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あなたの作品がハリウッドで映画化!?~悲劇の契約~(3)奪われた名声と大金

日本原作のハリウッド映画化。

満足できる契約条件にたどり着くまでの道のりは遠い。

 

ここまでは2つのパターンの悲劇を見てきた。

・映画が制作されず、塩漬けになるケース

・映画は制作されるが、無残な姿に改変されるケース

 

今回は3つめのパターンを見てみよう。

 

3度目の正直!

芸漫社でを退社した角野君。

ある朝目を覚ますと・・・これまでの出来事は全て夢だった!

 

「良かった・・・次こそは失敗しないぞ。

 3度目の正直だ!」

 

出社してみると、社内の雰囲気が浮ついている。

ハリウッドのゴールドブラムというプロデューサーから、

マンガ『電脳ウォーズ・ヒロシ』の映画化へのオファーがあったのだ。

 

角野君は法務担当として素早く対応する。

社内を落ち着かせ、バックアップ体制を整える。

じっくりと相手と交渉し、少しずつ満足できる条件を獲得していった。

 

改変権の交渉

しかし、ゴールドブラム氏がどうしても首をたてに振らない条項があった。

「映画の内容に関する決定権はゴールドブラム側にある」という点だ。

 

しかしここは簡単に譲るわけにはいかない。

相手に決定権を認めてしまうと、

『電脳ウォーズ・ヒロシ』が

見るも無残な駄作に作り変えられてしまうかもしれない。

 

角野君は改変権については特に重点的に主張した。

 

「この作品は原作者の細見先生がクリエイターとしての魂をこめて

 書き上げた血と汗と涙の結晶なんです。

 先生が納得できないものを作らせるわけにはいきません。

 最終的な脚本に対して我々のapproval(承認)を得なければ、

 映画化できないという条件が必要です。

 ここは譲れません」

 

しかしゴールドブラム氏も手ごわい。

 

「ミスター角野。

 きみはハリウッドの仕組みをよく理解していないようだ。

 我々は数百億円の製作費をかけて映画を作る。

 脚本制作の段階で無数のスタッフがキャスティングや撮影準備に動き、

 すでに多額の費用がかけられている場合もある。

 それなのに原作者の個人的な好みでストップがかけられてしまえば、

 それだけスケジュールが延び、さらなる費用がかかる。

 そんなリスクは冒せないことは、

 あなたも我々の立場を想像すればわかるはずだ」

 

「し、しかし、日本では原作者を大切にする文化があるんです。

 原作を大切にしているかどうかは、作品のファンが見れば分かります。

 映画を成功させるためにも、「原作者の承認を得ている」という形を

 担保しておくことが重要なのではないですか?」

 

「あなたの国の文化や商慣習は理解するが、

 リスクをとって映画を作る我々のことも理解してほしい。

 承認権は認められない」

 

何度も交渉を繰り返すが、

一歩も前進のないまま3か月が経過した。

 

作戦変更

どうすれば良いのか・・・

なんとかして契約を成立させたいが、このままでは決裂してしまう。

 

ここまでの感触では、承認権はどうやっても無理なようだ。

それでも「原作レイプ」だけは防ぎたい・・・。

 

角野君は方針を修正した。

作戦は2つだ。

 

まずは「作品内容のここだけは絶対に変えないで!」

というポイントを決めよう。

例えば

「主人公は普通の高校生であること」

「ゲームを通じて良い友人ができるエピソードを入れること」

などだ。

ポイントを限定すれば、相手も受け入れやすくなるだろう。

細見先生と相談して大事な要素(key elements)を挙げていった。

交渉の過程で絞り込むことになるかもしれないから、

優先順位も決めておいた。

契約で「ここだけは変えない」と決めれば、

それが作品の❝重石❞となり、

原作から遊離した映画になることを防げるだろう。

 

もう1つの作戦は❝嫌がらせ❞だ。

映画を「承認する権利」は諦めるとしても、

「気に入らないときは嫌がらせできる権利」は確保しよう。

具体的にはこんな感じだ。

「もし最終脚本に対して原作者とゴールドブラム氏の意見が対立し、

 1か月以内に解決しない場合は、

 電話会議を開催する。

 その電話会議には、監督とトップの脚本家を出席させないといけない。

 この電話会議を反映して脚本を修正し、

 それでも意見が対立し、1か月以内に解決しない場合は、

 もう1度電話会議を開催する。

 そこにも監督とトップの脚本家を出席させないといけない。

 その後1か月以内に解決しない場合は、

 ゴールドブラム氏の意見が優先される」

 

