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ダウンロード違法化ウォーズⅡ ~文化庁の逆襲~(1)

ネット上に違法にアップされている文章やマンガをダウンロードすると、

著作権侵害になってしまう!

そんな法改正に向けて文化庁がまた動きだした。

すごい執念だ。

 

ダウンロード違法化の経緯

 ダウンロード違法化については、けっこうな話題になったので、

覚えている人も多いと思う。

このブログでも以前とりあげたことがある。

 

www.money-copyright-love.com

 

この記事では、

「誰も望んでない的外れな校則を作ろうとする生徒会」

の例え話をつかって、文化庁を批判していた。

また「法改正されても実質的な影響はないので萎縮しないで大丈夫」

とも書いていた。

 

その後、

ネット上の世論に押される形で自民党内部でストップがかけられ、

法改正は見送られた。

文化庁の面目は丸つぶれとなった。

 

しかし彼らは諦めていなかった。

また同じ法改正をしようと活動を開始している。

 

「法改正の中身は問題なかった。

 単に国民が内容を理解していなかっただけだ。

 丁寧に説明すれば、次こそは大丈夫!」

と考えているようだ。

 

法改正の内容

文化庁の動きを見ていく前に、

法律の内容について少し丁寧に説明しておきたい。

前回の記事では大雑把な説明しかしていなかったが、

文化庁の言うように「正しく理解」しておいた方が、

より公平に考えることができる。

そもそも分かりにくいルールなのだが、

できるだけかみ砕いて解説しようと思う。

 

なぜ分かりにくいのかと言うと、

「まず大前提があって、その例外があって、さらにその例外が・・・」

ということを繰り返しているからだ。

「あなたが大好き!の反対の反対の反対の反対~♡」みたいな感じで、

ゆっくり考えないと好きなのか嫌いなのか分からなくなる。

 

大前提

まずは大前提から。

 

大前提:情報は誰のものでもない。自由に扱える。

 

例えば、我々のご先祖様が素晴らしい発見をしたとする。

美味しい湧き水のある場所。

簡単な火の起こし方。

農作物をたくさん収穫する方法。

発見した人はそれを周りの人に伝る。

そうすることで、みんなが豊かになっていく。

中には「秘密にしておこう」と考える人がいたかもしれないが、

いったん誰かにもれてしまえば、

情報の伝達を止める方法もルールもない。

 

ご先祖様が伝承していた神話、祈りの歌、工芸品の文様。

となり村の人がマネしたとしても、それを禁止することはできない。

お互いにマネしあうことで、文化を高度に複雑に発展させてきた。

 

情報は誰のものでもない。自由に扱える。

これが人類全体の基本ルールだ。

 

大前提の例外

そこに例外ルールが付け加えられた。

 

大前提の例外:新しい著作物については、コピーしちゃダメ。

 

昔からある物語や歌については今まで通り「みんなのもの」だけど、

今生きている作者がつくった作品については、

一定期間に限ってだけはコピーしちゃダメ。ということにしよう!

これが著作権だ。

 

一定の「例外期間」が過ぎてしまえば、基本ルールに戻るので、

自由にコピーできるようになる。

著作権そのものが例外ルールなのだ。

 

(ここで言う「一定期間」がどんどん長くなっていき、最近では

 「作者の死後70年」というとんでもない期間になってしまったが、

 今日のテーマとは別問題)

 

大前提の例外の例外その1

「大前提の例外」に対して、

「大前提の例外の例外その1」と「大前提の例外の例外その2」ができた。

(他にもあるが、「その1」と「その2」に絞って説明)

 

大前提の例外の例外その1:「引用」ならコピーしてもOK。

 

例えばマンガ『ONE PIECE』について批評・研究する論文を書くときには、

そのマンガの一部を自分の論文にコピーして

「このカットのセリフと表情は・・」などと説明する必要がある。

これが「引用」だ。

この場合に作者の許可がないとコピーできないとしたら、

作者の気に食わないことが書きづらくなってしまう。

正当な批評・研究活動ができなくなってしまう。

だから、「引用」ならコピーしてもOKというルールにしたのだ。

 

大前提の例外の例外その2

「引用」とは別の例外ルールも作った。

 

大前提の例外の例外その2:プライベートな目的ならコピーしてもOK。

 

後で自分で読んで楽しみたいから、マンガをコピーする。

妹に聞かせたいから、音楽をコピーする。

こういうプライベートな目的ならコピーしてもOKだ。

 

ただし、ここでいう「プライベートな目的」の範囲は、結構せまい。

自分、家族、親しい友人。そのぐらいまでと言われている。

 

また、あくまでもプライベートな目的であることが必要だ。

仕事に使うためのコピーは許されていない。

 

 

大前提の例外の例外その2の例外

上記の「大前提の例外の例外その2」に対して、さらにその例外がある。

どんどん複雑になっていくが、付いてきてほしい。

 

大前提の例外の例外その2の例外:

違法にアップロードされた映像や音声(音楽も含む)なら、

プライベート目的であってもデジタル方式でコピーしちゃダメ。

ただし、違法であることを知っていた場合の話。

 

 コピー禁止になってしまうためには、色々と条件がついている。

 ・映像や音声であること。

 (文章やマンガなら問題ない)

・違法にアップロードされたものであること。

・そのアップロードが違法だと知っていること。

・デジタル方式のコピーであること。

 (紙にプリントアウトするなら問題ない)

・もともと無料で提供されているものなら刑事罰はない。

 

以上だ。

 

現在の法律

ここまでが、現在の法律で決まっていることだ。

いや~、長かった。

 

まとめると、こうだ。

 

