当初から、権利のことは心配せずにネット上の情報をダウンロードし、

検索しやすいにように分析していった。

 

ダウンロードすることが著作権に触れるかも?

著作物を違法にアップする悪人を手助けすることになってしまうかも?

そんな心配もしなかった。

著作権のことは大した問題にはならない」と思った。

 

なぜそう思ったのだろう?

 

彼らが生来の前向きな性格だったから?

もちろん、それもあるだろう。

彼らは何でも乗り越えられると信じている。

 

アメリカは著作権が厳しくないから?

これもある面では正解だ。

アメリカには「フェアユース」という日本にはない考え方がある。

形式的には著作権侵害をしていても、

実質的な部分をみて「セーフ」になる場合がある。

彼らがそれを知っていたのかもしれない。

 

しかし、それだけが理由では無いと私は思う。

 

なぜ、グーグルが著作権のことをあまり気にしなかったのか?

一番の理由は、創業者の2人が純粋な「科学者」だったということだ。

 

順を追って説明しよう。

 

 著作物のカラフルさ

著作権は「著作物」に発生する権利だ。

では「著作物」とは何か?

 

これについては、以前も説明した通りちゃんとした定義がある。

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【「著作物」の定義】

思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

どんな作品でもこの定義に当てはまれば、基本的に同じ扱いになる。

作った人に権利が発生し、

勝手にコピーしたりネットにアップしたりできない。

作者の死後も70年間は、権利が消滅することはない。

多少の例外はあるが、「著作物」は法的に同じ扱いになる。

これが原則だ。

 

しかし実際には、「著作物」の内容は様々だ。

小説、詩、論文、音楽、絵画、写真、映画、ゲーム・・・・

色んなものを含んでいる。

 

その使われ方もそれぞれ違う。

小説は静かな場所で一人でじっくり読むものだが、

映画は大きな劇場でみんなで大音量で観るものだ。

音楽は仲間と一緒に歌って盛り上がるためのツールにもなるし、

ドライブするときや家事をするときのBGMにもなる。

 

生み出される過程もバラバラだ。

絵は一人の画家が何時間もかけて描くものだが、

写真は女子中学生が放課後に何百枚も簡単に撮影している。

ゲームは数百人がひたすらコードを書いてやっと出来上がる。

 

法律上は「著作物」という単一色で塗りつぶされてしまったものでも、

現実世界の「著作物」はバラエティに富んだカラフルなものなのだ。

 

小説と学術論文

「小説」と「学術論文」。

これらは、どちらも文章で表現されたものだ。

「言語の著作物」ということになり、

著作権的には100%同じルールが適用される。

 

しかし、小説と学術論文は、性質が全く違う。

 

小説は、ファンが楽しむために読むものだ。

作家は読者を感動させるために

技巧を駆使して面白いストーリーを練り上げる。

それを出版し、海賊版が出回らないように著作権で流通をコントロールし、

収益を確保する。

 

一方の学術論文は、研究成果をみんなで共有するためのものだ。

研究者は誰が読んでも理解されるように平易な文章で書く。

「ここで読者の涙を誘おう」なんて誰も考えない。

論文を発表し、多くの人に評価され、他の論文にも引用されることで、

学者としての名声を得る。

「この論文でしっかり稼いで、夢の印税生活だ!」とは誰も思わない。

 

つまり、

小説は「勝手に読むな!読みたいなら金を払え!」という性質のもので、

著作権制度にマッチするが、

学術論文は「みんな読んでください!どんどん使ってください!」というもので、

制度とは合っていないのだ。

 

(小説だって「タダでいいから読んでほしい」と思って書く人は多いと思う。

 しかし著作権は『レ・ミゼラブル』の作家ヴィクトル・ユーゴーのような

 稼いでいるプロの小説家たちが協力して完成させた制度だ。

 「お金をもらうことが前提の制度」になるのは仕方ない)

 

小説と学術論文。

著作権法は2つを全く同じものとして扱っているが、

実際には全く違うものなのだ。

 

2人の頭の中

ここで改めて、グーグルの創業者の話に戻ろう。

 

ラリー・ペイジ氏の父親はコンピューター・サイエンスの教授で、

母親はプログラミングの先生だった。

サーゲイ・ブリン氏の父親は数学の教授で、母親も優秀な科学者だった。

ラリー、サーゲイの2人は大学の計算機科学の博士課程で出会った。

数学とコンピューターの話題を通じて、親友となった。

彼らの周囲には、いつも最新の科学について書かれた論文があり、

それを語り合える人々もいた。

 

