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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(5)

ここまでは、

著作権の世界における左派思想と右派思想や、

ディズニーとグーグルの生い立ちや現状を見てきた。

 

ディズニーは、その幼少期に著作権のトラウマをかかえ、

少しひねくれてしまった結果、右派思想に目覚め

著作権を強く主張するようになった。

 

グーグルは、瞬く間に大成功をつかんだ。

左派思想を信じ無邪気にみんなの幸せを願って成長してきたが、

著作権の壁にぶつかりイライラしている。

 

今回は想像力を働かせて、

両者の思想闘争の始まりとその行方を予想してみよう。

 

ロビイング

ロビイングとは、

自社に有利な法律ができるように政治家に働きかける活動のことだ。

欲にまみれた企業の社長が悪徳政治家にワイロを渡すシーンを

想像するかもしれないが、多くの場合そんなことはない(多分)。

ルールに従った献金や、

ちゃんとした説得による活動が大半だ(多分)。

 

ロビイングのイメージが湧かなければ、この映画をみると良い。

女神の見えざる手』。

法案を通すためには手段を選ばない超ヤリ手のロビイストの物語だ。

面白い。

 

 

 

ハリウッドの映画業界は伝統的にロビイングが上手いと言われている。

アメリカでいつも対立しているはずの共和党民主党

なぜかハリウッドに対しては甘く、

映画の著作権を強化する法改正を繰り返してきた。

もちろんディズニーだってその中心メンバーとして大活躍してきた。

小さな子供のいる議員に対しては、

こんな主張が胸に響いたに違いない。

「フォード上院議員!聞きましたよ!

 娘さんのエミリーちゃんはミッキーのことが大好きだそうですね!

 私たちはエミリーちゃんのような子のために

 良質なコンテンツを作り続けたいと考えています。

 そのためにも著作権は大切なのです。

 あなたのお力でミッキーを悪い海賊業者から守ってください!

 そうすれば、きっとエミリーちゃんから

 「パパは私のヒーローね♡」って言われますよ!」

 

ロビイングの新たな動き

こんなやり方で今までずっと勝利をおさめてきた右派思想だが、

最近になって少し違った動きが見え始めている。

 

2012年、いつものように右派思想のロビイングによって

ネット上の著作権侵害の取り締まりを強化する法案が

アメリカで成立しそうになっていた。

 

しかし左派思想家たちが「待った」をかけた。

ウィキペディアが抗議の意味をこめてその画面を真っ暗にして、

サービスを1日だけ停止してしまったのだ。

まるで労働者がストライキをするかのように。

 

f:id:keiyoshizawa:20190622142340j:plain

真っ暗なウィキペディア

 

そしてネットユーザーにこう呼びかけた。

「知識が自由に手に入らない世界を想像してみてください。

 そんな世界が嫌なら、あなたの選挙区の議員に連絡をとってください」

 

ネット民を巻き込むこの活動によって各エリアの議員のもとには

大量の抗議の声が届いた。

中には3000本の抗議電話を受けた上院議員もいたという。

 

こうして法改正は延期された。

珍しく、左派が右派の動きを止めることに成功した。

 

●ロビーイング2.0のすすめ(その1)

http://agora-web.jp/archives/1581048.html


ちなみにこのとき、グーグルもネット上で抗議を呼びかけている。

著作権に悩んでいた彼らにとっては「成功体験」となっただろう。

 

「ロビイングを上手くやれば、

 著作権の壁を突き崩せるんじゃないか・・?」

 

グーグルのロビイング

この事件がきっかけになったという訳ではないと思うが、

グーグルのロビイング活動は年々活発になってきている。

 

Googleの親会社Alphabet、2017年のロビー活動費1800万ドルで企業トップに

https://www.gizmodo.jp/2018/01/googles-parent-company-spent-more-on-lobbying-than-at-t-or-boeing-last-year.html

 

●グーグルとフェイスブック、18年米ロビー活動費が過去最高に

https://jp.reuters.com/article/google-lobbying-expenses-idJPKCN1PH01Q

 

古いルールや慣習を、

知恵とテクノロジーの力で❝ヒラリ❞と乗り越えてきた彼らだが、

徐々に伝統的なやり方を学んできているようだ。

今まで着ていたTシャツを脱いで、スーツに身を包む機会が増えている。

 

巨大IT企業のロビイング活動のメインテーマは

以下のような批判をかわすためのものだろう。

独占禁止法に違反している!」

「ユーザーの個人情報を勝手につかっている!」

「税金逃れをしている!」

世界中で議論が巻き起こっている問題なので、

今のところはグーグルもこの課題にかかりきりになっていると思う。

 

しかし、大きな波もいずれは引いていく。

大波を乗り越えて一息ついたグーグルが次に標的にするのは、

著作権だ。

前回の記事で紹介した「Google Books訴訟」での挫折を、

彼らは忘れていない。

 

ロビングのノウハウを学んだ巨大IT企業は、

その資金力を最大限につかってヤリ手のロビイストを雇い入れ、

アメリカ中の議員のもとに送り込むようになるだろう。

グーグルとディズニーの思想闘争は

ロビイングを舞台にして始まるのだ。

 

私にはこんな光景が思い浮かぶ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

議員の部屋の扉が開き、

中からディズニーのロビイストが満足した面持ちで出てくる。

「説得はうまくいったぞ。

 これでフォード議員は著作権強化の法案に賛成してくれるだろう。

 娘のエミリーちゃんのことを事前に調査しておいたのが

 決め手になったな!」

 

その1分後、秘書が次のゲストを招き入れる。

「お次は・・・

 グーグルから来られたスローンさん、どうぞお入りください」

フォード議員は貰ったばかりのミッキーのぬいぐるみを慌てて隠す。

 

グーグルの思想を理解しているヤリ手ロビイストは議員に向かって、

「情報が自由に流通することの大切さ」を熱く語る。

そして最後にこう付け加える。

「あと数年たてば、

 エミリーさんも幼稚なアニメからは卒業するでしょう。

 これからの世代の若者たちは、

 ネット上で何でも出来るようになります。

 それなのに、エミリーさんがネット上で

 うっかり他人の著作物を使ったら、罪に問われるかもしれない。

 あなたの娘さんが犯罪者になってしまうなんて!

 こんな世界は嫌じゃないですか?

 エミリーさんに新時代にふさわしいネットの自由を与えたいのです。

 著作権をもう少し柔らかいものに変えていきませんか?」

 

その日の夜、帰宅したフォード議員は

すやすやと眠るエミリーの愛らしい寝顔を見ながら考えを巡らせる。

著作権強化に賛成すべきか、反対すべきか・・

 本当の意味でこの子たちの将来のためになるのは、

 どっちなんだろう?」

 

アメリカ全土の議員が同じ葛藤を抱えながら、

ついに法案決議の日の朝を迎える・・

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

勝敗の行方

グーグルとディズニーの思想闘争は、

ロビイングを通じて繰り広げられることになるだろう。

舞台となる国はアメリカだが、

だからといって日本には関係ないなんてことは無い。

言うまでもなく、

アメリカ国内のルールは世界中の国に影響を与える。

著作権の業界も例外ではない。

日本の著作権法も何度もそのせいで法改正を強いられてきた。

アメリカの左派と右派の抗争の勝敗は、

我々にとっても他人事ではないのだ。

 

この戦い、最終的にはどっちが勝つのだろう??

 

ここから先は、さらなる想像力が必要だ。

 

私がヒントになると考えているのは、

「動画配信とゲームの市場」と

「企業における思想の受け入れやすさ」だ。

 

 動画配信とゲームの市場

動画配信やゲームについては

多くのネット記事で嫌というほど特集されているので

ここでは簡単にまとめたい。

 

動画配信サービスは花盛りだ。

Netflix(ネットフリックス)、Hulu(フールー)、

Amazonプライムビデオ、

もうすぐサービスを開始する

Apple TV+や、Disney+。

グーグルだって巨大な動画プラットフォームYouTubeを持っている。

 

各社がしのぎを削っている。

勝敗を決めるのは、

「そこでしか見られない魅力的なオリジナルコンテンツを

 持っていること」

だと言われている。

 

ネットフリックスは『ROMA/ローマ』や『バード・ボックス』 などの

独自作品で世界中の注目を集めているし、

Amazonプライムビデオは各ローカルエリアで好まれるコンテンツの開発に

力を入れている。

中でも強力なコンテンツを山のように持つDisney+は最強だと

前評判が高い。

 

何が言いたいかと言うと、こういうことだ。

巨大企業の事業領域が入り乱れていく中で、

「結局はコンテンツ(つまり著作権)を押さえれば勝てる」

と各社が気付き出しているのだ。

 

同じことはゲームの市場でも起きつつある。

 

ネットフリックスやアップルらがネットゲーム市場の可能性に気付き、

続々と参入し始めている。

グーグルも「STADIA」という

新しいゲームプラットフォームを立ち上げる。

やる気マンマンだ。

 

●垣根越えゲーム大競争 ネットフリックスなど続々 5G時代の成長にらむ 

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO46079050T10C19A6TJ1000/

 

そんな中でも話題をさらっていったのは、

ディズニー(マーベル)がライセンスした

アベンジャーズ』のゲームだった。

 

●『アベンジャーズ』がゲーム化! スクウェア・エニックス Live E3 2019にて詳細が発表、開発は『トゥームレイダー』のCrystal Dynamics

https://www.famitsu.com/news/201905/30177012.html

 

 

昔からゲーム業界には「Content is King」という言葉があり、

任天堂セガが激しく争っていた時代から、

ハードではなくソフトが勝敗を決めると言われてきた。

 

 

 

ゲームの世界でも動画配信と同じことが言われ始めそうだ。

「結局はコンテンツ(つまり著作権)を押さえれば勝てる」と。

 

動画配信市場でもゲーム市場でも、

コンテンツの力で存在感を見せつけ始めたディズニー。

グーグルも「左派思想の権化」とはいえ、

資本主義社会の一員であることに変わりはない。

その理想を実現するためにも、まずは競争に勝たないと話にならない。

戦いを有利に進めるカギとなるのはコンテンツ。つまり著作権だ。

いずれグーグルが著作権の獲得に動き出すのではないか・・。

 

思想の受け入れやすさ

 もう一つのポイントは「企業における思想の受け入れやすさ」だ。

 

例えば、ある企業のお偉いさんが集まる会議で、

こんな提案があったとする。

 

著作権を弱くするためのロビイング活動に力を入れましょう。

 表現の自由の範囲が広がれば、

 今まで以上にユーザーがネット上で活発に活動できるようになります。

 そうすれば、まわりまわってネットの媒体価値があがり

 我が社にも広告費も多く集まるようになります」

 

一方でこんな提案もある。

 

「当社が保有するコンテンツによる収入は1億ドルです。

 しかし来年は10%ダウンする見込みです。

 これは、一部のコンテンツの著作権が切れてしまうからです。

 もし著作権を延長できれば、著作権収入を維持できます。

 ロビイング活動で、著作物の保護期間をあと10年延ばしましょう」

 

企業のお偉いさんは、どっちの提案に賛成するだろうか?

 

著作権を強くする方が、メリットを具体的な数値で示しやすい。

企業が意思決定するときは、右派思想に流れやすいのではないだろうか?

 

グーグルの変節

上記を踏まえた上で、グーグルの行く末を想像してみよう。

 

グーグルは生まれついての左派思想だ。

「みんなで情報を共有することは善いことだ」と信じて成長してきた。

しかし著作権の壁を乗り越えられず、イライラが溜まっている。

仕方なく昔ながらの手法(ロビイング)で事態を打開しようと頑張る。

そんなとき、動画配信やゲームの市場を通じて

著作権をもつと有利だ」という考え方に触れる。

自分でコンテンツの権利を保有するようになる。

こうして少しずつ、少しずつ右派思想に染まっていく。

最終的には企業の意思決定として

著作権を強くする方針」へと大きく舵をきる。

ぶつかり合ってきたディズニーとグーグルは、

共に手と手を取り合って協力することになる。

左派思想だったグーグルが、

最終的にはディズニーの思想に取り込まれてしまうのだ・・!

 

これが私の想像するシナリオだ。

 

グーグルの行く末を思うとき、私は

スターウォーズ』のアナキン・スカイウォーカーを連想してしまう。

並外れた才能をもち、善良だった少年アナキンは、

成長するに従いストレスをため込み、

ついにはダークサイドに落ちてしまう!

