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著作権法の穴は埋まったのか?

今回は、1年ほど前に書いた記事の続きだ。

以前テーマにした「著作権制度の欠陥」について、

もうすぐ大きなルール改正がある。

その内容を簡単に説明しておこう。

 

著作権制度の欠陥

以前の記事で、著作権に関する「契約」をテーマにしたことがある。

その中で、以下のようなケースについて書いた。

 

・クリエイターが作品をつくる。

・クリエイターと企業Aがライセンス契約をむすぶ。

 (許諾契約)

・企業Aは作品を使って稼ぐ。

・とろが、クリエイターが作品の著作権を企業Bに売ってしまう。

 (譲渡契約)

・新しく権利者になった企業Bは企業Aに

 「あたなには使わせません」と言う。

・企業Aは作品を使えなくなり困ってしまう。

 (許諾契約より譲渡契約の方が強い)

 

今の著作権の制度では、実際にこんなことが起きてしまう。

(「子連れ狼」事件)

作品を活用するために投資したお金がムダになってしまう。

こんなことなら、

誰も本気で作品のライセンス契約に大金を支払おうとは思わなくなる。

これは「著作権制度の欠陥だ」と言う人もいる。

 

そんな話を書いた。

 

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ルールの改正

しかし、法改正が実現した。(施行は今年の10月1日から)

上記のケースでいうと、

企業Aは今後も安心して作品を使い続けることができる。

 

しかし、実際には安心とは言えない部分も残っている。

それはどういうケースなのか?

 

記憶に残しやすいように、

今回も具体的な事例で考えておこう。

 

人気ゲーム!

珍天堂はゲームメーカーだ。

新作ゲームを次々と開発し発表している。

今一番稼いでいるゲームは、

人気漫画「ワンピーク」のアクションゲームだ。

「ワンピーク」を書いている漫画家の小田誠一郎と契約をむすび、

独占ライセンスを得て開発した。

 

珍天堂のライバルメーカーであるゼガも、

「ワンピーク」のゲームを作りたがっているが、

珍天堂が独占ライセンスをもっているので手が出せない。

 

ほんとうは小田誠一郎は

「色んなメーカーにライセンスして、色んなゲームを作ってほしい」

と言っていた。

しかし珍天堂はどうしても「独占」が欲しかった。

そこで、相場の3倍のライセンス料を支払い、

「珍天堂以外にはライセンスしない」という条件を勝ち取ったのだ。

 

「ワンピーク」のゲームは売れに売れている。

続編の開発も順調だ。

珍天堂は「ワンピーク」とともに、ますます発展していくだろう・・!

 

そこへ、一本の電話が。

ライバルのゼガからだ。

「もしもし、ゼガです。

 小田誠一郎さんから当社へ「ワンピーク」の著作権は譲渡されました。

 著作権は我々のものです。

 つきましては、珍天堂にはライセンスしません。

 今後あなた方は「ワンピーク」を使うことは一切できません」

 

なんということだ・・!

まさかこんなことになるとは・・・!

 

この場合、基本的に珍天堂にはなす術がない。

小田誠一郎に損害賠償を請求をすることぐらいは出来るだろうが、

「ワンピーク」を使うことは出来なくなってしまう。

これが、今までの制度だった。

 

しかし、これからは違う。

珍天堂はゼガにこう言い返すことができる。

「そんなことはありません。

 著作権法は改正されました。

 当然対抗制度というものがあるんです。

 我々は、今後も「ワンピーク」を使い続けることができます!」

ゼガも諦めるしかない。

こうして珍天堂の利益は保護された。

めでたし。めでたし。

 

これが、今回の法改正の目的だ。

 

しかし、この話にはもう少しだけ先がある。

 

作品の著作権を手にしたゼガが、

自社で「ワンピーク」のゲームを開発して発売したのだ!

先行する珍天堂のゲームを研究したうえで作られているので、

クオリティは高い。

珍天堂は、急に過酷な競争にさらされることになった。

 

今回の法改正でも、この事態を防ぐことはできない。

あくまでも「今まで通り「ワンピーク」を使えますよ」という点は

保護されるが、

「今まで通り独占ですよ」という点までは保護してもらえないのだ。

(この点については政府の中で「今後の検討課題」とされている)

 

しかし、そうなると珍天堂としては納得がいかない。

独占だったからこそ、普通の3倍ものライセンス料を支払っているのだ。

せめて今後はもっと安い料金にしてほしい。

そこで新たな権利者となったゼガと交渉することにした。

「ライセンス料は3分の1にしてください」

しかしゼガはこう返答してきた。

「契約条件は小田誠一郎さんからそのまま引き継ぎましたので、

 そのままの条件でお支払いください」

 

かなり無茶なゼガの主張だが、政府の検討会でも、

もとの契約条件がどの程度まで

新しい権利者に引き継がれるのかについては、結論がでていない。

ゼガの言っていることがそのまま通ることはないと思うが、

最終的には裁判ではっきりさせるしかなさそうだ。

また、何らかの理由でゼガが

「権利者が変わったから、もっと払え!」

と言ってくる可能性もある。

このようなケースについて文化庁のQ&Aには以下のように書いてある。

 

利用者(ライセンシー)が当初許諾された利用方法及び利用条件の範囲内で,利用を継続することができ・・(中略)・・追加の支払を求められたりすることがなくなり,安心してビジネスを行うことができる環境の整備に資するものと考えています。

 

●令和2年通常国会 著作権法改正について

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/r02_hokaisei/

 

これを読む限りでは、料金アップはないことになっているが、

もとの契約条件がどの程度引き継がれるかはっきりしない以上は、

追加支払いが絶対にないとまでは言い切れないと思う。

 

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というわけで、ライセンス契約について、

今までよりは随分と安心感が増えたのは事実だ。

しかし、完全に安心できるとまでは言えない。

 

今後、ビジネスの場でライセンスを受ける立場になったときに

このことを思い出そう。

 

 

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