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パクリならNG! オマージュならOKか?

質問

以前の記事で、「ライオン・キング」は「ジャングル大帝」のパクリか?

という問題を題材にして、

著作権の制度を理解する上での基本的な考え方を解説した。

 

www.money-copyright-love.com

 

 

この記事に関連して筆者のもとには、

「パクリはダメなのは分かったが、パロディなら許されるの?」

「「あなたの作品を尊敬したオマージュです」といえばOKになるの?」

といった質問が寄せられた。

 

たしかに「ライオン・キング」は「ジャングル大帝」に非常によく似ていた。

でもこれは

ジャングル大帝」を元ネタにしたパロディだったと言えないだろうか?

 

ディズニー側が、実は手塚治虫氏を尊敬していて、

その気持ちを表現するために「ジャングル大帝」に捧げたオマージュとして

ライオン・キング」を作ったのだとしたらどうだろう?

 

今回はこの疑問に答えたい。

 

パクリ・パロディ・オマージュ・リスペクト・インスパイア

「パロディ」や「オマージュ」以外にも、

よく使われる言葉として「リスペクト」、「インスパイア」がある。

 

「「ジャングル大帝」へのリスペクトを「ライオン・キング」に込めました!」

「「ジャングル大帝」にインスパイアされて、「ライオン・キング」を作りました!」

という風に使われる。

 

これらの言葉、どう違うのだろう?

 

ネット上で「わかりやすい!!」と話題になった投稿に以下のものがある。

 

 元ネタがバレて困るのがパクリ、

 バレなきゃ始まらないのがパロディ、

 わかる人にだけわかればいいのがオマージュ、

 元ネタの製作者にわかって欲しいのがリスペクト、

 暗黙の了解がインスパイア。

 

どうだろうか?

これでスッキリ理解できただろうか?

 

たしかに、うまいこと説明できている感じはする。

(最後の「暗黙の了解がインスパイア」だけはよく分からないが。)

 

おおまかな理解としては、これで良いと思う。

 

著作権的な解説

次に著作権的な目線で解説したい。

 

「パクリ」「パロディ」「オマージュ」「リスペクト」「インスパイア」。

それぞれの意味の違いはどこにあるのか?

どう使い分ければ良いのだろうか・・?

 

答えはこうだ。

「考えても仕方ない。」

 

それぞれの言葉に、ちゃんとした定義はない。

作品を見た人が「パクリだ!」と思っても、

作った人は「オマージュです」と言うかもしれない。

作者本人は「リスペクト」のつもりで作っても、

見る人は「元ネタをバカにしたパロディだ!」と理解するかもしれない。

 

そもそも、作者が相手を本当に尊敬しているかどうかなんて、

誰にも分らない。

 

これらの言葉に、あまりこだわっても仕方がないということだ。

 

ある作品が他の作品の著作権を侵害しているかどうかは、

以前に解説した通り、「3つの条件」で判断される。

 

www.money-copyright-love.com

 

3つの条件は以下のとおり。

 

1.そもそも自分の作品が「著作物」である。

2.相手が自分の作品を見た上で制作した。

3.自分の作品と相手の作品が似ている。

 

これが全てだ。

「パロディなら許される」とか、「オマージュならOK」とか、

そんなルールは一切ない。

 

なんとも味気ない結論だが、少なくとも日本の法律ではそうなっている。

 

(もちろん、単にアイディアを借りただけなら著作権侵害にはならない。

 「アイディアはみんなのもの。」だからだ。)

 

原作?原案?

