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GLAYは「かっこいいアニキ」なのか問題を解決する(2)

前回のまとめ

前回の記事を少し丁寧に振り返っておこう。

 

音楽の世界には3人の権利者がいる。

1.作詞・作曲家

2.歌手

3.レコーディングする人

 

作詞・作曲家は優遇されている。

音楽著作権という権利を持っており、

「コピー禁止権」や「プレイ(演奏)禁止権」などを持つ。

そして、彼らのために働く巨大集金組織(JASRAC)がある。

 

一方で、歌手やレコーディングする人は一段低く扱われている。

著作隣接権という権利を持っており、

「コピー禁止権」はあるが、「プレイ(演奏)禁止権」は無い。

そして、JASRACのような巨大集金組織も無い。 

 

GLAYは、

「結婚式のためなら、著作隣接権を無償にします。

 ただし、音楽著作権についてはJASRACを通じて支払ってください」

と発表した。

 

しかし、著作隣接権には「プレイ(演奏)禁止権」が無いので、

実質的には、彼らは何も無償にしたことにはならない。

理屈上は、会場で流すBGM集を事前に作るときや、

上映する映像のBGMで使うときは、

著作隣接権の「コピー禁止権」が働くことになるが、

そのためにJASRACが集金することはない。

それを無償にしたからといって、GLAYのお財布にほとんどダメージはない。

 

GLAYは自分を❝太っ腹❞に見せかけて、上手くプロモーションをやった。

 

前回の記事は、こんな内容だった。

 

しかし、私はもう少しだけGLAYと彼らのスタッフが何を考えたのか?

を推理してみた。

その結果、GLAYに対する認識が、もう一度変わることになる。

今回の記事では、私の推測に過ぎないことが多いことを、先にお断りしておく。

 

気付き

前回の記事で引用したGLAYの発表文のうち、

ふと気になったのが、この部分だ。

 

GLAYの楽曲を結婚式で使用したいという多くのお客様からのお問い合わせを受け」

 

・・・「多くのお客様」って、いったい何人だったのだろう?

 

コンプライアンス意識の高まっている世の中とはいえ、

会場で流す音楽の権利について、どれだけの人が気にするだろう?

 

有名なJASRACについては、気にする人もそれなりにいるだろう。

しかし、それ以外の権利、つまり著作隣接権についても意識し、

GLAYの事務所にわざわざ問い合わせるような人が、何人いたのだろう?

 

これは、日本人全体で何人いるか?ではなく、

今から結婚式を挙げようと考えているカップルの中で、何人いるか?

という話なのだ。

 

全くの当て推量だが、「年に数人」いるかどうか?

といったところではないだろうか。

 

「年に数人」なのに「多くのお客様」と言っているのだろう!!

などと、つまらない非難をしたいわけではない。

めったに無いような問合せが数件入るだけでも、十分に「多い」と言えるし、

何も嘘をついていることにはならない。

 

「多くのお客様」と言っている以上は、ゼロではない。

発表文から分かることは、

どんなに少なくとも、必ず1人は問合せた人がいたということだ。

 

現場で何が起きたか

それでは、その「お問合せ」の現場では、どのような会話が交わされたのだろう?

 

GLAYの歌の権利について気になった人から電話が入る。

その電話を、GLAYのもとで働くスタッフが受ける。

電話をした人は、おそらくGLAYのファンなのだろう。

JASRACや権利のことについて、曖昧な知識しか持っていないかもしれない。

 

「もしもし。

 このたび結婚することになりまして、GLAYさんの歌を使う許可が欲しくて、

 お電話しました。」

 

「そうですか、おめでとうございます。

 どのように使うのですか?

 ・・・ちなみに、会場でCDを流すだけなら、

 JASRACに手続きしてもらうだけで済みますよ。

 会場の方ですでにJASRACと契約しているかもしれませんね。

 私たちの許可は不要ですから、ご安心ください」

 

「そうなんですか!知りませんでした。

 安心しました。

 実は僕たち、GLAYさんのコンサートで出会ったんですよ!!

 GLAYさんのおかげで結婚できたようなものなんです!

 だから、私たちが出会ったエピソードを紹介するオリジナルの映像を

 作ろうと思っているんです。

 その映像の中でも曲を使おうと思っているんですけど、

 それもOKってことですよね?」

 

「そうですか・・・(それは聞きたくなかった)。

 すみません、それについては、JASRACの手続きだけではダメなんですよ。

 私たちの著作隣接権の許可が必要になってしまうんです」

 

「え!それって、いくらかかるんですか?」

 

「結婚式のための料金設定というものは無いんです。

 私たちの設定している、商業利用のためのコピー料の料金表に当てはめると、

 〇万円になってしまいますね・・・」

 

「そうなんですね・・・。

 残念ですが・・・諦めます」

 

筆者にも似たような経験があるので分かるが、

問合せに答える担当者としては、非常に心苦しいものがある。

わざわざ真面目に問い合わせたために、彼らは諦めるしかなくなってしまうのだ。

そんなこと気にせずに使っちゃっている人は、いくらでもいるのに。

まさに❝正直者が馬鹿をみる❞という状態だ。

 

しかし、どんなに心苦しかったとしても、 

「聞かなかったことにするので、使っちゃってください」とは言えない。

著作隣接権は、GLAYが苦労して手に入れた財産だ。

担当者の気持ちひとつで、簡単にタダにして良いものではない。

 

GLAYの選択

年に数件あるかないかの一般の人からの問合せが、

わざわざGLAYのメンバーに報告されるようなことは、

通常なら無かったかもしれない。

 

