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あなたの作品がハリウッドで映画化!?~悲劇の契約~(4)ハッピーエンド

日本のマンガや小説を原作にしてハリウッド映画を作る場合。

契約条件には要注意だ。

 

ここまでは3つのパターンの悲劇を見てきた。

 

・映画が制作されず、塩漬けになるケース

・映画は制作されるが、無残な姿に改変されるケース

・映画はヒットするが、名声とお金が手に入らないケース

 

 ハリウッドとの契約交渉という難関を突破するのは、

並大抵のことではない。

 

マンガ出版社の芸漫社に勤める角野君の最後の奮闘をみてみよう。

 

4度目の正直!

3つ目の悪夢から目覚めた角野君。

「次こそは失敗しないぞ!」と燃えている。

出社したところ、案の定ハリウッドから映画化のオファーが来ていた。

80年代にはやったマンガ『電脳ウォーズ・ヒロシ』のライセンスが

欲しいという。

今回の交渉相手は、ゴールドシュミット氏だ。

 

失敗から学ぶ男・角野君は積極的に動く。

 

社内のバックアップ体制を整えた。

相手の力量をリサーチした。

エリア・言語・期間・与える権利・などの条件には徹底してこだわった。

内容をむちゃくちゃに変えられないよう配慮もした。

 

さあ、今回の勝負はここからだ。

 

クレジット

契約書には「原作者としてHosomi Kazuhiroと表示します」と

書かれてはいる。

しかし、これで安心してはいけない。

日本の映画では「原作:〇〇」と目立つように表示するのは、

ほとんど当たり前のマナーとなっているが、

日本の常識は彼らには通用しない。

このままではエンドロールのまったく目立たないところに

チョロッと名前が書かれるだけってことになりかねない。

 

角野君は強気に「シングルカード」を要求した。

シングルカードとは、映画のオープニングなどで

画面上に単独で名前が表示されることで、

主演や監督など、特別に重要な人だけが得られる権利だ。

 

(シングルカードの中でも、何番目に出すか?の順番も、

 プロデューサーの手腕が問われる重要なポイントだ。

 『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』では、

 バットマン役のジョージ・クルーニーを差し置いて、

 悪役のアーノルド・シュワルツェネガーが

 最初のシングルカードで出てきた。

 あれを見たときは「いろいろあったんだろうな~」と

 複雑な思いになったものだ)

 

角野君は要求する。 

「原作者の名前をシングルカードで表示すると、

 契約書に書いてください」

 

しかしゴールドシュミット氏も手ごわい。

「シングルカードは出せる数が限られている貴重な資源だ。

 数多くのスター俳優やスター監督をブッキングしていく中で、

 非常に重要な交渉要素なっている。

 そんなに簡単にお渡しすることはできない。

 それに、反日感情の強い国では名前を出さない方が

 興行的にも有利なのだ。

 あきらめてほしい」

 

などと、かなりの抵抗にあったが一貫して強気に出た結果、

シングルカードの獲得に成功することができた。

これは快挙だ!

これで原作者の細見先生の名誉を守ることができる。

 

ボーナス

映画がヒットした場合は、

最初のライセンス料とは別にボーナスもほしい。

契約書にはお金の支払いについて非常に細かい取り決めが書いてある。

お金の話だけで20ページもある!

頑張って読み込む角野君だが、読んでるうちに頭がこんがらがってくる。

「あれ?ここで控除される費用と、さっきの費用は別なのか?」

うんざりしながら最後のページにたどり着いたときには、

1ページ目の内容が思い出せなくなっていた。

 

とりあえず、ボーナスの計算式らしきものは書いてはあった。

でも、いろんな条件がついていることも分かった。

 

よし、もう1度読もう。

 

こうして何度も読み返すうちに少しずつ内容が理解できてきた。

 

分かったのは、

ヒットした場合にボーナスが貰えると書いてはいるが、

独特の計算式の中でありとあらゆる数字が何重にも差し引かれ、

実際にボーナスが発生する可能性は低いということだった。

 

これは、何とかしたい!

でも、20ページもある条件の一つ一つを

交渉ではねのけていくのは、気が遠くなる作業だ・・・。

 

仕方ない。

計算式に手を加えるのはあきらめよう。

その代わり、相手が変えやすい部分にしぼって交渉しよう。

 

例えば数字。

計算式を変えるのは大変な作業だが、

その中の数字を書き換えるだけなら作業としては簡単なはずだ。

 

差し引かれる数字に上限を決めることも要求してみよう。

 

数字のごまかしのきかない興行収入(box office)に連動した

シンプルな計算式も提案してみよう。

 

角野君は、思いつく限りのアイデアを盛り込んで要求を続けた。

強い抵抗にあい難しい交渉となったが、最終的には

それなりに満足できる条件で合意することができた。

 

良かった。

これで、映画が大ヒットした場合でも、

ボーナスがもらえずに「損した気持ち」にならずに済みそうだ。

 

裁判所

良かった良かった。

今度こそ。本当に今度こそは、悲劇をみずに済む。

そう安心していたが・・・

 

嫌な予感がする。

いつもこのパターンで足もとをすくわれて失敗したじゃないか。

きっとまだ何か、問題点があるに違いない!

