ゲームとは、映画である。
いやいや、別に比喩表現で深いことを語りたいわけじゃない。
著作権の世界では、
ゲームは間違いなく映画だということになっている。
そういう話だ。
著作物のジャンル
小説、音楽、絵画・・・など、
著作物と言われるものには色んなものがあるが、
とりあえずのジャンル分けがされている。
著作権法には、以下のように書いてある。
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(著作物の例示)
第十条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二 音楽の著作物
三 舞踊又は無言劇の著作物
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五 建築の著作物
六 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七 映画の著作物
八 写真の著作物
九 プログラムの著作物
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自分のつくった作品が、上記1~9のどのジャンルに分類されるのか?
または、どれにも当てはまらないのか?
(あくまでも「例示」なので、当てはまらない著作物もあり得る)
それによって、法律的な扱いが変わることがある。
例えば「美術の著作物」。
美術品が著作権法の中で特別な扱いがされていることは、
以前に説明したとおりだ。
ジャンルはけっこう大切なポイントだ。
ジャンル分けを見ていて気付くのは、
「あれ?マンガ、アニメ、ゲームは??
書いてないの?
日本が世界に誇る文化のはずなのに??」
ということだ。
まあ、これは仕方がない。
この法律は、1970年に出来たものだから。
マンガ、アニメ、ゲームが全く存在しなかったわけではないが、
今ほどメジャーではなかった。
わざわざ法律に書きこむようなものではないと
考えれらたのだろう。
(「プログラムの著作物」という異質なものが
紛れ込んでいることに気付いた人もいるだろうが、
今回は無視してほしい。
これは、アメリカの要求で後付けで入ってきたものだ)
マンガ
描いていたのは、1950年代。
有名なトキワ荘で藤子不二雄氏、石ノ森章太郎氏、赤塚不二夫氏らが
活躍を始めたのも50年代からだ。
だから法律が出来たときには、
マンガはみんなが読むものになっていた。
それでも、著作権法の中には入れてもらえなかった。
「マンガはレベルの低い読み物にすぎない。
高尚な文化を守る法律に入れるなんてケシカラン!」
みたいなことを言う人がいたのかもしれない。
マンガファンにとっては見過ごせない話かもしれないが、
実質的な面では、特に問題はなかった。
マンガのストーリーやセリフは、
「小説」や「脚本」と同じように「言語の著作物」として扱えば良いし、
マンガの絵柄は、
「絵画」なので「美術の著作物」と考えれば良いからだ。
マンガは「言語の著作物」と「美術の著作物」を組み合わせたものだ。
この説明で、十分いけた。
(著作権法の世界では無視(?)されていたマンガだが、
今では逆にマンガを守るために「ダウンロード違法化」を
無理やり成立させようとしている。時代は変わるものだ)
アニメ
『白蛇伝』や『太陽の王子 ホルスの大冒険』などの傑作を
作ったのは50年代から60年代にかけて。
テレビアニメを手掛けたのは60年代だ。
マンガと同様、商業的にも十分な存在感を見せていたが、
著作権法に「アニメ」と書かれることはなかった。
そして、それで問題なかった。
「映画の著作物」のジャンルに入れてしまえば、
それで十分だったからだ。
ゲームはどうなる?
それでは、ゲームはどうだろう?
上記のジャンルの中の、どれに当てはまるだろう?
ゲームは、マンガやアニメより歴史が浅い。
著作権法が出来た1970年。
ゲームはまだまだ黎明期だった。
一部のコンピューター愛好家や先進的な企業が
原始的で簡単なゲームを作っていた時代だ。
「ゲームは著作物なのか?
どのジャンルなのか?」
などとは、誰も考えていなかった。
1977年、アタリ社が家庭用ゲーム機「Atari2600」を
アメリカでヒットさせる。
翌年、日本では『スペースインベーダー』が喫茶店で大流行。
1980年代に入ると、
一気にゲームがメジャーになった。
コンピューターの処理能力の向上とともに
数々の名作タイトルが生まれた。
『ドラゴンクエスト』・・
子どもも大学生も、みんなが夢中になった。
中でも鮮烈な光を放ったのが1997年発売の
『ファイナルファンタジーⅦ』だ。
全編3Dの美しい表現。
繊細なCGで描かれた登場人物たちが繰り広げる
熱いアクションと悲しいドラマ。
これを機に表現の幅が一気に広がった。
ゲームは芸術だ!と堂々と言えるようになった。
しかし、この時点でも
「ゲームは著作物のどのジャンルに入るのか?」
は明らかになっていなかった。
長年はっきりしないままだった。
中古ゲームソフト事件
この疑問に答えを出したのが、「中古ゲームソフト事件」だ。
名だたるゲームメーカーが、中古ソフトの販売業者を訴えた事件だ。
ゲームメーカーにとっては、
遊び終わったソフトがすぐに中古品として売られてしまうと、
新品が売れなくなってしまう。
中古品の販売を禁止したい!