基本はコピーOK。

でも新しい著作物ならコピー禁止。

でも「引用」や「プライベート目的」ならコピーOK。

でも映像や音声なら色んな条件に当てはまれば

プライベート目的のコピーでも禁止。

 

「例外の例外の・・・」と言っているうちに、

「コピーOK」と「コピー禁止」が何度も入れ替わる。

「今話しているのは、どのレベルの話か?」

丁寧に理屈を追いかけないと、すぐに迷子になってしまう。

 

念のため、もう一度ルールを書いておこう。

 

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大前提:情報は誰のものでもない。自由に扱える。

 

大前提の例外:新しい著作物については、コピーしちゃダメ。

 

大前提の例外の例外その1:「引用」ならコピーしてもOK。

大前提の例外の例外その2:プライベートな目的ならコピーしてもOK。

 

大前提の例外の例外その2の例外:

違法にアップロードされた映像や音声(音楽も含む)なら、

プライベート目的であってもデジタル方式でコピーしちゃダメ。

ただし、違法であることを知っていた場合の話。

また、もともとタダで提供されていたら刑事罰は無し。

 

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「今回の法改正で仕事でのちょっとしたコピーができなくなる」

と思っている人がいるが、それは間違いだ。

それは「大前提の例外」のレベルですでに禁止されている。

法改正とは関係なく禁止だ。

今焦点があたっているのは「大前提の例外の例外その2の例外」

のレベルの話なのだ。

 

文化庁の目指す法改正

今、文化庁が狙っているのが

上記「大前提の例外の例外その2の例外」の部分だ。

 

今までは「映像や音声」だけに限定していたのだが、

「全ての著作物」にまで範囲を大きく広げようとしているのだ。

(当然、文章もマンガも写真も絵も入る)

 

でもそれだけだと、厳しすぎる印象を与えるので、

色々と付いていた条件を変えようとしている。

 

具体的には以下のような感じだ。

 

・「違法アップロードだ」とちゃんと認識していない限りはOK。

 (今までもそうだったが、そのことを明確にした)

・有名な海賊版サイトからのダウンロードであっても、

 ネットの知識がなくて分かってなかったのならOK。

・マンガ等をそのままアップしたものではなく、

 ファンが二次創作(パロディ等)して自分でアップしたものなら、

 ダウンロードしても刑事罰は受けない。

・何度も繰り返し行う悪質な行為でなければ、

 ダウンロードしても刑事罰は受けない。

・もともとがタダのものなら刑事罰ないのは元のまま。

 

文化庁はこう言っているわけだ。

 

「コピー禁止になる範囲は広げます。

 でも安心してください!

 条件を山盛り付け加えたので、

 実際に法律違反になったり警察に捕まったりするようなケースは、

 すごく限られた場合でしかないんですよ!

 全然たいした話じゃないんです!

 心配ご無用です!」

 

パブコメ

つい先日、文化庁パブリックコメントを開始した。

パブリックコメントとは、国民に広く意見を求めること。

 略称「パブコメ」)

 

●侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントの実施について

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001067&Mode=0

 

前回の「敗戦」 から学び、

「広く国民に開かれた議論」を「丁寧に」進めるつもりらしい。

 

次回はこのパブコメについて解説しよう。

読んでみると分かるが、これは単に上から「やれ」と言われた役人が、

仕方なく作った資料ではない。

「次こそは絶対に勝つ!!」という、

資料を作った役人自身の熱い執念がにじみ出てしまった内容になっている。

文化庁の逆襲が始まったのだ!!

興味がある人は、パブコメの資料を事前に読んでみてほしい。

 

所感

私自身の考えを簡単に言っておきたい。

 

資料に書かれている文化庁の考え方や、

法改正の規定の1つ1つについては、納得できるものも多い。

 

それでも、全体を引いた目でみると、こう感じてしまう。

いくら何でも、ルールがややこし過ぎないか?

 

例外の例外の例外・・・を重ねた上に、

その例外ルールが適用になるための条件も大量にある。

これを全部覚えないと、

安心してスクショ(スクリーンショット)も出来ないなんて!

 

頭のいい人が色んな意見に気をつかってルールを作ると、

複雑怪奇なものが出来上がってしまう。

ルールとは、そういうものだ。

(消費税の軽減税率を思い出してほしい!)

ある程度は仕方ない。

 

でも今回の法改正は、業界のプロが理解すれば済むようなものではない。

ごく普通の人が、ごく普通に毎日やっているスクショのような行為を

規制する法律なのだ。

分かりにくいものじゃダメだ。

 

何度も言ってきたように、

昔は一部の業界だけのための法律だった著作権法は、

今では国民みんなが関わる法律になった。

これ以上ややこしくするのは、本当に避けた方がいい。

 

私見だが、そもそもの著作権の設計に無理があるように思う。

 普通の人間の感覚なら「プライベート目的のコピー」は、

 自由にできるのが当たり前のものだ。

 お茶の間でやっていることにまで文句を言われたくない。

 でも著作権法では「全てのコピーは禁止」にした上で、

 あくまでも「例外」としてプライベート目的のコピーを許している。

 まるで、権利者のお情けで特別に「お目こぼし」してもらっている

 ような感じだ。

 制度を設計する上で便宜的にそうしているだけなのだが、

 人間はどうしても出来上がったものに引きずられる。

 ついつい「本来は禁止なんだから、禁止だ!」となって、

 さらなる例外ルールを積み重ねてしまう)

 

(ちなみに著作権の制度設計がこうなっているのは、

 文化庁のせいではない。

 これが国際標準の設計方式なのだ)

 

次回は、「執念のパブコメ」について見ていこう。

 

 

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