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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(5)

ここまでは、

著作権の世界における左派思想と右派思想や、

ディズニーとグーグルの生い立ちや現状を見てきた。

 

ディズニーは、その幼少期に著作権のトラウマをかかえ、

少しひねくれてしまった結果、右派思想に目覚め

著作権を強く主張するようになった。

 

グーグルは、瞬く間に大成功をつかんだ。

左派思想を信じ無邪気にみんなの幸せを願って成長してきたが、

著作権の壁にぶつかりイライラしている。

 

今回は想像力を働かせて、

両者の思想闘争の始まりとその行方を予想してみよう。

 

ロビイング

ロビイングとは、

自社に有利な法律ができるように政治家に働きかける活動のことだ。

欲にまみれた企業の社長が悪徳政治家にワイロを渡すシーンを

想像するかもしれないが、多くの場合そんなことはない(多分)。

ルールに従った献金や、

ちゃんとした説得による活動が大半だ(多分)。

 

ロビイングのイメージが湧かなければ、この映画をみると良い。

女神の見えざる手』。

法案を通すためには手段を選ばない超ヤリ手のロビイストの物語だ。

面白い。

 

 

 

ハリウッドの映画業界は伝統的にロビイングが上手いと言われている。

アメリカでいつも対立しているはずの共和党民主党

なぜかハリウッドに対しては甘く、

映画の著作権を強化する法改正を繰り返してきた。

もちろんディズニーだってその中心メンバーとして大活躍してきた。

小さな子供のいる議員に対しては、

こんな主張が胸に響いたに違いない。

「フォード上院議員!聞きましたよ!

 娘さんのエミリーちゃんはミッキーのことが大好きだそうですね!

 私たちはエミリーちゃんのような子のために

 良質なコンテンツを作り続けたいと考えています。

 そのためにも著作権は大切なのです。

 あなたのお力でミッキーを悪い海賊業者から守ってください!

 そうすれば、きっとエミリーちゃんから

 「パパは私のヒーローね♡」って言われますよ!」

 

ロビイングの新たな動き

こんなやり方で今までずっと勝利をおさめてきた右派思想だが、

最近になって少し違った動きが見え始めている。

 

2012年、いつものように右派思想のロビイングによって

ネット上の著作権侵害の取り締まりを強化する法案が

アメリカで成立しそうになっていた。

 

しかし左派思想家たちが「待った」をかけた。

ウィキペディアが抗議の意味をこめてその画面を真っ暗にして、

サービスを1日だけ停止してしまったのだ。

まるで労働者がストライキをするかのように。

 

f:id:keiyoshizawa:20190622142340j:plain

真っ暗なウィキペディア

 

そしてネットユーザーにこう呼びかけた。

「知識が自由に手に入らない世界を想像してみてください。

 そんな世界が嫌なら、あなたの選挙区の議員に連絡をとってください」

 

ネット民を巻き込むこの活動によって各エリアの議員のもとには

大量の抗議の声が届いた。

中には3000本の抗議電話を受けた上院議員もいたという。

 

こうして法改正は延期された。

珍しく、左派が右派の動きを止めることに成功した。

 

●ロビーイング2.0のすすめ(その1)

http://agora-web.jp/archives/1581048.html


ちなみにこのとき、グーグルもネット上で抗議を呼びかけている。

著作権に悩んでいた彼らにとっては「成功体験」となっただろう。

 

「ロビイングを上手くやれば、

 著作権の壁を突き崩せるんじゃないか・・?」

 

グーグルのロビイング

この事件がきっかけになったという訳ではないと思うが、

グーグルのロビイング活動は年々活発になってきている。

 

Googleの親会社Alphabet、2017年のロビー活動費1800万ドルで企業トップに

https://www.gizmodo.jp/2018/01/googles-parent-company-spent-more-on-lobbying-than-at-t-or-boeing-last-year.html

 

●グーグルとフェイスブック、18年米ロビー活動費が過去最高に

https://jp.reuters.com/article/google-lobbying-expenses-idJPKCN1PH01Q

 

古いルールや慣習を、

知恵とテクノロジーの力で❝ヒラリ❞と乗り越えてきた彼らだが、

徐々に伝統的なやり方を学んできているようだ。

今まで着ていたTシャツを脱いで、スーツに身を包む機会が増えている。

 

巨大IT企業のロビイング活動のメインテーマは

以下のような批判をかわすためのものだろう。

独占禁止法に違反している!」

「ユーザーの個人情報を勝手につかっている!」

「税金逃れをしている!」

世界中で議論が巻き起こっている問題なので、

今のところはグーグルもこの課題にかかりきりになっていると思う。

 