 

右派思想に目覚め「ダースベイダー」となったグーグルが支配する

インターネット世界。

些細な著作権侵害であっても、許されない時代がやってくる。

我々は右派帝国が覇権を握る恐ろしい未来に備えなければならないのだ!

 

最後に

私は上記の予想が外れることを望んでいる。

 

しかし、著作権が誕生以来ずっと強くなり続けていることは、

紛れもない事実だ。

今後もこの傾向が続く可能性は高い。

 

私自身は「今の著作権はちょっと強くなりすぎた」と感じているので、

どちらかというと左派を応援している。

だから、今回の連載を通じて

右派に対して少し意地悪な書き方をしている部分もある。

(ダースベイダーに例えたり、キングギドラに例えたり。)

 

その点を理解いただいた上で、あなた自身でも考えてほしい。

著作権を強くするべきか?弱くするべきか?

 

昔は、著作権法といえば一部の業界の人だけが関わる法律だった。

一般の人にはほとんど関係ないものだった。

しかし今は違う。

多くの人がネット上に文章や動画をアップし、

みんなで利用し合っている。

著作権法は国民全員が関係するものになった。

著作権は、まさにあなたに関係する大問題なのだ。

 

著作権を強くするべきか?弱くするべきか?

右派と左派の両方の視点をもった上で、あなたにも考えてみてほしい。

判断材料になる情報は今後もこのブログで発信していく。

そして、いずれは新たなルール作りに関わってきてほしい。

私も、そうするつもりだ。

 

 

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www.money-copyright-love.com

グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(4)

今回は、グーグルがその知力の限りを尽くして引き起こした

著作権史上最大のクーデター事件について見ていこう。

 

グーグルの発想

著作権には「左派思想」と「右派思想」がある。

 

右派思想は以下の主張をしている。

「作品はそれを生み出した作者のものなので、

 勝手に使うことは許されない!

 著作権を厳しくするべきだ!」

 

それに対し、左派思想は以下の考え方だ。

・作品(情報)は、みんなで共有した方がいい。

・誰もが自由に作品を楽しむ(情報にアクセスする)ことが

 できる社会が良い。

・作品の自由な流通を邪魔する著作権を弱くしよう!

 

左派思想のほとんどの人は、著作権のことを理解した上で

「今の法律は厳しすぎる!」と反発を抱き左派思想に傾く。

しかしグーグルは少し違う。

著作権の制度のことを知る前から、

ナチュラルに「情報をみんなで共有しよう!」と無邪気に考えていた。

「生まれながらの左派思想」だ。

 

「世界中の情報を整理し、

 世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」

 

ほとんど宗教的とも思える情熱で、

自社のミッションに取り組んでいった。

 

図書館に手を伸ばす

創業者のラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏は、

当初はグーグルに広告を載せることを嫌がっていた。

公平・公正な検索結果が「けがされる」感じがしたからだ。

しかし、広告であることが分かるように区別して表示すれば問題ないだろうと

気持ちに折り合いをつけ、

2000年以降は広告表示を解禁する。

これをきっかけにグーグルは巨額のマネーを稼ぎ出す媒体となった。

 

純粋な発想の左派思想だった彼らは、お金という力を手にし、

そのまま「左派思想の権化」へと成長していく。

 

膨大な資金が懐に入り始めた彼らは、

温めていた壮大な計画に手をつけることにした。

 

それが「Google Books」だ。

(当初のプロジェクト名は「Google Print」。)

 

彼らはこう考えた。

「ネット上の情報を集め、整理し、公開する事業は進んでいる。

 でも、ネット上にある情報の中にはロクでもないものも多い。

 それに、人類全体の知識から考えると、ほんの一部にすぎない。

 本当に価値のある知識が集まっている場所はどこだ?

 そうだ!図書館だ!

 図書館は、時の試練を越えて残されてきた重要な情報の宝庫だ!

 これを世界中の人々と共有できたら・・

 なんと素晴らしいことだろう!

 これこそグーグルの使命だ!」

 

ペイジとブリンの両氏は、

まずは出身校であるミシガン大学スタンフォード大学と交渉を開始した。

 

「図書館の蔵書を一冊のこらずスキャンさせてください!

 本は大切に扱います!

 費用は全てこちら持ちです。

 出来上がったデータはおたくにもお渡しします!

 悪い話じゃないでしょう?」

 

図書館側にとっても、確かに悪い話ではなかった。

本は歳月とともに傷んでいくものだし、いずれはデータ化しなきゃいけない。

でもお金がかかるしな・・・・と考えていたところだったのだ。

 

いくつかの大学や

ニューヨーク公共図書館のようなメジャーな図書館の同意をとりつけた。

計画は極秘で進められた。

テクノロジー企業としては珍しく大量の人員を投入し、

人力に頼ったスキャン作業を着々と実行していった。

(それぐらい本気だった。)

数百万冊の本がデータ化された。

人類の英知を保存し共有するという崇高な目標に向けて・・。

 

著作権的には

しかし忘れてはいけない。

本に書かれた文章には著作権がある。

図書館は単に物体としての本を持っているだけだ。

本の「所有権」はもっていても、その中身の「著作権」はもっていない。

著作権を持っているのは作家や出版社だ。

図書館の同意を取り付けたからといって、著作権的には何の意味もない。

著作権が切れている昔の本なら問題ないが、

そうでないものを勝手にスキャンしたり公開したりしたら、

著作権侵害になる可能性が高い。

この問題をどう乗り越えるか・・・

 

グーグルは❝とりあえず❞は、権利者の反発を招かない方法を提案した。

 

2003~5年に「Google Print計画」の内容を順次発表していく。

その内容は、こんなものだった。

 

「 出版社のみなさん!

 あなた方の出す本をグーグルの費用でスキャンします!

 そしてその内容の一部分だけを検索結果に表示できるようにします。

 そこから本の購入につながるように、リンクを張ります。

 きっと今まで以上に本が売れるようになりますよ!

 検索結果についている広告の売り上げは、あなた方とシェアします!

 悪い話じゃないでしょう?」

 

たしかに悪い話には見えなかった。

グーグルの費用で広告してもらえ書籍の売り上げが増える上に

それ以外の広告からもお金が転がり込んでくるのだ。

多くの出版社がグーグルの提案になびいた。

 

しかし、グーグルの提案はあくまでも❝とりあえず❞のものだった。

と私は推測する。

彼らは自分の信じる使命に対してブレることはない。

いずれは本の内容の全てを表示できるようにしようと目論んでいた。

 

また一方で彼らは、

図書館の本をすでに大量にスキャンしていることは黙っていた。

先に出版社を味方につけた上で、

「実は・・もう進めちゃってます!(テヘペロ)」と

後からバラした方がスムーズに進むと考えたのだろう。

 

 Google Books訴訟へ

2005年、十分な量の本を取り込んだグーグルは満を持して

Google Books(当時はGoogle Book Search)を試験公開する。

このときは図書館の本をスキャン済みであることを隠さなかった。

堂々と「ほら、こんなに便利なものが既に出来ているんですよ」と、

誇らしく発表したのだ。

 

彼らは、人間の知性と善意を信じている。

「きっと全ての著作権者が喜んでくれる!」

と期待していた。

 

しかし、期待通りの展開にはならなかった。

前回も説明したように、グーグルの発想は理系の科学者的だ。

「全ての文章はみんなに読まれたがってる」と考えている。

でも文系の作家たちは、そうは考えない。

「作品は自分のものだ。

 自分が許可したときだけ、利用できるのだ」

という発想だ。

こう考える彼らにしてみれば、

図書館の本を許可なくスキャンしたこと自体が冒涜行為になる。

 

Google Books計画は多くの作家と出版社の反発をまねき、訴訟に発展する。

全米作家協会と大手出版社5社が裁判所にかけこみ、本格的な争いになった。

(その後、全米出版社協会も参加。以下「アメリカ権利者」と書く)

 

右派思想のアメリカ権利者と、左派思想のグーグル。

戦いの火ぶたが切って落とされた。

 

グーグルの奇策

グーグルは前向きだ。

この裁判を「ピンチ」ではなく「チャンス」と捉えた。

「これを機に、全ての本の権利をクリアしよう!」と、

とんでもない奇策を考え付き、それを実行したのだ。

 

グーグルの天才的な策略を理解するには、

3つのポイントについて知っておく必要がある。

ベルヌ条約」「クラスアクション」「オプトアウト」の3点だ。

簡単に説明しよう。

 

ベルヌ条約

 ベルヌ条約著作権に関する世界的な条約だ。

1887年に効力が発生したという歴史的な代物で、

世界中の著作権の基本を定めている。

主要な国のほとんどが加盟していて、もちろん日本もアメリカも入っている。

中国や北朝鮮(!)も例外ではない。

 

著作権はそれぞれの国ごとに発生し、国ごとに保護される。

でもベルヌ条約の加盟国の国民なら、

全ての加盟国で自動的に著作権が発生することになっている。

つまり、日本人の村上春樹氏が恋愛小説を書きあげたのなら

自動的に日本でもアメリカでも著作権で守られる。

アメリカ人のスティーブン・キングがホラー小説を書きあげたのなら

自動的にアメリカでも日本でも著作権で守られる。

 

 これがベルヌ条約だ。

 

 クラスアクション

クラスアクションとは、たくさんの弱い人が被害者になってしまった場合に

使われやすい訴訟の形だ。

 

例えば、悪徳企業のワルモノ社という会社が消費期限を偽って

食品を販売したような場合。

多くの人が期限が過ぎて腐ったものを食べ、お腹を壊してしまう。

たくさんの消費者が被害者になってしまった。

ワルモノ社を訴えたいが、一人一人の消費者に出来ることは限られている。

弁護士を雇いたくてもお金はないし、

裁判に勝てたとしても大した賠償金は望めない。

それに日々の生活で忙しく大変な裁判をやりぬく時間がない・・。

 

こんなときに良いのが、クラスアクションだ。

一定の範囲のクラス(この場合はワルモノ社の商品を食べた被害者)を決め、

その代表者がクラス全員のために訴訟をできるという仕組みだ。

クラスアクションになると、

そのクラスに含まれる人は自動的に当事者になる。

被害者の一人一人は何も面倒な手続きをする必要がないという、

便利な制度だ。

 

ただしクラスの一員になった以上は、

その訴訟の中で決められたことに従う義務がある。

どうしても納得できなければ、

「私はクラスから外れます」と言うことはできるが、

その場合はあらてめて自力で何とかするしかない。

 

また、ワルモノ社と被害者クラスの代表者が和解した場合

(例えば「クラスの全員にお詫びとして1万円払います」のような)、

その和解内容が妥当なものかどうか、裁判所が判断することになる。

 

これがクラスアクションだ。

 

オプトアウト

何かをあなたが選ぶとき、無意識のうちに「初期設定」がある。

それが、「オプトイン」と「オプトアウト」だ。

 

あなたがランチを食べるとき。

目についたオシャレなカフェに入ることにする。

店内の席に座った以上は、何かを注文しないといけない。

美味しそうな生ハムとチーズのサンドイッチをお願いする。

注文した以上は、代金を支払わないといけない。

これが、オプトインだ。

「どの店に入るか?」「何を食べるか?」、まずあなたが決めている。

お店の側から勝手に決められているわけではない。

そしてその決定に従って、あなたに義務が発生している。

 

相手との何らかの関係に入るかどうか、まずあなたが決める。

あなたが決めない限り、自動的に何かが発生することはない。

これが、オプトインだ。

 

オプトアウトは、その逆になる。

日本人を両親にもち日本で生まれた場合、

基本的にあなたは自動的に日本人になるだろう。

日本人としての義務や権利が発生する。

自分で決めたわけではないのに。

どうしても嫌だったら、自分で手続きをし、

色んな条件をクリアして国籍を変えないといけない。

 

上記のクラスアクションも同じだ。

消費者は自動的にクラスの一員としての義務と権利を持つ。

それが嫌なら自分からクラスを抜けないといけない。

 

あなたはすでに初期設定として、相手と何らかの関係が出来ている。

そこから抜けたければ自分で手続きが必要。

これがオプトアウトだ。

 

 和解案

ベルヌ条約」「クラスアクション」「オプトアウト」。

この3点を理解した上で先へ進もう。

「クラスアクション」で訴訟を起こされたグーグルは、

それを逆手に取り、巧みに「ベルヌ条約」を組み合わせることで、

「オプトアウト」の形で著作権をクリアする手法を編み出してしまった。

「クラスアクション × ベルヌ条約 = 全世界オプトアウト」という公式だ。

どういうことか?その内容を見ていこう。

 

作家や出版社で構成されるアメリカ権利者は、

グーグルを訴えるにあたり、クラスアクションを採用した。

つまり、勝手に本をスキャンしているグーグルが悪徳会社のワルモノ社で、

権利を侵害されている作家や出版社が弱い被害者グループであると

見立てたわけだ。

 

クラスアクションである以上は、クラスの範囲を決めないといけない。

私の想像では、グーグルが巧みに誘導した結果だろう。

クラスの範囲は以下のように認定された。

「2009年1月5日までに公表された書籍等について、

 アメリ著作権法上の著作権等の権利を保有している全ての人物」

ざっくり言うと「アメリカで著作権をもつ全ての作家」だ。

 

ここでベルヌ条約を思い出してほしい。

世界中のほとんどの国の作家の著作物には、

アメリカでも著作権が発生している。

クラスの範囲が「アメリカで著作権をもつ全ての作家」と決まったせいで、

自動的に世界中の作家がこの訴訟の当事者になってしまった!

