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ダウンロード違法化ウォーズⅡ ~文化庁の逆襲~(2)

前回、法改正に失敗した文化庁

今回は本気だ。

何が何でも「ダウンロード違法化」を成立させようとしている。

 

文化庁が実施中のパブコメについて見ていこう。

パブリックコメントパブコメ

 国民に広く意見を求めること)

 

まずは結論

この話をしていると、どうしても細かい理屈の話になってしまう。

だから、疲れてしまう前に結論だけ先に言っておこう。

 

文化庁パブコメは「自由記述」ではなく、

 「質問形式」になっている。

 

・「質問形式」の場合、質問する方が有利。

 議論をうまく誘導することができる。

 

パブコメは、文化庁の望む結論に導かれるように出来上がっている。

 

・「誘導尋問だ!」と非難の声をあげても良いが、

 鉄壁の布陣を打破するのは、かなり難しい。

 

・他の妨害要素がなければ、法改正は成立しそうな気がする。

 

・法改正されても、クリエイターやユーザーにとって

 実質的な面では何も変わらないので、気にしないで良い。

 

というわけで、前回に引き続き色々と理屈っぽい話は出てくるが、

「世間でダウンロード違法化が話題になっても、

 あんまり気にしないでいいよ!

 自信をもっていこう!」

ということだ。

 

レトリックと詭弁

 文化庁の作戦を知るうえで、良い本がある。

『レトリックと詭弁 禁断の議論術講座 』

議論で勝つための技術について解説した本だ。

読みやすくて面白いので、ぜひ読んでみてほしい。

 

 

 本の中で強調されているのは、以下の点だ。

 

・議論の勝敗を分けるのは「問い」の力。

・問いかける方が有利。

 問いを作るときは、自由に言葉を選ぶことができる。

 問いによって論点を都合よくすり替えることができる。

・問いかけられて言葉に詰まると「負け」になる。

 相手の論点のすり替えを指摘できれば逆転勝利できる。

 

(例)

 盗みを犯した学生と先生の会話。

「先生!あなたは可愛い教え子を警察に突き出すのですか!?」

ここで先生が言葉に詰まれば、負け。

「それは違う。君は私の生徒である前に1人の人間だ。

 人は罪を償わないといけない」

と言い返せれば、先生の勝ち。

 

「問い」に対しては、かなり慎重になった方がいい。

 

パブコメの構成

通常のパブコメなら、特定のテーマについて

「意見を提出してください」とだけ書かれている。

つまり「自由記述」だ。

自分の好きな論点について、自由な角度から意見を言える。

 

パブリックコメント:意見募集中案件一覧

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public

 

しかし今回の文化庁パブコメは違う。

3部構成になっていて、第1部と第2部は「質問形式」になっている。

つまり、自由な意見が言えない。

第3部になってやっと自由記述欄が出てくるが、

第1部と第2部ですでに議論の大きな流れが作られてしまっている。

第3部でどんなに良い意見が出されていても、

どうしても「その他扱い」の意見に見えるように設計されている。


●侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメントの実施について

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001067&Mode=0

 

すでに設計段階から、文化庁の執念が組み込まれているのだ。

 

パブコメ第1部

パブコメの第1部はシンプルだ。

質問が1つだけ。

それに対して、選択式で回答する形式になっている。

 

短いので、そのまま引用しよう。

 

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 1.基本的な考え方

(1)「深刻な海賊版被害への実効的な対策を講じること」と「国民の正当な情報収集等に萎縮を生じさせないこと」という2つの要請を両立させた形で、侵害コンテンツのダウンロード違法化(対象となる著作物を音楽・映像から著作物全般に拡大することをいう。以下同じ。)を行うことについて、どのように考えますか。①~⑤から一つを選択の上、回答欄に記入して下さい。

①賛成

②どちらかというと賛成

③どちらかというと反対

④反対

⑤分からない

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これは、上記の議論の本で紹介されている典型的な

「多問の虚偽」というやつだ。

 

「君は、もう奥さんを殴ってはいないのか?」

 

この質問に「はい」か「いいえ」で答えると、

昔は奥さんを殴っていたことを認めることになってしまう。

本当は「君は奥さんを殴っていたのか?」から

議論を始めるべきなのに!

 

痩せたいと思っている人に

「おいしくてお腹いっぱい食べられて栄養満点なのに、

 カロリーゼロで全然太らない食べ物を、

 良いと思いますか?悪いと思いますか?」

と聞くようなものだ。

こんな質問に「悪い」と答える人なんかいない。

本当は「そんな夢のような食べ物が存在するのか?」から

話を始めるべきなのに!

 

文化庁の質問も同じだ。

 そもそも「海賊対策に有効」と「国民を萎縮させない」が両立できない!

