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日本は英語を愛しすぎている。憎みすぎている。(1)

大学入試に民間の英語試験を活用する件について、

延期が決定され、大騒ぎになっている。

 

●安どと不満の声 英語民間試験延期 教育現場から

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191101/k10012160221000.html

 

「若者たちには世界で活躍してほしい!」

「英語はこう教えるべきだ!」

 

日本人は英語教育の話題が大好きだ。

 

今回は、英語について私の感じていることを

多少の独断と邪推もまじえながら書いておきたい。

 

日本語のユニークさ

日本語は非常にユニークな言語だ。

 

・発音の種類が少なく、全体的に間延びした音になる。

 (英語だと「strike!」と一息に言ってしまえるが、

  日本語だと「ス・ト・ラ・イ・ク」となってしまう!)

 

・漢字を巧みに使うことで、高度に抽象的な概念を扱える。

 (「抽象」「概念」って、すごく難しいことばを普通に使えてる!)

 

・文字が多彩で、ひらがな、カタカナ、漢字を使いこなす。

 (コトバ遊びにチョー便利!)

 

同音異義語が異常なほど多い。

 (「キシャのキシャがキシャでキシャした」

  →「貴社の記者が汽車で帰社した」

  ことば遊びに最適!)

 

・「音」だけではなく「字(漢字)」を思い浮かべながらでないと、

 人と会話ができない。

 (「希望するコーコーに一発で合格してくれました。

   ほんとに親コーコーな息子です」

  →「高校」と「孝行」を一瞬で思い浮かべている!)

 

こんなに変わった言語は、(おそらく)他にはない。

以前の記事に書いた通りだ。

 

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日本と英語の関わりの歴史

日本人は、西洋の文化・文明をどう受け入れてきたのか。

 

基本的には、他の「欧米以外の国」と同じだ。

 

欧米から先生を呼んで学問を教えてもらう。

国内のエリートが欧米に留学し、知識を仕入れ、

帰国し、学んできたことを伝える。

国内の知的レベルを上げていく。

こうして明治維新が推進されていった。

 

そして、その中心的役割を果たしたのが大学だ。

大学は、西洋の文化・文明を輸入するための施設だった。

 

大学では、英語を使えることは必須の能力だった。

(明治ではドイツ語とか他のヨーロッパ言語も大事だったが、

 ここでは英語で代表させておこう)

教材は全て英語で書かれている。

英語が分からないと授業にならない。

当時の学生の苦労は、夏目漱石の『三四郎』を読めばよく分かる。

 

 

英語ができないと学問ができない。

そして、出世もできない。

 

一部の家柄、血筋、地位の人でない限り、

出世してエリートの仲間入りをするためには、英語が必要だった。

英語が使えないと、❝お国のため❞に役立つ人材にはなれなかった。

 

こうして日本人の心の中には「英語への憧れ」が育っていく。

それと同時に、

英語が使えない人は「劣等感」を感じるようになっていく・・。

 

こう書くと悪いことのように感じるかもしれないが、

これはただの「自然現象」にすぎない。

それぞれの文化・文明を背負った言語同士の関係の中で、

どうしても「序列」「上下関係」が出来てしまうのだ。

これは避けようがない。

「出世したいけど英語がしゃべれない・・」と劣等感を持つ若者が、

「よし!英語を勉強しよう!」と考えるのは、

極めて自然で健全な向上心だと思う。

そうやって明治の偉人たちは道を切り拓いた。

 

ここまでは、他の「欧米以外の国」と同じ流れだ。

西洋文化・文明を取り込むときには、普通に起きることだ。

現在の途上国でも同じ状況がみられる。

 

しかし、日本ではその後ちょっと違う方向へ進んでいく。

 

日本語の進化

明治の知的エリートはすごく頑張った。

漢字を駆使して英語を次々と日本語に変換していった。

「science」「phylosophy」「life」「insurance」を

「科学」「哲学」「生活」「保険」と翻訳した。

識字率の高かった日本の庶民たちも、

新しい言葉を次々と理解していった。

日本語は劇的に進化した。

非常にユニークな言語になった。

 

しばらくすると、日本語だけで高度な学問をできるようになっていた。

英語がしゃべれなくても出世できるようになった。

 

今の学生たちは英語ができなくても東京大学を卒業できる。

英語が苦手でも、医者にも弁護士にもなれるし、

大学教授にだってなれる。

高級官僚にもなれるし、世界的大企業の社長にもなれる。

 

こんな国は、(おそらく)他には無い。

 

(ヨーロッパなら、自国の言葉だけで上に行ける仕組みはあるだろうし、

 アジアにもそういう傾向の国はあるだろうが、

 やはり日本の特殊性は際立っていると思う。

 「新しい大臣は英語が得意!」なんてことが

 話題になってしまう国なのだ!)