しかし、大きな波もいずれは引いていく。

大波を乗り越えて一息ついたグーグルが次に標的にするのは、

著作権だ。

前回の記事で紹介した「Google Books訴訟」での挫折を、

彼らは忘れていない。

 

ロビングのノウハウを学んだ巨大IT企業は、

その資金力を最大限につかってヤリ手のロビイストを雇い入れ、

アメリカ中の議員のもとに送り込むようになるだろう。

グーグルとディズニーの思想闘争は

ロビイングを舞台にして始まるのだ。

 

私にはこんな光景が思い浮かぶ。

 

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議員の部屋の扉が開き、

中からディズニーのロビイストが満足した面持ちで出てくる。

「説得はうまくいったぞ。

 これでフォード議員は著作権強化の法案に賛成してくれるだろう。

 娘のエミリーちゃんのことを事前に調査しておいたのが

 決め手になったな!」

 

その1分後、秘書が次のゲストを招き入れる。

「お次は・・・

 グーグルから来られたスローンさん、どうぞお入りください」

フォード議員は貰ったばかりのミッキーのぬいぐるみを慌てて隠す。

 

グーグルの思想を理解しているヤリ手ロビイストは議員に向かって、

「情報が自由に流通することの大切さ」を熱く語る。

そして最後にこう付け加える。

「あと数年たてば、

 エミリーさんも幼稚なアニメからは卒業するでしょう。

 これからの世代の若者たちは、

 ネット上で何でも出来るようになります。

 それなのに、エミリーさんがネット上で

 うっかり他人の著作物を使ったら、罪に問われるかもしれない。

 あなたの娘さんが犯罪者になってしまうなんて!

 こんな世界は嫌じゃないですか?

 エミリーさんに新時代にふさわしいネットの自由を与えたいのです。

 著作権をもう少し柔らかいものに変えていきませんか?」

 

その日の夜、帰宅したフォード議員は

すやすやと眠るエミリーの愛らしい寝顔を見ながら考えを巡らせる。

著作権強化に賛成すべきか、反対すべきか・・

 本当の意味でこの子たちの将来のためになるのは、

 どっちなんだろう?」

 

アメリカ全土の議員が同じ葛藤を抱えながら、

ついに法案決議の日の朝を迎える・・

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勝敗の行方

グーグルとディズニーの思想闘争は、

ロビイングを通じて繰り広げられることになるだろう。

舞台となる国はアメリカだが、

だからといって日本には関係ないなんてことは無い。

言うまでもなく、

アメリカ国内のルールは世界中の国に影響を与える。

著作権の業界も例外ではない。

日本の著作権法も何度もそのせいで法改正を強いられてきた。

アメリカの左派と右派の抗争の勝敗は、

我々にとっても他人事ではないのだ。

 

この戦い、最終的にはどっちが勝つのだろう??

 

ここから先は、さらなる想像力が必要だ。

 

私がヒントになると考えているのは、

「動画配信とゲームの市場」と

「企業における思想の受け入れやすさ」だ。

 

 動画配信とゲームの市場

動画配信やゲームについては

多くのネット記事で嫌というほど特集されているので

ここでは簡単にまとめたい。

 

動画配信サービスは花盛りだ。

Netflix(ネットフリックス)、Hulu(フールー)、

Amazonプライムビデオ、

もうすぐサービスを開始する

Apple TV+や、Disney+。

グーグルだって巨大な動画プラットフォームYouTubeを持っている。

 

各社がしのぎを削っている。

勝敗を決めるのは、

「そこでしか見られない魅力的なオリジナルコンテンツを

 持っていること」

だと言われている。

 

ネットフリックスは『ROMA/ローマ』や『バード・ボックス』 などの

独自作品で世界中の注目を集めているし、

Amazonプライムビデオは各ローカルエリアで好まれるコンテンツの開発に

力を入れている。

中でも強力なコンテンツを山のように持つDisney+は最強だと

前評判が高い。

 

何が言いたいかと言うと、こういうことだ。

巨大企業の事業領域が入り乱れていく中で、

「結局はコンテンツ(つまり著作権)を押さえれば勝てる」

と各社が気付き出しているのだ。

 

同じことはゲームの市場でも起きつつある。

 

ネットフリックスやアップルらがネットゲーム市場の可能性に気付き、

続々と参入し始めている。

グーグルも「STADIA」という

新しいゲームプラットフォームを立ち上げる。

やる気マンマンだ。

 

●垣根越えゲーム大競争 ネットフリックスなど続々 5G時代の成長にらむ 

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO46079050T10C19A6TJ1000/

 

そんな中でも話題をさらっていったのは、

ディズニー(マーベル)がライセンスした

アベンジャーズ』のゲームだった。

 