(もちろん日本の権利者だって含まれる)

一人一人の作家は何もしていないのに、

いつの間にか世界中の作家が巻き込まれていたのだ!

 

グーグルは迅速に動く。

クラスを上手く設定した上で、

クラスの代表者に有利にみえる条件を「悪い話じゃないでしょう?」と

提示し、さっさと和解を成立させてしまった。

 

和解の内容をきわめて大まかにまとめると以下だ。

 

・権利者はグーグルの行為に許諾を与える。

・グーグルは本をスキャンしてデータベースに保存できる。

・グーグルは本の内容の一部を検索結果に表示できる。

・グーグルは検索結果に広告を載せることもできる。

・グーグルは本の内容の購読権も販売できる。

・権利者はグーグルの売り上げからの配分金を請求できる。

・権利者が嫌だと思うのなら、

 データベースや購買権から外すように請求できる。

・権利者がグーグルに上記の請求をするためには、

 権利者が自分で「レジストリ」という団体に登録しないといけない。

 

もっと大雑把にまとめよう。

つまり、こう言っていることになる。

 

・世界中の権利者は、グーグルがすることに何にも文句を言いません!

・グーグルがお金儲けしてもOK!

・権利者がお金を分けてほしいときや、この仕組みから抜けたいときは、

 自分の方から手続きをします。

 

グーグルの「冒涜行為」を止めるために始まったはずの訴訟だが、

気が付けばグーグルの左派思想活動を強力に後押しするポジティブな内容に

すり替わっていたのだ!

 

オプトアウトの達成

これは、著作権・左派思想の人にとっては

長年夢にまで見ていた内容だ。

 

著作権の考え方の基本は、「オプトイン」になっている。

何もしない状態、つまり初期設定は「許諾がない」という状態から始まる。

利用者は、権利者に許諾してもらったときだけ作品を利用できる。

 

利用者たちは作品を使うために

必死になって権利者を探さないといけなかった。

がんばって調査したにもかかわらず権利者が不明のこともある。

その場合は作品を使えない。

相手が海外の人の場合もある。

やっと見つけた権利者と慣れない言葉や商慣習のもとで交渉し、

外国語で契約書をかわし、海外送金で許諾料を支払うことだってある。

そこまでの苦労をしてやっと使えるというルールなのだ。

 

これに対し、グーグルの和解案では「許諾がある」がデフォルトだ。

作品は基本的に自由に使える。

使えない場合だけ、権利者の方から「嫌だ」と言ってきてくれる。

つまり「オプトアウト」だ。

利用者の方から必死に権利者にアクセスする必要がない。

これにより、苦労のほとんどが解消される。

夢のようだ!

 

グーグルは

「クラスアクション × ベルヌ条約 = 全世界オプトアウト」の公式を使い、

法改正をすることもなく、著作権世界の秩序を

オプトインからオプトアウトに180度ひっくり返してしまった。

これは著作権史上最大のクーデーターだ。

 

長年のあいだ右派思想に負け続けてきた左派思想の支持者たちに、

グーグルが大逆転をプレゼントした。

著作権という理不尽で古い慣習は、

天才的な知性によって乗り越えることができるのだ!!

 

世界に衝撃

2009年に和解案の内容が明らかになると、

世界中の著作権業界に衝撃が走った。

 

いや、ほとんどの権利者や右派の思想家にとっては

衝撃とさえ言えないものだった。

単純に、訳が分からない。

あまりのことに「ポカーン」と口を開けて立ち尽くすだけだった。

 

そうなってしまうのも当然だ。

今まで当たり前と思っていた世界の秩序が全て逆転したのだ。

 

モテモテの女子大生を想像してほしい。

大学中のイケメンからデートのお誘いを受けている。

 

「おいしいお寿司を食べに行こう」

「ハワイに連れていくよ」

どんな魅力的なオファーを受けても、決めるのは彼女だ。

彼女に選ばれないと、男たちはデートに行くことはできない。

毎日が楽しい。

 

ところが、ある日突然「レジストリ・マッチング」という組織から

こんなことが発表がされた。

 

「全世界の女子大生の皆さん。

 あなた方は今日から世界組織レジストリの会員です。

 男性からのデートのお誘いは我々のアプリが受け付けます。

 あなた方はレジストリがマッチングした相手と

 デートに行かなければいけません。

 お寿司やハワイ旅行から我々の手数料を差し引いた分だけが、

 あなたの取り分です。

 この仕組みがどうしても嫌なら、抜けるのは自由ですが、

 ご自分で手続きしてください。

 まあ、素敵な男性はみんなレジストリに集まると思いますけどね」

 

モテモテ女子大生は、あまりのことに呆然となってしまうだろう。

これと同じことが、世界中の作家や出版社に起きたのだ。

 

その後の展開

世界に衝撃を与えたGoogle Books訴訟だが、

実をいうと面白いのはここまでだ。

この後の展開は、あまりドラマチックなものにならなかった。

 

和解案のあまりの内容に

アメリカの司法省が(部分的には賛成したものの)反対の立場をとった。

フランスやドイツの政府も反対の意見書を提出した。

 

裁判所は政府の意見を受けて空気を読んだのか、

和解案にGOを出さなかった。

 

和解案は修正された。

これにより、クラスアクションで影響を受ける人の範囲が大幅に縮まり、

世界の多くの権利者にとっては(ほとんどの日本人作家も)関係なくなった。

世界中の関心は急速に失われた。

 

それでも結局、裁判所が和解案を承認することはなかった。

不承認の理由はいろいろとあるのだが、

やはり著作権の長年の秩序であるオプトインをひっくり返す内容はダメですよ。

という点が大きかった。

 

和解は成立しなかったので、

あらためてグーグルの行為が著作権侵害になるかどうかが争われた。

 

最終的にはグーグルが本をスキャンし、保存し、

内容の一部を検索結果に表示する行為は、

フェアユース」にあたるということで、侵害ではないと判断された。

形式的には著作権侵害でも、

実質的にみれば権利者に悪いことしているわけではないという理屈だ。

こうして、グーグルは「侵害者」という汚名を免れることはできた。

 

グーグルのガッカリとイライラ

表面的にはグーグルが勝利したように見えるが、

この結果をグーグルの創業者たちはどう思っているのだろう?

 

スキャンすることまでは出来ても、

その内容の全てを世界中で共有することは出来ないのだ。

彼らが当初夢見ていた

「人類の英知の全てを、全世界で共有する!」という

壮大なビジョンから考えると、

ずいぶんと後退してしまったように感じているのではないか。

 

Google Booksのサービスは今でも提供されていて、

著作権が切れた昔の作品を中心に

色んな本の中身が見れるようになってはいる。

でも実際のところ、多くの人が活用しているようには見えない。

(あなたもGoogle Booksで、

 流行りの作家や好きな作家の作品を検索してみるといい。

 このプロジェクトから、あまり勢いを感じられないのが分かるだろう)

 

「どんな問題でも、知恵とテクノロジーを使って乗り越えられる」

そう信じていた彼らだが、著作権の壁は思っていた以上に高かった。

この壁は、ベルヌ条約を土台にして130年もかけて理屈を積み重ねて

作り上げられた強固な構築物なのだ。

天才の知恵で惜しい所まではいったが、

それだけで乗り越えたり回避したりできるような、

ヤワなもんじなかった。

 

株式公開のときには

ウォール街の因習を軽やかに飛び越えて見せた彼らも、

著作権には手こずっているようだ。

 

さらに、

最近ヨーロッパでは「EU著作権指令」という新たなルールが採決された。

著作権をテコにして、

グーグルを中心とする巨大IT企業を締め付ける内容になっている。

 

おそらくグーグルの内部では、

著作権に対するストレスが溜まっている。

「僕らはみんなのために情報を共有したいだけなのに。

 世界をハッピーにしたいだけなのに。

 なんで邪魔するのさ!

 みんな著作権著作権ばっかり言いやがって!」

と、生まれながらの左派思想家はイライラし始めているのだ。

 

爆発する日は近いかもしれない・・。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

左派思想の代表グーグルと、右派思想の代表ディズニーは、

いずれ激突するだろう。

 

次回は、両雄がどのようにぶつかり合い、どういう結末を迎えるのか、

想像力に頼りながら予想してみよう。

 

 

Google Books訴訟の全容については、以下の資料を参考にさせていただいた。

感謝申し上げます。

 

 

『コピライト』2014年9月号

増田雅史氏の講演録「Google Books訴訟と各国のデジタル・アーカイブ政策」

 

 

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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(3)

前回はディズニーについて著作権の観点から解説した。

 

今回はグーグルについて書こう。

 

世界を作り変えそうな勢いの巨大で多面的なIT企業。

 今世紀を代表する天才的頭脳をもつ2人の創業者。

その全てを理解できると思えるほど、私もうぬぼれてはない。

 

しかし「著作権・左派思想と右派思想」という一つの視点を持てば、

彼らのこれまでの歩みを理解し、

今考えていることを想像することは出来る。

 

天真爛漫

先週も書いたが、ディズニー社の方は少し複雑な生い立ちを抱えている。

その創業期のころに大切なキャラクターのオズワルドを奪われ、

著作権に関する強烈なトラウマを心に刻んだ。

だから、著作権にも心を配りキャラクターを大事に育てるようになった。

真面目にがんばっているだけだったのに、

「あいつはやたらと著作権にうるさい奴だ」

と後ろ指をさされるようになった。

いつのまにか、周囲から浮いた存在になってしまった。

それでもディズニーはその風評を打ち消すことはしなかった。

 

(先日、任天堂ポケモン)が子供たちにキャラクターを無償で提供し、

 著作権の面でも優しい企業だと思われたのとはエライ違いだ)

ポケモンイラストラボ 教育・保育目的の素材提供サービス

https://www.pokemon.jp/special/illust-lab/

 

ディズニーは意固地になったのか、

「周りがそういう目で見るんなら、

 本当に著作権の世界でのし上がってやる!」

と徹底的にコンテンツの著作権を買収していくことにした。

多くの作品をのみこんでいき、

誰もが恐れる巨大なコンテンツ・モンスターに成長した。

 

ディズニーは、こんな複雑な成長過程を背負っている。

「過去に色々あったムズカシイ奴」なのだ。

 

 

一方のグーグルは、全くの正反対だ。

ラリー・ペイジ氏とサーゲイ・ブリン氏という

2人の明るい天才青年によって立ち上げられたIT企業は、

最初は資金面で苦労したものの、

その超高速の検索技術の実力が認められるや、一気に大成功をつかんだ。

世界中から賞賛を浴びた。

莫大な富も手に入れた。

トラウマなんかに出会う時間もなかった。

 

努力し、報われ、褒められる。こんな風に成長してきた。

「まっすぐに育った天真爛漫な奴」なのだ。

 

彼らはひたすら前向きだ。

人間の知性と善意をためらうことなく信じている。

「どんな問題でも、知恵とテクノロジーを使って乗り越えられる」

という強い信念がある。

 

それが良くわかるのが、彼らの株式公開だ。

証券業界の理不尽な因習を打ち破り、

オンラインのオークション方式、異様に安い手数料、

『プレイボーイ』誌での情報公開など、型破りな方法を使った。

ウォール街で長年旨い汁を吸ってきた人々は度肝を抜かれた。

革命児の2人は最後まで主導権を握り続け、

市場の参加者全員にとって公平な上場を実現してしまった。

古くて無意味な制度は、知恵とテクノロジーを使って乗り越えられるのだ。

 

 

 

左派思想

グーグルが著作権・左派思想であることは、即座にわかる。

彼らが掲げる変わることのない経営理念はこうだ。

 

「世界中の情報を整理し、

 世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」

 

以前に解説したとおり、

「著作物」とは突き詰めると「データ(情報)」だ。

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グーグルの理念は以下の内容を含むということになる。

 

「世界中の著作物をインターネットにアップして検索しやすいようにし、

 世界中の人々が楽しめるようにし、利用できるようにすること」

 

これは、左派思想以外の何物でもない。

 

検索技術で頭角をあらわしたグーグルは、

生まれながらの左派思想だったのだ。

 

誰がみても分かるように、

グーグルの経営理念は、著作権の制度との相性が非常にわるい。

著作権は、情報(著作物)をネットにあげたり

利用したりすることを禁止する権利なのだ。

グーグルにとっては著作権は、自分の信念と真っ向から対立する邪魔者だ。

彼らの目には、ウォール街の因習と同じように、

著作権とは、なんと古臭くて無意味な制度なんだろう!」

と見えたことだろう。

 

気にしなかった理由

しかし、彼らはあまり気にしなかった。

当初から、権利のことは心配せずにネット上の情報をダウンロードし、

検索しやすいにように分析していった。

 

ダウンロードすることが著作権に触れるかも?

