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契約書はアートだ!(4) あなたの作品を使わせてください!と言われた場合

前回は「新規で発注を受けた場合」の契約書について解説した。

今回は「すでにある作品を使わせる場合」について考えてみよう。

 

「あなたのキャラクターをゲームアプリに使わせてください!」とか、

「あなたのブログを出版させてください!」のようなケースだ。

 

あなたの作品を使わせてください!

フリーのクリエイターとして作品を発表しているあなたの元に、

有名企業のアベン社から電話がかかってくる。

 

「あなたの作品を拝見しました。

 本当に素晴らしい作品ですね。感銘を受けました。

 ぜひ我が社の商品に使わせていただきたいと存じます。

 いかがでしょうか?」

 

自分の作品が認めてもらえた!!

クリエイターにとって、すごく嬉しい瞬間だと思う。

(ベテランのクリエイエーターの中には、

 ムッツリした表情で対応する人も多いが、

 心の中では「まんざらでもない」とニンマリしている。

 間違いない)

 

もしこれが初めての経験なら

「自分の才能を発見してもらえた喜び」は、ひとしおだ。

この喜びをじっくりと噛みしめ、味わおう。

 

そして「歓喜の一瞬」の後は、

いったん冷静になることをおススメする。

 

「は、は、はい!ぜひ!よろこんで!」

と喉まで出かかった言葉を飲み込んで、

「・・ありがとうございます。

 ぜひ前向きに検討したいと思います。

 企画書か何かあれば、送っていただけないでしょうか?」

と返事しよう。

 

観察すべきこと

 前回の「新規で発注を受けた場合」に比べると、

「すでにある作品を使わせる場合」のあなたの立場は強い。

なにしろ、すでに作品は出来上がっていて、

相手はその価値を認め、「ほしい」と言っているのだ。

あなたがまだ駆け出しのクリエイターだとしても、

「相手とは対等だ」ぐらいの気持ちで自信をもって交渉してほしい。

 

以下のポイントもしっかりと観察しよう。

・あなたの作品が無いと成立しない企画か?

・相手の社内で、どのていど企画が進んでいるのか?

 

あなたに断られても、他の作品で簡単に替えがきくような企画内容なら、

あなたの交渉上の立場は弱い。

逆に、企画内容の根っこの部分があなたの作品無しには成り立たないのなら、

かなり強めの要求をしても良いかもしれない。

 

また、あなたに連絡してきた人は社内の企画会議で「GO」をもらっていて、

今さら引き返せない状態になっているかもしれない。

その場合は、あなたの言うことをよく聞いてくれるだろう。

 

企画書や相手の話の内容をよく観察しよう。

そして、交渉で勝ち取れるギリギリのラインを見極めよう。

 

もちろん「ギリギリのライン」が分かったからと言って、

その線まで攻め込むべきではない。

良い契約条件を勝ち取れたとしても、

「この人ややこしいな・・」と思われてしまう。

もう二度と取引してもらえないかもしれない。

 

大切なのは、

「自分にとって大切なこと・譲れないこと」を把握し、

「相手にとってのギリギリのライン」の見当をつけ、

その中間にある「お互いにとって心地よいポイント」を見つけることだ。

 

自分を売り込む

お互いが納得し無事に契約が成立したとしても、

 それが「単発」で終わってしまってはもったいない。

 

あなたの作品の良さはすでに認められている。

今度は、あなた自身の良さを理解してもらえるよう努力しよう。

 

担当者を接待しても良い。

「他にも、こんな企画を温めてるんですけど・・」と沢山の案を出そう。

「あ、この人は引出しを一杯もってる。次の可能性もある人だ」

と思ってもらえると、勝ちだ。

もしも1つ目の作品がコケてしまっても、

2回目のチャンスが回ってくるかもしれない。

 

 「接待」の大切さや方法を解説しているのが、

みうらじゅん氏のこの本だ。

『「ない仕事」の作り方』

 

 

ゆるキャラ」「仏像ブーム」などの仕掛人が、

自分の手の内をさらけ出してくれている。

企画・営業・接待を全て自分でやる「一人電通」という手法も紹介されている。

非常に参考になる本だ。

読んでみてほしい。

 

契約の内容

上記のポイントさえ押さえておけば、

契約書の内容に関しては「新規で発注を受けた場合」に追加して

覚えておくべきことは少ない。

 

 一般的な傾向としては「著作権の譲渡」ではなく、

「許諾」になるケースが多いだろう。

(ただし、アメリカの大手は「著作権譲渡」で

 権利を根こそぎ持っていくのがデフォルトだ。

 それが嫌なら、かなりタフな交渉が必要になる)

 

支払いは「払いきり」よりも「印税方式」になるケースが多い。

(「成功報酬」として、一定の販売数を超えたらプラスアルファの印税を

 もらえないか?)