●『アベンジャーズ』がゲーム化! スクウェア・エニックス Live E3 2019にて詳細が発表、開発は『トゥームレイダー』のCrystal Dynamics

https://www.famitsu.com/news/201905/30177012.html

 

 

昔からゲーム業界には「Content is King」という言葉があり、

任天堂セガが激しく争っていた時代から、

ハードではなくソフトが勝敗を決めると言われてきた。

 

 

 

ゲームの世界でも動画配信と同じことが言われ始めそうだ。

「結局はコンテンツ(つまり著作権)を押さえれば勝てる」と。

 

動画配信市場でもゲーム市場でも、

コンテンツの力で存在感を見せつけ始めたディズニー。

グーグルも「左派思想の権化」とはいえ、

資本主義社会の一員であることに変わりはない。

その理想を実現するためにも、まずは競争に勝たないと話にならない。

戦いを有利に進めるカギとなるのはコンテンツ。つまり著作権だ。

いずれグーグルが著作権の獲得に動き出すのではないか・・。

 

思想の受け入れやすさ

 もう一つのポイントは「企業における思想の受け入れやすさ」だ。

 

例えば、ある企業のお偉いさんが集まる会議で、

こんな提案があったとする。

 

著作権を弱くするためのロビイング活動に力を入れましょう。

 表現の自由の範囲が広がれば、

 今まで以上にユーザーがネット上で活発に活動できるようになります。

 そうすれば、まわりまわってネットの媒体価値があがり

 我が社にも広告費も多く集まるようになります」

 

一方でこんな提案もある。

 

「当社が保有するコンテンツによる収入は1億ドルです。

 しかし来年は10%ダウンする見込みです。

 これは、一部のコンテンツの著作権が切れてしまうからです。

 もし著作権を延長できれば、著作権収入を維持できます。

 ロビイング活動で、著作物の保護期間をあと10年延ばしましょう」

 

企業のお偉いさんは、どっちの提案に賛成するだろうか?

 

著作権を強くする方が、メリットを具体的な数値で示しやすい。

企業が意思決定するときは、右派思想に流れやすいのではないだろうか?

 

グーグルの変節

上記を踏まえた上で、グーグルの行く末を想像してみよう。

 

グーグルは生まれついての左派思想だ。

「みんなで情報を共有することは善いことだ」と信じて成長してきた。

しかし著作権の壁を乗り越えられず、イライラが溜まっている。

仕方なく昔ながらの手法(ロビイング)で事態を打開しようと頑張る。

そんなとき、動画配信やゲームの市場を通じて

著作権をもつと有利だ」という考え方に触れる。

自分でコンテンツの権利を保有するようになる。

こうして少しずつ、少しずつ右派思想に染まっていく。

最終的には企業の意思決定として

著作権を強くする方針」へと大きく舵をきる。

ぶつかり合ってきたディズニーとグーグルは、

共に手と手を取り合って協力することになる。

左派思想だったグーグルが、

最終的にはディズニーの思想に取り込まれてしまうのだ・・!

 

これが私の想像するシナリオだ。

 

グーグルの行く末を思うとき、私は

スターウォーズ』のアナキン・スカイウォーカーを連想してしまう。

並外れた才能をもち、善良だった少年アナキンは、

成長するに従いストレスをため込み、

ついにはダークサイドに落ちてしまう!

 

右派思想に目覚め「ダースベイダー」となったグーグルが支配する

インターネット世界。

些細な著作権侵害であっても、許されない時代がやってくる。

我々は右派帝国が覇権を握る恐ろしい未来に備えなければならないのだ!

 

最後に

私は上記の予想が外れることを望んでいる。

 

しかし、著作権が誕生以来ずっと強くなり続けていることは、

紛れもない事実だ。

今後もこの傾向が続く可能性は高い。

 

私自身は「今の著作権はちょっと強くなりすぎた」と感じているので、

どちらかというと左派を応援している。

だから、今回の連載を通じて

右派に対して少し意地悪な書き方をしている部分もある。

(ダースベイダーに例えたり、キングギドラに例えたり。)

 

その点を理解いただいた上で、あなた自身でも考えてほしい。

著作権を強くするべきか?弱くするべきか?

 

昔は、著作権法といえば一部の業界の人だけが関わる法律だった。

一般の人にはほとんど関係ないものだった。

しかし今は違う。

多くの人がネット上に文章や動画をアップし、

みんなで利用し合っている。

著作権法は国民全員が関係するものになった。

著作権は、まさにあなたに関係する大問題なのだ。

 

著作権を強くするべきか?弱くするべきか?

右派と左派の両方の視点をもった上で、あなたにも考えてみてほしい。

判断材料になる情報は今後もこのブログで発信していく。

そして、いずれは新たなルール作りに関わってきてほしい。

私も、そうするつもりだ。

 

 

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