著作物を違法にアップする悪人を手助けすることになってしまうかも?

そんな心配もしなかった。

著作権のことは大した問題にはならない」と思った。

 

なぜそう思ったのだろう?

 

彼らが生来の前向きな性格だったから?

もちろん、それもあるだろう。

彼らは何でも乗り越えられると信じている。

 

アメリカは著作権が厳しくないから?

これもある面では正解だ。

アメリカには「フェアユース」という日本にはない考え方がある。

形式的には著作権侵害をしていても、

実質的な部分をみて「セーフ」になる場合がある。

彼らがそれを知っていたのかもしれない。

 

しかし、それだけが理由では無いと私は思う。

 

なぜ、グーグルが著作権のことをあまり気にしなかったのか?

一番の理由は、創業者の2人が純粋な「科学者」だったということだ。

 

順を追って説明しよう。

 

 著作物のカラフルさ

著作権は「著作物」に発生する権利だ。

では「著作物」とは何か?

 

これについては、以前も説明した通りちゃんとした定義がある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【「著作物」の定義】

思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

どんな作品でもこの定義に当てはまれば、基本的に同じ扱いになる。

作った人に権利が発生し、

勝手にコピーしたりネットにアップしたりできない。

作者の死後も70年間は、権利が消滅することはない。

多少の例外はあるが、「著作物」は法的に同じ扱いになる。

これが原則だ。

 

しかし実際には、「著作物」の内容は様々だ。

小説、詩、論文、音楽、絵画、写真、映画、ゲーム・・・・

色んなものを含んでいる。

 

その使われ方もそれぞれ違う。

小説は静かな場所で一人でじっくり読むものだが、

映画は大きな劇場でみんなで大音量で観るものだ。

音楽は仲間と一緒に歌って盛り上がるためのツールにもなるし、

ドライブするときや家事をするときのBGMにもなる。

 

生み出される過程もバラバラだ。

絵は一人の画家が何時間もかけて描くものだが、

写真は女子中学生が放課後に何百枚も簡単に撮影している。

ゲームは数百人がひたすらコードを書いてやっと出来上がる。

 

法律上は「著作物」という単一色で塗りつぶされてしまったものでも、

現実世界の「著作物」はバラエティに富んだカラフルなものなのだ。

 

小説と学術論文

「小説」と「学術論文」。

これらは、どちらも文章で表現されたものだ。

「言語の著作物」ということになり、

著作権的には100%同じルールが適用される。

 

しかし、小説と学術論文は、性質が全く違う。

 

小説は、ファンが楽しむために読むものだ。

作家は読者を感動させるために

技巧を駆使して面白いストーリーを練り上げる。

それを出版し、海賊版が出回らないように著作権で流通をコントロールし、

収益を確保する。

 

一方の学術論文は、研究成果をみんなで共有するためのものだ。

研究者は誰が読んでも理解されるように平易な文章で書く。

「ここで読者の涙を誘おう」なんて誰も考えない。

論文を発表し、多くの人に評価され、他の論文にも引用されることで、

学者としての名声を得る。

「この論文でしっかり稼いで、夢の印税生活だ!」とは誰も思わない。

 

つまり、

小説は「勝手に読むな!読みたいなら金を払え!」という性質のもので、

著作権制度にマッチするが、

学術論文は「みんな読んでください!どんどん使ってください!」というもので、

制度とは合っていないのだ。

 

(小説だって「タダでいいから読んでほしい」と思って書く人は多いと思う。

 しかし著作権は『レ・ミゼラブル』の作家ヴィクトル・ユーゴーのような

 稼いでいるプロの小説家たちが協力して完成させた制度だ。

 「お金をもらうことが前提の制度」になるのは仕方ない)

 

小説と学術論文。

著作権法は2つを全く同じものとして扱っているが、

実際には全く違うものなのだ。

 

2人の頭の中

ここで改めて、グーグルの創業者の話に戻ろう。

 

ラリー・ペイジ氏の父親はコンピューター・サイエンスの教授で、

母親はプログラミングの先生だった。

サーゲイ・ブリン氏の父親は数学の教授で、母親も優秀な科学者だった。

ラリー、サーゲイの2人は大学の計算機科学の博士課程で出会った。

数学とコンピューターの話題を通じて、親友となった。

彼らの周囲には、いつも最新の科学について書かれた論文があり、

それを語り合える人々もいた。

 

つまり、2人は根っからの「理系の学者タイプ」として育ったのだ。

 

(「理系と文系を分ける考え方は時代遅れだ」という人も多いが、

 物事をシンプルに理解して真実を見つけられる有効な視点なら、

 躊躇せず使うべきだ。

 それに、彼らが若者だった時代は、

 まだまだ理系と文系が分かれていた時代だ)

 

彼らは理系のスタイルで世界を理解していた。

 

理系の科学者は、先人たちの学術論文をたくさん読む。

科学の世界では、過去の研究の積み重ねの上にたって研究しないと、

何も成し遂げることはできない。

そして自分の論文を書く時は、参考にした論文を引用する。

重要な論文であればあるほど、多くの論文で引用されることになる。

 

これと同じ発想で、

彼らはウェブサイトを評価するアルゴリズムを組みたてた。

重要な論文ほど多くの論文で引用されるように、

重要なサイトほど、沢山のリンクを張られているはずだ!

このアイディアをもとに、世界最高のサーチエンジンを発明した。

 

理系の科学者がまず想定する「文章」とは何だろう?

恋愛小説や冒険小説ではない。

彼らがいつも読んでいる学術論文に違いない。

 

論文には素晴らしい情報がつまっている。

みんながいつでも自由に読める方が良いに決まっている。

そこから新たな研究が生まれ、科学は進歩する。

もちろん論文に著作権があるのは知っている。

でも論文が使われることは、書いた人の名誉になるんだ。

誰の論文かちゃんと分かるようになっていれば、

書いた人も悪い気はしないだろう。

そんなに気にすることじゃない。

これが科学の世界の常識だ!

 

こんな理系の科学者の発想で、

グーグルは貪欲にネット上の著作物のデータを取り込み、

世界中の人がアクセスしやすいようにしていったのだ。

 

どんな天才であっても、日常的に親しんでいる著作物が

その発想の原点となる。

ボブ・ディランビートルズの大ファンだったスティーブ・ジョブズ氏は、

音楽に目を付けた。

iTunesiPodを作って音楽業界に革命を起こした。

読書家として知られるジェフ・ベゾス氏は、本に目を付けた。

アマゾンを立ち上げ書籍を販売することからスタートし、

ネット通販の大帝国を築いた。

そして学術論文に囲まれて育ったラリー、サーゲイの両氏は、

学術論文から発想をスタートさせた。

「文章はみんなに読まれたいに違いない」という前提のもとで、

ネット上の全て情報を整理し提供する検索エンジンを作った。

 

もし彼らに「文系の視点」があったらどうだったろう?

「ネット上に上がっちゃってる小説を誰でも見つけて読めるようにしたら、

 さすがに作者が怒るだろうな・・」

「文系の学問の場合、

 論文といっても読み物として面白く書かれている本もある。

 タダで読ませるサイトはマズイかも・・」

こんな思いが先に立ち、開発にブレーキがかかったかもしれない。

グーグルは誕生せず、

我々はいまだにイケてない検索システムを使っているかもしれない。

 

グーグルの存在しない世界を想像してみよう。 

好きなタレントの出演予定、旅行先で空いているホテル、

子供の体調が悪い時に頼れる病院・・・

今すぐ知りたいのに、検索しても結果表示が遅い!

やっと表示されたとしても、ロクでもない情報にしかたどり着けない!

イライラしながらネット上を延々とさまよっているかもしれない・・!

 

幸福な(?)ズレ

「娯楽作品を提供してお金を稼ぐ」著作権制度の観点からいうと、

学術論文は、あまり重点分野ではない。

理系の科学者にとって大事なポイントと、著作権の重点はズレている。

そのズレた理系の視点だったからこそ、

学術分野の常識をネット上の世界全体の常識だと思い込み、

気にせずに突き進むことができた。

おかげで、グーグルが誕生した。

世界中の誰もが欲しい情報をすぐに手に入れられるようになった。

グーグルの天才2人が理系タイプだったことは、

多くのネットユーザーにとって「幸福なズレ」だったと言えるだろう。

 

逆にネット上の著作権侵害に悩む人にとっては、「不幸なズレ」となった。

違法にアップされている作品に、ネット上で即座にたどり着けるからこそ、

被害は拡大するからだ。

 

ネットの世界を劇的に便利にするのと同時に、

著作権の被害も巻き起こしながら、

グーグルは急速に成長していったのだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

グーグルを著作権目線で紹介するだけで、

けっこう長い文章になってしまった。

 

今週はここまでにして、

次回こそグーグルが著作権の世界に挑戦状を叩きつけた大事件について

見ていこう。

 

 

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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(2)

ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』を見てきた。

 

❝俺たちの❞ゴジラが世界を舞台に大暴れする姿には、胸が震えてしまう。

宿敵のキングギドラと激突するシーンでは、ぞわぞわと鳥肌が立つ。

 

怪獣が魅力的すぎるせいで、

人間のシーンが「余分なもの」に見えてしまう残念な点も、

日本製のゴジラ映画を受け継いでいるが・・

 

童心に帰ってワクワクできる快作だった。

 

godzilla-movie.jp

 

 

 

左派思想と右派思想

先週は、著作権の世界における左派思想と右派思想を解説した。

 

左派思想とは以下のような考え方のことだ。

・文化的な作品は、みんなで共有した方がいい。

・誰もが自由に作品を楽しむことができる社会が良い。

・作品の自由な流通を邪魔する著作権を弱くしよう!

 

一方で右派思想は以下の考えを持つ。

・作品は、それを生み出した作者のものだ。

・作者のものを他人が勝手に使うことは許されない。

・作品を守るために著作権を強くしよう!

 

話を分かりやすく整理するために、

やや大雑把に左派と右派をまとめてしまっている点はご容赦いただきたい。

 

左派と右派。

どちらの主張もそれなりに正しい。

しかし、法改正の流れを見る限りでは、右派が左派を圧倒してきた。

これが著作権の思想闘争の歴史だ。

 

右派の戦士として、その長い闘争を戦い抜いてきたのが、

みんなが大好きなディズニーだ。

 

創業からミッキーマウス誕生へ

 ディズニー社は、ウォルト・ディズニー氏を中心に創業された

アニメ制作会社だ。

創業の数年後にはオズワルドという可愛いウサギのキャラクターを生み出し、

アニメ映画をヒットさせた。

オズワルドは人気キャラクターとなった。

ウォルト氏自身にとっても、愛着のある大切なキャラだった。

 

しかし、オズワルドの著作権は契約上はユニバーサル社のものとなった。

ディズニーはオズワルドの映画を制作できなくなってしまった。

 

オズワルドは自分が生み出したものだったのに!!

我が子のように大切なキャラクターを著作権の力で奪われた!!

 

これは、ディズニーにとってはトラウマとなった。

 

悲しみを抱えながらも、ディズニーはもう一度キャラクターを開発した。

もう二度と会えないオズワルドを思い浮かべながら・・

こうして産み落とされたのが、ミッキーマウスだ。

ミッキーは「お兄さん」と離れ離れに生きていくしかない宿命を背負っていた。

 

もう二度と失敗は繰り返さない!

