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スカートめくりを撲滅しよう! ~ダウンロード違法化について~

ある小学校での事件

とある小学校で、いたずら好きの男子生徒が女子生徒のスカートをめくった。

スカートめくりにショックを受けた女の子は、泣き出してしまう。

 

これを聞いた女子生徒の両親は激怒する。

「うちの大切な娘に何てことを!

 学校の管理はどうなっているんだ!」

 

怒鳴りこまれた小学校の教頭先生は謝罪に追い込まれる。

「申し訳ございません。

 わが校の校則では「スカートめくり禁止」になっているのですが・・

 早急に対策を考えます!」

 

こうして、教頭先生は何らかの対策をとらないといけなくなった。

 

「どうしたらスカートめくりが無くなるんだろう?

 世間ではセクシャル・ハラスメントが大問題になることも多い。

 小学校とはいえ、ちゃんとしないと大騒ぎになってしまう・・。

 かといって、すでに「スカートめくり禁止」のルールはあるし、

 先生が指導もしている。

 これ以上、何をすれば良いのか・・・」

 

考えはまとまらない。

 

そんなとき、テレビのニュースが目にとまる。

変質者が女子高生のスカートの中を盗撮して捕まった!というニュースだ。

 

これを見た教頭先生は考えた。

 

「女性のスカートの中が見られてしまうという意味では、

 スカートめくりも盗撮も一緒だよな・・・」

 

「そうだ!

 盗撮対策に力を入れよう。

 盗撮の被害者がうちの学校にいるわけではないけど、

 女性のスカートの中を守ることは大切だ!」

 

「そういえば、椅子に座った女性を正面から写真撮影をした場合、

 角度によっては中のパンツが写ってしまうことがあるな・・・。

 これは良くない。

 スカートを着て座った女性を撮影することを禁止すればいいんじゃないか?」

 

「パンツが写った写真がSNSで拡散してしまったら、大変なことになる。

 女性の心が傷つくに違いない。

 スカートを着て座った女性の写真をネットに上げることも

 禁止にした方が良さそうだ」

 

「これで、女子生徒と保護者も安心してくれるだろう」

 

ここまで考えた教頭先生は、生徒会の生徒たちに指示を出す。

 

「君たち、女性のスカートの中を守るために、検討会議を開いてくれないか。

 教師が勝手に決めてしまうよりも、

 生徒自身で考えて、より良い校則の案を作ってほしいんだ。

 ちなみに私は、

 スカート着て座った女性の撮影とアップロードに問題があると思う」

 

こうして生徒会の優等生たちは

「スカートの中の保護・検討会議」を組織する。

 

検討会議

生徒会は優秀だ。

「そもそも、スカートめくりと盗撮って、別問題じゃないか?」

こうは思うものの、

教頭先生の意図をしっかりと汲み取って、検討会議のメンバー選びをする。

 

盗撮問題に詳しい生徒。

セクハラ問題に詳しい生徒。

校則に詳しい生徒。

 

次々とふさわしいメンバーが決まっていく。

 

でもこれだけだとバランスが悪く見えるから、

写真部の部長(男子生徒)も入れておく。

 

検討会議の資料は、生徒会が用意する。

内容はこんな感じだ。

・座った女性を撮影したときに間違ってパンツが写ってしまった事例

・インターネットで情報が拡散するスピードについての研究

・座った女性の撮影とアップロード禁止化の提案

・他校の似たような校則の例

 

資料に従い、

「撮影とアップロードは問題じゃないか」という雰囲気で

会議は進んでいく。

 

写真部の部長が

「禁止にするのは、いくらなんでも厳しすぎるんじゃないでしょうか?

