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スパイダーマン VS モンキー・D・ルフィ 日米2大ヒーローの対決に完全決着!(3)

先週までは、スパイダーマンとルフィを題材として

日米のコミックヒーローを比較した。

 

大きな違いは2つ。

 

1つ目は、「作品が誰のものか?」という点。

日本では、マンガの著作権はマンガ家個人のものだが、

アメリカでは、会社が組織として権利を管理する。

 

2つ目の違いは、「素顔かマスクか?」という点。

日本のヒーローは素顔のままだが、

アメリカでは、多くのヒーローがマスクをして戦う。

 

この2つの違いにより、アメリカのコミックヒーローの方が

個人の持つ弱みに振り回されることなく、

より「組織的・長期的」に活躍できるシステムが

組み立てられていることが分かった。

 

では、全ての面でアメリカの仕組みの方が優れているのだろうか?

日本のヒーローは、アメリカンヒーローに勝てないのだろうか?

 

もちろん、そんなことはない。

 

アメリカンコミックの弱み

アメリカではマーベル社のような会社が複数のクリエイターを雇い、

チームを編成し、かなりの期間と予算を使って作品を生み出していく。

 

こうなると「冒険」がしづらい。

過去のデータを分析し、ある程度の読者が見込める企画、

好まれそうなビジュアル、ファンを引き付けそうなストーリーになっていく。

クリエイターの一人がマニアックな企画を思いついたとしても、

なかなか企画会議を通ることはないだろう。

ニッチな作品では採算がとれないからだ。

 

こうしてアメリカのコミック作品は、どれも同じようなものになっていく。

実際、アメリカのコミックではヒーローもの以外のジャンルの作品が少ない。

シン・シティ』のような王道の犯罪ものであっても、

「異色作!」と評価されてしまうぐらいなのだ。

 

そして、会社にとって一番手堅いのは、

すでに実績のあるキャラクターを再登場させることだ。

これならファンの数も読める。

スパイダーマンをそろそろ復活させようじゃないか。

 なぁに、大丈夫さ。

 ファンは同じものを何度でも味付けを変えて楽しみたいだけなのさ」

ということになる。

 

これでは、ヒーローの「新陳代謝」、「世代交代」が進まない。

ヒーローの世界が、年老いた「大御所」ばかりになってしまう。

1930年代生まれのスーパーマン(およそ80才!)が

いつまでたっても第一線で頑張っているのがアメリカなのだ。

これでは若いヒーローが活躍しづらい。

(まるで日本企業の悩みのようだ!)

デッドプール』が人気になったのは、

そんな硬直しきった業界構造や「大人の事情」をネタにし、

面白おかしく茶化してみせたからだ。

デッドプールの存在こそが、アメリカンコミックの限界を証明している。

 

日本のマンガの強み

日本はどうなっているだろう?

 

日本では個人が作品を生み出し、個人が権利をもつ。

作品が売れなくても、そのリスクを負うのはマンガ家個人だ。

この体制なら、思いきって好きなことを書きやすい。

 

こうして日本では、

マンガ家の個性が爆発した作品が、たくさん生み出された。

 

 アメリカの出版社の企画会議で、

素人が描いたような❝ド下手❞なタッチの作品に「GO」が出るだろうか?

(『珍遊記』)

 

アメリカには、

離島で医者をしているだけの地味な男を

「ヒーロー」として描き切るクリエイターはいるだろうか?

(『Dr.コトー診療所』)

 

アメリカ人は、

ひたすら麻雀しているだけの物語を、

面白い!と感じ、ファンとして支え続けることはできるだろうか?

(『麻雀飛翔伝 哭きの竜』)

 

アメリカには、

珍遊記』や『Dr.コトー』や『哭きの竜』を作り出す力はない。

これらは、日本でないと絶対に生まれなかった個性的な作品だ。

これほどバラエティに富んだマンガが読める国は、日本以外にはない。

 

制作体制や著作権を、全て個人任せにしてしまう日本のマンガ業界は、

驚くほどの多様性を生み出した。

 

そして今日も、

今まで見たこともないような新しいマンガ、

非常にニッチなヒーローが新たに生み出されているのだ。

 

今後の戦略

日本とアメリカは、コミックの世界では2大強国だ。

 

アメリカの強みは、組織力が生み出す安定性。

日本の強みは、個性が生み出す多様性。

 

この2つの特徴の「いいとこどり」はできないだろうか?