ミッキーを誰かに奪われるなんて、まっぴらごめんだ!

ディズニーはミッキーを著作権でガチガチに保護することに決めた。

 

その生い立ちに悲しみを秘めたミッキーは、

一気にスターダムにのし上がることになる・・。

 

半ば伝説のようになっているミッキーの誕生秘話だが、

ディズニー社が著作権の保護に熱心な理由をうまく説明していて、面白い。

 

(実際のところは、そんなセンチメンタルな理由ではなく、

 その方が儲かるから。という単純な動機かもしれない)

 

ミッキーマウス延命法

ディズニーに限らずアメリカの映画産業は、

昔から著作権の保護と強化のための活動(つまり右派闘争)には

非常に力を入れている。

著作権こそが飯のタネ」なんだから、当然だろう。

 

アメリカの国内・国外で強力なロビイング活動をおこなっている。

そのかいあって、映画の著作物だけを特別扱いする法律や条約がたくさんある。

(・監督、プロデューサー、カメラマン等、多くの人が参加して映画を作るが、

  出来上がった映画の権利は映画会社のもの。

 ・上映用の映画フィルムの流通を権利者がコントロールできる)

 

中でも悪名高いのが通称「ミッキーマウス延命法」だ。

アメリカではミッキーマウス著作権が切れそうになるたびに

著作物の保護期間を延長するための法改正が繰り返されている。

そのためにディズニー社が批判を浴びているのだ。

「ディズニーがミッキーの延命措置をはかるため、

 つまり自社の利益のために、著作権の秩序を乱している。

 そろそろミッキーを❝みんなのもの❞にする時期では?」

という批判だ。

 

アメリカの映画業界全体でロビイング活動をした結果なので、

ディズニーだけのせいとは言えないが、

「オズワルドのトラウマ」という伝説を背負ったミッキーが

象徴的に使われ、利用されている。という面もあるのだろう。

ディズニー以外のメジャーな映画会社は、

ミッキーのおかげで批判の矢面に立たされずに済んでいる。

 

ディズニーのイメージ戦略

ディズニーが著作権を重視していたことは間違いのない事実だが、

世間一般で受け止められているイメージは、それ以上だ。

「ディズニーは著作権にめちゃくちゃ厳しい!」と言われている。

 

私には、実態以上にイメージが先行していたように感じられる。

右派勢力に祭り上げられているうちに

イメージだけが世の中に浸透していったという面もあるのではないだろうか。

 

気が付けばディズニーは「右派思想の最強戦士」ということになっていた。

 

最強の戦士には、嘘か本当かわからない「武勇伝」や「伝説」が付きものだ。

ディズニーにもそんな都市伝説がある。

一番有名なのは

「小学生が卒業記念としてプールにミッキーの絵を描いたら、

 ディズニーから電話がかかってきて「著作権の侵害だから消せ!」と言われた」

というものだろう。

(ネット上の記事を見る限りでは、

 この伝説の元となった事件は実際にあったらしい)

 

最強戦士のまわりには「取り巻き」も多いようだ。

ネット上でミッキーの絵を使うと「それは著作権の侵害ですよ!」と

誰に頼まれたわけでもないのに警告してくる

「ディズニー自警団」という人たちだっているらしい。

「あなたはディズニーの代理人ですか?」と言いたくなる。

 

 

数々の伝説や取り巻きをもつディズニー。

でも、子供たちに愛される無邪気なキャラクターを持つ企業にとって、

著作権に厳しい」というイメージは、マイナスなんじゃないだろうか?

 

しかし当のディズニーは、

そのイメージを否定しようという素振りは見せていない。

「ファンが一定の範囲で使ってくれるのなら、大歓迎ですよ!」

のような優しいメッセージを広報しても良さそうなものなのに、

私の知る限り、そんなことは一切していない。

同じく著作権戦略を重視している任天堂は、ファンにガイドラインを提示し

「ルールを守ってくれるなら、自由にネットに動画を上げてもいいですよ」

と発信して、イメージアップに成功したとういうのに。

 

●ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン

https://www.nintendo.co.jp/networkservice_guideline/ja/index.html

 

「厳しい!」と言われているディズニーは、

むしろ「周りが勝手に騒いでいるのなら、それはそれで結構」

と開き直っているように見える。

 

なぜだろう?

 

これは、「戦士」らしく考えれば分かる気がする。

 

「クマを倒したことがある」と言われている伝説の武闘家が、

弟子から「クマを倒したって本当ですか?」と聞かれ、

否定も肯定もせず、黙って笑みを浮かべているとどうなるか。

弟子たちは「師匠はやっぱり凄い!」と勝手に大騒ぎする。

彼に挑戦しようとするライバルは恐れをなし、

入門希望者は増える。

 

著作権に厳しい」というイメージが独り歩きすれば、

多くの人がディズニーの作品を勝手に使うのに尻込みするようになる。

結果として著作権侵害の被害が減る。

ディズニーにとっては、余計な訴訟費用をかけずに済むことになる。

また、質の悪いニセモノ商品が出回ることでイメージが悪くなる事態を

避けることができる。

 

ディズニーから正式なライセンスを得てキャンペーンをしたいと考える企業も

「あの厳しいディズニーだから」ということで、

キャラクターに❝特別感❞を感じる。

最初から高額なライセンス料を覚悟した上で交渉をスタートするだろう。

ディズニーは他の企業より高値でライセンスを売ることができる。

 

一見マイナスなイメージに思えることでも、

企業体として考えると、悪いことばかりではないのだ。

 

こうしてディズニーは、周りから勝手に与えられたイメージを逆手にとり

巧みに経営に生かしているのではないだろうか。

 

真の最強戦士へ

イメージ先行型だった右派戦士のディズニー。

しかし21世紀に入ってからは、

本当の意味で著作権の覇道を突き進んでいる。

 

内部で何があったのか知らないが、明確な戦略が確立されたようだ。

強力なコンテンツの権利を持つ企業を次々と買収していっている。

 

トイ・ストーリー』や『ファインディング・ニモ』のピクサー

スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』のルーカスフィルム

『アイアンマン』や『アアベンジャーズ』のマーベル・スタジオ。

書いているだけで目まいがしそうなほど豪華なコンテンツのそろい踏みだ。

最近では、

アバター』『X-MEN』などの20世紀FOXまで手中に収めてしまった。

 

著作権こそ重要だ」という右派思想に目覚め、

著作権の獲得に狙いを定め、わき目もふらずに突き進んでいる。

 

2006年には、

離れ離れになっていたオズワルドの権利まで買い戻している。

ものすごい執念だ。

 

ディズニー本体だって

ミッキーやプーさん、『アナと雪の女王』をはじめとする

キャラクターの人気は健在だ。

 

世界中の稼ぐコンテンツの著作権は、

全てディズニーに吸い上げられようとしている。

著作権の歴史上、いや、人類の歴史上、

これだけのコンテンツ一極集中が起きるのは初めてのことだ。

(ここまで行ってしまうと、

 アメリカの独占禁止法(反トラスト法)にひっかるのでは?

 という懸念もあったが、うまく回避したようだ)

 

私には、全方面のファンに訴えるコンテンツを多数もっているディズニー社が、

複数の頭と尻尾をもつ最強の怪獣・キングギドラに見え始めている。

著作権の獲得を追求し続けたディズニーは、

とんでもないコンテンツ・モンスターになってしまった!

 

●ディズニーが世界のエンターテイメント市場を寡占化しはじめた

https://news.yahoo.co.jp/byline/sakaiosamu/20190516-00126166/

 

 

最初のうちは、

単なるイメージ戦略という面もあった「著作権重視」という姿勢。

しかし長年「著作権は大事」という右派思想の渦中にいるうちに、

心から右派思想を信奉するようになったようだ。

地に足のついた著作権買収の戦略をブレることなく着実に推し進め、

コンテンツ業界の覇権を握るに至っている。

 

こんなディズニーが、左派と右派の闘争の中でどんな主張をしていくのか?

決まっている。

著作権をもっと強く!」ということだ。

絶対に間違いない。

資本の論理から考えても、それ以外にあり得ない。

著作権に厳しすぎる」というマイナスイメージや批判にも、

ひるむ必要がないことも学んでいる。

 

 名実ともに右派思想・最強戦士として成長したディズニーは、

いずれは左派思想の大物と衝突することになるだろう。

キングギドラゴジラの激突が避けられないように・・!!

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次回はグーグルと著作権の関わりについて見ていこう。

グーグルは「生まれながらの左派思想」であり、

「左派思想の権化」とも言える存在だ。

 

クールなIT巨大企業が、

著作権史上最大のクーデター事件を起こす様子を解説したい。

 


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グーグル VS ディズニー 抗争の勃発とその行方を予想する(1)

私はグーグルとディズニーの間で争いが起きると予想している。

 

その抗争は、

経済的・ビジネス的な戦いである以上に、

思想的・宗教的な戦いとなるだろう。

 

そう考える理由と戦いの行方について、

これから数回かけて説明していこう。

 

 著作権における左派と右派

 著作権の世界には、「左の思想」と「右の思想」がある。

といっても、

憲法9条を改正すべきだ!」とか、

同性婚を認めるべきだ!」とか、

そういう話じゃない。

 

著作権を強めるべきか?弱めるべきか?」という話だ。

 

あなたが小説を書くケースで考えてみよう。

 

あなたは自分が面白いと思う物語を創作する。

自分以外の誰にも書けないと思える素晴らしい作品ができあがる。

さあ、この作品をどうしよう?

まずは身近な友人に読んでもらう。

すると「面白い!」「一気に読んじゃった!」と言ってもらえた。

嬉しい。

もっと沢山の人に読んでほしい。

自分でコピーを作って、周りの人に配る。

ネット上にも公開する。

すると全国から声が届きはじめる。

「感動した!」「生きる勇気をもらえた!」

嬉しい。嬉しい。

書いて良かった。

もっと読んでほしい!

 

そのうち、作品のファンクラブができる。

ファンの中には、あなたの小説をマンガにしたり、

パロディにしたりして、同人誌を販売する人も出始めた。

これがなかなか良く出来ていて面白い。

小説ではなく、マンガを読んではじめてあなたを知る人もいるようだ。

「そうか。私の作品を元にして、また新たな作品が生まれて、

 新たなファンが増えていく。

 これって素晴らしいことだわ!」

一方で、少しひっかるものも感じる。

「私がこだわって書いた主人公のセリフ。

 本当は変えてほしくなかったな・・。

 まあ、作品が好きでやってくれてるんだし、いいか」

 

あなたが「何でもOK」という姿勢をみせているので、

これをビジネスにしようという人も現れる。

あなたに無断で「あの小説の豪華装丁本!限定版です!」と宣伝して

出版した業者が多額の売り上げをあげてしまう。

調子にのったファンが、

あなたの小説をエッチなバージョンに書き変えて売り出し、

大人気の小説家になってしまう。

セクシーな女優を起用したドラマ化の話もあるらしい。

 

ここまで来ると、あなたも黙ってはいられない。

「この作品は、わ・た・し、のものなんです!

 私の許可なくお金儲けに利用したり、

 勝手に内容を変えられるなんて、我慢できません!

 こんなことが許されるなら、誰も作品をつくって発表しなくなります!」

こうして、あなたは著作権を主張するようになる。

 

著作権・左派思想

上記のお話のうち、

前半にあなたが感じていた気持ちから「著作権・左派思想」が生まれた。

 

「もっと沢山の人に読んでほしい」

「どう利用されてもOK」

「私の作品を元にして、新たな作品・価値を生み出してほしい」

こんな思いをベースにし、次のような主張がされるようになる。

 

「作品が自由に流通するのは良いことだ。

 お金持ちであっても、貧しい人であっても、

 みんが平等に作品楽しめることができる世界は素晴らしい。

 作品は社会全体の財産だ。

 過去の作品を自由に使えるからこそ、新たな作品も生まれる。

 作品の自由な流通・利用をジャマする著作権なんてものは、

 弱めた方がいい!」

 

これを私は「著作権・左派思想」と呼んでいる。

このコトバは私の勝手なネーミングだが、

これに近い考え方で「copyleftコピーレフト)」という考え方が実際にある。

主にソフトウェアの業界の思想で、

強すぎる「copyright(コピーライト)」への反動から生まれた。

プログラミングを好きな人たちが

ネット上で様々なソフトウェアを自由に利用し合い改良を重ねたからこそ、

革新的なソフトが生まれるんだ!

厳しい規制は良くない!

