マネー、著作権、愛

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人生最高のパロディ

先週は世界知的所有権機関というところに行ってきた。

特許や著作権などについて、世界的なルールを作っている場所だ。

そこでは、テレビとインターネットの関係を決定づけることになる

刺激的な議論が交わされている。

後日あらためて記事として取り上げたい。

「最近のテレビはつまらない」

「テレビはオワコンだ。これからはネットだ」

というような、よく聞く議論とは一味違う話ができると思う。

 

最高のパロディ

前回は、

「パロディ、オマージュ、原作、原案・・・色々あるけど、どうちがうの?」

ということをテーマにした。

結論としては

「どの言葉を使うかは、あまり気にしなくて良い」

ということだ。

 

今回は、私が今まで読んだ本の中で最高のパロディ本を紹介しよう。

 

パロディには「元ネタ」がある。

私が紹介したい本の元ネタは『無人島の三少年』。

今から160年前に書かれた少年少女向けの冒険物語だ。

 

内容は以下の通り。

 

ラルフ、ジャック、ピーターキンという3人の少年が嵐にあい、

無人島に流れ着く。

大人は誰もいない。

自分たちでサバイバルするしかない。

絶望的な状況だ。

しかし3人の少年は、めげない。

森の果物を食べたり、魚を釣ったりして食料を確保する。

ときには槍などの狩りの道具を手作りし、野生の豚を追う。

仲良く3人で水遊びををしたりもする。

正義感が強く頼りになるジャック、いつも落ち着いているラルフ、

ひょうきん者のピーターキンは、

仲良く協力しながら、明るく、たくましく無人島で生き延びていく。

そこへ悪い海賊がやってきて3人は大ピンチにおちいるが、

少年たちの友情はゆるがない。

みんなで協力してこの危機を乗り越えていく・・。

 

こんな、明るく楽しい大冒険のお話だ。

 

残念ながら、この本は絶版になってしまっている。

興味がある人は、中古の本を買うか、

児童書が充実している図書館で探してみてほしい。

 

 

でも、私が紹介したい「最高のパロディ本」を理解する上では、

上で書いた内容が分かっていれば十分だ。

 

『蠅の王』

 紹介したい本は『蠅の王』だ。

書いたのはイギリスの作家、ウィリアム・ゴールディング

 

物語は『無人島の三少年』と同じように、

子供たちが無人島にたどり着くところから始まる。

 

子供たちの数は数十人。

島で生き延びるために、

彼らはみんなで協力してやっていくべきだと自覚した。

そしてラルフがリーダーとして民主的に選ばれる。

ラルフの指揮のもと、

焚き火をして狼煙(のろし)をあげるプロジェクトがスタートする。

近くを通る大人たちに気づいてもらい救助されるためだ。

こうして、少年たちの明るく秩序正しい生活が始まるかと思われた。

 

しかし、すぐに規律は崩れてゆく。

彼らはまだまだ子供だ。

粘り強く焚き火を燃やし続けることに飽きてしまう。

好き勝手に水遊びを始める。

焚き火は消えてしまう。

 

ラルフと協力関係にあったジャックは、野生の豚を狩ることに夢中になる。

子供たちにとって、焚き火よりも狩りの方が断然楽しい。

狩りに参加するメンバーが増えていく。

森の中で豚を追い回すうちに、彼らの中で徐々に新しい感覚が芽生えてていく。

野生の感覚、獣のような凶暴さが目覚め、人間らしさを失っていく。

 

もはやラルフの指示を聞こうとするメンバーは、ほとんどいない。

ジャックを中心としたグループとラルフは激しく対立し、憎みあうようになる。

豚狩りのために作った槍を、人間相手に向けるようになっていく。

 

そんな中、ただ一人だけ冷静なのが、サイモンだ。

彼だけは、

「人間らしさとは何か?

 秩序正しくお互いに愛情をもって協力して生きていくことか?

 それとも、獣のように本能のままに生きることこそが人間らしさなのか?」

と一人静かに考える。

そして、たった一人で「蠅の王」と対決する。

(タイトルにもなっている「蠅の王」が何を指しているのか?については、

 本書を読んで確かめてほしい。)

 

ラルフとジャックが対立する中で、

ジャックは自分が狩った豚の肉をみんなに振る舞うパーティーを開催する。

肉にかじりつきながら踊り狂ううちに、彼らの凶暴性が爆発する。

そして、ある恐ろしい事件が起きてしまう・・・。

 

こんな物語だ。

 

この本の中で、たびたび『珊瑚島』という本のタイトルが出てくる。

これは『無人島の三少年』の原題だ。

作者のゴールディングは明らかに『珊瑚島』を意識して

『蠅の王』を書いている。

ジャックやラルフといった、主要な登場人物の名前も一致している。

 

『蠅の王』は『珊瑚島』の素晴らしいパロディだ。

(もちろん、「オマージュ」といっても「原案」といっても良い。)

明るく楽しく無邪気な冒険小説の設定を借りながら、

人間の残酷な本性に迫る哲学書のような物語に作りかえてしまっている。

私が今まで読んだ本の中で、間違いなく最高の❝パロディ本❞だ。

 

中学生のときに初めて読んで以来、繰り返し読んでいるが、

読むたびに共感してしまう登場人物が変わる。

 

楽天家だが、リーダーシップを発揮できないことに悩むラルフ。

みんなのために頑張っているのに、

ラルフに認められなかったせいで意固地になってしまうジャック。

一番頭が良いのに、見た目のせいでいじめられてしまうピギー。

仲間を愛しているのに、うまく表現できないサイモン。

 

それぞれのキャラクターが、魅力的で人間臭い。 

 

何度でも楽しめる名作だ。

ぜひ読んでほしい。

 

 

 

関連本

 無人島で少年たちがサバイバルする物語として一番有名なのは、

ジュール・ベルヌの『十五少年漂流記』だろう。

 

無人島の三少年』が書かれた時期と、『蠅の王』が書かれた時期の

あいだに書かれた小説だ。

  

 


内容的にも中間的な内容になっていて、
無人島の三少年』では、少年たちは最初から最後まで仲が良いのに対し、
十五少年漂流記』では、彼らの中に対立が生まれグループが二つに分かれる。
しかし最後は仲直りして、熱い友情が生まれる。
一方で『蠅の王』では、少年たちの対立は深まる一方で恐ろしい結末に向かう。

 

無人島の三少年』→『十五少年漂流記』→『蠅の王』

この流れを見れば、一つの作品をもとに新たな作品が生まれ、

さらにその作品をもとに素晴らしい作品が生まれるプロセスがはっきり感じ取れる。

こうして我々の文化は発展してきたのだ。

 

冬の寒い日には、

自宅にこもって読書をしながら、こんなことを感じてみるのも良いと思う。

 

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