メーカーが勝つためには、2つのハードルを越える必要があった。
1つ目は、「ゲームは映画だ」と認めさせること。
ゲームは映像で表現されるものだ。
そういう意味では映画と同じだ。
他のジャンルと違って、
「映画の著作物」には「頒布権(はんぷけん)」という、
映画の流通を支配できる強力な権利がある。
全国の映画館のうち、
次はどこに映画のフィルムを渡すのか決めることができる権利だ。
「ゲームも映画だ」となれば、この特別な権利が手に入る。
2つ目は、
「頒布権は特別なんだから、中古品の流通もコントロールできる」
と認めさせること。
例えば本屋で小説を買ったあなたが、
読み終えた後にブックオフなどの古本屋に売ることは自由だし、
ブックオフが他の人に売ることも自由だ。
小説に著作権(譲渡権=販売権)があっても、
いったん本が売れた後に再販売することには口出しできない。
中古ゲームも同じではないのか・・?
「いやいや!そうじゃない!
頒布権というのは、すごーく特別なんだから、
一緒にしないでください!
映画の場合は、中古品の販売にも権利が働きます!」
というのが、メーカー側の主張だった。
この2つのハードルを越えることが出来たのか・・?
疑問への回答
結果としては、
1つ目のハードルは越えたが、2つ目は無理だった。
2002年の最高裁判所で結論が出た。
「ゲームは映画の著作物だ。だから頒布権がある」
そこまでは認められた。
でも、
「いくら頒布権があるといっても、
一般の消費者向けに販売しているゲームソフトは、
本と同じように中古品の販売は自由にすべきでしょう」
ということになった。
中古品の業者は今まで通りの商売を続けられるようになった。
ゲームメーカーは敗北した。
「ゲームは映画だ」という長年の疑問への回答だけを残して。
(ちなみに、映画会社はトバッチリを受けた。
自分たちが戦う前に「頒布権では中古品販売を止められない」と
結論が出されてしまったからだ。
映画の中古DVDを売ることは自由になった)
私見だが、映画であることを裁判所が認めたことに、
『ファイナルファンタジーⅦ(FFⅦ)』の功績は大きかったように思う。
平面的な画面を単純なキャラクターがピコピコと動き回るだけの
ゲームでは「映画だ」と断言しづらい。
でも『FFⅦ』レベルまで昇華された表現なら、
「映画だ」と言うことに何の抵抗も感じない。
裁判官がゲーマーだったのかどうかは知らないが、
『FFⅦ』以降の進化したゲームを見せられて確信したのだろう。
「ゲームを映画のジャンルに入れよう」と。
最初は著作権の世界から見向きもされなかったゲームだが、
少しずつ進化を積み重ね、
ついには「映画の著作物だ」と認めさせるに至ったのだ!
最近は、そして未来は
その後もゲームの進化は止まらなかった。
コンピューターはさらに高速になり、
オンラインで世界中とつながれるようになった。
ゲームは単に楽しむものではなく、
その世界に没入して体験するものになった。
一昨年のことになるが
には、本当にハマった。
私は主人公のリンクになりきった。
ハイラル王国の美しい景色の中で自由に駆け回る解放感。
竜骨モリブリンバットでガーディアンを打ちのめす興奮。
ライネルに見つかり逃げ惑う絶望感。
ゼルダ姫を救いたいという一途な思い。
仕事をサボって1週間家に閉じこもった。夢中になった。
私の人生の中で最も充実した時間の1つになった。
ゲームはまだまだ進化する。
eスポーツが浸透し、プロゲーマーは憧れの職業になった。
VR、AR、MR技術の登場で、
ゲームと現実世界の境目が消えつつある。
超人スポーツが注目をあび、
人間の肉体とデバイスも結びつこうとしている。
ゲームの中で人と出会い、友だちになり、
作詞や作曲をし、アイドルに歌ってもらい、
新しい街を建設し、買い物する。
ゲーム世界が「生活空間」となり「経済圏」になっていく。
『マトリックス』や『レディ・プレイヤー1』でおなじみの世界観だ。
そのとき、ゲームは「映画の著作物」と言えるのか?
「映像で表現されているから・・」なんて理屈が
説得力を持たなくなっていくだろう。
17年前には、やっとのことで「映画の著作物」の仲間入りを
させてもらえたゲームだが、今では立場が全然ちがう。
もはや「著作物」という枠組みさえも飛び越えそうな勢いだ。
ゲームという巨大な存在をどう扱ったらいいのか??
近いうちに著作権法が向き合う大テーマになるだろう・・。
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秋は、読書の季節でもあり、ゲームの季節でもある。
ゲームもたっぷり楽しもう!!
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