と多くの人が考えているのに、

「両立する方法について良いと思いますか?悪いと思いますか?」

と質問してしまっている。

 

対面で会話しているのなら

「いやいや、その質問はおかしいでしょう!」

と即座にツッコミを入れられるが、

文書で回答する形式だとそれが出来ない。

しかも選択式で回答しないといけないので、

ツッコミを入れることさえできない。

 

最初の質問から、文化庁の議論の流れに強制的に

のせられることになる。

答えた時点で、「負け」なのだ。

 

パブコメ第2部

第2部では質問が7つ並んでいる。

回答は、またもや選択式だ。

 

質問内容は、

「ダウンロード違法化をしたら、どんなことが心配ですか?」

というものだ。

7つの「心配事の候補」が挙げられている。

それぞれに対して

①とても懸念される

②どちらかというと懸念される

③あまり懸念されない

④全く懸念されない

⑤分からない

の5つの中から強制的に選択させられる。

 

「心配事の候補」は、こんな感じだ。

・ネット上のコンテンツは違法か適法か分からないので、

 こわくてダウンロードできなくなる。

・無料で提供されているコンテンツをダウンロードすることが

 違法になってしまう。

 

これは、テレビの通販番組でよくある

「でも、お高いんでしょう?」とか、

「電気代が高いんじゃないの?」とか、

そういう❝サクラ❞の質問と同じだ。

 

法改正という❝商品❞をアピールしたい文化庁は、

それぞれの心配事に対してしっかりと回答を準備している。

パブコメの「添付資料3」に全て書かれている。

こんな感じだ。

・違法だと確実に知っていない限りは、大丈夫です!

 ご安心ください!

・無料で提供されているなら、刑事罰にはなりません!

 ご安心ください!

 

こうして、想定される全ての反論をあらかじめ挙げておき、

対策をバッチリ打っているのだ。

 

これら7つの質問に答えさせられた後に、

やっと「自由記述欄」にたどり着く。

 

「その他、懸念事項があれば記入して下さい。」

 

「その他」って!!!

 

ここにどんなに鋭いコメントを書いたところで、

「その他扱い」されることは間違いない。

 

私ならこんな懸念事項を書きたい。

 

・国民がお茶の間でくつろぎならスマホを操作しているときに、

 きわめて複雑な法規制を理解し正しく判断しないと、

 安心してスクショすら出来ない世の中になる。

 国民の安らぎが減ってしまうことが心配。

著作権法は、もともと作家、出版社、放送局など

 コンテンツを扱うプロの人々だけを規制する法律だった。

 普通の国民には、あまり関係のない法律だった。

 でもダウンロードを違法化することによって、

 一般国民が直接的に規制されることになってしまう。

 コンテンツを楽しむ一般ユーザーを規制することは、

 法律の性格を根本的に変えることになるのではないか。

 そんな大きな変更を本当にやっちゃっていいのか心配。

 

これは文化庁の想定している「心配事の候補」には入っていない。

多少は有効な反論になるかもしれない。

 

しかし、どんなコメントをしても❝後の祭り❞かもしれない。

所詮は「その他」として扱われてしまうだろう・・・・

 

執念

パブコメにはその後もいくつか質問が並んでいるが、

どんな回答が来ても文化庁がコントロールできるように調整されている。

 

この形式で回答させられる限り、文化庁の優位はゆるがないだろう。

(この回答様式ではない様式の意見を出しても

 「これ以外の様式の場合、

  御意見が受け付けられない場合がございます。」

 ということになってしまう)

 

やはり、問いかける方が強い。

 何としてでも雪辱をはたしたい文化庁の職員が、

考えに考えて「問い」を構築したのだろう。

「誘導尋問だ!」と非難の声をあげても良いが、

鉄壁の布陣を打破するのは、かなり難しい。

 

彼らの執念を感じる。

 

法改正されたら

私は、今回の法改正が成立するだろうと予想している。

ダウンロード違法化とは違う方向から妨害が入ってしまわない限りは、

文化庁が逆転勝利をおさめることになると思う。

 

でも、心配することはない。

以前も書いたとおり、

この法律を使って個人のダウンロードを取り締まろう!

などとは誰も考えていない。

警察もそんなにヒマじゃない。

今まで通り、必要なものがあれば個人的にコピーをとって

保存しておけば良い。

あきらかに悪質なサイトの利用だけを避けていれば大丈夫だ。

何も気にせずコンテンツを楽しみ、

コンテンツを創作すれば良い。

萎縮せず、自信をもって行こう。

 

 

文化庁の逆襲」がどういう結末を迎えるのか?

今後も観察していきたい。

 

 

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