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迫る東京オリンピック!今こそ、あの「パクリ疑惑」のモヤモヤを解消する(7)

最初からこうしていれば・・・

前回までの記事で、

東京オリンピックエンブレムのパクリ疑惑、ネットを中心に広がった狂騒、

大会組織委員会(以下、組織委)のミスと敗北の顛末を見てきた。

 

今回は、

「組織委は最初からこうしていれば良かったのに・・」という方法を紹介する。

 

「問題が起きた後なら、結果が分かっているから何とでも言える」

「部外者なら、無責任にどんなことでも言える」

といった批判はあるだろう。

 

しかし、今後同じような事件が起きたときのために、

「もしもあの時こうしていれば」をシミュレーションすることは有効だろう。

同じ悲劇を二度と繰り返してはいけない。

 

ストレートな方法

以前の記事でしつこく説明したが、佐野氏が作ったエンブレムに、

法的な問題は何もなかった。

それでも炎上が拡大してしまったのは、商標権、著作権などの法律の仕組みが、

一般の人には伝わりにくかったからだ。

そのため、法的根拠のない「何となく似ている」という印象が拡散することを

止めることができなかった。

このポイントに的を絞った対策を打てていれば、

あの事件の結果は全く違ったものになっていただろう。

 

2つの方法を提案したい。

1つは、ストレートな方法。

もう1つは、少しズルい❝変化球❞の方法だ。

 

まずは、ストレートな方法から説明する。

この方法は簡単だ。

マークというものの本質を、赤裸々に説明してしまうのだ。

 

「マークというのは、文字や記号の組み合わせにすぎません」

「誰でも同じ物を作れます」

「似たものがあっても全く不思議はないんです」

「だから、このエンブレムに似たものがあるのも当前です」

 

このようなことを、記者会見で堂々と言い放ってしまえば良いのだ。

 

実際に、この「ストレートな方法」が採用された事例がある。

採用したのは、舛添要一氏だ。

当時は東京都知事だった。

 

エンブレムの騒動から間もない2015年10月、

1つの指摘がネット上を騒がせた。

東京都のキャンペーンで使用している「& TOKYO」のロゴが、

フランスの眼鏡ブランドのロゴと似ている!という指摘だ。

 

上が東京都のロゴ、下がフランスの眼鏡ブランドのロゴだ。

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この指摘に対して、舛添氏は10月13日の会見でこう述べた。

 

「一所懸命探されたかもしれないけど、ごまんとあります。こういうのは。

 記号ですから」

「ごまんとあるので、著作権の対象にならないのです。

 だから、もっと見つかってもいいのです」

「全く問題ない」

 

ここまで連載を読んできたあなたなら分かるだろう。

舛添氏の言っていることは、完全に正しい。

マークというものの本質を、ストレートに、赤裸々に説明している。

この会見のおかげか、騒ぎはすぐに治まった。

 

組織委も、会見で同じことを言えば良かった。

 

しかし、そうできなかった事情も分かる。

何しろ、国を挙げた一大イベントだ。

それを象徴するエンブレムに対して

「こんなもの、誰でも作れる」

なんてことは、口が裂けても言えなかったのだろう。

 

 

私は、真実を言ったからといって、

エンブレムを❝貶める❞ことにはならないと思う。

実際、佐野氏のデザインは素晴らしいものだった。

 

佐野氏がオマージュしたという1964年の東京オリンピックのエンブレムは、

もっともっとシンプルで、❝誰にでも作れる❞ものだった。

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コンパスさえあれば、誰にでも作れるデザインだ。

このエンブレムには、価値がないだろうか?

いや、間違いなく価値がある。

 

あの時代、あの場所、あの大会の象徴として、

このデザインを選んだデザイナー、審査員は凄い。

大会への思いが圧倒的に伝わってくる。

誰でも作れる可能性があるからといって、

「このデザインにしよう!」と決断することの価値は減らないのだ。

 

変化球の方法

組織委は、ストレートに説明する方法をとれなかった。

そんなときに提案したいのが、少しズルい❝変化球❞だ。

 

まずはこのマークを見てほしい。

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これは、オンラインマガジン「trendland」のロゴマークだ。

https://trendland.com/

 

こちらの記事によると、このロゴが公開されたのは、

リエージュ劇場のロゴが公開されるよりも数年早い時期だったそうだ。

https://column.tokyo/tokyo-olympic2020-logo/

 

「trendland」のロゴは、リエージュ劇場のロゴに非常に❝似ている❞。

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組織委は、こっそりと「trendland」に連絡をとり、

リエージュ劇場のロゴを「パクリだ!」と

SNS等で大騒ぎしてもらえば良かったのだ。

 

もちろん、こんなものパクリでも何でもない。

仮に裁判になったとしても勝てないだろう。

しかしマスコミやネット上の人々は、面白がってこのネタに飛びつく。

 

「trendland」以外にも、似たマークはいくらでも見つかる。

それらのデザイナーや企業から、「パクリだ!」と次々に声をあげてもらう。

ネット上は大騒ぎになるだろう。

 

組織委が裏で手を回していることがバレたら、

「卑怯な手をつかっている!」と、また炎上するかもしれない。

それでもくじけない。

全てはエンブレムと佐野氏を守るためだ。

 

そのうち、多くの国民が気付く。

「こんなことで似てる似てないを争うのは・・・馬鹿らしい」と。

 

これこそ、商標権、著作権の制度の本質が、一般の人に伝わった瞬間だ。

以後、こんな騒ぎは二度と起きなくなっていただろう。

 

1.ストレートな方法で、赤裸々に説明する。

2.変化球を使って、他の似たマークを次々と登場させる。

どちらの方法も、十分に有効だったはずだ。

 

最後に

以上で7回にわたった連載は終了だ。

最後にポイントをまとめよう。

 

・エンブレムには何の問題もなかった。

・組織委の対応に、法的な面での失敗はほとんどなかった。

・訴えられても、世間に嫌われても、正義があるならブレてはいけない。

・信じた相手を守るという覚悟が大事。

 

今回の事件からは、クリエイティブ業界に広く通用する教訓が得られた。

 

シンプルにまとめると、こういうことだ。

 

「自信をもっていこう!」

 

 

感謝と今後

エンブレム騒動の法的な分析と、組織委の会見の解釈については、

TBSテレビの日向央氏が「調査情報」で連載している

「意外と知らない著作権AtoZ」を、大いに参考にさせていただいた。

日向氏の著作権に対する飽くなき探求心からは、いつも刺激をいただいている。

 

訴訟に対する態度と、炎上したときに検討すべき選択肢については、

青山綜合法律事務所の照井勝弁護士の講演「権利侵害と❝パクリ❞の分水嶺」から、

全面的に学ばせていただいた。

知的財産に関するトラブルがあれば、照井氏に相談すれば間違いない。

 

両氏に深く感謝します。

 

ここで述べた私の意見は私自身のものであり、

間違いがあったとしても両氏に責任は一切ない。

 

今後も、クリエイティブ業界、エンタメ業界で働いている人や、

業界を目指す人の役に立つ記事をアップしていく予定だ。

 

 

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