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悪魔の契約 ~ 著作権譲渡について

今回は、一部のクリエイターから忌み嫌われている

著作権譲渡」について、ちょっと考えてみよう。

 

 クリエイターの目線から

あなたはフリーの若手イラストレイターだ。

自分の仕事に誇りを持っている。

 

ある日、塗装業の会社から依頼が来た。

「弊社は塗装ひとすじの会社です。

 技術力には自信があります。

 このたび創業30周年を迎えることになりました。

 これを機に、より多くの人に弊社のことを知ってもらいたいのです。

 弊社のイメージキャラクターを作っていただけないでしょうか?」

 

塗装業界のことはぜんぜん知らないが、

ギャラも悪くなかったので引き受けることにした。

担当者から塗装技術について色々と教えてもらい、

刷毛、エアスプレー、電着塗装などの機器を体に取り付けた

オリジナルキャラクター「ぬりぬり君」が完成した。

いい出来栄えだ。

 

そこへ、担当者から契約書案が送られてきた。

「弊社の総務部から、ちゃんと契約を結ぶように言われました。

 お手数ですが、内容をご確認ください」

 

読んでみると、気になる文章が見つかった。

「「ぬりぬり君」の著作権は譲渡します。

 著作権法第27条と第28条の権利も含みます」

 

これは、何かマズイ気がする!

 

先輩イラストレイターに相談してみた。

お酒を飲むといつも著作権について熱く語っている頼りになる先輩だ。

 

契約書をこっそり見せてみた。

「これはいけないよ!

 著作権の分のギャラは貰ってないでしょ?

 著作権はクリエイターの大切な権利なんだよ!?

 それをタダで奪おうとするなんて!

 クリエイターからの搾取だよ!

 それにこの「著作権法第27条と第28条」っていうのは、

 アニメ化、ゲーム化、着ぐるみ化の権利なんだ。

 その権利も取り上げようとするなんて!

 なんて悪質な会社なんだ! 

 悪魔に魂を売り渡すような契約にサインしちゃダメだよ!

 もっとクリエイターとしての誇りを持てよ!

 ここが頑張りどころだぞ!」

 

先輩にそう言われると、すごく不平等な契約に思えてきた。

腹が立ってきた。

塗装会社に思い切って返事をすることにした。

著作権譲渡なんて聞いてません。

 「ぬりぬり君」は私が精魂込めて作った大切なキャラです。

 あなた方にお譲りするつもりはありません。

 この話は無かったことにしてください。

 どうしても著作権が欲しければ、倍のギャラを払ってください」

 

発注者の目線から

この返事をもらった塗装会社の担当者は、ビックリしてしまう。

どうして!?

30周年のキャンペーンは来月に迫っているのに!

なぜ急にイラストレイターさんが怒り出したのか、ぜんぜん分からない!

着ぐるみを作ってイベント会場で活躍してもらうつもりだったのに。

このキャラクターはイベント後も自社のキャラとして

末長く使っていくつもりだ。

大切なキャラだから、手厚くギャラも払っているつもりだ。

そのことは、打ち合わせの席でちゃんと説明もしている。

今のところ予定はないが、

いずれはアニメのCMを作って流せたら良いなと思っている。

だから「著作権譲渡」と書いただけだ。

それを今になって急にゴネだすなんて!

キャンペーンの予算は使い切っているから、

今さら倍額なんて払えるわけがない!

なんて悪質な人なんだ!

もう二度と頼むか!!

 

キャンペーンはキャラクター無しで寂しく実施された。

イラストレイターはギャラを貰い損ない評判も落とした。

 

悪いのは誰?

こんな事件が起きてしまったとして、

悪いのは誰だろう?

 

まず言えるのは、

事前にしっかりと条件を確認しなかった両方ともが悪いということだ。

 

クリエイターもプロとしてやる以上は、

仕事を引き受ける前にしっかりと条件を詰めよう。

自分を守るためには、それしかない。

気を付けるべき点については、以前の記事で書いた通りだ。

 

www.money-copyright-love.com

 

もちろん、依頼した会社にも責任がある。

しっかり確認した上で発注しないといけない。

世間の常識から考えても、個人よりも企業の方がちゃんとすべきだ。

何かあったときに責められやすいも、個人より企業だ。

 

(この取引が「下請法」という法律の対象になる場合で、

 著作権譲渡にしてほしいときは、企業から出す発注書に

 「著作権譲渡です。金額には著作権の対価も含みます」

 と書かないとダメです!という行政の指導もあったりする)

 

取引するときは、お互いに条件を確認しあう。

ここまでは、常識と言って良いだろう。

 

本当に悪魔の契約なのか?

クリエイターも発注企業も、両方が悪い。

でも、もう1人❝悪い人❞がいると思う。

 

クリエイターの先輩だ。

 

彼が後輩に「悪魔の契約だ!」と吹き込んだから、

今回の悲劇が起きてしまった。

 

でも、著作権譲渡を「悪」だと決めつけて良いのだろうか?

 

そもそもが企業のキャラクターなのだ。

常識的に考えて「その会社のものである」と考えるのが、

自然ではないのか?

 

仮に著作権譲渡しなかったとして、

エアスプレーや電着塗装を装備した「ぬりぬり君」を、

個人のイラストレイターが将来的にどう活用するというのか!?

誰にも使われず、死蔵されてしまうだけだろう。

「ぬりぬり君」にとっても不幸な話だ。


企業の側もクリエイターを騙して搾取しようなんて思っていない。

具体的に決まっているキャンペーンの内容は隠さず説明もしている。

ただ、将来の全ての可能性を1つ1つ説明できないだけだ。 

 

「自社のもの」を自社で今後も色々と使う。

そのためのキャラクターを制作する。

そういう、大まかな共通認識はお互いにあったはずだ。

それを契約書という形式に落とし込んだときに、

著作権譲渡」という言葉になることがある。

それだけの話だ。

 

一部のクリエイターは「著作権譲渡は悪だ!」と信じている。

そういう人は、「著作権譲渡」という言葉を見ると熱くなる。

ひどい!搾取だ!と言い始める。

 

冷静になろう。

その取引の本質を見よう。

著作権譲渡にするのが自然なケースもある。

「譲渡」にせずに「許諾」にすれば十分なこともある。

譲渡をした上で「ただしアニメ化のときは追加でギャラを」という

条件を付ければ良いときもある。

「作者としての名前は表示する」という点だけにこだわれば

済むこともある。

契約条件は「0か?100か?」ではない。

どこかに丁度良いポイントがきっとある。

「100%の悪」も「100%の正義」もない。

話し合おう。

 

その上で、目の前の仕事に全力を尽くし、相手に喜んでもらおう。

これこそ、クリエイターの誇りをかけるべきポイントだ。

 

著作権にこだわるべきシーンもあるが、

こだわり過ぎるのは良くないのだ。

 

覚えておこう。

 

 

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