 

英語への姿勢

こうなると、日本人の英語に対する姿勢がおかしくなってくる。

 

明治の世の中と違い、英語の必要性は下がった。

英語なんか使えなくても出世できるのだ。

 

それでも、 言語の序列意識はそう簡単には変わらない。

日本人は相変わらず「英語への憧れ」と「劣等感」をもち続けた。

 

英語は、

「現実世界の役には立たないけれど、

 意識の中の序列付けにだけ使える言語」

になった。

つまり、日本人は「世間体」のためだけに英語を勉強するのだ。

 

ハイソサエティー❞の有閑マダムは、

歌舞伎を観に行ったり生け花を習ったりするのと同じ感覚で

英会話教室に通い、

イケメンの白人から使うアテのない言い回しを教わっている。

自分の序列を上げるために。


教育者の多くは、

自分の教え子が英語ペラペラになることを本気で望んではいない。

そんな生徒がいたら、自分の英語力の低さがバレてしまう。

大学教授の「権威」を守り、学内の「序列」を崩さないためにも、

生徒たちには英語が苦手でいてくれないと困る。

それでも教え子は出世していくので、自分の評価が下がることもない。

 

こうして英語教育は、実用性が低く、形だけのものになっていく。

重箱の隅をつつくような文法問題ばかりの大学入試テストが開発された。

現実の役には立たないけど、序列付けには最適のテストだ。

大学入試に合わせて、中学と高校の学習内容も細かい文法ばかりになった。

 

 こんな教育が行われているうちに、

「長年英語を勉強しているのに、全然しゃべれるようにならない!」

「テストの成績は良いのに、外国人をみるだけで緊張してしまう!」

「自分に問題があるのでは??」

と悩む生徒が増えていく。

 

こうして日本人の心の中では

健全な「憧れと劣等感」に、不健全な「罪悪感」がプラスされた。

(本人に罪はないのに!)

 

親は「子供たちにはこんな思いをしてほしくない!」とばかりに

英語教育にさらに熱心になる。

子供たちの心の中に「憧れ・劣等感・罪悪感」が再生産される。


多くの日本人が英語の話題になると

「いや~、いつかはやらなきゃと思ってるんだけどね・・」

と恥ずかしそうに笑ってごまかすようになった。

 

私の場合

こんなことを書いている私自身も、

「憧れ・劣等感・罪悪感」を抱えている1人だ。

 

私は日本人全体の中で言うと「英語ができる部類」に入ると思う。

 

学校での英語の成績は良かった。

(中高の英語の先生は、非常に熱心に文法を教えてくれた。

 個人個人の先生は生徒のためを思っている)

 

TOEICでは、上位1%ぐらいに入る点数を取ったこともある。

(4択の中で正解を見つけるのは得意。

 ギリギリで1%からは漏れたけど)

 

英語の本もたまには読む。

(日本語の本より時間がかかるけど)

 

ある程度の会話や議論もできなくはない。

(相手が配慮して会話のペースを落としてくれるなら)

 

それでも英語の話になると、

「いや~、もっと頑張らなきゃと思ってるんだけどね・・」

と恥ずかしそうに言ってしまう。

 

染み付いた「憧れ・劣等感・罪悪感」からは、

なかなか解放されない。

困ったものだ。

 

特に日本人特有の「罪悪感」はタチが悪い。

「憧れ・劣等感」だけなら、

英語力さえレベルアップすれば、いつかは克服できるだろう。

でも「罪悪感」だけは消えない。

これまでに費やした学習時間を無かったことにはできないからだ。

「こんなに勉強したのに・・悪いのは自分では?」

という思いだけは、消せない。

 

どうすれば?

日本人は英語に対して

非常に複雑な感情をもつようになってしまった。

 

だから誰もが英語教育の話になると、

ついつい感情的に熱くなる。

自分の経験に基づいて何かしら語りたくなってしまう。

日本人は英語教育の話題が大好きだ。

 

(余談だが、数十年後には「プログラミング教育」でも

 同じことが起きそうな気がしてしょうがない)

 

我々は今後、どうするべきなのだろう?

 

大学入試に民間英語試験を導入すれば解決するような話ではない。

これは、制度や技術の問題というよりは、

感情的・心理的な問題なのだ。

 

次回はこの大問題について、考えてみたい。

 


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