という考えに基づいた思想運動だ。

 

「小説、マンガ、音楽などを自由に使えることが「善」だ」という考えは、

コピーレフトにも通じる哲学なので、

このブログでは「著作権・左派思想」と呼びたい。

 

左派思想の中には

著作権を全て廃止したい!」という「極左」の人もいれば、

「今の著作権制度はそのままに、みんなが利用しやすい工夫をしよう」という

「穏健派」もいて、幅が広い。

クリエイティブ・コモンズ」という運動は、「穏健派」に分類されるだろう。

 

クリエイティブ・コモンズ・ライセンスとは

https://creativecommons.jp/licenses/

 

著作権・右派思想

著作権・右派思想」は、

上記のお話のうち、後半にあなたが感じた気持ちを出発点にしている。

 

「私の魂から生み出した作品は私のもの」

「勝手に使われたら、私の気持ちが踏みにじられる」

「経済的にもアンフェアだ」

こんな思いから、次のような主張が生まれる。

 

「作品には作家の人格が込められている。

 作品は作家個人のものなのだ。

 これを守ることは人権上とても大切なことだ。

 作品が守られるからこそ、

 「次もがんばって良いものを書こう」と思えるのだ。 

 作品が勝手に他人に使われないために著作権を強くしよう!」 

 

これが「著作権・右派思想」だ。

 

「人権」「作家のやる気」などをキーワードにして、 

 「小説、マンガ、音楽などをちゃんと守ることが「善」だ」

という考え方になっている。

 

左派と右派の一致点

左派思想と右派思想、ぜんぜん違う考え方のようだが、そうではない。

どちらも著作権の存在そのものは否定していない。

(ただし極左思想だけは別。)

著作権の必要性は認めながらも、

「今の著作権は強すぎる」というのが左派で、

「今の著作権は弱すぎる」というのが右派なのだ。

 

上記で紹介した「copyleftコピーレフト)」のルールの一つに

こんなものがある。

「あなたにこのソフトウェアを自由に改良することを許可します。

 その代わり、条件があります。

 あなたが改良したソフトウェアも

 みんなに自由に使わせないといけません」

こうして自由に使えるものを世の中に増やしていこうという作戦なのだが、

もとのソフトウェアに著作権があることを前提にしないと、

この作戦は機能しない。

ハナから著作権が存在しないのなら、

このルールに従う必要がなくなってしまうからだ。

 

著作権・左派思想も、

著作権があること自体は認めている。

 

また、左派と右派の究極的な目標も同じだ。

どちらも「良い作品がたくさん生まれる豊かな文化・社会」を目指している。

ただ、その目標にたどり着くための方法が違うのだ。

 

左派思想の強み

左派思想の強みは、人間の自然な感覚に訴えかけやすい点だ。

 

「自分が頑張って作ったものを、みんなに知ってほしい」という思いは、

人間のナチュラルな感情だ。

源氏物語』を書いた紫式部もそうだった。

当時の日本の貴族社会では、

みんなが彼女の書いた物語を読みたがった。

勝手に手書きのコピーをとられ回し読みされていた。

彼女はそれが嬉しくて仕方なかった。

だから頑張って、「世界最古の長編小説」と言われる作品を

書きあげることが出来た。

彼女は作品の著作権を主張しようなんて、これっぽっちも思わなかった。

そもそも、そんな発想がなかった。

 

紫式部

「あなたはなぜ、

 自分の作品が勝手にコピーされているのを黙ってみているんですか?」

と質問しても、目が点になるだけだろう。

 

そして、当時の人々も当然のように他人が作った作品を自由に利用していた。

それが「普通のこと」だった。

 

人類の歴史上、著作権なんてものが生まれたのは

つい最近の話だ。

我々は、まだ著作権という新しい考え方に十分に馴染んでいない。

これは、「酢豚に入ったパイナップル」のようなものかもしれない。

「これが入っている方がお肉が柔らかくなる

 (著作権がある方が豊かな文化が生まれる)」と頭ではわかっていても、

どうしても違和感を感じてしまう。

「お肉料理に、なんで果物が入っているの?」となってしまう。

そんな状態で「パイナップルをもっと増やそう」と言われたら、

拒否反応が出て当然だ。

「ちょっと、これ以上は勘弁してよ!」

著作権を強くすることには反対!規制はもっと少ない方がいい!」

と主張することになる。

これは日常的に著作権に違和感を感じている人々の共感を呼びやすい。

音楽教室著作権利用料を請求したJASRACが世間の非難をあびたのも、

「子供たちが音楽にふれる場に、なんで著作権が??」という、

素朴な違和感があったからだ。

 

 

左派思想のもう一つの強みは、「表現の自由」と相性がいいことだ。

 

あなたが人々に何かを伝えたい!表現したい!と思っていても、

著作権にひっかることは出来ない。

著作権は「表現の自由」を奪う権利であることは間違いない。

 

そして「表現の自由」は日本国憲法にも書いてあるくらい、

「由緒正しき権利」だ。

(一方で「著作権」は憲法のどこにも書いていない!)

 

著作権をこれ以上強くしたら、

 憲法で保証されている表現の自由がなくなってしまう」

という主張には、すごく説得力がある。

 

著作権・左派思想には、

「人間の自然な感覚」と「表現の自由」という後ろ盾があるのだ。

 

右派思想の優勢

 ここまで書くと、左派の方が優勢なんじゃないか?と思える。

しかし、現実の世界では逆のことが起こっている。

 

著作権の誕生以来、一貫して右派の方が勝利をおさめてきた。

 

最初は「本を勝手に追加製造させない権利」としてスタートした権利だが、

少しずつその勢力範囲を広げていった。

「勝手に演奏・上演させない権利」

「勝手に放送させない権利」

「勝手にインターネットで使わせない権利」

など、次々と新しい権利を獲得していった。

 

また、最初のころは「作者の死後10年」くらいで

著作権は切れることになっていた。

死後10年待てば誰でも自由に作品を使えた。

しかし、この保護期間もどんどん長くなっていった。

10年から20年へ、20年から30年へ、30年から50年へ・・・

最近では、また日本の著作権法が改正され「死後70年」まで延びてしまった。

大きな反対運動があったにもかかわらず。

またも右派思想が勝利をおさめたのだ。

 

著作権を侵害したときの罰則もどんどん厳しくなっている。

 次々と基準が引き上げられた結果、刑事罰は個人に対して

「マックスで懲役10年 & 罰金1000万円」になった。

会社に対しては「マックス罰金3億円」だ。

これは窃盗罪の「マックスで懲役10年 or 罰金50万円」より厳しい。

リアルなモノを盗むより、形のないモノを盗む方が罪が重いのだ。

 

右派の勝利に次ぐ勝利。

左派の敗北に次ぐ敗北。

これが著作権の歴史なのだ。

 

なぜこのようなことが起きるのか?

 

一番の理由としては、ここ数百年の人類の❝流行りの思想❞である

「人権尊重」というブームに見事にのることが出来たからだろう。

以前の記事で書いたとおり、昔は神様が全てを支配していた時代だった。

しかし、ルネッサンスで「人間こそが尊いのだ」という思想がうまれ、

フランス革命のころには、人権尊重という大ブームがヨーロッパを駆け巡り、

それが世界中に広まった。

 

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右派思想は賢かった。

著作権も大切な人権の一つである!」 と主張し、

人々にそれを納得させた。

 

左派思想の人がいくら「人間の自然な感覚」と「表現の自由」を訴えても、

「あなたは人権を軽視するのか!」と言われてしまうと、反論しづらい。

何しろ人権尊重の時代だ。

時代にのった主張の方が通りやすいのだ。

 

右派と左派の不思議な分布

右派と左派の数百年にわたる戦い。

ここまでは、右派が左派をボコボコに叩きのめしてきた。

細かい部分、つまり局地戦で左派が勝つこともたまにはあったが、

右派のワンサイドゲームであったことは間違いない。

 

しかしこうなると、

さすがに著作権の制度全体のバランスが右に傾きすぎてるんじゃない?

と感じる人が増えてきている。

著作権を専門とし、法改正の歴史に詳しくなればなるほど、

そう感じるようだ。

私の知る限り、著作権に詳しい専門家はみな「左派思想」になっている。

(本人が認めるかどうかはともかく。)

左派思想の人の特徴として、

やたらと「バランス」という言葉を使うので、見分けがつきやすい。

かく言う私も左派寄りだ。

バランスが大事だと考えている。

 

逆に著作権についてなんとなくの知識しかもっていない人は、

著作権で稼いでいる業界団体(つまり右派)の影響を受けやすい。

著作権は人権です。人権侵害の被害が深刻な状態になっています。

 知的財産を守ることは競争政策の上でも重要です」

といった説明にコロリとやられ、知らないうちに「右派思想」になる。

「知的財産は大切です。しっかり守らないといけません」と言った方が、

かしこく見えるし。

法律をつくる国会議員も、ほとんどがそうだ。

こうして著作権制度は右に傾き続けてきた。

 

そういう観点では、

以前の記事で紹介した「ダウンロード違法化」にストップがかけられたのは、

画期的なことだったと言える。

文化庁の審議会で「GO」が出たものを、

政治家が止めるなんて、これまでなら考えられなかったことだ。

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著作権に詳しい人ほど「著作権を弱めよう」と言い、

著作権を知らない人ほど「著作権を強めよう」という考えに賛成する。

そんな、逆転現象のような不思議なことが起きているのだ。

 

1つの目線として

もちろん、世の中にある色んな考え方を「右か左か?」で

スッパリと切り分けてしまうことが、いつでも可能なわけじゃない。

でも、どこから理解したらいいか分からないものを勉強するときに、

自分の中で一つの基準をもつことは大切だ。

 

政治に全然興味がない人は、政治家の長い演説をきいても退屈するだけだ。

言ってることは「未来のために」とか「力を合わせて」とか、

当たり前の聞き飽きた言葉ばかりだし、

肝心のポイントについては玉虫色のことしか言わない。

でも、自分の中で一つの目線をもつと違って聞こえてくる。

「この人は憲法改正に賛成なのか?反対なのか?」

「この人は大阪都構想に賛成なのか?反対なのか?」

など、何か一つのテーマをもって注意深く演説をきけば、

自然とその人の狙いが読み解けるようになってくる。

 

著作権の世界を理解する上では、

「左派思想か?右派思想か?」という目線は、きわめて有効なのだ。

今後、ニュースなどで著作権の話題が出たときには、

「これは左派か?右派か?」と意識しながら聞いてみてほしい。

 

 

次回は「左派思想の権化」であるグーグルと、

「右派思想の最強戦士」であるディズニーについて見ていこう。

 

オリンピックの・・

以前の記事で

東京オリンピック利用規約ジャイアンより乱暴だ」

という趣旨の内容を書いた。

www.money-copyright-love.com

 

大手メディアも、やっと気付き出したようだ。

朝日新聞の記事になっている。

 

●五輪会場、自撮り動画ダメなの? SNS投稿禁止に波紋:朝日新聞デジタル

https://www.asahi.com/articles/ASM5Q7J9YM5QUTIL082.html

 

今後どういう流れになるのか?

大炎上するのか・・??

注目だ。

 

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契約書はアートだ!(5) 作品を使わせてもらう場合

バーバリーイソジン、リッツ、オレオ

バーバリー」と言えば、イギリスの高級コートだ。

 

イソジン」と言えば、日本中で親しまれている「うがい薬」だ。

 

「リッツ」「オレオ」と言えば、みんなが大好きなお菓子だ。

 

これらに共通する「あること」を知っているだろうか?

 

これらのブランドは、全て欧米の企業のものだ。

長年のあいだ、日本の企業はブランドの使用ライセンスを与えてもらい、

国内で商品を販売してきた。

 

三陽商会はイギリスのバーバリー社からライセンスを受け、

コートを中心とする洋服を製造し、販売していた。

 

明治はアメリカのムンディファーマ社からライセンスを受け、

イソジンうがい薬」を製造し、販売していた。

 

ヤマザキナビスコ(現在はヤマザキビスケット)は、

アメリカのモンデリーズ社からライセンスを受け、

リッツやオレオなどのお菓子を製造し、販売していた。

 

商品はよく売れた。

日本企業は儲かった。

その分たくさんのライセンス料が入ってくるので、欧米の企業も儲かった。

お互いにハッピーだった。

 

しかし、風向きが変わった。

欧米の企業が突然こう言い出したのだ。

「そんなに売れてるんなら、自分で直接商売した方が儲かる。

 あなたにライセンスするのはやめる」

 

日本側にとっては大変な事態だ。

自社の看板商品を今後一切売れなくなってしまう!

