ファンにとっては嬉しい大ニュースが発表された。
ネットフリックスが、マンガ『ONE PIECE(ワンピース)』の
実写版ドラマシリーズを制作し配信するというのだ。
●『ONE PIECE』ハリウッド実写化、Netflixで全10話配信 尾田栄一郎も参加
https://www.cinra.net/news/20200130-onepiece
もともとハリウッドのスタジオが制作するという話はあった。
今回のニュースの意味は、
ネットフリックスが大金を注ぎ込むことになったということだ。
これは楽しみだ!!
でも、実写化の成功までに立ちはだかるハードルはまだまだ多い。
「ぬか喜び」にならないように、心配するべき点を3つ挙げておきたい。
心配1:制作されない(塩漬け)
「制作されます!」という発表があったからといって、
本当に制作されるとは限らない。
あの名作マンガ『AKIRA』だって、
数年おきに「制作決定!」のようなニュースが聞こえてくるが、
なかなか実現していない。
最初に実写化のニュースを聞いてから、もう18年たってしまった・・。
『AKIRA』は“塩漬け”になってしまった作品の代表格だ。
●『AKIRA』悲願のハリウッド映画に! 日本作品の実写化が止まらない真相
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1907/05/news017.html
マンガ原作をハリウッドで実写化する場合、
いくつかの段階をふむことになる。
ステップ1:オプション契約
映画プロデューサーが映像化の可能性を探るために、
原作者に手付金だけを支払う契約。
ステップ2:本契約(green lighting)
映像化の可能性が高くなったので、
正式に映像化のライセンスをもらいライセンス料を支払う契約。
ステップ3:撮影開始
脚本が完成し、俳優や監督などもそろい、
撮影がはじまる。
ステップ4:作品完成・公開
無事に撮影やポスプロが終了し作品が完成され、公開される。
非常におおまかにいうと、上記4つのステップだ。
各ステップごとに交渉等に時間がかかるため、
それぞれ数年かかるのが普通だ。
ステップ1からステップ4に辿りつき、作品が公開されるのは
1パーセント程度しかないとも言われてる。
ステップ1の段階で「制作決定!」のようなニュースを聞いたとしても、
まだまだ可能性は低いのだ。
今回の『ONE PIECE』のニュースは、
ステップ2あたりではないかと思われる。
ステップ2に進んだものであっても、
キャスティングが上手くいかなかったり、
投資判断にマイナス要素が発生したりして、
制作が断念されるのはよくある話だ。
近年のネットフリックスの旺盛な制作意欲をみても、
『ONE PIECE』実写化の可能性はかなり高いと思うが、
まだまだ油断はできないと思う。
心配2:無残に改変される(原作レイプ)
多くの人が心配しているのが、このポイントだろう。
原作が無残な姿に改変されてしまう恐れ、
つまり“原作レイプ”の可能性だ。
日本のファンにとってはトラウマとなった
『DRAGONBALL EVOLUTION』が、良い例だ。
●鳥山明氏、実写版「ドラゴンボール」の失敗認める 「『ダメだろうな』と予想していたら本当にダメだった」
https://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1304/08/news029.html
「ドラゴンボール」の失敗を意識していることは間違いない。
3年前の実写版制作発表でこんなコメントを公開している。
「まず「20年間作品を支えてくれているファンを絶対に裏切らない事。」
これが僕からの条件です。
不安の声もあがるでしょうがどうか期待の声をください。」
実写化にあたり、
尾田氏はエグゼクティブ・プロデューサーとして参加するという。
「尾田先生が参加するなら大丈夫だ!」
と胸をなでおろしたファンもいるかもしれないが、
安心するのはまだ早い。
「エグゼクティブ・プロデューサー」という大仰な言葉が、
何を意味するのか分からないからだ。
アイドル女優が警察署の「一日署長」になったからといって、
その女優さんが本当に警察を指揮する権限をもっているとは
誰も思わないだろう。
「一日署長」はただの「宣伝担当」だ。
「エグゼクティブ・プロデューサー」も同じ意味かもしれない。
重要なのは、尾田氏が実質的な権限を持つことが
契約で保証されているかどうかだ。
ハリウッドやネットフリックスのプロデューサーと、
原作者の意見が対立したとき、どちらの意見が優先されるのだろうか?
最終的にはハリウッドやネットフリックス側の意見が通るように
契約書は設計されているのではないか。
あくまでも金を出すのは彼らだ。
尾田氏はお金をもらう側の立場にいる。
金を出す方が強い。
先日の尾田氏のコメントの中に、
「あの世界一の動画配信サービスNetflixが大きく力を貸してくれる事に
なりました!心強い!」
というものがあったが、これは間違っている。
ネットフリックスが金を出し、ネットフリックスが制作するのだ。
尾田氏の方がギャラをもらい力を貸す側にいる。
(「夢の実現に力を貸す」という曖昧な意味なら
間違いとまでは言えないかもしれないが、そんなことを言い出すと
世界中の人が力を貸しあっていることになってしまう)
日本には「原作者の意思が大切にされるのは当たり前」
という文化があるが、彼らには日本の常識は通用しない。
最終的な決定権を相手に握られた状態で、
どれだけ踏ん張れるのだろうか・・・?
ネットフリックスはマーケティングやデータを重視する企業だ。
データを重視した結果、
「セクシー」と「バイオレンス」を強調する演出になってしまうのは、
よくあるパターンだ。
家族みんなで楽しめる明るい『ONE PIECE』を守るためにも、
ファンのために頑張る尾田氏を応援したい。
心配3:ルフィがルフィに見えない(テコリンの壁)
マンガのヒーローが実写化されたときに、
なんだか“ヘンテコリン”に見えてしまうことがある。
この現象は専門用語で「テコリンの壁」と呼ばれている。
スパイダーマンのようなアメコミヒーローの場合、
テコリンの壁はそんなに高くない。
マスクをかぶっているからだ。
原作とはイメージのかけ離れた俳優が演じたとしても、
マスクさえかぶればスパイダーマンに見えてしまう。
一方で『ONE PIECE』の主人公・ルフィは、
マスクをかぶっていない。
素顔のままで戦うヒーローだ。
テコリンの壁は高い。
原作とはイメージの違う顔立ちの俳優。
作り物感満載のメイクと衣装。
やたらと大げさな表情の演技。
こんな「コレジャナイ」要素が一つでも入り込むと、
たちまちヘンテコリンになってしまう。
ルフィのコスプレイヤーのお寒い芝居を延々と見せられる羽目になる。
CGキャラのチョッパーだけがリアルに見えるという結果になる。
実写化は失敗に終わる。
素顔のヒーローの場合、
相当にレベルの高い演出をしないとテコリンの壁を越えられない。
尾田氏をはじめ多くの優秀なスタッフと才能ある俳優なら、
きっと壁を越えてくれる・・・!と信じたい。
楽しみ!!
以上、喜ばしいニュースに水を差すようなことを書いてしまったが、
私自身は『ONE PIECE』実写化を本当に楽しみにしている。
ルフィにしか見えないオーラのある俳優が
英語で「海賊王に俺はなる!」と堂々と言っている姿を
見たくてしょうがない!
期待して次の発表を待とう。
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アメリカと日本のマンガヒーローの違いについては、
以前の記事で詳しく解説している。
テコリンの壁については、こちらの記事でも考察している。
また、ハリウッドと原作契約を結ぶときの注意点についても、
以下の記事でまとめている。
興味があれば読んでみてほしい。
https://twitter.com/Kei_Yoshizawa_t