「原作と原案の違いは?」という、よくある疑問にも簡単に答えておこう。

 

「原作」は、

小説を元にしてマンガを作ったり、マンガを元にして映画を作るときに、

よく使われる言葉だ。

著作権が働く場合がほとんどなので、

原作者の許可がないと勝手にマンガや映画を作ることはできない。

(この場合は、ちゃんと「原作:◯◯」と表示しないといけない。)

逆に、原作のない作品は「オリジナル」と言ったりもする。

 

一方で「原案」は、

単にアイディアを使わせてもらっているだけで、

ストーリーの中身には関わっていないときに

よく使われる。

「アイディア」に著作権はないので、

原案者の許可がなくても作品を作ることができる。

 

おおまかに言うと、こういう理解で良い。

 

しかし「原作か?原案か?」についても、あまりこだわっても仕方がない。

ちゃんとした定義はないので、はっきりと線引きできないからだ。

 

著作権的には、「3つの条件」で判断される。

それだけだ。

 

素晴らしいポスターを発見!

「原作」「原案」「パロディ」「オマージュ」・・・

これらの言葉の意味にこだわらなくて良い。

自分の中で一番❝しっくりくる❞言葉を選んで使えばよいのだ。

 

先日、このことを完璧に理解している素晴らしいポスターを発見した。

舞台『ゲゲゲの先生へ』のポスターだ。

舞台は『ゲゲゲの鬼太郎』で有名なマンガ家・水木しげる氏を

テーマにしたものだという。

 

https://www.gegege-sensei.jp/

 

あいにくホームページにはポスターのデータが掲載されていないが、

私の発見したポスターには以下のような言葉が書かれていた。

 

「原案=水木しげる

水木しげる原作としか呼べないオリジナルの演劇に挑戦!」

水木しげる作品への大胆なオマージュ」

 

もはや、「原案」なのか「原作」なのか「オリジナル」なのか「オマージュ」なのか、

さっぱり分からない。

 

でも、これで良いのだ!

この舞台の制作者の心の中で、全ての言葉が❝しっくり❞きてしまったのだろう。

 

ポスターを見る人にとっては、「いったいどんな作品なのか?」と

謎が深まるばかりだ・・・

この謎を解くためには舞台を見るしかない。

残念ながらら公演は終わってしまっているようなので、再演を期待しよう。

 

正しいルールは?

パロディやオマージュだからといって、著作権的にOKにはならない。

これが日本のルールだ。

 

これって、厳しすぎではないか?

 

ある作品を元にパロディを作ろうとしたら、

どうしても著作権侵害になってしまう場合が多い。

つまり、自由にパロディ作品を作ることはできないということだ。

 

でもパロディだって、一つの文化のあり方だ。

 

『ウエストサイドストーリー』は『ロミオとジュリエット』のパロディだ。

日本には古くから「本歌取り」という伝統だってある。

(「本歌取り」とは、『万葉集』に掲載されるような有名な和歌をパロディすること)

コミケコミックマーケット)で販売されるマンガの多くは、

有名なマンガのパロディだ。

パロディ作家からプロのマンガ家へ成長する人も多いという。

 

パロディによって、我々の文化が発展してきたという歴史があるのだ。

 

それなのに、パロディを作ったら著作権侵害になってしまうって、

おかしくないか?

 

こういう疑問をもった人はこれまでにもいた。

実際、日本の政府でも「パロディはOK」という法律を作れないか

検討されたことはある。

 

しかし、法律化は見送られているのが現状だ。

 

(欧米には「パロディやオマージュならOK」と法的に認めるルールが

 一部にはある。)

 

人が作った作品の著作権を尊重することは大切だ。

それと同じくらい、人の作品を元に自由に創作できることも大切だ。

どういうルールにすれば、より良い文化・世界を作ることができるのだろうか?

 

これは非常に深いテーマなので、また改めて記事でとり上げたいと思う。

 

質問募集など

今回お答えした質問以外にも、

何か聞きたいことがあれば「お問い合わせフォーム」でお送りだください。

記事の中で回答させていただく場合があります。

 

お問い合わせ - マネー、著作権、愛

 

 

※筆者は来週、

 世界知的所有権機関ジュネーヴ)というところに取材に行く予定です。

 このため来週の記事はお休みします。

 

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