経営に大打撃だ!

何とかしないと!!

 

おそらく、日本企業は最大限の抵抗をしただろう。

「我々は、このブランドをとても大切に育ててきました。

 製品の品質にはこだわって国内の製造工場で作ってきました。

 日本人の好みに合うような宣伝展開をしっかり予算をかけて行ってきました。

 ブランドに最大限の愛情を注ぎこみ、

 血のにじむような思いで日本の市場を開拓してきたのは、我々なんです! 

 最初はあなた方からお預かりしたブランドでしたが、

 今となっては我が子のようなものなんです!

 それを今になって、取り上げようって言うんですか!!

 「この子」が成長してお金を稼ぐようになったからといって、

 今になって「親権」を主張するなんて!

 あんまりじゃないですか!」

 

交渉の場でどんなやりとりがあったかは分からないが、

日本の担当者の心の中は、悔しい思いで一杯だっただろう。

 

しかし、何ともしようがない。

欧米企業からの要求は「契約書」に従った正当なものだ。

必死の抵抗も空しい。

日本の企業になす術はなかった。

ライセンス契約は終了し、大きな売り上げを失ってしまった・・。

 

こんな大事件が、2014~16年くらいのうちに立て続けに起こったのだ。

 

大事件のその後

契約を無事に終わらせた欧米の3社は

自社(の日本法人等)で日本の商売を開始し、

バーバリー」「イソジン」「リッツ」「オレオ」を売り出した。

これまでの日本企業の努力のおかげで、

ブランドは日本中で認知されている。

あとは、この認知度を利用して手堅く商売をしていくだけだ。

プロモーション戦略を少し修正したり、

日本の工場から東南アジア等の工場に製造工程を移して

コストをコントロールしたりしている。

 

 

ブランドを失った日本企業の対応は2種類に分かれた。

 

バーバリーを売れなくなってしまった三陽商会は、

新たな海外ブランドを求めた。

スコットランド出身のレインコートメーカーである

マッキントッシュ」に目を付けた。

日本で権利をもっていた業者からライセンスを得て、

日本で製造・販売を始めた。

 マッキントッシュは一部のユーザーからの評価は高かったが、

全国的な知名度はゼロに近いブランドだ。

三陽商会は、また一からブランドを育て上げる努力をしないといけなくなった。

ここ数年の同社の業績は振るわない。

新たな「子育て」は、なかなか難しいようだ。

 

 

 一方で明治やヤマザキビスケットは、三陽商会とは別の道を選んだ。

外部からブランドを招き入れるのではなく、

自社でゼロからブランドを生み出すことにしたのだ。

 

明治は「明治うがい薬」というシンプルなネーミングの新商品を売り出し、

ムンディファーマ社の「イソジン」に対して真っ向勝負を挑んでいる。

ちなみに、イソジンのCMで有名だったキャラクター「カバくん」は

明治独自のものなので、

ムンディファーマ社が使うことはできない。

 

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明治のカバくん

 

ムンディファーマは仕方なく「カバくんに似ているけど違う」という

微妙なキャラクターを開発した。

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ムンディファーマのカバらしきキャラ

 

しかし、明治はこれに怒った。

裁判所に使用差し止めを求めた。

「たしかに「イソジン」という名前はお返ししましたが、

 私が生み育てた「カバくん」だけは私のものです!

 絶対に渡しません!」

というわけだ。

 

ノバルティスファーマも「逆ギレ」して争う姿勢を見せたが、

最終的にはカバを使うのを諦め、

代わりに犬のキャラクターを使っている。

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イソジン犬キャラ

明治としては、「イソジン」を取り上げた憎き相手に対して、

一矢報いたということになる。

 

しかし明治の方も困っている。

昔のCMソングをそのまま使えないからだ。

「♪ただいま~のあとは~、ガラガラジンジン、ガラガライソジンジン」

という商品名が耳に残りやすい印象的な歌詞を変えざる得なくなってしまった。

「♪ただいま~のあとは~、ガラガラして、明治うがい薬」

こんな、ぜんぜんインパクトのない歌詞になってしまった。

(ちなみに、歌の著作権自体はJASRACの管理。

 CMに使うには著作権だけではなく著作者人格権のOKも必要)

 

「商品名(キャンペーン名)」「キャラクター」「CMソング」は、

その全てがうまく噛みあうと、最強の組み合わせになる。

(例:「ペコちゃん」♪ミルキーはママの味(不二家

   「カールおじさん」♪それにつけてもおやつはカール(明治)

   「ヤン坊マー坊」♪ぼくの名前はヤン坊ヤンマーディーゼル

   「バザール・デ・ゴザール」♪バザールでござーるNEC))

 

キャラと歌と商品名がガッチリと脳の中ので結びつくと、

一生離れることはない。

「商品展開3種の神器」と言えるだろう。

明治とノバルティスファーマの戦いは、

3種の神器の奪い合いだったということになる。

まるで日本の支配権をかけて3種の神器を取り合った

源氏と平家の戦争のようだ。

 

また別の見方をすれば、

イソジンという商品名、つまり「商標権」と、

キャラクターや歌という作品、つまり「著作権」の戦いとも言える。

「商標権」vs「著作権」という、

知財マニアにとってはたまらない対戦カードだ。

 

明治とノバルティスファーマの勝負。

最終的な勝敗は、薬局で商品を選ぶ消費者が決めることになる。

その行方を見守りたい。

 

「リッツ」と「オレオ」を奪われた ヤマザキビスケットも、

明治と同じく自社ブランドを開発した。

「リッツ」に代わって「ルヴァンプライム」、

「オレオ」に代わって「ノアール」という新ブランドを打ち出し、

モンデリーズ社に戦いを挑んでいる。

海外に生産拠点をうつした「リッツ」「オレオ」と、

国内生産にこだわる「ルヴァンプライム」と「ノアール」。

どちらのお菓子がおいしいかは、皆さんに判断してほしい。

 

教訓

 一連の事件から得られる教訓は何だろう?

 

「欧米の企業は日本人の「義理人情」を理解しない。

 ひどい奴らだから要注意!」

ということだろうか?

そうではない。

利益を追い求めるのは企業にとって当たり前のことだ。

大金がからめば、どの国の企業だって、どんな人間だって同じことをする。

 

学ぶべきことは

「許諾をもらう立場は、あなたが思っている以上に弱い」

ということだ。

 

上記でとりあげたのは、「商品名」「ブランド」という、

主に製造業にかかわる商標権の分野の話だが、

自分には関係のない話だと思わない方がいい。

コンテンツ産業にかかわる著作権の世界でも

同じことがいつ起きてもおかしくない。

 

 「稼いでいたコンテンツが急に使えなくなる!」

こんな事態を防ぐためには、どうすれば良いだろう?

2つの事例で考えてみよう。

 

事例1.契約期間の工夫

あなたはコンテンツ系の有力企業・アベン社の社員だ。

才能のある有望なクリエイターを見つけ出し、

作品をたくみな戦略で売り出す「敏腕プロデューサー」として

知られている。

 

ある日、あなたの元に電話がかかってくる。

「場張(ばばり)くん」という名の当社一番の売れっ子クリエイターからだ。

彼は急にこう言い出す。

「御社とは私の作品の利用を許諾する契約をむすんでいますが、

 もうすぐ契約が切れますよね?

 契約の更新はしません。

 これからは、自分の作品をつかって自力で商売していきます」

 

それは困る!

場張くんの作品は、集英社でいう「ワンピース」のようなものだ。

看板作品が無くなってしまうと、アベン社は立ちゆかなくなってしまう!

 

契約書には「契約期間は5年だが、5年たったら自動延長する」と

書いていたはずだ・・。

 

慌てて契約書を見直してみると、そこにはこう書いてあった。

 

・場張くんはアベン社に作品の利用を許諾する。

・契約期間は5年間。

・契約期間が終了しても、契約は1年ずつ自動更新される。

・更新したくない場合は、

 契約期間終了の1か月前までに相手に通知すれば良い。

 

そう。

場張くんの行動は正当だ。

契約書の手続きにしたがって、

1か月前に連絡してきただけなのだ。

契約書に書いてある以上は仕方ない。

アベン社は場張くんの作品を手放すことになる・・。

 

おそらく、上記の「バーバリー」や「イソジン」の事例も、

これと同じパターンで契約終了になってしまったのだと思う。

 

許諾をもらう立場は、あなたが思っている以上に弱い。

 

こんな事態を避けるために、どんな契約にしておけば良かったのだろう・・?

 

理想的なのは、

権利を「許諾」してもらうのではなく「譲渡」してもらうことだ。

権利が完全に自社のものになっていれば、

契約期間が終了しても問題なく利用し続けることができる。

でも、権利の譲渡に抵抗感のある人は多い。

交渉が簡単に進まないことも多いだろう。

 

次に良いのは、

契約期間を「5年」などと区切ることなく「無期限」で許諾をもらうことだ。

しかしそれでも抵抗されることは少なくないだろう。

また、相手をずっと縛り付ける契約は裁判になったときに

裁判官から嫌われやすい。

「奴隷契約」っぽい匂いがするからだろう。

バランスの悪い契約とみなされ、無効にされてしまうかもしれない。

 

おそらく一番現実的なのは、こんな契約ではないだろうか?


・場張くんはアベン社に作品の利用を許諾する。

・契約期間は5年間。

・契約期間が終了しても、契約は1年ずつ自動更新される。

・更新したくない場合は、

 契約期間終了の1か月前までに相手に通知すれば良い。

 ・ただし、アベン社から場張くんに支払った直近1年間の印税の総額が

 〇〇万円を超えている場合は、場張くんの方からは更新を拒否できない。

 

こうしておけば、

場張くんの作品がブレイクしてメチャクチャ稼いでいるときに、

突然逃げられてしまうのを防ぐことができる。

場張くんに対してしっかり印税を支払っているということは、

アベン社自身も企業努力をして作品をプロモートしているに違いない。

アベン社もしっかり義務を果たしているということになる。

「クリエイターを縛り付けているだけの酷い契約だ」と非難されづらい。

よほどムチャな条件にしない限り、

バランスのとれた妥当な契約内容と判断されると思う。

 

この考え方をもとに、

それぞれの事情に合わせて条件を調整していけば良いだろう。

 

事例2.やっぱり譲渡

敏腕プロデューサーのあなたの元に、また電話がかかってくる。

今度は、場張くんからではなかった。

なんと、アベン社のライバル「サノス社」の社長の野太い声だ。

「サノス社の社長をしております、佐野と申します。

 このたび、場張さんから作品の著作権の全てを譲ってもらいました。

 つまり、サノス社が権利者です。

 つきましては・・・アベン社に許諾は出しません。

 今後、あなた方は我々の作品を一切つかえなくなります。

 場張さんの作品は、我が社で存分に活用させてもらいます」

 

 

どうやら場張くんには借金があって、

まとまったお金が必要だったらしい。

その弱みに上手くつけこんだのがサノス社だ。

場張くんとサノス社とのあいだでは、

正式な「著作権譲渡契約」が交わされてしまっている。

作品の著作権はサノス社のものだ。


社内に再び衝撃が走る。

今度こそ看板作品を失い、アベン社は倒産してしまうかもしれない・・。

 

でも、こんなことはおかしい!

場張くんとの契約書には

「契約上の地位や権利を第三者に渡すことはできない」と

書いてあったはずだ。

何とかならないのか?

弁護士に相談したが、

「契約書は場張くんを縛っているだけで、サノス社を縛れるものではない。

 場張くんに対してなら「契約違反だ!」と言って

 損害賠償を求めることはできるが、

 そもそも場張くんはお金を持っていないので、無駄だろう。

 著作権が譲渡されてしまっている以上は、

 サノス社に「許諾しない」と言われてしまうとお手上げだ。

 もう場張くんの作品を使うことはできない」

こう言われただけで、有効な対策をとれない。

 

こうしてアベン社は一番稼いでいるコンテンツを失うことになった。

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』のように、

アベン社はサノス社に完全な敗北を喫した・・。

 

 

現実のケースでは、もっと「あの手この手」を使って

作品を利用できるようになるかもしれない。

しかし、

「許諾を得ただけの立場では、譲渡を得た相手に勝てない」

というのは事実だ。

実際にそんな事件も起きている。(「子連れ狼」事件)

 

許諾をもらう立場は、あなたが思っている以上に弱い。

 

突然に許諾を失う側にしてみれば理不尽な話だが、どうしようもない。

著作権制度の欠陥だ」と言う人もいる。

 専門家からも長年のあいだ問題視されてきた。

 

この問題については、最近になって政府の方で動きが出てきた。

「許諾を得た立場の人を守るべきではないか?