 これだと写真撮影がやりづらくなります」

と意見を言ったが、流れは変わらない。

 

検討会議の「まとめ」は生徒会が作る。

そこにはこう書かれてあった。

「写真撮影がしづらくなるという意見も一部にはあったが、

 全体としては、撮影とアップロードを禁止することで

 スカートの中を守ることが大事だという意見だった」

 

こうして新たな校則の案が作られることになった。

 

【スカートの中 保護校則案】

・この校則は、女性のスカートの中を保護することで、

 女性の心を守り、女子と男子が仲良く学校生活を送るためのものである。

・着座した女子生徒を撮影することを禁止する。

・着座した女子生徒の写真をネットにアップロードすることを禁止する。

・この校則に違反した生徒は、1週間の停学処分とする。

 

校則案が発表されると、全校生徒に動揺が走った。

「撮影禁止ってどういうこと!?」

「友だちとカラオケしてる写真とれないの!?」

SNSできなくなるじゃん!」

「生徒会、何やってるんだよ!」

今まで生徒会の活動に興味のなかった生徒たちまで騒ぎ出す。

 

生徒会にとっては、この状況は誤算だった。

今までは、生徒会活動なんて、

ほとんどの生徒にとって「どうでもいいこと」だったからだ。

今までは、ほとんどの校則が誰にも気づかれずにシレっと成立していた。

今回もそうなる予定だったのだ。

 

生徒会の予想を超えて、新しい校則案への非難の声が高まっていく。

 

遂には、ことの発端となったスカートめくりの被害者の女子生徒も声をあげる。

「こんなこと、求めてなかったのに!」

 

 

・・・これが、今さわぎになっている「ダウンロード違法化」の現状だ。

 

ダウンロード違法化

「ダウンロード違法化」の問題ついては、知っている読者も多いと思う。

 

著作権侵害、スクショもNG 「全面的に違法」方針決定

https://www.asahi.com/articles/ASM2D6F8NM2DUCVL03V.html

 

●違法ダウンロード対象拡大 海賊版対策、誘導サイト規制も 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO41217310T10C19A2CR8000/

 

山田太郎さんが懸念する表現の自由侵害の危機・静止画DL違法化とコスプレの著作権違反化

https://togetter.com/li/1297860

 

多くのメディアで取り上げられているので詳しい解説はここではしない。

大まかにいうと、以下のような話だ。

 

 

・これまでも、権利者に勝手にアップロードすることは禁止だった。

 今後は、それをダウンロードすることも禁止になる。

・それが個人的に使うためであっても禁止。

・ただし、ネットに上がっていることが違法だと知っていた場合に限る。

・今までは動画や音声データだけが対象だったが、

 これからは写真、画像、漫画、文章など全ての著作物が対象になる。

 

この法改正案にたくさんの批判が出ているのだ。

「ネットにあがっているもので、

 どれが違法でどれが適法かなんて分かるわけない!」

「一般の人が日常的にやっていることが、違法なことになってしまう!

 全国民を犯罪者にするつもりか!」

「法改正しても、肝心の違法サイトは取り締まれないじゃないか!」

「ネット上の資料を手元にコピーしておくことができないと、

 新たな創作活動がしづらくなる!」

 

法改正の経緯

いつの間にこんな法改正の話が進んでいたのだろう?

 

この法改正は、上記の「スカートめくり」の話と同じような流れをたどっている。

 

大まかに言うと、以下のような流れだ。

 

・「漫画村」のような違法なサイトが話題になる。

  ↓

・「漫画家の著作権を保護することは大切だ!

  何とかしないと!」という話になる。

  ↓

・権利者に無断でアップロードすることは、すでに禁止されている。

 「それでも何かしないと!」というプレッシャーがかかる。

  ↓

・サイトをブロッキング(強制的に見れなくすること)できる制度を

 作ろうとするが、「通信の秘密」を大切にする人の反対にあって失敗する。

  ↓

・ダウンロードを禁止にすればいいんじゃないか?

