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人工知能 × 著作権 第3次AIブームを振り返る(1)

 

AIが人間を超える!

AIに仕事を奪われる!

AIが人間を支配する!

 

ここ数年、毎日のように聞く言葉だ。

 

文化・芸術の世界でも、

AIが作曲できるようになったり、小説を書くようになったり、

美しい映像を作れるようになったりして、

作家・アーティストは仕事がなくなるのではないか?

ということが言われている。

 

本当にそうなんだろうか?

 

AIが作品を生み出せるようになったら、

我々の創作活動はどう変わるのだろうか?

 

その場合の著作権の扱いは?

 

今回は人工知能著作権について、自由に考えてみたいと思う。

 

『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』

年末年始のお休みで、本棚にある本を読み返してみた。

その中の1冊が『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』だ。

去年とても話題になった本なので、読んだ人も多いと思う。

 

AIブームの中で、山のような数の解説書・関連書籍が出版されたが、

私が読んだ中ではこれが一番分かりやすく、しかも刺激的だった。

 

書いたのは数学の専門家・新井紀子氏。

「ロボットは東大に入れるのか」

というAI開発のプロジェクトを立ち上げ、有名になった方だ。

AIに大学入試を突破できる能力を与えようとする試みの中で得た

知見を解説した上で、

・AIとはどのようなものか?

・AIの活躍する社会で人間はどうなるのか?

といった疑問に対して、明快に答えてくれている。

 

まずは、私なりの解釈で本の内容を説明したい。

AIについては世の中でさんざん語りつくされているので、

「もう分かってるよ」という人も多いと思うが、お付き合いください。

 

本の内容

今回のAIブームは3回目だ。

 

過去2回のブームの中で開発されたAIは、

「論理の積み重ね」によって作られていた。

「AならばB。BならばC」というルールを事前にAIに教えておけば、

AIが自力で「AならばC」と判断できるという考え方だ。

全てのルールを事前に入力できていれば、

あとはAIが正しく判断してくれるはずだった。

 

しかしこの方法では上手くいかなかった。

人間なら当然のように分かっていることの全てを

ルールとして教えることは現実には不可能だったからだ。

野球に例えると、

野球のルールや打撃・守備の理論を身につけていても

選手としては使い者にならないということだ。

ピッチャーとバッターの駆け引き、チームメイトの体調、

球場の天気など、

その場その場の状況はいつも違う。

その全ての対策を事前に教え込むなんて出来るわけがない。

 

最近になって、全く新しいやり方でAIが開発されるようになった。

ルールを教えることはハナから諦めたのだ。

ルールを教えず、ひたすら「現場」に学ばせる手法がとられた。

何も教えずに野球選手をいきなりゲームに出すのだ。

最初は全然使えないだろうが、

場数をこなすうちにプレイのコツを掴んでくれるに違いない。

 

このAI開発の方法が、なかなかのヒットとなった。

これまでの「事前にルールを教える」という考えで開発されたAIよりも、

圧倒的に良い成績を出せるようになったのだ。

野球選手が

「以前の球と似ているから、きっとこうすれば打てる」

と一瞬で判断するようなものだ。

AIは、写真や囲碁の対局をみて

「以前みた猫の写真と似ているから、きっとこれは猫だ」

とか

「以前やったときの対局と似ているから、きっと次はこう打てば勝てる」

とか、上手く判断できるようになった。

(ただし、AIに大量の場数をこなしてもらうために、

 すごい量のデータが必要になる)

 

これがきっかけで第3次AIブームがやってきた。

 

要するにAIとは、

「何も考えてないけど、めちゃくちゃ勘がいい奴」

ということだ。

 

でも、AIは万能ではない。

勘だけはいいが、「意味」を理解できない。

AIには「文章を読んでその意味を理解する」ということは、

絶対にできない。

 

モーツァルトの最後の、そして最も力強い交響曲には、

 ある惑星の名前が付けられています。

 この惑星は何ですか?」

というクイズに

「ジュピター」と正しく答えることはできる。

しかし、問題文の意味を理解しているわけではなく、

「こういう問題のときは、こう答えると正解の可能性が高い」

と判断しているにすぎない。

 

アマゾン・エコーのようなAIスピーカーが人間の呼びかけに

上手く返答したとしても、意味を理解しているわけではない。

勘で答えているだけだ。

 

AIが進化して人間の知能を超えてしまうなんてことも、

ありえない。

 

かといって、人間の立場は安泰だ。ということではない。

 

中学生、高校生に対してテストを行ったところ、

多くの学生がふつうの文章を読んでも、

その意味を理解できていないということが判明した。

例えば以下の問題。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 次の文を読みなさい。

 

 Alexは男性にも女性にも使われる名前で、女性の名Alexandraの愛称であるが、

 男性の名Alexanderの愛称でもある。

 

 この文脈において、以下の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを

 選択肢のうちから1つ選びなさい。

 

 Alexandraの愛称は(   )である。

 

 ①Alex ②Alexander ③男性 ④女性

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

正解は当然①のAlexだが、

中学生の正答率は38%、高校生でも65%という恐るべき低さだった!

 (「④女性」と間違って答えた生徒が多かった)

 

多くの学生が文章の意味はちゃんと分からないままに

「以前のテストで似たような問題あったから、きっとこれが正解だ」

という「勘」で答えていたのだ!

 

文章の意味は分からないけど、勘で当てにいく。

これは、AIの能力と全く同じだ。

 

AIはデータから学習し、どんどん勘の鋭さに磨きをかけていく。

勘の良さでは、人間はAIに勝てない。

AIと似た能力しか持っていない人間は仕事を奪われる。

失業者が増え、世界経済はひどい状態になっていくだろう。

 

文章を読んで意味を理解する力を身につけ、

人間にしか出来ない仕事をやっていくしかない。

 

こんな内容の本だ。

(上記の「野球選手のたとえ」や

 「何も考えてないけど、めちゃくちゃ勘がいい奴」といった理解は、

 私の理解なので、間違っていたとしても新井氏の間違いではありません)

 

感想 

雇用の未来が、本当にお先真っ暗なのかどうかは異論のある人もいるだろうが、

読み物としては非常に面白い。

「AIのせいで仕事が無くなる!」と、むやみやたらと不安を煽る本は多いが、

この本はちゃんと根拠に基づいて怖がらせてくれる。

中高生の読解力を解説する部分では、

あまりの現状に背筋が寒くなる。

 

AIへの理解が深まると同時に、テスト結果に衝撃を受けるという、

贅沢な読書体験ができる。

まだ読んでいないのなら、読んでみてはどうだろうか。

 

 

 

文化はどうなる?

AIが発達した世界はどんな世界なのか?

雇用問題ももちろん心配だが、筆者の関心は文化・芸術への影響だ。

 

すでにAIは

作曲ができる。

動画も作れる。

 

こんな時代に、芸術家は生き延びることができるのか?

AIが作った作品の著作権で儲けることはできるのか?

 

今回説明したAIの知識を前提に、

次回以降はいろいろと自由に考察してみたい。

 

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