 誰かに著作権が譲渡されちゃっても、使い続けられるルールに変えよう」

という流れになってきている。

 

文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第3回)

http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/license_working_team/h30_03/index.html

 

この動きには期待したいが、

スピーディに動くコンテンツ産業の現場で働く我々が

ルール変更をのんびり待っているわけにはいかない。

我々はどうすべきなのだろうか?

 

結論を言えば「やっぱり許諾より譲渡がいい」ということだ。

 

権利者からは嫌がられるかもしれないが、

ちゃんと腹を割って話をするしかない。

「サノス社」のようなリスクがあることをしっかりと説明し、

理解してもらおう。

契約書上は

「5年間という期限で著作権を譲渡し、5年たったら必ずお返しします」

という内容にしても良い。

 

相手に納得してもらい譲渡してもらえたのなら、

その事実を文化庁に「登録」しておくのが安心だ。

(少し費用がかかる)

登録さえしておけば、サノス社のような相手から

「我が社の方が先に権利を譲渡してもらっていた!

 本当の権利者は我々だ!」

と言われても怖くない。

 

著作権登録制度

http://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/toroku_seido/

 

著作権を譲渡してもらうこと。

・譲渡を文化庁に登録すること。

この2つのことが、

コンテンツ業界で働く人にとって心理的ハードルが高いことは、

私も分かっているつもりだ。

それでも、あなたやあなたの会社にとって本当に大切な作品なのであれば、

一度は考えてみても良いと思う。

 

まとめ

以上、「作品を使わせてもらう場合」の注意点を説明した。

 

・許諾をもらう立場は、けっこう弱いことを理解する。

・契約期間が切れる場合の条件について工夫する。

・できるだけ譲渡してもらった方が良い。

 登録すれば、もっと安心。

 

次にあなたが権利を使う立場になって契約を結ぶときは、

思い出してほしい。

 

最後に

今回の連載では、5回にわたって契約書との向き合い方について解説した。

大まかに言えば、以下のような内容だ。

 

・「契約書は自分の魂を表現するアートだ!」と捉えて、

 前向きにこだわる。

・できるだけ具体的に長期的に考えて、条件に落とし込んでいく。

・思いがけないことを想定する。

・冷静になって相手の立場を想像する。

・ライセンスしてもらっただけで安心しない。

 

契約書に関するテクニックは、

法律の改正や新たなビジネススキームの登場に応じて進化する。

今後も必要に応じて情報を発信したい。

 

利用規約

今回の連載では触れなかったが、

「契約書」と似たようなものに「利用規約」がある。

 

もしあなたがユーザーから文章や写真、映像などを投稿してもらう

アプリやウェブサービスを開発したいと考えているのなら、

利用規約」にはしっかりとコミットするべきだろう。

 

利用規約を突き詰めて考えることは、

自分の提供するサービスの本質を理解することにつながる。

人気を集めビジネスを成功させることができる。

 

利用規約」を勉強するには、この本がおススメだ。

『良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』。

表面的な法律の解説に終わらせず、しっかりと踏み込んだ内容が書かれている。

そのうえ、読みやすい。

 

 

読んでみてほしい。

 

 

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www.money-copyright-love.com

契約書はアートだ!(4) あなたの作品を使わせてください!と言われた場合

前回は「新規で発注を受けた場合」の契約書について解説した。

今回は「すでにある作品を使わせる場合」について考えてみよう。

 

「あなたのキャラクターをゲームアプリに使わせてください!」とか、

「あなたのブログを出版させてください!」のようなケースだ。

 

あなたの作品を使わせてください!

フリーのクリエイターとして作品を発表しているあなたの元に、

有名企業のアベン社から電話がかかってくる。

 

「あなたの作品を拝見しました。

 本当に素晴らしい作品ですね。感銘を受けました。

 ぜひ我が社の商品に使わせていただきたいと存じます。

 いかがでしょうか?」

 

自分の作品が認めてもらえた!!

クリエイターにとって、すごく嬉しい瞬間だと思う。

(ベテランのクリエイエーターの中には、

 ムッツリした表情で対応する人も多いが、

 心の中では「まんざらでもない」とニンマリしている。

 間違いない)

 

もしこれが初めての経験なら

「自分の才能を発見してもらえた喜び」は、ひとしおだ。

この喜びをじっくりと噛みしめ、味わおう。

 

そして「歓喜の一瞬」の後は、

いったん冷静になることをおススメする。

 

「は、は、はい!ぜひ!よろこんで!」

と喉まで出かかった言葉を飲み込んで、

「・・ありがとうございます。

 ぜひ前向きに検討したいと思います。

 企画書か何かあれば、送っていただけないでしょうか?」

と返事しよう。

 

観察すべきこと

 前回の「新規で発注を受けた場合」に比べると、

「すでにある作品を使わせる場合」のあなたの立場は強い。

なにしろ、すでに作品は出来上がっていて、

相手はその価値を認め、「ほしい」と言っているのだ。

あなたがまだ駆け出しのクリエイターだとしても、

「相手とは対等だ」ぐらいの気持ちで自信をもって交渉してほしい。

 

以下のポイントもしっかりと観察しよう。

・あなたの作品が無いと成立しない企画か?

・相手の社内で、どのていど企画が進んでいるのか?

 

あなたに断られても、他の作品で簡単に替えがきくような企画内容なら、

あなたの交渉上の立場は弱い。

逆に、企画内容の根っこの部分があなたの作品無しには成り立たないのなら、

かなり強めの要求をしても良いかもしれない。

 

また、あなたに連絡してきた人は社内の企画会議で「GO」をもらっていて、

今さら引き返せない状態になっているかもしれない。

その場合は、あなたの言うことをよく聞いてくれるだろう。

 

企画書や相手の話の内容をよく観察しよう。

そして、交渉で勝ち取れるギリギリのラインを見極めよう。

 

もちろん「ギリギリのライン」が分かったからと言って、

その線まで攻め込むべきではない。

良い契約条件を勝ち取れたとしても、

「この人ややこしいな・・」と思われてしまう。

もう二度と取引してもらえないかもしれない。

 

大切なのは、

「自分にとって大切なこと・譲れないこと」を把握し、

「相手にとってのギリギリのライン」の見当をつけ、

その中間にある「お互いにとって心地よいポイント」を見つけることだ。

 

自分を売り込む

お互いが納得し無事に契約が成立したとしても、

 それが「単発」で終わってしまってはもったいない。

 

あなたの作品の良さはすでに認められている。

今度は、あなた自身の良さを理解してもらえるよう努力しよう。

 

担当者を接待しても良い。

「他にも、こんな企画を温めてるんですけど・・」と沢山の案を出そう。

「あ、この人は引出しを一杯もってる。次の可能性もある人だ」

と思ってもらえると、勝ちだ。

もしも1つ目の作品がコケてしまっても、

2回目のチャンスが回ってくるかもしれない。

 

 「接待」の大切さや方法を解説しているのが、

みうらじゅん氏のこの本だ。

『「ない仕事」の作り方』

 

 

ゆるキャラ」「仏像ブーム」などの仕掛人が、

自分の手の内をさらけ出してくれている。

企画・営業・接待を全て自分でやる「一人電通」という手法も紹介されている。

非常に参考になる本だ。

読んでみてほしい。

 

契約の内容

上記のポイントさえ押さえておけば、

契約書の内容に関しては「新規で発注を受けた場合」に追加して

覚えておくべきことは少ない。

 

 一般的な傾向としては「著作権の譲渡」ではなく、

「許諾」になるケースが多いだろう。

(ただし、アメリカの大手は「著作権譲渡」で

 権利を根こそぎ持っていくのがデフォルトだ。

 それが嫌なら、かなりタフな交渉が必要になる)

 

支払いは「払いきり」よりも「印税方式」になるケースが多い。

(「成功報酬」として、一定の販売数を超えたらプラスアルファの印税を

 もらえないか?)

 

契約書はちゃんと作られることが多い。

 

これまでの記事に書いてきたことを意識して契約書に取り組めば良い。

 

注意点

ただし、一つだけ注意しないといけないことがある。

 

あなたの作品が企業の担当者に「発見」されたということは、

あなたはすでに何らかの方法で作品を発表しているということだ。

 

その発表したメディアは何だろう?

メディアの発行者・運営者とあなたの間で、

どんな内容の契約がされているだろうか?

 

契約で

「独占的な許諾である」

「他の人に対してライセンスしてはいけない」

著作権は譲渡する」

などと決まっている場合、うっかり誰かに使わせると

「契約違反」や「著作権侵害」になってしまう可能性がある。

念のため確認しておいた方がいい。

 

ちなみにこの「はてなブログ」の利用規約(2019年5月12日現在)では、

こうなっている。

(関係する部分だけ抜き出し)

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

第8条

3.ユーザーは、・・(省略)・・自己が作成した記事について、・・(省略)・・著作権を有するものとします。

4.・・(省略)・・当社はユーザーが著作権保有する本サービスへ送信された情報を無償かつ非独占的に・・(省略)・・掲載、配布することができ、ユーザーはこれを許諾するものとします。

5.ユーザーが・・(省略)・・著作権を第三者に譲渡する場合、第三者に本条の内容につき承諾させるものとし、第三者が承諾しない場合には、同著作権を譲渡できないものとします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

はてな利用規約

https://www.hatena.ne.jp/rule/rule

 

この規約はこう言っている。

・ブログの著作権はあなたのものです。

・ただし、当社に必要な範囲での許諾はください。

 独占的な許諾じゃなくていいです。

・もしあなたが誰かに著作権を譲渡するなら、

 その相手からも同じ内容の許諾が当社に与えられるようにしてください。

 

他のブログサービスの規約と比べても厳しいものではないし、

妥当な内容だと思う。

はてなブログ」でブログを書いているあなたの元に

「あなたのブログを出版させてください」と申し込みがあった場合でも、

安心して許諾を出して良い。

(「譲渡」の場合は、上記の通りの条件を付けないといけない)

 

ただし、利用規約は知らないうちに変更されることがある。(第10条)

許諾を出すときには、あらためて確認した方が良いだろう。

 

オリンピックの・・

話はそれるが、

ついにチケットの予約受付が開始された東京オリンピックの「規約」は、

もう確認しただろうか?

なかなか衝撃的な内容になっている。

 

●東京2020チケット購入・利用規約

https://ticket.tokyo2020.org/Home/TicketTerm

 

規約の33条には、こんなことが書いてあるのだ。

 

・あなたが会場で撮影した写真や動画などの著作権

 (27条と28条の権利を含む)は、

 IOC国際オリンピック委員会)のものです。

 (→ つまり「お前のものは俺のもの」)

・あなたは著作者人格権を行使できません。

 (→ つまり「お前の作品を改変するのは俺の勝手だ」)

・個人的な利用で、商売や宣伝目的の利用でないのなら、

 あなたが写真や動画を使うことを許諾します。

 ただし、動画や音声をネットやSNSにアップするのは禁止。

 (動画ではなく写真であっても、

  SNSにアップする行為が「個人的な利用」と言えるか不明。

  禁止されている可能性もある)

  (→ つまり「ごく限られた場合だけは俺のお情けで特別に使わせてやる」)

 

今どきこんなこと、ジャイアンでも言わない。

 

オリンピック会場で友だちと楽しく撮影した動画をSNSにアップすると、

IOCから著作権侵害で訴えられるかもしれないのだ!!

選手が映っているかどうかは関係ない。

「会場に来ました!イェーイ!」のような、

自分たちしか映っていない映像であっても同じだ。

 

平和の祭典・オリンピックは、

恐ろしい「地雷」の埋まった危険地帯になってしまった・・。

 

観戦に行かれる皆さま、覚悟して行ってください。

生還を祈ります。

 

まとめ

今回の内容をまとめると、こうなる。

 

・「あなたの作品を使わせてください」と言われたら、

 まずは素直に喜ぼう。

・契約条件を交渉できる強い立場にいる可能性を自覚しよう。

・相手との長期的な関係も視野にいれよう。

・ほかの契約に縛られていないか?念のためチェックしよう。

 

自分の作品を認めてもらえるというのは、気分の良いものだ。

そんなときでも、契約書に意識を向けて前向きに取り組むことが重要だ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

次回は目線を変えて、作品を使わせてもらう方の立場から、

契約について考えてみる予定だ。

 

 

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