 という案が浮上する。

  ↓

・政府の会議(文化審議会著作権分科会)に有識者が集められ、

 ダウンロード違法化の方向で検討される。

  ↓

漫画村のような違法サイトから漫画家を守る!という話とは

 ズレた話になっちゃっていることに皆気づいているし、

 反対意見も出るが、会議は進んでしまう。

  ↓

・ダウンロード違法化すべし!という結論にまとめられる。

  ↓

・このことがニュースになり、多くの人が反対の声を上げる。

  ↓

・本来守りたかったはずの漫画家の皆さんからも

 「こんなもの要らない」という反対の声が出てくる。

 

多くの漫画家は、ネット上で見つけた写真や文章を

「参考資料」として手元にコピーして取っておく。

そしてそれを自分の創作活動に生かしているのだ。

コピーできなくなると、新しい漫画を作りづらくなってしまう。

(これが「個人的な利用のためのコピー」と言えるかどうかは

 微妙な問題だが、実務上は問題になっていない)

 

 

●こんな違法化「誰が頼んだ?」漫画家や専門家ら声上げる

https://www.asahi.com/articles/ASM2L748HM2LUCVL04G.html

 

●「漫画家と二次創作コミュニティは近くにいる」伝説の漫画家、竹宮惠子さんも「違法DL拡大」に反対

https://www.bengo4.com/internet/n_9230/

 

 

トホホ・・・である。

「スカートの中 保護校則」と同じくらい馬鹿げたことになっている。

 

「何かやらなきゃ!」ということになり、

優秀な人たちがアサッテの方向を向いた会議を行い、

本来の目的とはズレた誰も望んでいないルールが

出来上がろうとしているのだ。

 

政府の読み違い

そんなバカげたことが起こっているわけがない!と思う人がいるかもしれないが、

こういうことは、これまで何度も行われてきている。

(いずれ記事でとりあげたい)

 

以前は「著作権法」というのは、

特に注目を集めない「マイナーな法律」だった。

 

一部の人の意見や思惑だけで議論が進み、

検討の形式だけが整えられ、

国民の注目を集めないままに、

シレッと法改正されることが多かったように思う。

 

しかし時代は変わったようだ。

 

日本の漫画、アニメ、ゲームは重要な産業になった。 

インターネットが普及したおかげで、

人の作品を楽しみつつ自分も作品を作って公開できるようになった。

多くの人が日常的に著作権に関わるようになった。

 

マイナーだった著作権は、国民の関心を集めるようになった。

著作権法は「メジャーな法律」になった。

 

政府は、ここのところを読み違えたのではないか。

昔の感覚でシレッと通そうとしたが、

予想以上に注目が集まってしまったのではないか。

 

今後「著作権法をいじりたい」と思う人は、

時代の変化をしっかりと認識しないといけないだろう。

 

どうしたらいいのか?

たくさんの反対意見が出ているものの、法律は改正されてしまうようだ。

(条文が作られていく中で、あまり厳しくないものになるかもしれない)

 

ダウンロードが違法になってしまったら、我々はどうすれば良いのか?

 

ダウンロードはやめといた方がいいのか?

どうしてもしたければ、

全てのネット上のデータが違法じゃないかどうか

自分でチェックしないといけないのか・・?

 

結論を言うと、特に気にしなくて良い。

 

そもそもが「とにかく何かしなきゃ!」ということで始まった話なのだ。

法改正をして「ちゃんと対策してます!」という形さえとれたら

それで良い。と政府が考えていることは間違いない。

この法律を使って個人のダウンロードを取り締まろう!

などとは誰も考えていない。

警察もそんなにヒマじゃない。

 

今まで通り、必要なものがあれば個人的にコピーをとって保存しておけば良い。

 

ただし、「この人、違法なダウンロードをしてますよ!」と嫌がらせで

通報される可能性はある。

あきらかに悪質なサイトを利用するのはやめよう。

それだけで十分なはずだ。

 

実際の法律の条文がはっきりしたら、

あらためて対策について説明しようと思う。

 

作家やアーティストの皆さんは、

必要以上に怖がらずに他人の作品を参考にしながら、

新たな素晴らしい作品をつくってほしい。

 

つまり、

萎縮せず、自信をもって行こう! 

ということだ。 

 

ツイッター

以前書いた通り、

このブログは最新ニュースや時事ネタを追いかけることを目的にしていない。

 

しかし今回は、政府の動きがあまりにお粗末であり、

クリエイターに不安が広がっているようだったので、

記事でとり上げることにした。

 

今後、時事ネタがある場合は、ツイッターで発信していきたい。

 

吉沢計

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