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オリンピックまで半年。あの悲劇を思い出そう。

東京オリンピックまで、半年をきった。

これから、日本中がお祭り騒ぎに飲み込まれていくだろう。

 

●五輪まで半年、花火やライトアップで祝う 東京・台場

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54820370U0A120C2CR8000/

 

でも、我々はあの悲劇を忘れてしまっているのではないか?

もう一度だけ思いだそう。

インターネット史上に残る、あの大炎上事件を。

 

エンブレムのパクリ騒動

オリンピック開幕の5年前にあたる2015年7月、

大会の公式エンブレムが華々しく発表された。

アートディレクター・佐野研二郎氏の制作によるものだ。

 

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このデザインが東京や日本中にかかげられ、

大会を大いに盛り上げることが期待されていた。

 

しかし発表の3日後、

ベルギーのデザイナー、オリビエ・ドビ氏が、

自分の作品と「驚くほど似ている」とSNSに投稿した。

 

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たちまち大騒ぎになった。

 

ネットには佐野氏の過去の作品と似た作品を探し出し

「パクリデザイナーだ!」と決めつける記事であふれた。

佐野氏への個人攻撃・誹謗中傷が止まらない。

インターネット史上に残る大炎上へと発展した。

 

佐野氏は

「ドビ氏の作品は見たこともない」

「パクリではない」

と繰り返しうったえたが、

一度燃え広がった炎の勢いがやむことはなかった。

「あいつが泣いて謝るまで追い詰めろ!」と言わんばかりの

罵詈雑言の嵐がえんえんと続いた。

 

最終的には佐野氏が

「大会を成功させるためにエンブレムを取り下げたい」と

大会組織委員会(組織委)に伝え、あっさりそれが認められた。

 

急遽、代わりのものが必要になり、

「公募」という形で新エンブレムが決定された。

 

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こうして、佐野氏のことは忘れられた。

 

問題の本質

佐野氏のデザインに、法的な問題は無かった。

 

商標については世界中で調査を済ませており、クリアになっていた。

 

著作権についても同様だ。

著作権侵害だ!」と言えるのは、

以下3点すべてをドビ氏が証明できたときだけだ。


1.そもそもドビ氏の作品が「著作物」である。

2.佐野氏がドビ氏の作品を見た上で制作した。

3.単なるアイディアレベルではなく具体的な表現部分が似ている。

 

3つとも非常に高いハードルだ。

ドビ氏が証明できる可能性はほとんど無かった。

(というか、可能性ゼロと言い切って良い)

 

くわしい解説は、以前の記事で書いたとおりだ。

 

www.money-copyright-love.com

 

法律上の問題はないのに、

「疑惑のデザイナー」という印象だけが先走ってしまい、

無実の佐野氏が世間からボコボコに殴られたのだ。

 

そして大会の組織委は、

傷ついた若きデザイナーを本気で守ろうとはしなかった。

記者会見を何度かひらいて説明はしたものの、

佐野氏が追い詰められて「もうやめたい」と言ったときに、

「ああそうですか」と簡単に受け入れ、エンブレムを取り下げた。

彼を見捨て、あっさりと次のデザイナーに乗り換えた。

 

以下はたとえ話だ。

 

若い男女が婚約する。

しかし、女の幸せを妬んだ人々が悪い噂を流す。

「あの女、万引きする癖があるらしいよ」

「あの女、むかしは強盗だったらしいよ」

世間からは祝福されない結婚となってしまった。

男の方も根も葉もない話だと分かってはいる。

でも、女から

「あなたに迷惑かけられないから、婚約はなかったことにしましょう」

と言われたとき、こう返事をしたのだ。

「ああそうですか。さようなら」

男は次の女に乗り換えた。

 

 

問題の本質は、

組織委に「信じた相手を守る」という覚悟がなかったことなのだ。

 

正義はどこへ

あの事件以来、正義は失われた。

正しいか正しくないかは関係ない。

炎上させたもの勝ちの世の中になった。

 

何か問題らしき事態が発生したら、

とりあえず謝る。とりあえず取り下げる。

そんな対応がスタンダードになった。

 

カップヌードルの「おバカ」CM取りやめ 「不快な思いを感じさせる表現あった」と謝罪

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1604/08/news084.html

 

●広告「酷似」指摘に「模倣の意図ないが、不快な思いをさせた」 ラフォーレが謝罪

https://www.j-cast.com/2020/01/25378002.html

 

 

誰もが炎上を怖がるようになった。

それも仕方ない。

だって、炎上したら佐野氏のように個人攻撃され、

家族の情報をさらされ、危険な目にあうからだ。

そして、誰も守ってくれないからだ。

エンブレムのパクリ騒動が、

「正義」よりも「炎上」の方が強いことを証明してしまった。

 

私はこんな世の中は嫌だ。

炎上がおきても、冷静でいたい。

印象だけで判断せず、何が正しいのか?をちゃんと理解したい。

もし炎上の当事者になっても、大切な人は守り抜きたい。

 

オリンピックのお祭り騒ぎに飛び込む前に、

もう一度だけ、あの悲劇のことを思い出してほしい。

 

佐野氏の現在

パクリデザイナーという汚名をきせられた佐野氏だが、

その後も順調に仕事を続けているようだ。

 

新しい地図』のロゴ、サントリーDAKARA」のCMなど、

大きな仕事を次々と手掛けているという。

 

佐野研二郎 東京五輪ロゴのパクリ騒動後も仕事絶えず、大衆ウケが評価

https://www.excite.co.jp/news/article/Jprime_15790/

 

佐野氏は実力のあるデザイナーだ。

今後のさらなる大活躍を心から願っている。

 


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