これなら「予防効果」があるはずだ。

ゴールドブラム氏にとっても、

忙しくてギャラの高い監督や脚本家をわざわざ会議に召集するのは、

気が重い作業だろう。

電話会議をさけるためにも、

こちらの意見を聞こうという気になるに違いない。

 

角野君は

「大事な要素」と「嫌がらせする権利」の

2つの作戦で、あらためてハリウッドとの交渉にのぞんだ

 

それからさらに3か月・・。

 

タフな交渉の結果、「大事な要素」は数を大幅に減らされ、

電話会議の回数は1回だけとなったが、

ついに合意に達することが出来た。

契約成立だ!

 

これだけやれば、原作レイプが起きる可能性は低い。

細見先生にも原作ファンにも喜んでもらえる映画になるだろう。

もう悲劇は起きない。

これで一安心だ。

 

3度目の悲劇

数年後、ハリウッド映画『電脳ウォーズ・ヒロシ』が

全世界で公開された。

 

内容的にもよく出来ている。

原作の良い部分をいかしながら、現代風のアレンジもきいている。

ゴールドブラム氏がこちらの意見をかなり聞いてくれたおかげだ。

 

日本の原作ファンの評価も上々だ。

「子供の時に読んだ気持ちを思い出したよ。

 原作愛を感じる」

 

原作を知らない海外のファンにも受け入れられ、

興行成績的にはスマッシュヒットとなった。

 

良かった。良かった。

 

しかし・・

 

息子と一緒に映画を観に行った細見先生の表情がすぐれない。

どうしたのだろう?

事情をきくと息子がガッカリしているというのだ。

「どこにもお父さんの名前が出てなかったよ!なんで!?

 友達にも自慢してたのに・・・」

 

そんなはずはない!

契約書には原作者の名前を映画の中で表示するように、

はっきり書いてあったはずだ。

 

慌てて角野君が映画をみてみると・・・あった。

確かに

「Based on the original comic ❝Computer Wars Hiroshi❞

 created by Hosomi Kazuhiro」

と出てはいる。

でも、延々と続くエンドロールの真ん中あたりに

小さく出ているだけで、全く目立たない。

これでは、海外の映画ファンには細見先生の原作だと伝わらないじゃないか。

実際、海外での評価はマイケル・ポイ監督に集中している。

「監督の創作した独創的な世界観は最高にクールだ!」

SNSで見るのはそんな声ばかりだ。

 

しかし残念なのはそれだけではなかった。

 

最初の契約金だけは受け取っていたが、

映画がヒットしたときはボーナスが出ることになっていたはずだ。

それがいくら待っても振り込まれてこない。

これは変だ。

 

ハリウッドに問い合わせてみたが・・・

 

「追加の支払いはありません。

 契約書の45ページをみてください。

 この計算式により、製作費や配給費、

 その他いろんな費用が控除されます。

 まだまだボーナスが発生するには程遠い状態です」

 

そんな・・・!

 

映画化は成功したものの、真のハッピーエンドとはならなかった。

むしろ映画が成功したからこそ、

「原作者としての名声」や「手にしたはずの大金」が

奪われてしまったような気持ちだ。

 

またもや悲劇は避けられなかった。

角野君が会社をやめるには至らなかったが、

ハリウッド相手の難しさを

改めて思い知らされたのだった・・。

 

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角野君がもう一度だけハリウッドと戦う様子は、

来年えがいていこうと思う。

 

今回の記事は、経験豊富で百戦錬磨の福井健策弁護士のセミナー

「日本原作の海外ライセンス攻略法 対ハリウッド契約を中心に」

を大いに参考にさせていただき書いものです。

深く感謝申し上げます。

 

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来週の連載はお休みします。

 

読者のみなさま。

今年も1年お付き合いいただき、本当にありがとうございました。

良いお年をお迎えください。

 


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