 

契約書はちゃんと作られることが多い。

 

これまでの記事に書いてきたことを意識して契約書に取り組めば良い。

 

注意点

ただし、一つだけ注意しないといけないことがある。

 

あなたの作品が企業の担当者に「発見」されたということは、

あなたはすでに何らかの方法で作品を発表しているということだ。

 

その発表したメディアは何だろう?

メディアの発行者・運営者とあなたの間で、

どんな内容の契約がされているだろうか?

 

契約で

「独占的な許諾である」

「他の人に対してライセンスしてはいけない」

著作権は譲渡する」

などと決まっている場合、うっかり誰かに使わせると

「契約違反」や「著作権侵害」になってしまう可能性がある。

念のため確認しておいた方がいい。

 

ちなみにこの「はてなブログ」の利用規約(2019年5月12日現在)では、

こうなっている。

(関係する部分だけ抜き出し)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第8条

3.ユーザーは、・・(省略)・・自己が作成した記事について、・・(省略)・・著作権を有するものとします。

4.・・(省略)・・当社はユーザーが著作権保有する本サービスへ送信された情報を無償かつ非独占的に・・(省略)・・掲載、配布することができ、ユーザーはこれを許諾するものとします。

5.ユーザーが・・(省略)・・著作権を第三者に譲渡する場合、第三者に本条の内容につき承諾させるものとし、第三者が承諾しない場合には、同著作権を譲渡できないものとします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

はてな利用規約

https://www.hatena.ne.jp/rule/rule

 

この規約はこう言っている。

・ブログの著作権はあなたのものです。

・ただし、当社に必要な範囲での許諾はください。

 独占的な許諾じゃなくていいです。

・もしあなたが誰かに著作権を譲渡するなら、

 その相手からも同じ内容の許諾が当社に与えられるようにしてください。

 

他のブログサービスの規約と比べても厳しいものではないし、

妥当な内容だと思う。

はてなブログ」でブログを書いているあなたの元に

「あなたのブログを出版させてください」と申し込みがあった場合でも、

安心して許諾を出して良い。

(「譲渡」の場合は、上記の通りの条件を付けないといけない)

 

ただし、利用規約は知らないうちに変更されることがある。(第10条)

許諾を出すときには、あらためて確認した方が良いだろう。

 

オリンピックの・・

話はそれるが、

ついにチケットの予約受付が開始された東京オリンピックの「規約」は、

もう確認しただろうか?

なかなか衝撃的な内容になっている。

 

●東京2020チケット購入・利用規約

https://ticket.tokyo2020.org/Home/TicketTerm

 

規約の33条には、こんなことが書いてあるのだ。

 

・あなたが会場で撮影した写真や動画などの著作権

 (27条と28条の権利を含む)は、

 IOC国際オリンピック委員会)のものです。

 (→ つまり「お前のものは俺のもの」)

・あなたは著作者人格権を行使できません。

 (→ つまり「お前の作品を改変するのは俺の勝手だ」)

・個人的な利用で、商売や宣伝目的の利用でないのなら、

 あなたが写真や動画を使うことを許諾します。

 ただし、動画や音声をネットやSNSにアップするのは禁止。

 (動画ではなく写真であっても、

  SNSにアップする行為が「個人的な利用」と言えるか不明。

  禁止されている可能性もある)

  (→ つまり「ごく限られた場合だけは俺のお情けで特別に使わせてやる」)

 

今どきこんなこと、ジャイアンでも言わない。

 

オリンピック会場で友だちと楽しく撮影した動画をSNSにアップすると、

IOCから著作権侵害で訴えられるかもしれないのだ!!

選手が映っているかどうかは関係ない。

「会場に来ました!イェーイ!」のような、

自分たちしか映っていない映像であっても同じだ。

 

平和の祭典・オリンピックは、

恐ろしい「地雷」の埋まった危険地帯になってしまった・・。

 

観戦に行かれる皆さま、覚悟して行ってください。

生還を祈ります。

 

まとめ

今回の内容をまとめると、こうなる。

 

・「あなたの作品を使わせてください」と言われたら、

 まずは素直に喜ぼう。

・契約条件を交渉できる強い立場にいる可能性を自覚しよう。

・相手との長期的な関係も視野にいれよう。

・ほかの契約に縛られていないか?念のためチェックしよう。

 

自分の作品を認めてもらえるというのは、気分の良いものだ。

そんなときでも、契約書に意識を向けて前向きに取り組むことが重要だ。

 

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次回は目線を変えて、作品を使わせてもらう方の立場から、

契約について考えてみる予定だ。

 

 

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