肖像権の円卓会議
肖像権についての勉強会に参加してきた。
いや~、熱い会だった。
「肖像権ガイドライン円卓会議 ー デジタルアーカイブの未来をつくる」
http://digitalarchivejapan.org/3661
主催は「デジタルアーカイブ学会」。
日本中にある歴史、伝統、文化にかかわる情報を、
どうすれば上手く集めて保存し、みんなで共有し、
未来へ残していけるのか?
研究を積み重ねている団体だ。
(「アーカイブ」とは、記録の保存書のこと)
例えば、巨大台風の被害にあった人々を撮影した写真。
今後の災害対策で貴重な資料になるはずなのに、
保存してみんなが見れるようにしたら、
撮影した人の著作権侵害になるかもしれない。
撮られた人の肖像権侵害になるかもしれない。
公的なアーカイブが人の権利を侵すわけにはいかないので、
どんなに良い写真であっても、諦めることが多かった。
特にやっかいなのが、著作権よりも肖像権だ。
以前に解説した通り、肖像権については法律が存在しないので、
グレーゾーンが多い。
「肖像権侵害になるかどうか、何とも言えない」
専門家でさえ、そう答えるしかないケースも多い。
せめて、はっきりした判断基準があれば・・・!!
そんな我々の宿願を果たすために、専門家たちが立ち上がった。
大学教授、弁護士、写真家、アーカイブ作りの実務家など、
業界の第一線にいるメンバーが集まり、
「肖像権的にアウトか?セーフか?」の基準を作るために
議論を交わすための会が、私が参加した勉強会だ。
秋葉原の駅から歩いて6分。
御茶ノ水の会場には、200人ぐらいのオーディエンスが来ていたと思う。
ガイドライン案
会では、最初に「ガイドライン」の案が示された。
いずれ何らかの形で公開されると思うので、詳細は省略するが、
重要なのは「ポイント制」を導入していたことだ。
・撮られた人が政治家なら、プラス10ポイント。
・撮られた人が16才未満なら、マイナス20ポイント。
・屋外や公共の場なら、プラス15ポイント。
・水着などを着ていて肌の露出が多いなら、マイナス10ポイント。
・撮影から20年たっているなら、プラス10ポイント。
こんな感じで、ポイントを計算していく。
合計がマイナスにならなければ、つまり、ゼロポイント以上なら、
肖像権的にはセーフだ。
アーカイブ写真として公開できる。
以前の私の記事でも似たようなポイント加算の計算をしていたが、
このガイドライン案は、それ以上に詳細で明確だ。
過去の裁判例なども研究し、
ポイントの項目や点数に反映させているという。
「裁判をしないと、はっきりしたことは言えません」
などと言ってお茶を濁す専門家も多い中で、
かなり❝攻めた❞ガイドラインになっていると感じた。
議論
このガイドラインを叩き台にして、熱い議論が始まった。
「ここのポイント数は、もっと少なくて良いのでは?」
「屋外かどうかではなく、
普通なら撮影されてもおかしくない場所かどうかが大事なのでは?」
「性的な見方をされやすい若い女性の場合、他と同じ基準でいいのか?」
「撮影から何十年たっても、誰が写っているか分かる人には分かる。
経過した年数をプラスポイントに数えて本当に良いのか?」
などなど。
一線級の専門家が次々と思いもよらない角度から
球を放り込んでくる。
それを別の専門家が巧みに打ち返す。
徐々に会場の熱量が上がり、エキサイティングな場へと変わっていく。
何より司会の福井健策弁護士が素晴らしかった。
発言者の問題提起に対して的確なコメントで論点をまとめ、
スピーディに議論を発展させ、
ときにはユーモアを交えてなごませる。
空中分解してもおかしくない程に広がった議論を、
無理に方向づけようとせず、
より高い次元のテーマへと昇華させていく。
会場全体を巻き込んで盛り上げるので、
オーディエンスも次々と手を挙げて発言する。
参加者全員が一体となっていく。
神がかった司会ぶりだった。
目立つのが苦手な私も場の熱さにやられてしまい、
思わず挙手してしまった。
「自分の顔や姿は、自分のアイデンティティとつながっている。
勝手にモザイクをかけられたり、加工されたりするのは嫌だ。
そんな観点も必要では?」
と言って余計な論点を増やしたのは私です。
今後
今回の議論をもとに、
ガイドライン案はさらにブラッシュアップされるだろう。
いずれは公開されると思うので、楽しみに待っていてほしい。
世間では、小泉進次郎大臣の「セクシー発言」が話題となり、
環境保護活動家グレタ・トゥンベリさんの怒りのスピーチが注目を集め、
非難されたりしていた日だった。
そんな中で「アーカイブの肖像権問題」という、
マイナー(?)なテーマの会に200人が集まった。
そして、みんなで熱く語り合った。
AKB48も、始まりは秋葉原の小さな劇場だった。
観客も少なかった。
それでも会場の熱量は当時から高く、
熱狂的なファンがグループを支えていた。
そして国民的アイドルへと駆け上がっていった。
これはもう間違いない。
今、肖像権が来ている。
肖像権が熱い!
みんなも乗り遅れるな!
肖像権が、国民的な議論のテーマになる日も近いだろう。
そう予感させる良い勉強会だった。
https://twitter.com/Kei_Yoshizawa