 

実は、一つだけ気になる点が残っていた。

もし芸漫社とゴールドシュミット氏がモメてしまい、

裁判になったら「カリフォルニアの裁判所で裁判する」と

書いてあるのだ。

 

角野君からは“ダメ元”で「東京の裁判所で裁判する」と

書き換えて提案したものの、

まったく相手にしてもらえなかったポイントだった。

 

芸漫社のスタッフも顧問弁護士も

「ここは譲ってもらうのは無理なんじゃないか」

と言っていたので、半ばあきらめていたのだ。

 

 でも、よく考えてみたら、これってすごく大事なんじゃないか?

カリフォルニアで本格的に裁判するとなれば、

弁護士費用だけでウン千万円が飛んで行ってしまう。

出張費だってバカにならない。

それに、相手の国の慣れない制度と言葉の中で戦うことになってしまう。

こっちにとっては、絶対に避けたい事態だ。

一方で、ゴールドシュタイン氏にとっては

地元で気軽に裁判をすることができるってことだ。

もし彼とモメてしまった場合、

「じゃあ、裁判で白黒つけましょう」と言われてしまうと、

それだけでこっちはグウのねも出なくなってしまいかねない。

裁判になる前から「負け」が決定してしまう。

 

やはりここは、簡単に相手の条件を飲んではいけない!

 

角野君は、最後の力をふりしぼって頑張った。

どんなに強く拒絶されても、次々と提案を投げ返した。

相手から返事がくるのは1週間後ぐらいだが、

角野君は半日で返事をかえした。

何度も「あの件どうなってます?」と問い合わせ、

プレッシャーをかけた。

どんどん交渉の回転速度を上げていった。

 

そして最終的には・・・

「裁判を起こす側が、相手の国の裁判所に出向く」

という対等な条件まで落とし込めた。

これなら、お互いに簡単には裁判を起こせない。

モメごとがあっても、誠実に話し合って解決する流れになりやすい。

裁判を避けたいからこそ、裁判の条件にはこだわるべきなのだ!

 

ハッピーエンド

こうして、契約書は締結された。

 

ゴールドシュタイン氏ががんばったおかげで、

映画はクランクインにこぎつけ、無事完成した。

全世界で公開され、大ヒットとなった。

さっそく続編の話も持ち上がっている。

角野君は続編の条件もしっかり取り決めていたので、

今後も有利に話をすすめられるだろう。

 

細見先生の名前は世界中に知れ渡った。

先生の息子さんも大喜びだ。

ボーナスもしっかり獲得し、裕福になった。

『電脳ウォーズ・ヒロシ』以外の先生の作品にも

注目が集まっていて、ドラマ化の話も進んでいる。

 

角野君が作品を愛し、粘り強く交渉したからこその結果だ。

芸漫社の多くの人は細見先生や担当の編集マンを褒めたたえたが、

角野君は自分自身に対して深い満足感をおぼえていた。

 

彼は、自宅で一人で祝杯をあげることにした。

お酒を口に付けようとするが・・・

 

「飲むのはやめよう。また夢になるといけない」

 

まとめ

今回の連載のポイントは以下のとおり。

 

・ハリウッドとの契約交渉は時間と労力がかかる。

 地に足をつけてじっくり取り組もう。

・こちら側のバックアップ体制を整えるのも大事。

・契約しても映画化が実現しないことが多いことを理解しよう。

・条件にはひたすらこだわろう。

・地域、期間、言語、映画化以外の権利など、

 与える権利についてしっかり考えよう。

原作レイプが起きないよう工夫しよう。

・クレジット表示に気を付けよう。

・お金の支払いがどうなるかも気にしよう。

・裁判所の場所も大事。

 

上記のほとんどは、相手がハリウッドじゃなくても通用する話だ。

覚えておこう。

 

じっさいの契約では、

これ以外にもたくさんの悩ましい問題に遭遇するだろう。

それでも諦めず、作品への愛情を胸に、堂々と交渉してほしい。

私もそうしている。

 

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今回の記事は、経験豊富で百戦錬磨の福井健策弁護士のセミナー

「日本原作の海外ライセンス攻略法 対ハリウッド契約を中心に」

を大いに参考にさせていただき書いものです。

深く感謝申し上げます。

 

 

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