しかし、何かのきっかけでメンバーの耳に入ったのだろう。

先ほど電話に出た担当者が、

「ブライダル向けの格安料金表」を正式にメンバーに提案したのかもしれないし、

「いっそ無償にしましょう」と提案したのかもしれない。

 

そのとき、前回の記事で想像したような会話があった可能性もある。

 

「提案の主旨はわかった。

 今までは、それでいくら儲かってたの?」

「実は・・・今まではゼロ円なんです」

 

このとき、GLAYは何を考えたのか。

 

実質ゼロ円のものを「無償で提供する」と発表することのリスクも、

分かっていたのではないか。

誰かから発表内容にツッコミを入れられ、評判を落とす可能性もあった。

(前回の私の記事のように)

 

しかし、彼らは

「OK。無償にしよう。

 そしてそれを発表しよう」

と答えたのだ。

 

問合せをしたせいで、彼らの歌を使うことを諦めたファンがいた。

そう聞いたアーティストが、最初に考えることは何か?

そのファンの気持ちだろう。

 

自分たちの歌を、人生の大切なシーンで使いたいと言っているファン。

自分たちが苦労して手に入れた権利、

しかも、著作隣接権という少しマイナーな権利のことまで気にして、

律儀に許可を求めてきてくれたファン。

このファンを、誰よりも大切にしたい!

そう考えたのではないか。

 

この発表でイメージが上がるかどうかなんて、関係ない。

むしろ、「イメージアップしたくて嘘をついている」と非難されるかもしれない。

でも、そんなこと気にしない。

もちろん、JASRACのことも、JASRACを嫌いな人のことも、眼中にない。

そんなことは関係ない。

全国に数万から数十万人はいるであろうファンのことも、意識していなかった。

彼らは、問合せをしてくれた、律儀で、真面目で、一直線な、

数組のカップルだけのために、日本中に向けてメッセージを発したのだ。

「いつもありがとう。

 俺たちの歌、好きに使ってくれ!」と。

 

このメッセージは、先ほどの問合せをしたファンに、確実に届いたはずだ。

GLAYが、僕たちだけのために返事をしてくれた!

 嬉しい!ありがとうございます!!」

 

こうして、彼らだけに分かる❝会話❞が成立した。

 

そして、問合せをしたファンが数人だったとしたら、

その背後には、「問合せもせずに諦めたファン」も結構いただろう。

そんなファンにも、GLAYの発表は最高のニュースなったに違いない。

 

いくつかの論点

読者には、いくつか気になる点があるかもしれないので、

想定される疑問に答えておこう。

 

まずは、

著作隣接権だけじゃなく、音楽著作権の方も無償にしたら良かったんじゃないの?」

という点だ。

 

GLAYは、著作隣接権の方は無償にしたが、

JASRACには今まで通り料金を支払ってくださいと発表しているので、

この疑問は、ごもっともな疑問だ。

 

しかし、GLAYサイドとJASRACの契約の期間は、数年単位になっているはずだ。

思いついてすぐに、「音楽著作権の方も無償にします!」と言えるような話ではない。

しかも、「ブライダル利用だけに限って使用料をとらない」というような、

細かいニーズに対応できる契約形態を(筆者の知る限り)JASRACは持っていない。

だから、音楽著作権の方は無償に出来なかったのだ。

 

次の疑問は、

GLAYの発表文は、❝かなりの金額をファンのために諦めた❞かのように読める。

 ミスリーディングを意図的に誘っているのでは?」

という疑問だ。

 

彼らの発表した文章は、たしかにすごく誤解を呼びやすい。

発表文をつくった担当者の頭の中に、

「あわよくば、これでイメージアップしよう」という気持ちが、

全くなかったとは断言できないのも確かだ。

 

しかし、発表文の中に嘘は1つも無い。

著作隣接権」などと小難しい言葉を使っているので分かりにくいが、

説明自体は正確だ。

これを一般の人にも分かりやすく説明しようとしたら、

相当に読むのが面倒くさい文章になっていたことだろう。

 

それに、この発表文を届けたかった相手は、

「一般の人」ではなく、「問合せをしてくれた大切なファン」なのだ。

彼らには、十分伝わる文章になっていると思う。

 

GLAYの印象

今回の記事の内容は、ほとんどが私の推測に過ぎない。

 

しかし、GLAYは、もともとは印刷物だったファンクラブの会報を、

いち早くデジタル化したアーティストだ。

ファンとの向き合い方を常に模索している。

それに、とっくの昔に、名声も財産も手にしているのだ。

 

評判やお金ではなく、ごく限られたファンのことを考えた決断だったという推理は、

かなり真実に迫っているのではないだろうか。

 

GLAYは、権利関係やリスクを冷静に把握したうえで、巧みな広報を行い、

たった数人のファンに感謝のメッセージを届けた。

 

今、私はGLAYのことを、こう考えている。

 

「さすがアニキ!かっこいいぜ!!」

 

最後に

もしあなたが結婚式を予定してるのなら、

会場で使いたい曲は決まっているだろうか?

 

著作隣接権も含めて、❝正しく❞使いたいのなら、

ISUM(音楽特定利用促進機構。アイサム)という組織がある。

https://isum.or.jp/

 

この組織と提携している式場や映像制作業者なら、

正式な許可のもとで音楽を利用することが可能だ。

 

全ての音楽を取り扱っているわけではないが、

つい先日引退した安室奈美恵氏の「CAN YOU CELEBRATE?」をはじめ、

結婚式の定番ソングも数多くあるので、チェックしてみよう。

 

www.money-copyright-love.com