つまり、2人は根っからの「理系の学者タイプ」として育ったのだ。

 

(「理系と文系を分ける考え方は時代遅れだ」という人も多いが、

 物事をシンプルに理解して真実を見つけられる有効な視点なら、

 躊躇せず使うべきだ。

 それに、彼らが若者だった時代は、

 まだまだ理系と文系が分かれていた時代だ)

 

彼らは理系のスタイルで世界を理解していた。

 

理系の科学者は、先人たちの学術論文をたくさん読む。

科学の世界では、過去の研究の積み重ねの上にたって研究しないと、

何も成し遂げることはできない。

そして自分の論文を書く時は、参考にした論文を引用する。

重要な論文であればあるほど、多くの論文で引用されることになる。

 

これと同じ発想で、

彼らはウェブサイトを評価するアルゴリズムを組みたてた。

重要な論文ほど多くの論文で引用されるように、

重要なサイトほど、沢山のリンクを張られているはずだ!

このアイディアをもとに、世界最高のサーチエンジンを発明した。

 

理系の科学者がまず想定する「文章」とは何だろう?

恋愛小説や冒険小説ではない。

彼らがいつも読んでいる学術論文に違いない。

 

論文には素晴らしい情報がつまっている。

みんながいつでも自由に読める方が良いに決まっている。

そこから新たな研究が生まれ、科学は進歩する。

もちろん論文に著作権があるのは知っている。

でも論文が使われることは、書いた人の名誉になるんだ。

誰の論文かちゃんと分かるようになっていれば、

書いた人も悪い気はしないだろう。

そんなに気にすることじゃない。

これが科学の世界の常識だ!

 

こんな理系の科学者の発想で、

グーグルは貪欲にネット上の著作物のデータを取り込み、

世界中の人がアクセスしやすいようにしていったのだ。

 

どんな天才であっても、日常的に親しんでいる著作物が

その発想の原点となる。

ボブ・ディランビートルズの大ファンだったスティーブ・ジョブズ氏は、

音楽に目を付けた。

iTunesiPodを作って音楽業界に革命を起こした。

読書家として知られるジェフ・ベゾス氏は、本に目を付けた。

アマゾンを立ち上げ書籍を販売することからスタートし、

ネット通販の大帝国を築いた。

そして学術論文に囲まれて育ったラリー、サーゲイの両氏は、

学術論文から発想をスタートさせた。

「文章はみんなに読まれたいに違いない」という前提のもとで、

ネット上の全て情報を整理し提供する検索エンジンを作った。

 

もし彼らに「文系の視点」があったらどうだったろう?

「ネット上に上がっちゃってる小説を誰でも見つけて読めるようにしたら、

 さすがに作者が怒るだろうな・・」

「文系の学問の場合、

 論文といっても読み物として面白く書かれている本もある。

 タダで読ませるサイトはマズイかも・・」

こんな思いが先に立ち、開発にブレーキがかかったかもしれない。

グーグルは誕生せず、

我々はいまだにイケてない検索システムを使っているかもしれない。

 

グーグルの存在しない世界を想像してみよう。 

好きなタレントの出演予定、旅行先で空いているホテル、

子供の体調が悪い時に頼れる病院・・・

今すぐ知りたいのに、検索しても結果表示が遅い!

やっと表示されたとしても、ロクでもない情報にしかたどり着けない!

イライラしながらネット上を延々とさまよっているかもしれない・・!

 

幸福な(?)ズレ

「娯楽作品を提供してお金を稼ぐ」著作権制度の観点からいうと、

学術論文は、あまり重点分野ではない。

理系の科学者にとって大事なポイントと、著作権の重点はズレている。

そのズレた理系の視点だったからこそ、

学術分野の常識をネット上の世界全体の常識だと思い込み、

気にせずに突き進むことができた。

おかげで、グーグルが誕生した。

世界中の誰もが欲しい情報をすぐに手に入れられるようになった。

グーグルの天才2人が理系タイプだったことは、

多くのネットユーザーにとって「幸福なズレ」だったと言えるだろう。

 

逆にネット上の著作権侵害に悩む人にとっては、「不幸なズレ」となった。

違法にアップされている作品に、ネット上で即座にたどり着けるからこそ、

被害は拡大するからだ。

 

ネットの世界を劇的に便利にするのと同時に、

著作権の被害も巻き起こしながら、

グーグルは急速に成長していったのだ。

 

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グーグルを著作権目線で紹介するだけで、

けっこう長い文章になってしまった。

 

今週はここまでにして、

次回こそグーグルが著作権の世界に挑戦状を叩きつけた大事件について

見ていこう。

 

 

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