 

きっと出来ると思う。

 

日本の個性を生かす仕組みはそのままに温存しながら、

部分的にアメリカの体制をマネしてしまおう。

 

組織的にマンガを制作する体制を作ってしまうのだ。

出版社がやってもいいし、それ以外の会社が参入しても良い。

今大流行しているマンガアプリの運営会社がやってもいいだろう。

(彼らは他のアプリと差別化するために、オリジナルのコンテンツを求めている)

 

会社がマンガ家を(可能な範囲の期間で)雇ってしまうのだ。

チームを組織し、プロデューサーの指揮のもと、

役割分担しながらマンガを描こう。

 

マスクをかぶったヒーローも登場させてみよう。

文化の差もあり、日本では受け入れられるのに時間がかかるかもしれないが、

そのうち読者も慣れるはずだ。

 

素顔とマスクの「中間点」を探ってみても良い。

参考になるのは、『ガッチャマン』だ。

あの奇妙なヘルメットは、非常によくできたデザインになっている。

あれをかぶせれば、

誰にでもガッチャマンだと分かる程度には上手に描くことができる。

実写化したときも、ヘルメットがあればガッチャマンには見える。

役者の交代も簡単だ。

こうしたマスクのメリットを生かしつつ、

一方でちゃんと表情を見せることもできるデザインになっているのだ。

(他にも『タイムボカン』や『キャシャーン』など、

 タツノコプロのヒーローのヘルメットは、みな「優れモノ」だ。)

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ガッチャマン」DVDより ©タツノコプロ/2013映画「ガッチャマン」製作委員会

 

 日本オリジナルのマスクヒーローを開発し

組織の力を使って積極的に宣伝、商品化、映像化を展開し、

世界に売って出よう!

 

マンガ家のキャリア

同じことを1人のマンガ家のキャリアという目線で考えてみると、

分かりやすいかもしれない。

 

あるマンガ家の卵が、こんな夢を持っているとしよう。

「思い切り好きな作品を描きたい!

 有名になって大金持ちになりたい!」

 

いきなり個人としてマンガ家活動を始めても良いが、

自分1人でやっていく自信はない。

まだそんなに上手く描けないし、収入のアテもない。

かといってバイトをしながらマンガを描くような生活はしたくない。

自分の時間の全てをマンガに注ぎ込みたい。

 

そんなとき、ある出版社が契約社員としてマンガ家を募集しているのを知る。

申し込んだ結果、採用された。

こうして「社員」としてマンガを描く毎日が始まる。

部分的な作業を任せてもらい、プロデューサーの指示に従って描く。

キャラクターはマスクヒーローなので、描きやすい。

苦手な作業のコツは「先輩社員」に教えてもらえる。

本人の適性に合わせて、定期的に担当する仕事が変わったりもする。

脚本だけを作るライター専任の時期もある。

自分が部分的にでも貢献した作品が読者に届くのは嬉しい。

やりがいになる。

残念ながら担当していた作品は人気が出ずに打ち切りとなったが、

心配ない。

他の作品を制作する部署に異動になるだけだ。

新しい部署では、これまでとは違う作風を経験できる。

(有名なマンガ家にアシスタントとして雇われている友人もいるが、

 経験できる仕事の幅と、安心感が全然違う。)

給料は決して高くはないが、生活することはできる。

採用されるかどうか分からないマンガを個人で描きながら、

不安定な生活をするよりは、ずっといい。

その代わり、作品の権利は全て会社のものだ。

 

数年後、経験を積んだこのマンガ家は、キャリアアップを考え出す。

契約更新の時期にあわせて他社に移っても良いかもしれない。

いや、そろそろ1人立ちする時期なのではないか?

実は、温めてきた企画がある。

出版社の企画会議では通らないような、

マニアックで尖った企画だ。

でも、自分ならめちゃくちゃ面白いマンガに仕上げられる自信がある。

やろう。

自分の名前で作品を発表し、自分が権利者になるのだ。

 

こうして、自分のキャリアの中で油の乗った時期に独立し、

思う存分に活躍してもらえば良い。

そのとき生み出した作品やキャラクターの権利は個人のものだ。

権利ビジネスでしっかり儲けよう。

 

しかし、いつまでも調子の良い時期は続かない。

創作のアイディアが切れてしまうこともあるし、

作風が時代と合わなくなってしまうことだってある。

 

そんなときは、また会社に雇ってもらうのだ。

特定の技能に優れた「職人」としてキャリアをつないでいくのも良いし、

後輩の指導役になっても良い。

キャリアを生かし、

プロデューサーとして再ブレイクを狙ってみるのも良いだろう。

 

この場合、彼が個人で活動していた時期に生み出したキャラクターの権利は

どうなるだろう?

個人で管理しても良いが、ここはやはり会社が組織として管理した方が良い。

それなりの対価をもらい、著作権を会社に譲渡してしまおう。

精魂込めて生んだキャラクターが、自分の手元を離れるのは辛いかもしれない。

でもそれは、「自分だけのキャラクター」が、

会社を通じて「みんなのキャラクター」となっていき、

時代を超えて愛されるシンボルへと成長していくためのプロセスなのだ。

 

これは、自分が創業した会社が成長し、ついに株式公開する瞬間に似ている。

「自分のもの」だった会社が「社会全体のもの」になるのだ。

創業者は寂しさを覚えつつも、誇らしい気持ちで一杯のはずだ。

 

もちろん、著作権を譲渡するときに

「創作者として絶対に譲れないポイント」だけは

決めておくべきだ。

(例えば、「このキャラクターは、お酒のCMには出しちゃダメ!」のような)

契約で明確にしておこう。

でもそれ以外のことは、

出来るだけ会社が自由に使える条件にした方が良いだろう。

 

こうして、このマンガ家は「社員→個人→社員」

というキャリアを歩むことになった。

もちろん、これ以外のルートがあっても良い。

 

これまでのマンガ家には、

個人として「イチかバチか」で勝負し、

ヒット作を生み出せれば、その作品で稼ぎきる。

という成功モデルしかなかったように思う。

(それでも、いずれは「往年の人気マンガ家」と呼ばれ、

 過去の人になっていく)

 

「人生百年時代」と言われている中で、マンガ家にも 

もっと様々なキャリアの選び方があって良いと思うのだ。

 

日本のキャラクター

今回の連載では、マンガヒーローだけに論点を絞って考えてきた。

しかし日本のキャラクターは、マンガヒーローだけではない。

もっと色んな種類、性格、出身のキャラクターがいる。

 

・動物系

 キティちゃん、ドラえもんピカチュウなど。

・ロボット系

 アトム、ガンダムエヴァンゲリオンなど。

・特撮もの出身

 ゴジラウルトラマン、戦隊ヒーローなど。

・ゲーム出身

 マリオ、ロックマンなど。

ご当地キャラ

 ひこにゃんくまモンふなっしーなど。

 

その他にも、数えきれないほどたくさんいる。

どう分類したら良いか分からないほどだ。

 

さすが「八百万神(やおろずのかみ)」の国・日本。

日本で生まれ、世界中で愛され続けているキャラクターも多い。

 

これらキャラの中で、

世界規模・長期目線で見ると活躍しきれていないジャンルが、

1つあった。

それが、マンガヒーローだったのだ。

 

あなたが子供の頃に夢中で読んだマンガの登場人物で、

今でも現役で活躍しているヒーローはどれだけいるだろうか?

ほとんどいないのではないか?

 

マンガ出身のヒーローの多くが、一時的に日本国内で大人気となり、

世代がかわるとともに「過去のヒーロー」となってきた。

 

もったいない!

日本のマンガクリエイターは、誰よりも実力を持っているのに!

私自身、ヒーローの熱いセリフと行動に

何度となく勇気をもらって生きてきた。

だから分かる。

日本のコミックヒーローの本当の力はこんなもんじゃない!

 

仕組みを少しかえるだけで、もっと実力を発揮できるはずだ。

 

日本人お得意の組織力で生み出されたヒーローと、

マンガ家の個性が輝くヒーロー、

両方が一緒になって大活躍している世界を見てみたい。

そしてそのヒーロー達が国境を越え、世代を越え、

みんなに愛されるヒーローに成長していく様子を見てみたい。

 

そしていつか、どこかの国の親子にこんな会話をしてほしいのだ。

 

「マイク、何読んでるんだい?」

「『ルフィーマン』のコミックだよ。僕、大好きなんだ。」

「そうか!お父さんも子供のころは、ルフィーマンが大好きだったんだ!

 今でも当時のコミックは大切に保管してるんだぞ。

 ところで知ってたかい?

 ルフィーマンって、もともとは日本のコミックだったんだよ。」

「へー、そうなんだ!

 ねえお父さん、昔のルフィーマンってどんなだったの?」

「うん、きっと今と変わらないよ。

 昔からルフィーマンは、仲間のためにガムシャラに頑張る奴だった。

 お父さんは、友情の大切さをルフィーマンに教えてもらったのさ」

「へー、面白そう!

 お父さんのコミックと僕のコミック、交換して一緒に読もうよ!」

 


これが、今回の連載を書いた動機だ。

 

 

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読者の皆様、

本年はお付き合いいただきありがとうございました。

来年も良い記事を書いていく予定です。

 

来週の連載はお休みします。

 

良い新年をお迎えください!

 

吉沢計

 

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